HOME英語ニュース・ビジネス英語
 
 


日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2007年9月19日

執行役 vs 執行役員(ダイジェスト版)

もう二年前のことになりますが、「執行役と執行役員とはどう違うのか」という記事を書いたことがあります。来月、出版予定の法律英語の本にそれをコラムとして盛り込もうとしたところ、字数が多すぎ、コンパクトにする必要が生じました。そこで、ことのついでに英訳例をもうちょっと調べ、以下のようなダイジェスト版を作りましたので、ご紹介します。この程度のことを知っていれば、社会常識と言うか、一般教養としては十分なのかなと思っています。

以下、本文です。

執行役員と執行役はどちらも日本企業の役職名ですが、見た目も、言葉としての響きも紛らわしい限りで、実際、よく混同されます。例えば、世間を騒がせたライブドア事件で関係者の氏名が役職共々報じられた際も、執行役員の人が別の記事では「執行役」として報じられていたぐらいで、マスコミ関係者にとっても、あるいはどうでもいい区別なのかも知れません。しかし、これから説明するとおり、執行役員は名前こそ「役員」であるものの本質的には従業員ないし使用人でしかなく、しかも法的根拠もありません。これに対して、「執行役」の方は「役員」という名前こそ付いていないものの、法的根拠もあるマネジメントの一員です。

今回は、このまぎらわしい執行役員と執行役につき、各々、どうやって生まれたのか、何をやるのか、そして両者の違いは何かを見て行きます。さらに、この制度を採用している大手企業が英訳名としてどういうものを使っているかを見ておきます。

★ 執行役員

歴史的と言うとおおげさですが、最初に登場したのは「執行役員」です。1997年にソニーが導入したのが最初の例で、この執行役員というexecutive officer の和訳自体、「ウォークマン」に次ぐヒットだといったことをどこかの新聞が書いていました。

ソニーが何をやったかと言うと、40人近い取締役で構成されていた取締役会をスリムダウンし、経営判断と業務執行の監督に専念できるよう人数を十人前後に絞る一方で、実務に直接携わっていた取締役をいわば外に出して、執行役員という名称で業務執行に専念させるしくみにしたのです。

要するに経営監督と業務執行を制度として切り放した上、業務執行に専念すべき役職として設けられたのが執行役員です(大手企業のうち200-300社が執行役員制度を導入していると言われています)。

ただ、この執行役員は実務の中から生まれた制度とあって、法律的裏づけがなく、また、当然、取締役とも違います。すなわち会社の機関を構成する者でない以上、登記簿に名前が載らない反面、代表訴訟の対象とされるリスクを負いません。また、法律上規定のある役職ではありませんから、どんなに会社でも執行役員を置くことができます。

このように「執行役員」は厳密には、よく言えば上級幹部従業員、悪く言えばただの使用人です。ところがおかしなもので、大企業の場合、たいていのケースで、取締役の大多数が執行役員を兼務しており、実質的に執行役員イコール重役という構図が一般化しています。しかし、これは考えてみれば変な話です。経営判断と業務執行の監督に専念すべき取締役が業務執行に専念すべき執行役員を兼務しているというのは、監査する人と監督される人とが一人二役をやっているのでから。

ただ、よくよく見ると、取締役10名の会社で、取締役が定員10名の執行役員を兼務しているという例はなく、典型的には、例えばたくさんいる執行役員中の一部を取締役でもあるという人が占めているというのが普通です。例えば、NECの例で言えば、16名いる取締役(生え抜きの社内取締役11名、社外取締役5名)のうち社内取締役はいずれも執行役員を兼務しています。そして、取締役ではない純然たる執行役員が30名近くいます。

それにしても、やはり取締役会の大部分が一人二役をやっているという構図は、どう考えても変です。事実、この点は、執行役員制度の元祖であるアメリカでも問題にされており、経営監督の責任者である取締役会会長 (chairman of the board) が取締役会の命を受けて業務執行する執行役員の長である最高経営責任者 (chief executive officer = CEO) を兼任しているのはおかしいという議論がくすぶり続けています。

★ 執行役

執行役は、2003年施行の商法で導入され、現行会社法にも引き継がれている委員会設置会社である場合、必ず設けなければならない役職です。言い方を変えると、委員会設置会社にしかないポストです。

委員会設置会社というのは、会社の種別と言うより、アメリカ式の企業統治の仕組みを導入して、経営の監督は取締役会に、そして業務執行は執行役にと役割分担が法律上明確になっている会社です。以前は一定の要件を満たす会社しか委員会設置会社に移行できませんでしたが、今では、定款で定めれば小さな会社でも委員会設置会社になれます(日本監査役協会の調べでは、2007年8月現在、大手企業で委員会設置会社に移行したものは110社弱です)。

執行役は何をやるのかと言えば、取締役会決議により委任された事項という制約はあるものの、業務に関しての意思決定を行い、かつ、業務を執行する人です。委員会も執行役員も置いていない従来タイプの会社で言えば、代表取締役に相当する人です(まぎらわしいことに、複数の執行役がいる場合は、「代表執行役」というものが置かれます[注記参照])。この点、同様に業務を執行する執行役員と似ていますが、決定的に違うのは法的地位です。法律上根拠のある役職ですから、取締役並みの注意義務を課され、従って代表訴訟を含め、その役職にあるがゆえの責任を追及されえます。そして会社の機関である以上、登記簿にも名前が載ります。

[注記 執行役が置かれる委員会設置会社は最初から監督は取締役会、業務執行は執行役と棲み分けがはっきりしており、そもそも会社を代表して業務を執行するのは「代表執行役」ですから、委員会設置会社の場合は、「代表取締役」を置いていません。また、既存タイプの会社と違い、監査は監査委員会が担っていますから、「監査役」もいません]

まさに経営判断と業務執行を担うマネジメントの一員です。この点が法律上は従業員の一種でしかない執行役員との違いです。

なお、取締役が執行役を兼任するという、おかしな二重構造はここでも同じで、例えば、委員会設置会社である東芝の例で言えば、14名いる取締役のうち執行役を兼務している者が7名います(純然たる執行役は全部で25名います)。

★ 「執行役員」や「執行役」は英語では何と言うのか

それでは、最後に大手企業の例をいくつか取り上げ、それぞれ自分たちの執行役員あるいは執行役を英語で何と言っているのかを眺めてみましょう。

%E5%9F%B7%E8%A1%8C%E5%BD%B9%E5%93%A1.jpg


こうやって眺めて見ると、執行役員の英訳としてはひとまず executive officer が最大公約数だと言えそうです。

次に委員会設置会社での執行役の英訳を眺めてみます。

%E5%9F%B7%E8%A1%8C%E5%BD%B9.jpg


おもしろいことに、最大公約数的には、executive officer が使われています。しかしこれでは、「執行役員」をおおむね executive officer としている上の表の会社と区別がつきません。また、強いて executive officer を組み込まずに、executive vice president という既存型の役職名を流用しているところも、執行役員を擁している会社での英訳スタイルと変わりがありません。

してみると、大手企業での「執行役員」「執行役」の英訳例を見る限り、どちらについても executive officer が使われているようです。経団連あたりが、執行役員を executive officer とし、執行役を corporate executive といった形で「公定訳」でも決めてくれれば、すっきりするのがですが、各社思い思いの訳をつけている感じで終わっています。

また、執行役員または執行役に専務、常務といった別の役職名が組合わさったときの英訳を見ても一貫性のある使いわけがあるようには見えません。


__________________________________________________


man14.gif


人気ブログランキングに参加していますので、このリンクをクリックして応援票をお願いします!どうぞよろしくお願いします。人気blogランキングに一票

Trackbacks

Trackback URL: 

Comments

先生こんにちは。
法律英語に関する本を今月出版予定と知り、書店で見かけるのを心待ちにしております。

よく読んでみますと一箇所誤植があるようなのでお知らせいたします(私の理解不足なのかもしれませんが)。

「★執行役」のご説明の第三段落4行目
「執行社員」とありますが「執行役員」のことではございませんか。


[返信]

ありがとうございます。いつもながらの「校正力」、助かりますし、何よりも感謝しています。

さて、書籍の方、大学の出版会が出すものなのでどの程度書店に行き渡るのだろうかとちょっと心配です。

なお、以下で版元による近刊案内をご覧になることができます。

http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766414493/

コメントフォーム
Remember personal info?