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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2007年9月10日

「時制の一致」は実際の英語では「一致しない」という話

「ビジネス英語雑記帳」の読者のみなさんは英語に関心がある方ばかりでしょうから、学校時代にたたきこまれた間接話法における時制の一致、つまり、間接話法で何かが報告される構文で、that 節の前の動詞が過去形になったら、that節の中の動詞の時制が現在形だったら過去形にというふうに一つ過去にさかのぼるというルールをおぼえているかと思います。きょうは、その大原則が意外なことに実際の英語では必ずしもルールどおりではないという話です。

ここでご自分が英語でプレスリリースを書く羽目になったケースを想像してみてください。今度、自分の会社が株式併合(二株を一株にという具合にまとめること)を行うのでプレスリリースを出すという想定です。話の都合上、きょうは2007年の2月10日だとしましょう。

[注記;株式併合というのは、アメリカの場合であれば、あまり株価が安いと上場廃止の憂き目にあうので、それを防ぐために行われます。例えばニューヨーク証券取引所の場合、30日連続で株価が1ドル未満だと廃止の対象となりますが、廃止になったりしたら、株式の価値自体大幅に下がる上、簡単に持ち株を処分できなくなる既存株主にうらまれます。他面、株価が低いということは人気が薄く、売買が活発でないということでもあり、大口の売買をする機関投資家が相手にしてくれないので悪循環が起きます。それを是正するために行われるのが、この株式併合です。]

日本語の原文はこうです。「XYZ社は、本日、2007年6月29日開催の株主総会において株式併合の承認を求める予定だと発表した」。

これを普段見慣れている、つまり新聞などで見る他社の発表文の定型を思い浮かべながら、まずは、こう書いたとしましょう。

XYZ Inc. today announced that it will seek shareholder approval to implement a reverse stock split at its annual meeting on June 29, 2007.

ここで読み返してみて、急に、announced that it will seek の所で不安にかられます。announceが過去形なんだから、will はその過去形の would で行くべきではないのかと。(答を先に申しあげておくと、that 以下の内容が報道時点ではまだ「済んだ話」になっていないなら、すなわち会社が報道発表を出した時点での状況が変わっていないなら、過去のことを示す would を使わず、今もなお将来の話であることを示すべく will を使うのが普通です)

ここで次へと話を進める前に、問題意識を高めておくため、以下の3問をやってみてください。なお字数制限があるため、直接書けなかったのですが、Q2の例文は、今年、何かに掲載された記事と考えてください。今年になって、あの会社は1998年当時、2週間後に新車を発表するとか言っていたけれどねえ、というノリの記事が書かれたものとします。



たいていの方が、Q3で、announced that it "would" を選ばれたのではないでしょうか。ご存じのとおり、学校文法での原則から言えば、それが正解のはずです。例えばQ1がそうです。普通、「会社は新型高級スポーツカーを二週間後には出すと思うよ」という言っている時点でなら、

I believe the company will release a new luxury sports car in two weeks.(同社は2週間後に新型高級スポーツカーを出すと思う)

といった言い方をすることでしょう。ところが、この1ヶ月後に、この発言の当時をふりかえりながら「会社は新型高級スポーツカーを二週間後には出すと思っていたのになあ」と人に告げる例では、

I believed the company would release a new luxury sports car in two weeks.(2週間後に新型高級スポーツカーを発売するものだと思っていた)

となります。


ところが、プレスリリースなどで見る、実例では、大多数が announced that it "will" としています。例えば、Google で、プレスリリースでの定型文の一部を抜き取って、"today announced that * will" と "today announced that * would" とを検索し、ヒット数で見ると、こうなります。

today announced that * will ............. 1,210,000
today announced that * would .............115,000

任意の単語でいいよという意味の * に代えて it を入れても同じようなものです。

today announced that it will ............. 576,000
today announced that it would ............37,200

どうしてこうなるのかを考えるに、announced と過去形を使ってはいても、そのセンテンスを書いて報告している人の意識の問題として、that 節の中の話が将来のことであれば、本体部分の動詞が過去形であっても that 節の中の動詞にはいわゆる「時制の一致」が適用されないからです。何々会社が何々するそうだと報じるメディアの視点に立って考えた場合、会社がプレスリリースを出したのは過去のことなので announced と過去形を使いますが、that 節以下の報道内容は今もそのまま通用していること、つまり、今も実現していない将来の話ですから、過去形を使って時間的隔たりを強調する必要がありません。そこで would ではなく、will を使うという理屈です。

ですから、冒頭の例文も、

XYZ Inc. today announced that it will seek shareholder approval to implement a reverse stock split at its annual meeting on June 29, 2007.

という格好でいいのです。

一方、Q2の例文は、

It was in 1998 that XYZ announced that it would release a new luxury sports car in two weeks.(XYZが2週間後に新型高級スポーツカーを出すと発表したのは1998年のことだった)

ですが、that 節以下の「2週間後に新車を発表する」という報道内容は当時としては will を使って形容すべき事柄ですが、2007年現在では、その報道内容自体、過去のことで、いわば「済んだこと」であり、距離感のある話なので、それを表すためにthat 節の中でも過去形の would を使います。

次に、Q3の例文はこうなっています。

XYZ announced today that it will release an innovative car in three years.(本日、XYZ は、3年後に画期的な車を発売すると発表した)

会社の発表じたいは済んだことですが、that 以下が伝える内容は今も当てはまることです。つまり、まだ3年経っておらず、新車も発表されていないうちは、would release として、終わった話かのように扱わず、will release という格好を維持するのが普通です。

この点、Graeme Kennedy という研究者は、Structure and Meaning in English (Longman) という本の中で、

Sue will meet you at 5 p.m.

につき「時制の一致」を形式的に適用すると

He said Sue would meet me at 5 p.m.

となるが、Suggested 'rules' such as 'backshifting' from present to past tense can be quite hard to apply in practice. つまり、「時制の一致」により現在時制から過去時制へのシフトを要求されるといったルールのたぐいは実際には簡単ではない、とした上で、落ち合う時刻がまだ将来の話であるようなときは、

He said Sue will meet me at 5 p.m.

と言うじゃないかと指摘しています。

このように、that 節で取り上げている話が終わってしまっておらず、今なお通用する話であるときは、would ではなくwill を使う方が自然だと言えるわけです。おそらく学校文法でも、例外としてこのことに触れているのでしょうが、実際の英語の世界では、むしろ原則と例外が入れ替わっている感じがあります。

まとめに代えて、大事なのは、英語の感覚の問題として、過去形を使うということ自体に話し手の心理的距離感が表れている点を強調しておきたいと思います。端的に言えば、現在形か過去形かという問題は単に現在の出来事か過去の出来事かの違いに終わらず、話し手の気持が大きな要素であり、現在形を使うのは話し手がそのことに共感をおぼえているときであるのに対して、過去形を使うのは、距離を置いた、いわば突き放した感じになっているときです。

例えば、アナリストたちの読みではXYZ社が倒産処理手続の適用を求めるため裁判所に申立てをしそうだという状況で、自分もそう思い、XYZ株を売っぱらわなければと感じるなら、普通、以下の二つの例文のうち、現在形を使うでしょうし、「そうかいな」と距離を置きたければ、過去形の方を使うものです。

(a) I think I'm going to sell my XYZ shares. Wall Street says the company is going to file for Chapter 11.

(b) I'm wondering if I should sell my XYZ shares. Wall Street said the company would file for Chapter 11.

日本語の感覚で置き換えると、(a) は、「証券会社のアナリストたち (= Wall Street) は倒産するって言っているしね」という感じなのに、(b) は、「アナリストたちが倒産するとか言ってたよなあ」という感じがあります。このように、アナリストたちが判断を発表したのは時間的には過去の行為でしょうが、内容が話し手にとり終わった話と感じられなければ、そのことを現在形で表したりするのです。

してみると、実際にコミュニケートする英語を解し、英語が楽しめるようになるには、学校文法的固定観念、すなわち、もっぱら時間の問題として現在形、過去形を考えるという発想ないしクサリをどこかでいったん断ち切る必要がありそうです。



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Comments

今日、「第3四半期の米GDPが2.5%増加した」ことに関するNYTの記事(http://www.nytimes.com/2011/10/28/business/economy/us-economy-shows-modest-growth.html?pagewanted=2&_r=1&nl=todaysheadlines&emc=tha2)を読んでいたら、エコノミストの中には、2.5%の増加はあくまでも速報値であり、第1四半期のように、後で下方修正されると考える人もいるというくだりの後、
Nouriel Roubini, the chairman and co-founder of Roubini Global Economics, said he expected the third quarter estimate would undergo a similar downward revision.と、改定値が出るのは現時点でも先の話であるにもかかわらず"would"が使われていました。これは、先生が本文でおっしゃっている「突き放した感じ」、つまり、書き手は確定値でもそれほど下方修正されるとは思っていないことを表していると解釈できるのでしょうか?

[返信]

どうなんでしょう。わたしには、he expects the third quarter estimate will undergo a similar downward revision という事実を伝えるに際して、その発言全体が過去のことなので、すなおに、expected, wouldにしているように感じられます。He expects the third quarter estimate will/would undergo a similar downward revision. というセンテンス自体が素材だったら、おっしゃるような解釈もできそうですが。

覚えていてくださったんですね! よかった~。
再度記事を読んで自分の認識と同じだったのでほっとしました。

ところで、真面目に授業を聞かなかったせいか、或いは文法書を暗記するのは嫌いなせいなのか、イタリア語の時制の一致について学校でどうならったか覚えていません。でも、先生の説明の実世界の英語のルールである
「従属節の指す事柄が今も未来のことは主節が過去形でも未来時制にする」
をイタリア語に当てはめていて、今の所、それは間違っている、とネイティブに言われたことはありません。イタリア人いわく「イタリア人も接続法に弱い」そうなので彼らも何が正しいのかあまりよくわかっていないかもしれませんが・・・・。

私も中国語を4月から始めました。例のアラビア語、中国語の方がどうなっているかの記事もまた書いてください。楽しみにしています。

[返信]

おぼえていますとも、あのバンジーの話が強烈でしたから。アラビア語は文字を忘れないように毎日お習字をちょこっとやり、中国語もパターンをこつこつやっている段階です。今はドイツ語をはやく仕上げたいと思っていますので。

検定問題の2問目ですが、
The company today announced that it [ ? ] release a new luxury sports car in two weeks. 
と "today" が入っていると思うのですが、気のせいですか?
今日発表したことの2週間後なら、この文が、例えば新聞に掲載された時点ではその"2週間後"はまだ未来の話なのでwillが使えると思うのですが・・・・。
「短時日のうちに that 節が取り上げている事柄が実現し、過去のものとなるようなケースでは、セオリーどおり、本体部分の動詞が過去形だから、that 節の中の動詞も過去形にして処理する」
のであれば"would"でしょうが、最後のGraeme Kennedy さんの説明だとwillでも正しいのではないでしょうか?

[返信]

GINさん、おひさしぶりです。けさ、出掛けにさっと書いてから、電車の中で読み直し、ちょっとわかりにくいなと反省していたところです。Q2はもっとわかりやすくするために変え、ブログの方の説明も補充します。

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