HOME英語ニュース・ビジネス英語
 
 


日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2007年11月 3日

(前編)イギリスで英語力が就労ビザの取得条件に

来年から現地での勤務を目的にイギリスに入国しようという場合、高度の英語力のあることを証明することが求められます。イギリス内務省の方針としては、IELTS[注]で5.5以上のレベルを求める予定とのこと。また「高度技能移民」に対してはより厳しく、6.5以上は求めたいとしています。

EU域内の各国が共通して用いている言語運用能力判定基準であるヨーロッパ共通参照枠に引き直して言うと、前者がB2、後者がすぐ上のレベルであるC1です。(IELTSとヨーロッパ共通参照枠との対応関係についてはブリティッシュカウンシルが対照表を公表しています)以前にこのヨーロッパ共通参照枠をご紹介したこともありますし、ちょうどいい機会なので、B2がどの程度のレベルなのか、また、C1がB2との比較でどのぐらい「高度」なのかを見ておきたいと思います。

[注 ケンブリッジ大学、ブリティッシュ・カウンシル、それにオーストラリアの専門団体の三者が共同運営しているIELTSは、15分のインタビューを含め4技能のすべてを3時間近くかけてテストするものです。評価は単語の羅列しかできない1からネイティブ並みの9までという9段階評価です。オーストラリアは学生ビザの取得要件にしていますし(オーストラリアではTOEFLは通用しません)、カナダは移民を希望する人にスコアで7(時折妙な表現があるけれど、概ね複雑な議論をこなせるレベル)以上を条件として課しています。また、アメリカもTOEFL一辺倒というわけでなく、全米で1000を超える教育機関がIELTSによる評価に基づいて入学の可否を判定しており、例えばデューク大学は入学には7以上のスコアが必要としています。詳しくは、こちらのサイトを御覧ください]

この問題は、前回取り上げた「英語力とは何か」とも重なります。英語力とは何かに答えて、メッセージを発信できる力だとか、受信と理解の両方が大事だ、コミュニケートできる力だなどという程度の認識では、太刀打ちできないことがよくわかるからです。何しろ、イギリス政府の頭にある英語運用能力判定法では、受信にしろ発信にしろ、きめ細かく分類されており、単に発信できますという程度では通用しません。これで文科省が言う「大学を出たら英語で仕事ができるレベル」(「英語が使える日本人」育成行動計画の指標)などを持ち出したりしたら、ますます訳がわからなくなります。

さて、英語力が就労ビザ取得の条件になるというこのニュースは、オンライン版の産経新聞で英政府 外国人就労者に「英検」 EU域外対象 在留邦人“悲鳴”という見出しで報じられています。ご覧のとおり、在英の在留邦人およそ6万人のうち1万数千人が現在就労許可をもらっており、更新時にこの新たな在留資格が問われる可能性があるということです。

在英日本大使館のホームページでも、英内務省の担当官を招いて行われたセミナーの内容報告ということで以下の形でこの件を取り上げています。

● 英語能力条件については、第1階層(高度技能移民)にはIELTS 6.5程度、第2階層にはIELTS 5.5程度の英語力を最低基準とする予定。
● 英語能力を証明する書類としては、(イ)国境移民庁が認める各種英語能力試験の成績証明書、(ロ)英語による講義が行われる大学等で取得された学位証明書、(ハ)英語が公用語となっている国の国籍保有が証明できる書類のいずれかを検討中。
● (エンジニア・調理師等、不可欠な技術を持つ日本人に対しては英語試験に代わる代替策はないのか、またIELTS 5.5というのは相当高い水準であるとの質問に対し)英語能力の条件化は内務省の各大臣の強い意向を踏まえたものであり、個々の企業・技能等で例外を設けることは難しい。ルールは、万人に理解され、万人に等しく適用されなければならない。
● (IELTS以外の、例えばTOEIC等の試験でも良いのかとの質問に対し)IELTS以外の試験については、互換性について今後検討し、その結果を公表したい。また日本の各企業が設定している社内基準についても、比較検討していきたい。

[注記 ここでは基準としてIELTSが持ち出されていますが、英内務省のウェブサイトでは、A knowledge of English equivalent to level C1 of the Council of Europe's Common European Framework for Language Learning or above. としており、CEFRが基準であることを明示しています。]

一般社員の場合、上の第2階層 (skilled workers) ということで、IELTS 5.5 程度が求められるわけで、ヨーロッパ共通参照枠で言うとB2に当たりますが、このヨーロッパ共通参照枠は求められるレベルの内容を以下で見るような Can Do statement という格好で提示しています。

リーディング能力:Can understand the main ideas of complex text on both concrete and abstract topics, including technical discussions in his/her field of specialisation.

スシ職人の場合で言えば、調理法を説明した具体的なものから、百科事典的な抽象的な記述まで読みこなす必要があるということになります。

スピーキング能力:Can interact with a degree of fluency and spontaneity that makes regular interaction with native speakers quite possible without strain for either party.

あまり詰まったりすることもなく、相手がいちいち助け舟を出さなくても話ができるというのですから、内容はともかく、いわゆる「ぺらぺら」に近い感じです。

ライティング能力:Can produce clear, detailed text on a wide range of subjects and explain a viewpoint on a topical issue giving the advantages and disadvantages of various options.

一介のスシ職人であっても、衛生当局に説明を求められたら、調理法や使っている器具についてメリット・デメリットを挙げながら筋道だった文章で自分なりの主張をまとめなければならないのですから、大変です。留学経験があればともかく、わが国の英語の先生でここまでこなせるのは少数派でしょう。

何であれ、このレベルをクリアするのは楽ではありません。いや、大変です。イギリス政府自自身、今回打ち出した英語力の基準を2006年に入国した第2階層の就労希望者95,000人に適用していたら、35,000人程度にとどまっていたはずだと試算しているぐらいですから、厳しさがわかります。

★ B2はどの程度「大変」なのか

ところでこうしたことが要求されるB2が難易度のスケール上どのあたりなのかを具体的に理解するためには、一番下のA2から一番上のC2まで6段階あるヨーロッパ共通参照枠での位置づけを見ておく必要があります。

B2のすぐ下の Threshold として知られているB1は、その下のA2があいさつし、買い物をこなすといった日常会話におけるちょっとしたやりとり、しかも定型的なものをこなせれば十分としているのに対して、第一に、A2レベルでのやりとりがもっと長くなってもこなせなければならず、しかも第二に、詰まったり、言いたいことを頭の中でまとめる時間を取る必要はあるかも知れないが、ともかく、インフォーマルな意見交換の中で自分の言いたいことをきちんと伝える能力が求められます。

これだけでもわが国の分類で言えば、英会話の上級クラスという感じですが、B2では条件がさらに三つ加わります。

第一に、effective argument をこなせるかが問われます。話し合いの中で、あれこれ補足したり、相手の出方に合わせて補強したりしながら自説を展開できるかが問われることになり、上のB2でのライティング能力の中で説明したとおり、メリット・デメリットを挙げながらきちんと話したり、書いたりすることが要求されるのです。

第二に、holding your own in social discourse という条件が加わります。上のスピーキング能力のところで説明したとおり、「たどたどしい」とか「しどろもどろ」という程度では落第です。しかも、人と話しているときにありがちな、話の方向転換、インフォーマルからフォーマルへの変化、論点の強弱の変化といったものについて行く必要があります。

そして、第三に、language awareness という問題意識が求められます。自分と相手のやりとりをモニターし、「ああ、さっきこんなことを言っちゃったんで、誤解しているな」と気づいたら、その点を指摘し、補正し、話を正しい軌道に戻せなければならないのです。

それでは、これだけのことをこなせるB2レベルに達するのに、ゼロから初めて平均的にどのぐらいの学習時間を要するのでしょうか。以下のとおり、有名なケンブリッジ英検の実施団体のHPを見ると 500-600時間とあります。

CEF%20vs%20ESOL%20hours.jpg

このおよそ 600 時間という数字は納得が行きます。フランス語の検定である DALF でも、同様のB2レベルに達するのに大体600時間前後とされていますし、また、ドイツ語の先生にうかがった話ですが、ドイツ政府が先般、帰化申請の条件として課したドイツ語能力も要求水準としては600時間の学習を前提としているそうです。

長くなってきたので、今回はこのぐらいにし、次回、もうちょっとB2レベルがどういうものか再確認してから、高度の技術者や科学者、あるいは企業経営者、投資家の場合に求められるC1レベルがどの程度のものかを見ることにしましょう。

続きはこちらです。



ball3.gif ball3.gif ball3.gif

人気ブログランキングが励みになっていますので、本日分の一票、どうぞよろしくお願いします。人気blogランキングに一票

Trackbacks

Trackback URL: 

»石山城ブログ / ISHIYAMA Joe's Official Blog: 『英語が話せる』を改めて考えてみる - 2007年11月 4日 10:12

日向清人氏の「ビジネス英語雑記帳」によれば、来春からイギリスでは『英語力が就労ビザの取得条件に』なるようで、もしかすると、在英の在留邦人の同ビザを取得し...


Comments

コメントフォーム
Remember personal info?