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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2007年12月28日

(続)CEFR(ヨーロッパ共通参照枠)とは何か?

★ 言語運用能力の指標としてのCEFR

言語モデルとしてのCEFRと並ぶもう一つの柱は、言語運用能力 (proficiency) の指標としてのCEFRであり、初級、中級、上級に対応する Basic User (A)、Independent User (B)、そして Proficient User (C) を細分する格好で、A1、A2、B1、B2、C1、C2 の6つのレベルを示した上、各レベルにつき、話す、聞く、読む、書くの4技能にわたって、どの程度のことができなければならないのかが示されています。学習者の立場からすれば、到達度の目標を示すと同時にそのレベルに達しているかを判定するための指標を提供しているのがこの6レベルのスケールです。

CEFRの特色であるとともに、他の運用能力指標のあり方に大きな影響を与えたのは、こういったレベルの内容が Can Do statement (能力記述文)で示されていることです。例えば、英内務省がイギリスで弁護士として、あるいは会社役員として働こうという人が就労ビザを申請するに当って資格要件として求めている英語力のC1の内容はこうです。

Can understand a wide range of demanding, longer texts, and recognize implicit meaning. Can express him/herself fluently and spontaneously without much obvious searching for expressions. Can use language flexibly and effectively for social, academic and professional purposes. Can produce clear, well-structured, detailed text on complex subjects, showing controlled use of organizational patterns, connectors and cohesive devices. (幅広い分野にわたっての、口頭または書面によるひとまとまりの情報で、内容が高度で、形式的にも長めのものを理解でき、かつ、表に出ていない意味合いまで汲み取れる。相手にそれとわかるほど間を置いて言葉を探すようなこともなく、自分の言いたいことをよどみなく、また、相手の助けを借りずに言える。一般社会での関係、学術・教育関係、専門分野関係のいずれであれ、関係に見合った適切な、また、効果的な言葉遣いができる。複雑なテーマにつき、明快で、構成が整っており、かつ、詳細にわたるひとまとまりのものを言い、または、書くことができ、それを通じて、全体を構成する上で必要なパターンを使いわけ、また、接続詞や、首尾一貫した論理性を確保するためのツールをも使い分けられることが示される)

この Can Do 方式のレベル表示のどこがいいのかと言うと、四つあります。第一は、単にできるかできないかだけでなく、上の fluently and spontaneously などに表されているとおり、出来の良し悪しまでもがカバーされています。What can you do? だけでなく、How well can you do it? までも盛り込まれているのです。この点、権威付けのためなのか、CEFRのCan-do にならって到達度評価をしようという大学が日本でも現れてきていますが、How well までもが織り込まれていないような Can Do 作りは、浅い理解のまま突っ走っているとしか言いようがありません。

第二は、この指標が Can Do で示されている基準をクリアしているかで決める目標基準準拠型 (criterion-referenced) であることです。TOIECのように何ができるかを基準に評価するのでなく、他の学習者と比べてどうなのかを評価する集団規準準拠型 (norm-referenced) と大きく異なる点です。「この人はどの程度英語ができるのか」を知りたい企業や「どこまで英語ができるようになったか」を知りたい教師、さらには「自分の英語はどのあたりなのか」を知りたい学習者本人のいずれも、他と比べての能力評価よりは、「これができますか」という到達目標を設けたうえでの能力評価のほうが有用なのは説明するまでもないでしょう。

第三に、CEFRのCan Doに盛り込まれている「能力の記述」自体、およそ300名の教師と2,800名の学生が元々1,000近くあったものを、果たしてこの記述はこのレベルを表すものとして妥当かという見地から実験を繰り返して絞り込み、最終的におよそ50になったものであり、こうした検証を経ていない他の運用能力の指標に対しての圧倒的な強みとなっています。実際、カナダでの外国語教育にCEFRを導入すべきだという結論に達した評価プロジェクトでも、「能力の記述」が実証研究を通じて経験的な有用性が確認されていることを導入肯定論の大きな理由の一つとしています。

第四に、個々のレベルに配当されている Can Do が教える側やテストを実施する側の目安になると同時に、学習者が自分の学習計画上「現在位置」を確かめるためにも役立つことです。B2レベルのCAN ask for advice and understand the answer, provided this is given in everyday language. であれば、学習者は I can ask for advice...と置き換えればいいので、簡単に自分がどのレベルの条件を満たしているかをチェックできます。

★ 他の指標との比較

外国語教育に関する指標としては、具体的には、口頭試験 (OPI = Oral Proficiency Interview) の判定基準であるACTFL (American Council on the Teaching of Foreign Languages、全米外国語教育協会)のガイドラインと、アメリカの外国語教育のためのナショナル・シラバスと呼ばれることもあるStandards for Foreign Language Learning in the 21st Century (以下「ナショナルスタンダード」)が有名です。

ACTFLのテストは約30分のインタビューを通じて得られた受験者の会話能力に関する情報をテスターがガイドラインに照らして10等級のレベルにわけるものですが、教育のあるネイティブスピーカーを基準としている関係で、直接に何ができるかを測定しているのではなく、ネイティブスピーカーにどの程度近づいているかを判定しており、その意味で、集団規準準拠型 (norm-referenced) でしかなく、到達度評価を測る指標としてどうなのだろうという批判がつきまといます。

ちなみに、こうした集団規準準拠型であることから来る限界は、そのままTOEICにも当てはまるわけで、Timothy Nallという研究者は、この点をこう説明しています。The TOEIC is a norm-referenced test, meaning that a testee's score is determined only in relation to the scores of other testees. This fact makes its use as an achievement test problematic; the results do not show the students' gains/losses against her own prior scores, but against two comparisons of her scores to other testees.(TOEICは集団規準準拠型テストであり、受験者のスコアがもっぱら他の受験者のスコアとの兼ね合いで決まることを意味する。このことから、到達度評価のためのテストとして用いることには問題がある。受験結果は、受験者本人の以前のスコアとの対比でどれだけ増えたのか、あるいは減ったのかを示すのではなく、その結果の良し悪しが、本人と他の受験者との比較の中で判定されるからだ)

TOEFLやTOEICが集団規準準拠型テストであり、直接、何ができるかを判定するテストでないことは周知の事実で、例えば、小学校英語教育反対論でよくお名前が出る鳥飼玖美子さんの『TOEFL・TOEICと日本人の英語力―資格主義から実力主義へ』(講談社現代新書)を読むと、TOEFL、TOEICは、集団基準準拠型テストであり、得点の分布は平均値を中心にした正規分布(ベルカーブ)に軸足を置いており、したがって、いわゆる相対評価によるテストであるという趣旨の説明をされています。

一方、ただの参照枠ないし理念であることにおいてCEFRと似ているアメリカのナショナルスタンダードは、それまで不統一だった、各州の外国語教育を共通の理解に立ったものにしようという趣旨のものですから、具体的なレベルを示してはいません。この点、強制力はなくても、6つのレベルに分けて外国語学習の到達目標を明示しているCEFRとの差が際立っています。

そうは言っても、ナショナルスタンダードの目的は、「外国語教育における教育内容に関してのスタンダード、すなわち、学習者は何を知っておくべきか、あるいは、学習者は何ができなければならないのか」だとしていますから、CEFRとそっくりだとすら言えます。ただ、内容的には、到達度を論じないまま、Communication, Culture, Connection, Comparison, Community の5つのCが大事であり、幼稚園から大学まで (K-16と呼ばれています)の教育において、常にこの5Cを心がけ、もって、外国語や外国文化に理解があり、かつ、コミュニケーション能力を備えた市民を育てるべきだという基本理念の解説に力を入れている、そういう文書です。

★ さいごに

CEFRは、言語学習のあり方、到達度評価のものさしがバラバラでは、互いに個々人の外国語能力の有無・程度が客観的に把握できないし、域内統合に向けての各国政府間の協力にも差し支えるということで、専門家たちが約30年かけて開発してきた枠組みです。

当初は、各国が思い思い実施している外国語能力の検定試験を共通の土俵に乗せることを主目的としていたものが、言語の学習・教育のあり方にまで守備範囲を広げ、さらにはベルリンの壁崩壊以後は、異質な制度を持つ東欧諸国の域内統合を進めるツールの一つという位置づけも与えられ、最終的には、CEFRは、基本理念と具体的なレベルごとの判定指標を一体化させた統合パッケージになり、各国が自分たちの外国語教育システム、到達度評価を見直すための基盤を提供するに至ります。

実は、この間、舞台裏では、外国語を文法や単語といった表現形式面からのみ捉えた上、到達度評価もその外国語に関する知識の正確さを判定することで行う流派と、文法だけではなく、フォーマルかインフォーマルか、状況に見合った言い方なのかといった社会言語的要素、語用論的要素をも加味して考える流派が一種の覇権争いをしていました。到達度評価の仕方も、前者は学習者グループの中で誰が一番覚えたかを見極め、相対的に出来のいい学習者にいい点を付けるスタイルなので、集団基準準拠型テストへと流れ、これに対して、後者は個々人につき予め提示してある学習目標をどこまで達成しているかを見ようとするので、目標基準準拠型へと傾きます。この様子を Dave Allan という研究者は、ヨーロッパじゅうの学校で文法中心の「タカ派」がコミュニカティブ・アプローチをとる「ハト派」からの攻撃を前に、守勢に立ち、必死になっていたと形容していますが、そうしたなか、文法以外の社会言語的要素等をも重視するコミュニカティブ・アプローチを取るグループを一気に優勢にしたのが、CEFRの登場でした。

時代の流れとも言えるコミュニカティブアプローチをベースにしている上、理論面の手当がしっかりしていること、高度情報社会で求められる「みずから計画を立て、実行できる学習者」像になじむ自律学習を柱としている上、学校現場でのCEFRの応用を考えたEuropean Language Portfolio が開発され、普及していることも手伝い、CEFRはどんどん根を下ろしています。政府レベルでも、自国での外国語学習プログラムの策定や、移民を対象とする資格要件の判定にこのCEFRが一つの目安として用いられています。

言語モデルとしての理論的な裏づけは、多くの言語学者が支持していることに見られるとおり、説得力がありますし、これに加えて、運用能力判定の指標としてのわかりやすさが域外でも評価されています。行動中心主義のアプローチ、つまり「言葉を使って何ができるかという観点から学習者のコミュニケーション能力を評価するアプローチ」は、台湾の教育当局がお手本として導入するとしていますし、わが国も国際交流基金が中心となって、CEFRベースの「日本語スタンダード」を開発を手がけているわけで、世界的なうねりになっています。おもしろいことに、とかくヨーロッパとぶつかるアメリカにおいてさえ、いくつかの州の大学で、CEFRベースのEuropean Language Portfolioを輸入して、外国語教育の指標として使い始めています。

ところが相変わらずわが国の外国語教育は到達目標もなければ、外国語学習とは何ぞやに答えるモデルすら持っていません。国や大学その他の教育機関が外国語習得の目標を定め、目標到達への道を描けないのですから、結局、一般の人々は、独力で合理的学習法を模索するほかなく、到達度評価に関しても、本来は英語の能力判定用ではないTOEICのようなテストが幅をきかせているありさまです。それでいて政府は、外国語学習のモデルや到達度評価のあり方を考えるプロセスを省略して、ただ「英語を使える日本人」を増やすとぶちあげているかと思えば、多くの識者が小学校からの英語教育に反対したりするのですから、この国はいよいよもって訳がわかりません。


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Comments

本年もよろしくお願いいたします。いつも参考になります。

おっしやるとおりアウトラインをしっかり描ければゴールが見えてきますよね。
ビジネスでも契約書ありきの細かい調整でしようし。
ヨーロッパの大学での単位互換制度で学生や教授の移動を容易にするプログラム等。進んだ取り組みですね。
カンヌあたりのリゾート地の大学で勉強したい。なんてね...

今、私はシンガポールで遊学中です!
しばらくブログUPしないでいたら圏外にすっ飛びました。

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