2008年1月28日
(続)ひとまず通じるレベルとしてのCEFR-B1
CEFRをよりどころとしているALTEのガイドラインに照らしてB1の人がどの程度のことができるとされているかは、以前、使える英語とは何かというシリーズで、主として仕事場でのやりとりに焦点を合わせて取り上げたことがあります。そこで、今回の記事では、海外旅行での会話能力を中心に考えてみました。
★ スピーキング
B1の人は、ディスプレーがあるデパートのような店ではなく、カウンター越しに店の人に何が欲しいと頼むタイプの店で買い物ができます。すぐ下のA2の人だ、品物がずらりと展示されているような店でない、いざという場合、「これです」と言うのに苦労するので、カウンターだと厳しい感じです。
レストランでは、B1レベルだと「これはどういう料理ですか」などと尋ねながらメニューから選んだり、支払について「カードは使えますか?」などと尋ねることができます。それがA2レベルだと、食品のサンプルが置いてあるとか、メニューに料理の内容が書いてあったりしないとうまく注文できません。
ホテル関連ではB1だと、電話で予約を入れるぐらいできますし、また、ホテル滞在中に起こりうる事態、例えば、電球が切れているので交換してくれと頼んだりするぐらいはできます。しかし、A2だと、カウンターで相手の反応を見ながらのやりとりでない予約などはむずかしい感じです。
当然、B1より上のB2レベルだと以上のすべてを通じて軽くこなせて、買い物の場合なら、不良品の交換、あるいは返金を求めたりできます。加えて、レストランやホテルなどサービスを受ける場面では、サービスがいいとか悪いといった意見を相手に伝えることもできます。
こうしたことを考えると、今、勉強中の「フランス語会話とっさのひとこと辞典」(DHC)はこのあたりのことを大体こなせるように作られており、よくできています。8600例もの会話表現が載っているので、全部やるよりはショッピング等、項目をしぼってやっていくほうが良さそうです。私は耳からおぼえるタイプの学習者なのでひたすらCDで聴いています。6回目ぐらいになると、流れてくる和文が聞こえてきた時点で、「たしか・・・」とぼんやり浮かんできますから、10回目にはどれほど進歩するだろうと楽しみです。このシリーズ、本とCDをそろえるとかなり高い買い物ですが、初級文法と基礎単語をクリアしていればおすすめの教材です。
★ ライティング
旅行関係でそう書く場面もないでしょうが、仮にあるとすれば、B1の人は、短めのメモ程度なら書けるとされています。また、旅先でお世話になった人、知り合った人への礼状は何とかこなせます。A2だと、ホテルでの宿泊カードに記入ぐらいはできても、葉書などとなると、本当に簡単に一行程度で「ありがとう」「楽しかった」と書くのが精一杯という感じです。
仮に会社でのライティングを考えた場合は、B1だと、定型的なメールなら何とか書けるものの、誰かわかっている人に点検してもらう必要があります。A2レベルの人だと、メールはまだ無理で、せいぜいが客の注文内容をメモ書きできる程度にとどまります。
★ リーディング
B1レベルの人は、メニュー、定型的なメールや書式に何と書いてあるかぐらいは把握できます。また、ホテル関連のパンフレットもわかります。また、商品や薬品のラベルも大体のことはわかります。これに対してA2だと、一連の記述というよりは断片的な表示がわかる程度です。つまり、道路標識、お店の看板、簡単な注意書き、値札、商品名、メニュー上の肉、魚といったありきたりの単語ぐらいならわかるけれど、ひとまとまりのテキストになると苦しいということです。
大学生で言えば、B1レベルなら辞書を使い、また、時間をかけながらであれば、簡単な外国語の本を読み、そこから必要な情報を抜き出せます。A2では、英語なら英語で情報を収集するところまで行かず、英語そのものを勉強している段階なので、見出しなど断片的な情報がわかる域を出ません。
当然、上のB2レベルになると、専門用語がない限り、日常生活で出会う情報は大体読めます。自分の知っている内容であれば、レベルの高い資料も読めはしますが、抽象的な議論となると苦しい感じです。当然、スピードは水準以下ですから、大学生としてリーディングの課題をこなせる域には達していません。
★ リスニング
ホテル滞在中に考えられる受付カウンターでの会話、サービスの人たちとの会話など、定型的なやりとりである限り、B1の人なら相手の言っていることを聴き取れます。また内容がありきたりである限りという条件付きながら、オプショナルツアーなどに参加した場合、大体何を言っているかの見当はつきますし、テレビ番組などもある程度は大丈夫です。これがA2だと「夕食は何時からです」「お部屋は何号室です」「これは○○ユーロです」といった、ぶつぎりのフレーズ程度を聴き取れる程度です。
大学での講義を考えた場合、B1レベルだと、講義も部分的にしかわかりません。ゼミなどに参加しても大したことができません。しかも、いずれも、相手が外国人だということで、「手加減して」くれているという前提での話です。これがB2レベルになれば、自分の知っている範囲の内容である限り、講義の内容を大体把握できます。ヨーロッパの大学に入学しようという場合、その大学で使われる言語につき最低でもB2が要求されていますが、そりゃそうだろうと納得します。
★ さいごに
こうして眺めてみると、語学のレベル判定は、常にスピーキング、ライティング、リーディング、リスニングの4技能で測るべきものであることが改めてよくわかります。また、何かの検定で何級だとか、スコアが740だといったものより、CEFRでのA1からC2までのレベル分けの方が「何ができる」という見地からの判定なので、学習者にとっても、その判定結果を使う、例えば、会社の人事担当者から見ても、わかりやすいと言えます。
そもそも、CEFRの指標は、TOEICやTOEFLタイプのテストのように他の学習者との比較でランクづけする norm-referencing ではなく、運転免許や調理師免許と同じく「あることができるのかできないのか」という形で学習者本人の能力を問うcriterion-referencingというアプローチによっています。だからこそ、B1レベルだとレクチャーは部分的にしかわからないけれど、B2なら大体つかめるといった判定ができるのです。
そもそも、CEFRでの「簡単なメールが書ける」「定型的内容である限り電話での応答をこなせる」といった能力記述文 (can-do statement) は、1,000を超えるこういった能力判定文を集めた上、300人近い語学教師がCEFRのA1からC2までの6レベルとケンブリッジ英検の区分をにらみながら、「これは初級では無理だ」「これは中級相当だろう」と分類整理してできたものです。これだけでは、教師の主観的評価を集めたものということで終わってしまいます。しかし、CEFRの6レベルの能力判定指標は、フィンランド、スイスでの実証実験あるいはオンラインでの語学能力自己査定プログラム(無料)を提供している Dialang での研究を通じて、教師ではなく、学習者本人による評価にも使えることが実証されています。加えて、ケンブリッジ大学での研究を通じて、能力記述文のコンテンツとケンブリッジ英検の受験者の能力とがきちんと対応していることも確認されています。
このように、CEFRのレベルについては、開発者の1人である Brian North 自身、2004年4月15日付け英ガーディアン紙で、The fact that the CEF descriptors has been reproduced in several validation studies, plus the fact that self-assessments with the descriptors relate systematically to examination results, suggests that an empirical objectivity has been achieved in assigning the descriptor levels. と明言しています。要するに、「このレベルの人は本当にこういうことができるのか」が実証実験で確認されていること、それに、「私はB1レベル」と自己査定した人がB1レベルの検定(例えばケンブリッジ英検のPET)に受かる確率には一定の相関関係が認められ、その意味で、「客観的評価」と言えます。
この点、ある大学でCEFRを導入しようとしたところ、B1だのB2だの、そういった「主観的評価」によるよりも、TOEICのスコアのような数値の方が「客観的」だという声があがったそうですが、上のような事情を知っていれば、CEFRは「主観的」だと断じることはできないはずです。一方、TOEICは客観的だからわかりやすい、だからいいのだと言う人に限って、TOEICのスコアにプラスマイナス35点の誤差がつきものであることを知らず、ましてや試験の本質が、能力判定テストではなく、受験者をランク付けするだけのテストであることを知らないのが普通です。たしかに大学の教員には様々なタイプの人がいた方がいいにとは思いますが、ものを知らないのに弁だけは立つ人が外界に比して格段に多いわけで、なかなか大変なところです。
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