2008年2月17日
Go Dutch, take a French leave などなど
アメリカのネットワークがこぞってイギリス人俳優を「輸入」して番組作りを進めていることを取り上げたニュースの見出しが、The networks put some English on the fall TV season でした。この put some English on something というイディオムは「何かにひねりをかけたり、もうひと工夫する」という意味で使いますが、考えてみると、English が入っているものの、それが何を意味するのか不明ですし、不思議なイディオムです。
ここで、ふと国名や人種に由来する形容詞や副詞にどういうものがあったっけと考えると、まっさきに「割り勘にする」という意味の go Dutch が思い浮かびます。しかし、この言い方は知識として持っている必要はあるでしょうが、自分からはちょっと使う気にならない言葉です。私自身はコメントでよく怒られるぐらいですから、決して politically correct ではありませんが、やはり言葉というのは異文化理解の上に成り立っているものですから、この手の言い回しに関しては慎重にならざるを得ません。
今回は、こうしたビミョーな人種ないしは他国の国民性にからめたイディオマチックな言い回しをざっと取り上げてみます。国民性に関しては、以前「国民性とは何ぞや;たしかにあるねと言う人々、そんなものはないという研究報告」という記事で取り上げましたが、そこでも触れたとおり、自分ではやはり国民性というのはあるよなと感じているわけで、そういった感覚でこういう国名や人種名が入っている表現をふりかえると妙に納得できるものが多い気がします。
あらためてこの手の言い回しをながめた場合、推測を含め、歴史的な背景を考えると、おおざっぱに整理することができます。例えば、Dutch 関連は、17世紀から18世紀にかけて一大帝国を築き上げ、イギリス人におそれられていたという時代背景を考えるとなるほどなというものが多いのではないでしょうか。
例えば、go Dutch という言い方には、「連中はすごいかも知れないけれど、ケチだもんな」というひがみないしは負け犬の遠吠え的な感覚がうかがわれます。同様の Dutch treat (オランダ式接待)も似たようなものです。「酔っぱらいの強がり、空勇気」を意味する Dutch courage も、「本当はたいしたことがないくせに」という当時のイギリス人のひがみが感じられます。そして、 double Dutch も同じでしょう。例えば、「チンプンカンプンだったよ」ということで、It was double Dutch to me. と言ったりしますが、これなど変な言葉をしゃべるヨソモノという含意が色濃く出ています。また、統計の数字やら専門用語を相手かまわず使うような人に対して、You're speaking double Dutch. と言ったりしますが、これも「訳のわからんやつ」だという、突き放したというか、ネガティブな感じがあります。この他、getting into Dutch は「トラブルになる、まきこまれる」ことですし、Dutch uncle と言えば、まるで親か親戚かのように後輩をしかり飛ばしたり、説教をする人のことです。そうかと思うと、なかには、Dutch auction (値段が競り上がる普通の競売と異なり、上限価格から「競り下げられて行く」方式の競売)のように、ただの商慣行を指すものもあります。
このように Dutch がらみのものがたいていネガティブなのは、やはり17世紀当時イギリス人の間でそれだけのおそれがあったからなのでしょう。のちのちオランダと組んでフランスと対抗したというのに、帳消しにはならなかったようです。
時代背景と言えば、英語ではありませんが、スペイン語で vale un Peru つまり「(南米の)ペルー並みの価値がある」(worth a Peru) という言い方がありますが、これなどは、インカ帝国の金銀財宝に目がくらんで略奪しては、ごっそりヨーロッパに持ち帰っていた時代の空気が伝わる傑作です。
一方、フランスがらみのイディオムは憎めない国民性に根ざしているものが多いと感じます。例えば、take French leave と言えば、「断りなくそっと居なくなる」「敵前逃亡する」という意味ですが、戦争に弱いフランス人を描写していると解されます。19世紀の普仏戦争と言い、第一次さらには第二次世界大戦と、あっけなく国境を突破されているだけに、怒濤のごとく押し寄せるドイツ軍を前にすたこらさっさと逃げ出すフランス人というイメージにうまいこと重なっています。なるほど語源としてはネット上の語源辞典 によると、18世紀のフランスでは招待してくれた人に断りなく帰るのが慣行だったためということのようですが、 普通のイギリス人にしてみればそんなことは知らないわけで、イギリス人の持つフランス人のイメージと合致したからこそ、これほど定着したのではないでしょうか。
しかし、戦争に弱くてもセクシュアルなものを含め文化的にはパワフルなわけで、そこから、French kiss だの French letter といったものが生まれ、また、有名な Merde! (=Shit!) を含め、ののしったりするときのカラフルな表現に圧倒されて、Excuse/Pardon my French. (野卑な言動のあとの「失礼」に相当する言い方)という表現が生まれたのだと推察されます。また、ドイツ語でも、He’s living like God in France. という意味のフレーズがあるそうで、文化の中心地というイメージは全ヨーロッパ的なものなのではないでしょうか。
しかし、実はこの手のイディオムで一番多いのが相手を野蛮な奴ら、訳のわからん奴らという感覚で捉えたもので、例えば、頭突きを意味する a Scottish kiss や「だまして借金を踏み倒す」という意味の to welsh on someone などが代表例でしょう。こう着状態を意味する Mexican stand-off も似たようなものです。マンガに出てくるときは、西部劇に出てくる山賊よろしく、弾丸が並んでいるベルトをたすきがけにした男が2人、それぞれ手に巨大なマチェテ(巨大な山刀)を手に対峙しているというのが一つの典型です。だいたいがメキシコがらみの言い回しはメキシコを一段下に見ているアメリカ人のメンタリティーが露骨に出ているものが多く、Mexican athlete と言えば、チームのために勢いよく飛び出して行くものの全然役に立たないあわれな選手を言いますし、Mexican promotionと言えば、名ばかりの昇進で給与など待遇が変わらないようなものを指します。
この延長線上には他国語に対する無理解や勝手な優越感を表す It's all Greek to me. というのがあります。上の double Dutch と同じで、「チンプンカンプン」という意味です。そう言えば、Greek meet Greek. と言ったら、「血の雨がふるのは必至」あるいは「絶対猛烈なけんかが起きる」という意味ですが、戦争に明け暮れていた古代ギリシアから来ているのか、一般に血の気が多いとされているギリシア人に対するステレオタイプから来ているのか、よくわかりません。
こういう人種や国民性がらみの言い回しはおもしろいことはおもしろいのですが、スラングと同じで、知識としては仕入れておく価値はあるけれど、自分からは使わないのが無難というものでしょう。昔、ネット上の掲示板で、オランダの人がなぜ Dutch がらみはネガティブなものが多いのだろう、We are nice people, no? と書いていたのが忘れられません。近頃、外国語教育の世界では、ただ言葉を教えるのでなく、平行してその言葉の背後にある文化に対する理解をも促す必要があると説かれますが、そりゃそうだと共感をおぼえます。
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国民性をあらわしているかどうかはともかく、昔のsyphilisの呼び方もおもしろいです。イタリアとドイツで"French disease"と呼ばれていました。wikipediaの英語版にはさらに、フランスで"Italian disease"、オランダで"Spanish disease"、ロシアで"Polish disease"、トルコで"Christian disease"と呼ばれていたという例が紹介されています。なんだか子供のけんかのようですが・・・。
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そうそう、おっしゃるとおり、子供のけんかみたいに「そっちだって」的な馬鹿げたのがありますよね。たしか、French leaveと言われているフランス人も「イギリス人のずる休み」みたいな言い回しを用意していますし、切りがありません。