2008年2月 2日
代名詞のおさらい
代名詞などと聞くと、あの面倒くさい関係代名詞までも連想するせいか、文法アレルギーを起こす人が多いようです。なぜかと言えば、やはり(今は改善されつつあるものの、)基本的に学校教育では、「英語に関する知識の体系」をおぼえるのが英語の学習と捉え、言葉そのものの研究を強いてきたからではないでしょうか。
一方、見方を変えて、人は言葉を何のために使っているのかという問いから出発し、人は他に働きかけて自分に有用なことを実現するために言葉を使っているのだという言語観に立つと、様子が変わってきます。
代名詞の話になると、人称代名詞だの指示代名詞だの、あるいは所有格、目的格といった言葉が出て来てうんざりするのが普通ですが、「英語とは何ぞや」という名の本を暗記させるがごときアプローチに代えて、言葉はコミュニケートするためのものであり、そうである以上コミュニケートする際の言葉の使われ方を知り、それを学んでいくべきだというアプローチ(コミュニカティブ・アプローチ)からすると、代名詞の捉え方、学び方もぐっと変わってきます。
現にGDPでアメリカを抜いて世界一の経済圏となっているEUは、こういったコミュニカティブ・アプローチに基づく「ヨーロッパ共通参照枠」を域内での言語教育や語学検定のための共通指標としているぐらいです。40を超える国からの言語の専門家が30年近くかけて練り上げてきただけに、その合理性が広く受け入れられているのもうなずけます。
それでは「コミュニケートする際の言葉の使われ方」という見地からすると、代名詞は、会話においてどのような位置づけを持っているのでしょうか。まず英単語は、それ自体固有の意味を持つ名詞や動詞などの内容語 (content words) と、それ自体は何ら固有の意味を有しないが文法上欠かせない、冠詞、前置詞、代名詞、助動詞といった機能語 (function words) に分けられますが、代名詞は会話においては機能語の中で一番使用頻度が高いという事実が報告されています(出所はロングマン社から出ている Geoffrey Leechらの Longman Student Grammar of Spoken and Written Englishです)。あなどってはいけないのです。代名詞は。
頻度分布を示す棒グラフを見ると、意外なことに前置詞、冠詞、接続詞さらには will やwouldといった普通の助動詞をも上回るシェアを持っています。出現頻度で二番目に多い do、have、beといった基本的助動詞と比べるとなんと倍近い開きがあります。してみると、代名詞の使い方を心得ておくことは会話でのやりとりを円滑に進めるためにきわめて重要と考えられます。
★ 使うパターン
それではどう使われているかですが、欧州評議会のイニシアティブで1970年代から1990年にかけて開発された言語学習の枠組みである Threshold によると、英語圏での観光、例えば、買い物をしたり、交通機関を利用できる程度の会話をこなし、あるいは自国内で英語圏から来た人と最低限のコミュニケーションを取るために知っておくべき代名詞句の使い方は以下のとおりだとしています。(なお、この Thresholdは、上で触れたヨーロッパ共通参照枠のB1レベルの母体に当ります)
[この場合、I met her in Spain. に由来する関係節ですから、whomとすべきであり、実際、書き言葉ではそうします。しかし、話し言葉では、whom だと堅苦しくなるので、who にしますし、あるいは who など入れずに済ませています](a) 冠詞などの限定詞+形容詞+ ONES
Give me the largest ones, please.(一番大きいものをください)
(b) SOME + OF + 冠詞などの限定詞 + 名詞
I'd like some of the butter, please.(そのバターを少々ください)
(c) 不定代名詞+それを限定する句
May I have something to drink?(何か飲み物頂戴できますか?)
(d) 不定代名詞+それを修飾する形容詞
He told me nothing new or interesting.(彼の話に目新しいものやおもしろいものはなかった)
(e) 不定代名詞+関係代名詞節
Susan is someone (whom) I met in Spain.(スーザンは、私がスペインで出会った方です=スーザンとはスペインで知り合いました)
ひとくちに「代名詞のことがわかっている人」と言っても、教科書に書いてある分類にやたら詳しいのに、実際には会話の中で使えない人と、人称代名詞なのか指示代名詞なのかといった質問には即答できないが、自分の会話の中でどんどん代名詞を使う人の二タイプがありえます。前者が「知識ベースの言語能力」の高い人だとすれば、後者は「コミュニケートするための言語運用能力」の高い人と言えるわけで、後者を目指す限りは、代名詞の分類を覚えるよりも、上で説明した実際によく使う基本パターンから覚えて行くという手順になるはずです。
★ 文法上のポイント
前項で見たとおり、代名詞を会話の中で使いこなしていくにはよく使われるパターンに親しんでおく必要がありますが、他面、センテンスを組立てて行く上で、代名詞に関連するルールを無視するわけには行きません。
コミュニカティブ英語を文法重視の英語の正反対に位置していると勘違いしている人もいますが、コミュニカティブ英語においても文法は重要な一角を占めています。コミュニケーション能力という見地から言語学習を捉え直した研究者たちはいずれも、単語や文法といった言語知識だけでは不十分で、状況に見合った言い方等の社会言語的要素だとか、話の筋道を通したり、時系列でわかりやすく説明するといった語用論的要素を加味すべしと説いているのであり、文法など気にするなとは誰も言っていないのです。
そこで、代名詞を使う上で最低限この程度は意識しておきたいという事項を挙げておきます。
(1)代名詞には一般に対応する先行詞が必要
例えば、「メールで、彼は来週、東京に着くと言っている」と誰かに報告したいとします。この場合、
In the e-mail it says he will arrive in Tokyo next week.
と言えそうです。しかし、「代」名詞と言うぐらいですから、代行されている名詞が本来なければならないわけで、この点、このセンテンスには、代名詞に呼応している名詞がありません。それらしきものがあるとすれば、in the e-mail ですが、これはWhere? に答える分詞句であり、決して What? に答える名詞ではありません。
こういった場合は、むしろ以下のように代名詞など使わない方がいいということになります。
The e-mail says he will arrive in Tokyo next week.
(2)代名詞に対応する先行詞はすぐにわかるようなものでなければならない
前項で説明したとおり、代名詞を使う以上は、呼応する名詞(句)が先行していなければなりませんが、それは明確でなければなりません。どっちとも取れる曖昧さがあると代名詞を使うごりやくが減ってしまいます。
例えば、承認申請の書類に関係者のイニシャルが入っていないので、申請者に差し戻す必要がある場合、
These approval request forms were not initialed by those concerned so we have to send them back.
と書けます。しかし、この言い方だと、send them back での代名詞 them が approval request forms を指しているのか、those concerned のことを指しているのかすぐにはわからず、一読了解を妨げています。
こういった場合は、以下のように代名詞に先行している名詞(句)が一つになるよう書き換える必要があります。
We have to send back the approval request forms because they were not initialed by those concerned.
(3)代名詞が動詞や前置詞の目的語になっているときは、me, him, her, us, them といった目的格の代名詞を用いる必要がある
代名詞は、主語として使われるときは、I, he, she, we, they のいずれかで、それ以外の場合は、すべてme, him, her, us, themという形で使います。
したがって、
The manager asked (he? him?) ...
という例では、asked という動詞の目的語ですから、heではなく、himを選び、
The manager asked him to organize a sales meeting. (マネージャーは彼に営業会議を開く段取りをしろと指示した)
となります。
同様に、between ourselves(われわれだけの話だけれどね=ここだけの話だけれど)と言うつもりで、
Between you and (I? me?) というケースでは、
前置詞betweenの目的語ですから、ここでは me となり、
Between you and me, she's going to resign. (ここだけの話だけれど、彼女、辞職するんだよ)
と完成させることになります。
仕事の上では、動詞の目的語と前置詞の目的語であるときは、me, him, her, us, them を使うのだと覚えておけば大きな失敗は防げます。
(5)同じ不定代名詞でも everyone などが単数なのに、both, few, many, several, others などは複数扱いである
以下のとおり、both, few, many, several, others を受ける動詞はいずれも複数形です。
Both of us were promoted.(われわれは2人とも昇格した)
Few are entitled to a pay raise.(限られた人しか昇給の資格を備えていない)
Many plan to leave the company in the near future.(多くの者が近い将来に会社を辞めようと思っている)
Several of the members have submitted their reports but others have not yet finished theirs.(メンバーの数人がレポートを提出しているが、他はまだ済ませていない)
(6)allを代名詞と組み合わせる場合は、必ず of とセットで使う
従業員に向かって「あなた方は全員健康診断を受けることを要する」と言いたい場合は、
All of you are required to undergo a medical checkup.
となり、All you are required...という言い方はしません。ここでの基本パターンは、<all of +代名詞>ということになります。
ちなみに、allに続くのが代名詞でなく、名詞であれば場合分けが必要です。第一に、その名詞に何らの限定も付いていなければ、All employees are required to undergo a medical checkup.(すべて従業員は健康診断を受けることを要する)というふうに、<All +名詞>という形で使います。第二に、employees in food processing (食品加工に携わっている従業員)のように、そこでの名詞に何らかの限定句が付いているなら、All of the employees in food processing are required to undergo a medical checkup. というふうに、<All of +名詞>という形になります。
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はじめまして。
なぜ、"Both her and me"とならないのでしょうか?
(もちろん、そのように言わないことは知っていますが)
御教授いただけると幸いです。よろしくお願いいたします。
[返信]
コメントありがとうございます。
もう寝ようかなと思ったところでこのコメントを拝見して目がさめました。コメントしてくださった部分自体、接続詞として使われているbothを前置詞などと言っており、間違っています。お詫びして訂正します。
なお、Both she and meは、元々 meを使うこと自体間違いとされます。Both she and I...と言うべきだということです。つまり代名詞が動詞の主語となっているなら主格のIを使い、動詞の目的語ならmeを使うのがルールですから、Me and John are going は駄目ですし、また、She asked John and I も駄目だということになります。
以下、訂正前の、YIさんがコメントしてくださった下りです。
Both she and (I? me?) というケースでは、
前置詞bothの目的語ですから、ここでは me となり、
Both she and me got a pay raise. (彼女も私も昇給した)
- YI
- 2008年2月 3日 00:28
初めまして。
(2年以上前、「出演顛末記」に書き込ませて頂いたことはありますが・・・)
先生の『ビギナーのための法律英語 』を書店で見かけたことがないのですが、どのような内容の本でしょうか?
単語を中心とした説明、あるいは、テーマを中心とした説明、など・・・、教えて頂ければ幸いです。
NHKビジネス英会話の本放送の際のテキストと、「会社で使う英語」には大変お世話になっています。
できれば、英文契約の本も出して頂ければと期待しております。
[返信]
こんにちは。こちらに「ビギナーのための法律英語」の内容紹介があります。
http://eng.alc.co.jp/newsbiz/hinata/2007/11/post_441.html
実質的には、前半は会社法で、後半は英文契約の本と言えます。
書店で見かけないのは、やはり地味な大学の出版会から出ているためなのでしょうか。そのあたりはわかりません。ただ、図書館協会選定図書に指定されたおかげか、この手の本としては売れ行きがいいと聞いています。
- cozymoon
- 2008年2月 2日 17:22

cozymoon様
『ビギナーのための法律英語 』を2週間ほどに購入しました。会社法に関する前半部分の3分の2ほどを読み終えています。英文の質が非常に高いので、208の基本用語だけでなく、コロケーションもあわせて覚えておけば、ビジネスの現場で大いに役立つと思います。
重要用語には随時コメントが記載されていますので理解に役立ちますが、「一口メモ」程度の簡単な説明で終わっている箇所もありますので、索引の充実した会社法に関する書籍を傍らにおいて読み進まれることをお勧めいたします。
サイズも手頃ですし、用語の解説集のような形式になっていますので、ちょっとした開き時間に目を通すこともできます。かばんの片隅にしまっておいて邪魔にもなりません。
「会社で使う英語」に見られるような、執拗な英語の文法・語法に関する解説はありません。
ご購入の一助になればと思い、コメントさせていただきました。