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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2008年4月20日

朝日新聞さん、a が落ちていますよ

きょうの朝日新聞の社会面(13版の37頁)に「もっと知りたい」というコラムがありました。「支持得る演説の技」という小見出しがついています。クリントン候補とオバマ候補の演説を通して「しゃべり癖」を研究するという趣旨の分析もので、英語に軸足を置いた、大変勉強になる記事です。ところが、惜しいかな紙面の1/4を占める大型記事の上の方で引用してあるクリントン候補の演説の抜粋に大間違いがあります。あるべき不定冠詞 a が抜けているのです。

その部分は「やさしい時」の言い方と「きつい時」の言い方を対比しているのですが、後者の例として引用されているのが以下のくだりです。下線は私がつけました。

Shame on you, Barack Obama. Meet me in Ohio. Let's have debate about your tactics and your behavior in this campaign.

日向訳:バラク・オバマ、恥を知りなさい。オハイオで待っていますからね。今回の選挙戦でのあなたのやり方と言動の是非を話し合おうじゃないですか

(なお朝日新聞の訳は、「バラク・オバマ、恥を知れ。オハイオで私の前に顔を出しなさい。あなたの策略とこの選挙戦での振る舞いについて話をするのよ」ですが、策略というすごい漢語を使う一方で「話をするのよ」とおばちゃん言葉が続き、何だか新人社員君のほほえましい訳文になっています)

問題は、Let's have debate about...の部分です。ニューヨークタイムズが掲載しているこの時の transcript (テープから起こした原稿)を見ると、この部分は、こうなっています。下線は私がつけました。

(From videotape.) So shame on you, Barack Obama. It is time you ran a campaign consistent with your messages in public. That's what I expect from you. Meet me in Ohio. Let's have a debate about your tactics and your -- (cheers, applause).

記事の趣旨にそくして冒頭の朝日新聞による引用が途中を省略しているのはいいとして、最後の一節は、どう聞いても

Let's have a debate about your tactics...

に間違いありません。

ちなみに上で言っている videotapeはこれです。1分32秒ある映像の最後の部分、01:15ぐらいから、このくだりに入ります。普通に英語を聞き取れる方ならどなたでも Let's have a debate. と、不定冠詞付きの "a debate" であるのを確認できるかと思います。しかもかなりしっかりと、h'VA debate と、haveの末尾とa をつないで発音しています。(ジャーナリストがこの映像を確認しないでものを書いているということはないでしょう。ということは、"a debate" かただの "debate" かを聞き分けるほどのスキルがないということなのでしょうか)

そもそも名詞 debate には可算用法と不可算用法の二つがありますが、不可算扱いされるのは、This issue is open to debate. (この問題は議論の余地のあるところだ)のように、debate が前置詞の目的語である抽象名詞のようなときです。

これに対して、クリントン発言で出てくる debate のように「具体的な議論、話し合い」を指しているときは可算名詞であり、原則として不定冠詞を付けて使う必要があります。特に debate のうしろに何についての debate かを示す about が付いているようなケースはますます「具体性」が強まると見えて、グーグルで検索して確かめると、不可算用法の、つまり冠詞なしの "debate" を入れた、"let's have debate about" は2件どまりなのに、可算用法の "a debate" を入れた "let's have a debate about" で検索すると700件ほどヒットします。

ここでもう一度確認しておくと、可算名詞である以上、a car, the car, my car, this car, that car, any car というふうに冠詞その他の限定詞を必ず付けて使わねばならず、何も付けないで、I have car. といった言い方をするのは無学者の英語です。

クリントン候補ほどの教養人が I have car. といった言い方をするはずもありませんが、あわれヒラリーさん、英語のことがわかっていない人々による英語談義の素材にされてしまったがために、すっかり無学者にされているとも言えます。

朝日新聞さん、AERA English という英語学習者向けの月刊誌を出しているぐらいですから、英語には格別の関心があるのでしょうし、だからこそ今回のようなコラムを掲載するのでしょうが、それにしちゃ、ちょっとおそまつじゃありませんか?



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Comments

特に無理なく「a」が聞こえますね。校正も通しているはずなのにこのような誤りがそれを潜り抜けてしまうところに「大新聞」の”たるみ”を感じます。勧誘の要素があるLet'sで始まる文を一方的な印象の「話をするのよ」にするのも違和感がありますし訳全体に力みを感じました。先生のような雲上人は別として少なからず英語力が足りないと思う日本人ならば私を含め”朝日がこうなのだから”と誤った知識が定着しかねず、受験生が読むべき新聞にも挙げられるほどのものがこれではいけないと思います。文責のある人には恥を掻いて頂きたいので今日のランキングへの一票は念を込めました。このような世直し記事もこちらの雑記帳の醍醐味であります。

[返信]

ボラティリティさん、まいどありがとうございます。

そういえば、天声人語って、誰のためなのか、何のためなのかもわかりませんが、ずっと英文対訳版が出ていますね。ますますわかりません。

これも受験英語の悪い面の1つだという気がします。今は違うかもしれませんが、自分の受験時代は、基本をおろそかにしたままやたらと難しい文章を読まされていたように思います。

ところで、このビデオの55秒付近に、"using tactics that are right out of Karl Rove's playbook"と聞こえる部分があるのですが、なぜここに Karl Rove が出てくるのでしょうか?

[返信]

今でも受験英語が中心ですから、低頻出の難語にウェイトを置いた英語の勉強に変わりはありません。

テキサス州知事時代からブッシュ大統領を支えてきたローブ元補佐官は、昔から反対派つまり民主党側が不利となるような虚実ないまぜのデマを流しては切り崩す戦術の権化として知られており、加えて、争点を失敗しても「被害」が少なくて済む二次的争点ととすりかえてしまうことでも有名なので、敢えてヒラリーさんも名指ししたのでしょう。

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