2008年8月 2日
ironyとsarcasm:単語を分析し、見比べ、創作会話に仕立てる意義について
日本語ではどちらも「皮肉」になるのでややこしい限りですが、irony と sarcasm は、普通に英語を使う人は使い分けているものです。しかもおもしろいことに、ドイツ人、フランス人、そしてアメリカ人がまじっている席で、英語での irony と sarcasm の使い分けが話題になったときも、各人が例を出すに応じて、「それは irony 」、「それは saracasm だろう」と意見が一致していましたから、おそらくはフランス語やドイツ語でも同じような使い分けがあるのでしょう。
その使い分けですが、基本的に irony は既に存在している客観的な状況の描写である一方、sarcasm は、その場で新たに創造するもの、しかも、相手への怒り、あるいは、ことのバカバカしさを指摘する気持ちを込めて言うものです。
例えば、相手が皮肉めいたことを言った場合に、「それって、皮肉に聞こえるけれど」と応じる場合は、
Do I detect a touch of sarcasm?
とは言っても、
Do I detect an irony?
とは言いません。一般に直接の当事者どうしで irony が飛び交うことはない上、ここでは、おもしろくない気持ちを相手に伝えるという新たな状況を作り出すために創造しているからです。
つまり、sarcasm は、
I appreciate your help! (手伝ってくれない人に向かって、「手伝ってくれて、本当に助かるよ。うれしいよ」)
Well, that's original. (毎度遅刻の言い訳が同じ人に対して、「へー、世の中そんなこともあるんだ。すごいね」)
というふうに、その場の状況に合わせて「創造して」います。
これに対して、例えば、本当ならこうなってしかるべきなのに、事実がそうではないという結果がある場合に、何と言うのか、そういった予想と異なる結果についての自分なりの「客観的観察」を伝えるのが irony です。
ですから、以下のような言い方をするのは irony です。一つの結果についての自分なりの観察を伝えているからです(ときおり、外国人の英語教師に言われることをアレンジしてみた一文で内容としては事実です)。
I'm told that the Japanese people spend about 600 billion yen annually on English conversation courses and English proficiency tests. Can you believe this figure? It's 6,000 yen! It's equivalent to the GDP of a small country. Yet, based on 2001 TOEFL scores, Japan ranks 24th out of 26 Asian countries and 75th among 88 countries worldwide. What do you make of this? (各種調査によると、日本人は年間、6,000億円も英会話学校や英語検定に費やしているそうじゃない。6,000円だよ。信じられる?どこか小さい国のGDP並みだよ。それでいて、2001年のTOEFLスコアで比べると、日本はアジア26ヶ国中24位、世界88ヶ国では75位だよね。どういうことだと思う?)
この話を聞かされた人が他に「あいつ、こんなこと言うんだよ」と伝える場合は、He made some ironic comments about...という伝え方になり、He made some sarcastic comments about...ではありません。しかし、話し手が最後に、
They must be either so wealthy or benevolent that they don't seek any returns for their input. (お金がありすぎるか、ひどく寛大で、見返りなんか求めないんだとしか思えないね)
と付け加えたりしたら、客観的描写を離れて、その場で主観的な判断を下すという「創造」があり、しかもちょっと小馬鹿にした感じになるので、sarcasm です。したがって、この話を第三者に伝えるときも、He made some sarcastic comments about Japan's unprofitable investment in English. といった言い方ができます。
そもそもわかりにくいのは、irony の語義に、sarcasm と重なる部分があるからだと思います。つまりどの辞典でもだいたいがその語義として、第一に、「普通ならこうなると予想されるのに、実際は違っていること」を挙げるものです。例えば、Cambridge Learner's Dictionary は、The irony is that now he's retired, he's busier than ever. という例文を出しています。定年退職となったら普通はのんびりと暮らし、時間も持てあますのが一般であるのに、それまでなかったぐらい忙しいというのですから、普通予想されることとは違っており、そこに皮肉な結果を見いだせます。
第二に、内心と異なるものの言い方をすることです。そしてこの部分が sarcasm と重なります。つまり、sarcasm も言外の意味にポイントがあるので、実際、辞典で sarcasm の語義を見ると、"an ironic remark" とあったりします。ただ、違うのは、irony の場合はユーモアが伴っているのに、sarcasm の場合は、相手をやり込めようとか、相手をがっくりさせようという一種の悪意が伴っていることです。
こう書くと簡単に使い分けられるようにも思えますが、面倒なのは、irony の語義の2なのか、つまり、言外の意味を使って何かおもしろがってもらおうとしているのか、攻撃的な sarcasm かは声の調子などが大きくものを言うことです。ですから、その場の雰囲気などわかるはずもない辞書の例文の場合、with irony, with a hint of sarcasm といった「注記」が入っています。
例えば、Oxford の学習者向け英英辞典を引くと、irony と sarcasm の例として、こういったものを出しています。
"England is famous for its food," she said with heavy irony.
"That will be useful," she snapped with heavy sarcasm.
してみると、言っていることと正反対になるような言外の意味にポイントがある言い方の場合、おもしろおかしく言っているだけなのか、悪意があるかは紙一重とも言え、一般に区別がむずかしいとされるのもうなずけます。
実際、高いレストランで思い切りまずいものを食べさせられたあとの会話の中で、誰かが
They do offer a wonderful gourmet evening. I'm impressed.
と言ったとして、これが irony なのか、sarcasm なのかは、その場にいないとちょっと判断がつかないと思います。
一方、予想されるものとは違った皮肉な結果に終わっていることを言うための irony の使い方は比較的簡単です。第一に、相手にぶつける筋合いのものではないことが一般である上、第二に、使う際のパターンとしては、It is ironic that... を使っていれば無難にまとめられるからです。
例えばオックスフォードの辞典は、こんな例を挙げています。
The irony is that when he finally got the job, he discovered he didn't like it.
普通ならようやく仕事に就けたら、それで大喜びしてしかるべきなのに、皮肉にも、その仕事に就いてみて初めてその仕事が自分に合わず、苦痛だということがわかったのですから、「予想されるものとは違った皮肉な結果に終わっている」という客観的状況の描写です。そして、It is ironic that という楽なパターンで置き換えると、こう言えます(なお ironical も使いますが、ironic の方がより一般的と言えます)。
It is ironic that when he finally got the job, he discovered he didn't like it.
ただ、こういう客観的な描写としてのironyを使って、相手に矛先を向けることも可能ではあります。例えば、食品の偽装表示が明るみに出たのに、「私どもは誠心誠意、お客様のために安全で質の高い食品の提供に努めています」といった記者発表をするような経営者に対して、皮肉まじりに詰めよるなら、こういった言い方もできます。
It's ironic that you can come up with such a statement that contradicts your behavior.
この言い方は、言外の意味がどうのという話ではなく、普通ならそんな声明を出せないのに、やってきたことと食い違う声明を出すという点に皮肉な結果があると指摘しているわけで、sarcasm ではなく、irony の語義の1に当たると解されます。
ところで、ここからが実は本題ですが、こういった単語の使い分けにこだわるべきなのは、英語を学んでいくプロセスで大きな役割があるからです。つまり人が勉強するプロセスを分析し、体系化したものとして有名な Bloom's taxonomy では、記憶し、理解し、応用するといった「下位の思考スキル」をこなせるようになったら、次は、分析し、評価し、創造するという「上位の思考スキル」を用いて勉強すべきだと説いていますが、そうとすれば、単語帳作り、音読、ディクテーションなどで、単語を頭に叩き込んだら、次のステップでは、そうやって覚えた単語や言い回しを分析し、他との違いを認識した上で、TOEICを活かしたコミュニカティブ英語の学習法で説明したように、その単語を創作会話例に組み込んで「使ってみる」ことが大事なはずです。そうやってこそ、そのままでは「死蔵」するだけに終わっていたはずの知識を鮮度が高く、実用性のある知識として自分の英語力の一部として取り込めるのです。
このことを説明して、今井むつみ・野島久雄著『人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(北樹出版)は、わが国のように普段英語が使われていない環境で、言語的に日本語との隔たりが大きい外国語、例えば英語を勉強するには、「自ら意識的な分析をせず、漫然と受動的に与えられたインプットを受容するだけでは、外国語を使いこなし、自分の言いたいことを十全に表現できるレベルにまで習熟することはのぞめない」としています。
知識のストックがなければ思考もへったくれもありませんから、一定レベルの単語を暗記する作業は不可欠ですが、それだけに終わらせず、使えるレベルに持っていくには主体的に分析し、類義語と見比べ、創作会話に組み込んで使ってみるという作業を経験する必要があるのです。
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こんにちは。日本人の英語学習の改革に挑戦していらっしゃるのが伺える記事ですね。早く皮肉話の種から卒業して欲しいような、困るような
(万一日本人が皆英語が自由になると、別の職種を探すようですので)
それはさておき、アナリティカルなアプローチが必要なのは、何の学問にも共通しているとは思いますが、幼児期からある環境に育てばimmersionもありえるでしょうが、ある年齢以上から行う外国語学習の場合には欠かせないということは実感してきました。
同様に、アメリカ人のビジネスピープルに日本語を教える場合も、単に"Repeat after me."とフレーズの反復をするだけでなく、文法や発音などの英語と日本語の違いを認識させるべく説明もすると、自分で考えながらパターン認識をするので、日本語を使いこなせる時間が短縮できました。西海岸の大都市で、日本出張や日本の取引先と仕事をする米人たちゆえ、日本語学習の必要性にかられ、熱心に学習したのも一因であり、日本での教養としての英語学習とは背景が異なります。
>知識のストックがなければ思考もへったくれもありませんから、一定レベルの単語を暗記する作業は不可欠ですが
この部分にも同感です。英語が母語でない私のほうが、一般的な米人事務員やエンジニアより語彙が豊かで表現が的確なことに驚かれるのですが、アンダーグラッド用にまずTOEFL,ついでグラッドスクール用のGREで必要な点数以上を獲得するために、毎日毎日ボキャブラリーの本及びそれぞれの問題集と格闘しました。日本の受験生と同じでしょうね。両テストとも、要求最低点を軽く越えていても、毎日の勉強で相当苦戦しながら、単語のつめこみを継続した成果の語彙力ですが、哲学の分野のクラスが多かったので言葉の定義や言い回しには特に気をつけざるを得ず、書く表現の勉強になりました。あとギリシャ語、ラテン語の学習も語彙力アップに効果がありましたが、日本では一般的ではないですね。(残念ながら現在のUSで、これらの言語を教養課程で要求する大学も高校も極少数派です。)
日本の大学院の入学資格は存じませんが、。USトップクラスで難関のUC Berkeleyの大学院を目指す人たちの中には、2~3年GREを受験し続けているという米人大学卒たちに試験会場で遭遇しましたので、このテストに向けた勉強でも英語の実力はつくと思います。ただ、アカデミックな勉強用の基礎力つくりであって、コミュニカティヴな英語用ではないですね。
ちなみにGREで最低必要とされる学習です。The Graduate Record Examinations® (GRE®) General Test measures verbal reasoning, quantitative reasoning, and critical thinking and analytical writing skills.
皮肉といえば、お金をかけないと真剣にならない人間の性分。今の日本ほどお金をかけずとも、数年にわたる毎日のラジオ英会話+YMCAの英会話学校1学期分だけで、不自由しない以上の英語力を身に付けてからUSに来れた80年代初めは良い時代だったのでしょうね。
現在の猫も杓子も英語学習とTOEIC状況は、会社がISOやSOX(及びJ-SOX)で大金をつかうはめになっているのに似ていますね。SOXは義務付けられていて逃れられませんが、TOEICもISOも任意であるのに、もはや強迫観念にとらわれて業者にかもにされているような。
[返信]
いつもながらの読ませるコメント、ありがとうございます。
GREは受けたことはありませんが、参考書の方は自分の勉強のためにひととおり勉強しました。その経験から言えば、やはりアカデミック・イングリッシュつまり頻度としては低いけれど、ここぞというところで教育のある人が使いたがるギリシア、ラテン系の単語が中心で、なるほどと納得したおぼえがあります。
ISOやらSOXとの対比には思わず笑いました。本当にそのとおりですね。都心の書店に行くと、やたらこの手のものが平積みになっており、英語の世界でTOEICが突出している様子とよく似ています。唯一違うのはISOやSOXは善かれ悪しかれ世界基準であるのに、TOEICはそうは言えないことでしょうか。