2008年8月30日
ねずみ講とマルチ商法の違い
英和辞典で pyramid selling を引くと、互いに確かめもせず孫引きしているのか、たいてい「ねずみ講式販売、マルチ商法」となっています。しかし、正式には無限連鎖講とよばれる「ねずみ講」はどこの国でもだいたい違法行為とされているのに対して、マルチ商法(連鎖販売取引)は必ずしも違法とは言えず、したがって両者を並べて挙げるのは味噌も糞も一緒にしている感じを否めません。
考えてみれば、ねずみ講とマルチ商法の違いをおさえ、特に微妙なマルチ商法の合法性を意識しておくことは、変なことに巻き込まれるのを防ぐという意味で、よき市民としての常識とも言えます。例えば危ないマルチに関わっている人は、よく「ねずみ講やピラミッドなどと違ってうちはちゃんとした商品を扱っているので大丈夫です」と言ったりしますが、商品を扱っていればいいというものでもありません。そこで、ともかく pyramid scheme/Ponzi scheme と multi-level marketing の区別を確かめてみることにします。
★ Pyramid scheme
まず pyramid selling またはpyramid scheme は、無限連鎖講とよばれる「ねずみ講」そのものです。組織に加入するためには既存会員に対して入会金を納めることを要し、しかも、自分がリクルートする新規会員たちから入る金が楽しみで敢えてその入会金を納めるというものです。こんな仕組みが無限に続くはずもありません。1人が5人ずつ新人会員をリクルートしていった場合、たしか、5代目か6代目あたりで日本の人口を超えてしまうはずです。
破綻必至であるのに、最後まで行ってしまった珍しい例が、市場経済への移行期にあったアルバニアです。どういうものか、10社近くが「ねずみ講」を始めたら、これが全国的に大流行りした上、ついに参加者がいなくなり、にっちもさっちも行かなくなります。それがきっかけでなぜか反政府暴動が起き、市街戦になり、死者も出て、ついには治安維持のための多国籍軍を投入されるという事態になります。1997年の話ですが、当時のNYタイムズの記事は、全国民が巻き込まれた大事件の被害総額はアルバニアの国家予算の3倍としています。
この「ねずみ講」はお金の流れから言えば、あとから参加する人たちの言わば「上納金」がピラミッド状組織の底辺から頂点へと流れるわけで、この点、次に説明する Ponzi scheme と似ています。しかし、「ねずみ講」の最大の特色であり、マルチ商法と違うのは商品が介在しない点です。純然たる「金融ビジネス」で、しかも破綻必至とあって、各国で違法行為とされています。わが国の場合、参加しただけで処罰の対象となります。
★ Ponzi scheme
次に Ponzi scheme は、お金の流れから言えば「ねずみ講」に似て、あとからの参加者が先に参加した人たちを潤すという構図があります。ただ、既存加入者によるコミッション目当ての勧誘がありません。
このポンジ型投資詐欺とでも言うべきインチキ利殖術の流れはこんな感じです。まず高額のリターンを約束した金融商品を売出した上、元本の返済など考えずにともかく初期の参加者には約束通り高額のリターンを支払い、信用させます。これにより評判を聞きつけた欲張りがわれわれもと押し掛けるので資金のプールが肥大化します。しかも、高配当を手にした初期の参加者もますます欲の皮をつっぱらせて、よせばいいのに、その配当金を再投資しますから、いよいよ資金プールが大きくなります。そして、この資金プールを原資にある時期までは参加者への高配当が続くのです。
ところが、よくしたもので、どこかの時点で悪いうわさが立ち、心配になった参加者たちが元本を返してくれと押し掛け、資金を回収しはじめると、途端に高配当に回すべき原資が減り始めて破綻に向かいます。あるいはそれ以前の段階で当局に察知され、それが原因で取り付け騒ぎになり、破綻に向かうというのも一つのパターンです。
ちなみにこの Ponzi scheme に名を残した Charles Ponzi は、90日で投資額を倍にすると約束し、実際、しばらくは約束が実行されたので、週100万ドルの資金が流れ込み、豪勢な生活をすることができました。20世紀初頭の話です。
いずれにしろ、破綻必至のインチキ利殖術である、この Ponzi scheme は確かにあとからの参加者の資金が初期の参加者に支払われる点は「ねずみ講」に似ています。しかし、初期の参加者への支払いが別段、その参加者本人による新規加入者の直接的リクルートを前提としていない点で「ねずみ講」と異なっています。したがって英和辞典で Ponzi scheme の項に同義語として pyramid selling が挙がっているのはどうかと思います。
★ Multilevel marketing
最後にマルチ商法は、英語では一般に multi-level marketing と言いますが、これは、「組織に加入するためには入会金を納めることを要し、しかも、その入会金を払う動機が自分が獲得する新規会員からのコミッション目当てである」点、「ねずみ講」と形式的に似ていますが、商品販売が抱き合わせとなっているモノ・ビジネスであり、カネ・ビジネスである「ねずみ講」とは区別されています。
ただ、一歩間違えば社会的な迷惑ないし害悪なので、どこの国も厳しく規制しています。そうは言っても基本的には合法行為ですから、マルチ商法を「ねずみ講」と並べるのは間違っています。
まず俗にマルチ商法と言われるのは正式には「連鎖販売取引」と言い、「儲かるよ、いい話があるよ」と言って知り合い、つまりは一般消費者を販売組織に誘い込み、さらに、そうやって仕立てた販売員が他の消費者を販売員になりませんかと勧誘していき、次々と消費者を販売員として取り込みながら組織を拡大していくタイプの商法です。
しかし、合法とは言え、問題点も多く、その分、実に細かな規制がかけられています。例えば、四国経済産業局の悪徳商法紹介ページを見ると、その規制が詳しく説明されていますが、これでは商売にならないのではないかと思えるほどです。
一方、アメリカの連邦取引委員会は、The Bottom Line about Multilevel Marketing Plansという、消費者に注意を呼びかけるページで、一般消費者がマルチ商法とおぼしき話に関わる前に確認すべき諸点を挙げており、商品販売が名ばかりでしかない違法なピラミッド型販売組織との違いがよくわかります。
▶ Avoid any plan that includes commissions for recruiting additional distributors. It may be an illegal pyramid.
▶ Beware of plans that ask new distributors to purchase expensive products and marketing materials. These plans may be pyramids in disguise.
▶ Be cautious of plans that claim you will make money through continued growth of your downline, that is, the number of distributors you recruit.
▶ Beware of plans that claim to sell miracle products or promise enormous earnings. Ask the promoter to substantiate claims.
▶ Beware of shills - "decoy" references paid by a plan's promoter to lie about their earnings through the plan.
▶ Don't pay or sign any contracts in an "opportunity meeting" or any other pressure-filled situation. Insist on taking your time to think over your decision. Talk it over with a family member, friend, accountant or lawyer.
▶ Do your homework! Check with your local Better Business Bureau and state Attorney General about any plan you're considering - especially when the claims about the product or your potential earnings seem too good to be true.
▶ Remember that no matter how good a product and how solid a multilevel marketing plan may be, you'll need to invest sweat equity as well as dollars for your investment to pay off.▷ さらなる販売員を獲得するとコミッションが払われる仕組みは実態が「ねずみ講」でありうるので避けるのが賢明。
▷ 新たに加入した販売員に対して高額な商品や営業資料を買わせる制度も実は「ねずみ講」である可能性があるので警戒せよ。
▷ 新規販売員の獲得数を増やしていけば自分も儲かると説明する仕組みには気をつけた方がいい。
▷ 画期的な商品を扱っているとか高額の収入を約束する仕組みには気をつけよ。この場合は、主宰者にその根拠を確かめたほうがいい。
▷ 主宰者に「これだけの収入を得ている」と宣伝するよう仕向けられている「さくら」だったりするので警戒が必要だ。
▷ 「チャンスをつかもう」といった会場の雰囲気に呑まれるような集会で金銭を払い、あるいは契約書に署名などすべきではない。考えたいので時間が必要という立場を貫くべし。家族、友人、会計士または弁護士と相談したほうがいい。
▷ 自分でも調べること。地元の消費者センターや州政府の法務担当部署に出向き、参加しようかと迷っているその仕組みに関する資料を調べるべし。特に取り扱い商品や高収益の可能性が「本当かな」と思えるほどのものだったらなおのこと慎重に臨むべきだ。
▷ どれほど商品がよくても、また、マルチ商法の仕組み自体がしっかりしていても、結局は見返りを得るためには額に汗して働き、かつ金銭的負担もあることを銘記すべきだ。
こういったマルチレベルマーケティングないしマルチ商法は、一定要件を満たす限りにおいて合法とも言えるわけで、微妙と言えば微妙です。ですから、「マルチまがい商法」などと言うものが出てくることにもなり、ややこしくなりますが、私の理解では、マルチ「まがい」とまっとうなマルチとの違いは、金儲けと関係なく、その商品がいいと思って買う、純然たるエンドユーザーがいるかいないかの違いです。つまり、「マルチまがい」は商品を扱っている点で形式的には「ねずみ講」と一線を画しているかのように見えるけれど、実質的にはそこでの商品はただの隠れミノでしかないのです。
★ まとめ
ここでまとめておきますと、pyramid selling/scheme =ねずみ講や Ponzi scheme は、いずれもあとからの多数の加入者が少数の既存会員を潤す単純な金儲けのための仕掛けであり、商品を扱わない点で、マルチ商法と区別されます。「ねずみ講」と Ponzi との違いは、前者では既存会員による勧誘があるのに、後者ではそれがないことです。マルチ商法は、あとからの多数の加入者が少数の既存会員を支えるピラミッド状組織を作る点は似ていますが、実態として商品が売られる点で「ねずみ講」とは区別されます。しかし、商品が隠れミノというケースもあるので、合法なマルチと言えるためには法律が課している条件を守っていることに加え、純然たるエンドユーザーのいることが目安だということになるかと思います。
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Comments
暑く苦しい夏が終わり英語に勤しむ秋、ということで久しぶりに(面目ない)やってきました。相変わらず高品質な記事内容です。つまみ食いでどれを読んでも(申し訳ない)ハズレがないんです。
日向先生のネタの広さと深さ、そして継続なさる気力、どれをとっても本当に感服いたします。
これからも是非是非お続け下さい、ものすごく応援しています。
[返信]
ありがとうございます。「ものすごく」という一句、おおいに励まされました。頑張ります。
- morning glory
- 2008年9月 5日 11:08
始めまして。
実は私もマルチ商法系の会社に勤めてまして。。。
早く抜け出したいです。
[返信]
それはご気分も悪いことでしょう。早く脱出できることを祈っています。
- ドラえもん。
- 2008年8月31日 23:17

私も「ものすごく」応援しています(^^)。
[返信]
ありがとうございます。ものすごい喜びをおぼえます。