2008年10月16日
資本注入額2500億ドルはどのぐらい大きな数字なのか
大手9社に対して2,500億ドル(25兆円)と報じられているアメリカでの資本注入策、あまりに金額が大きくと、何だかピンと来ません。こういった場合、イメージをつかむためのとっかかりが欲しくなります。
この点、英語では、にわかに分かりにくい数字などを身近なものとの対比で読み解こうという場合、よく perspective という言葉を使います。「大局」という、わかったようなわからない訳をつけている英和辞典もありますが、「全体の中での位置づけ」「相対的な位置関係」とでも言うべきもので、The Pocket Oxford Dictionary で言えば、"mental view of the relative importance of things" つまり「ものごとの相対的なウェイトを観念的に捉えたもの」です。
具体的には、
We need to get a perspective of how big this figure is. この数字がどれほど大きいか他との比較から捉える必要がある
と言ったりします。特に大きな数字などを挙げたあと、
To put things in perspective, this is roughly equivalent to the GDP of... これがどれほどのものかと言うと、・・・のGDPに匹敵します
といった感じで使います。
そこで、この25兆円に相当する数字はどのぐらいなんだろうと調べてみると、わが国で言えば、外食産業や半導体産業あるいは物流産業の市場規模に匹敵するようです。外食産業の1年分の売上をつぎ込むような話だということになります。
他に「25兆円もの」を探すと、トヨタの2007年度の売上25兆円(利益は1兆円強)がそうですし、毛色の変わったところではアフリカの対外債務なども2,500億ドルつまり25兆円とされています。
一方、今回の大騒動の直接のきっかけとなったリーマンブラザースの負債総額6,000億ドル(60兆円)も、われわれ一般市民にとっては天文学的数字で、これについても、to put things in perspective で行くと、サハラ以南のアフリカ諸国のGDPに相当します(ちなみに sub-Sahara と呼ばれるこの地域のGDPの4割は南アフリカが占めています)。
市場規模との比較で言えば、60兆円市場と言われているのはシニア市場です。他に60兆円という数字が出てくる分野は・・・
✓ 建設市場(住宅、オフィスビル、土木工事を含む)
✓ 5年内に満期を迎える郵便局の定額預金
✓ PASMO、SUICAなどの決済サービス市場
✓ 保険市場(世界保険市場100兆円のうち6割)
✓ レジャー産業市場(そのうちパチンコ業界が30兆円)
アメリカは金融支援策として最終的には7,000億ドル(70兆円)つぎ込むと宣言しているわけで、とんでもない数字です。わが国の予算(一般会計分)80兆に迫る金額ですから、いかにすごいかがわかります。しかも、果たしてこれで足りるのかという声もあるぐらいですから、株式市場がなかなか反転しないはずです。
いくらアメリカでもこれは痛い数字だろうなと感じます。毎年の歳入がだいたい300兆円弱の国で、その1/4近くを使う話です。しかも、前財務長官のローレンス・サマーズは、これで株式等の資産価格の下落 (asset prices decline) による信用収縮 (credit contractions) が景気を悪化させるのを止められないとなると、GDPが5%かた下がり、その結果、アメリカの世帯当たり損失額は8,000ドル(80万円)になりうると論じています。
今さら天井知らずだった役員報酬を制限すると言われたところで、70兆円も納税者が負担するのかと、ひとごとながらやはり釈然としません。何しろ、2007年度の大手金融CEOの報酬を見ると、高い方で、ゴールドマンサックスや(今は亡き)リーマンブラザースが80億円前後、低い方でバンクオブアメリカ、モルガンスタンレー、メリルリンチが20億円前後です。これも To put things in perspective で言えば、アメリカ人の平均年収は500万円弱ですし、わが国5,000万弱の給与所得者の平均年収も400万円強程度ですから、1人500万円と単純計算した場合、最低の方でも、1人のCEOが400人分の労働者を、最高の方になるとそれの4倍の1,600人分ですから、嫌になります。
ところで perspective という言葉は、総合的にものごとを判断してことの実体を見きわめるべしという問題意識が感じられるわけで、このことは以下のようなよく使う言い方を見てもわかります。
You need to keep things in perspective. なにごとも多角的に見て、ことの実態を見失わないようにすべきだ。
Don't let things get out of perspective. ことの実態から離れた判断をしないよう気をつけるべきだ。
しかし、上のCEOの報酬の話のように、年俸が20億円とか80億円と聞かされたところで「へー、すごいな」で終わらせたりせずに、なまじっかきちんと "put it into perspective" なぞやると、逆に異常さ加減、不公平の甚だしさがよくわかり、かえって不愉快にもなるわけで、複雑な気持ちです。
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