2008年10月18日
大同生命が言うGOING CONCERNはプラスイメージの言葉なのか
人気ブログランキングでご近所のけんじの楽しく英会話!で、大同生命が "GOING CONCERN" という英語を前面に出しているTV広告を取り上げていました。
この going concern がそもそもどういう意味かを考えますと、すなおに英語を読む限り、"going" は、スコッチウィスキーの「ジョニーウォーカー」の有名なコピー "Born 1820—Still Going Strong." (1820年生まれ。まだまだ元気)での going と同じです。そして、こういった場合の going strong は、"continuing vigorously" ということですから、"going" = "continuing"という意味になります。また concern は、an industrial concern(事業会社)とか a family concern (同族会社)と言ったりするときの "concern (=business)" ですから、二つ合わせると、"continuing business" つまり「継続性のある事業」という意味になります。
他面、ビジネス用語としての "going concern" は「継続企業」が定訳になっている会計用語であり、「当面 (for the foreseeable future)、事業として存続し、業務を継続するはずだ」という企業評価あるいは決算報告書作成の前提です。このことを、The Economist Booksのシリーズの一冊、 Pocket Accounting は、こう説明しています。
An important underlying concept in accounting practice. The assumption for most businesses is that they will continue for the foreseeable future. This means that, for most purposes, the break-up or forced sale value of the assets is not relevant.(会計実務の根底にある重要な概念で、ほとんどの企業は当面、存続するということを前提にしている。そこで、たいていの場合、資産評価上、解体価値または売却を余儀なくされた場合の価値を取り上げる意味はない)
具体例としては、上場企業の年次報告などには、一つの定型文として、こういうものが入っていたりします。
Our financial statements have been presented on the basis that we are a going concern, which contemplates the realization of assets and the satisfaction of liabilities in the normal course of business. (当社の財務諸表の報告に当たっては、当社が継続企業であること、すなわち通常の営業活動の過程において資産を換金し、かつ、負債を弁済していく予定であることを前提としている)
しかしながら、少なくともビジネスの世界での実際の使われ方としては、何かネガティブなニュアンスが伴う言葉であり、広告で堂々と自分たちの会社の宣伝をするために使うたぐいの言葉ではないように思えてしかたがありません。と言うのも「ゴーイングコンサーン」と聞くと、まっさきに思い浮かべるのが「ゴーイングコンサーン注記」と呼ばれるものだからです。リンク先の記事、「なぜIT企業には『ゴーイングコンサーン』注記の会社が多いのか」をご覧になればおわかりのとおり、ゴーイングコンサーンが取りざたされるのは(この記事での勝間勝代さんの言葉を借りれば)「経営に黄信号がともっている」ときに他なりません。
まず、大同生命のHPに行くと、
「CM情報 "GOING CONCERN" 篇」というコーナーが設けられており、「陽光あふれるアトリエで、本上まなみさんが4000枚もの写真を使って、巨大な日本地図のコラージュを作ります」という説明に続いて、
「GOING CONCERN」という言葉に、大同生命の「企業のために経営者とともに」というコピーを重ねて、企業の存続を願う大同生命のメッセージをお伝えしています。
と大々的に"going concern" を打ち出しています。
[Youtubeですぐご覧になりたい方はこちらへどうぞ。]
現物の冒頭部分では、GOING CONCERNというフレーズを画面に出してある状態で、「企業がずっと続くこと。そのためには確実な備えが必要です。わたしたち、大同生命は・・・」と言っていますから、GOING CONCERNイコール「企業がずっと続くこと」であることはわかります。
しかし、私にとっての "going concern" は「倒産可能性」と表裏一体を成す概念であって、何だかしっくり来ません。つまり、「企業の存続を願う大同生命のメッセージをお伝えしています」という部分が、どうしても
「倒産したくないという大同生命のメッセージをお伝えしています」
と聞こえてしまうのです。
そもそも「継続企業」と訳される "going concern" が意味するところは、上で述べたとおり「当面、この企業は存続し、業務を継続できるはずだ」という企業評価の前提であり、こういう前提が成り立っているからこそ、企業価値を考える場合に誰も解体価値で考えず、ひとまず帳簿上の価格(簿価)の合計額を出発点としています。
例えばトヨタのような製造業の場合、無数の機械の資産価値を考える場合に、それを今、売りに出したらいくらかという視点で計算したらまさに二束三文でしょう。誰も中古の機械など欲しがりませんから。しかし、これからも事業を続けるのであり、その事業に供されている機械なのだという継続企業という考え方からすれば、少なくとも買ったときの価格である簿価を評価の基準にしていいはずだということになります。
企業買収などの例でも、買収する側は、純然たる資産価値つまり簿価をたたき台にした上で、その企業が業務を今後も継続していけるという前提に立った上で算出される「のれん」ないし「営業権」 (ブランド力、取引先、技術力、人材などの無形の経営資源が持つ価値のことで、英語では goodwill と言っています)を上乗せして買収価格を決めるのが普通です。
このように企業評価の前提であるということは、決算書の前提でもあるということを意味します。言い換えれば、取引先の業績悪化で回収できない債権が増えており、資産の劣化が激しく、近々倒産は必至という状況なのに、そのことに一切触れずに、決算日現在、財務諸表は適正に財務状況を表示していますといった監査報告書を出すようでは、投資家保護という本来の役目を果たせません。ですから、このままだと危ない、もうじき破綻する可能性があると思ったら、監査法人は "going concern qualification" つまり、「継続企業の前提に関する重要な疑義が存する旨の付記」をすることが義務づけられています。
もちろん、こんな付記をされたら投資家は売り浴びせます。Googleで、「継続企業の前提」と「ストップ安」(取引所が定める株価変動幅の下限)をキーワードに検索すれば、すぐわかりますが、決算で「継続企業の前提に関する重要な疑義が存する」といった付記があったりすると、致命的とすら言えるほどの大打撃を上場企業に与えます。このあたりの投資家の「継続企業」に対する受け止め方は、オンライン版等東洋経済の要注意企業はココで見抜け! ”継続企業の前提に疑義あり”がよく表しています。この記事が言うとおり、継続企業の前提に疑義という、「決算書の後半に付けられるこの情報は、投資家にとって、最重要のウォーニング(警報)とも言えるもの」なのです。
また、継続企業なのかは投資家にとって重大な関心事でもありますから、「倒産可能性」を測るZスコアというものまであり、例えば、経済誌「週刊ダイアモンド」の2008年9月29日号の目次には、「Part 4 最新・倒産危険度ランキング 倒産リスクを数値化したZスコア 上場企業中624社が危険水域に」といったものがあります。
[注記: Zスコアというのは、ニューヨーク大のアルトマン教授が上場企業(製造業)60数社を調べた上開発した予測モデルで、指標を5つに絞り込んで、継続企業として存続できる確率を示します]
このように going concern は、企業評価の大前提です。ただ普通はいちいち持ち出すものではなく、そういうことがあるとすれば、企業の存続が疑問視されるような場面だというのが私の理解なのです。つまり普通の企業は、実際にそうであるように、対外的に何かものを言う場合、いちいち「私たちは going concern だ」と言ったりはせず、going concern が企業について取りざたされるというのは逆に言えば、正常とは言えないときです。
この点、同じ犯罪人でも異常な例についてだけ(刑事)責任能力が取り上げられるのに似ています。普通の被疑者はみな責任能力を備えていることが前提なので、いちいち言うまでもないのです。
いずれにしろ、こういった感覚があるので、私だけなのかも知れませんが、大同生命のCMは、どうしても「『GOING CONCERN』という言葉で倒産したくないというメッセージをお伝えしています」と聞こえてしかたがありません。軽快なテンポのCMを見ながら保険金支払漏れ事件で行政処分を受けているだけに業績悪化が心配なんだろうなと余計なことまで考えてしまいます。
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日向さん、こんにちは。再度お邪魔します。
当方程度の英語力の者の経験による情報で、日本の方々をミスリードしてもいけませんので、本日本件について当方の相棒のアメリカ人(弊社社長)に聞いてみました。
やはり、①ネガティブな感じがする、②”Going concern"と聞くと、PLやBSの調査が入っている感じがする、③広告で使うか?No, no, no, no!、④使うとすると”On going performance or something.(彼にはGoingの前にOnが来ると、しっくり来るようです)である、との談でした。
大同生命ほどの会社であれば、ネイティブのチェックがはいっていそうですが、窓口の日本人幹部(担当)に先入観があればチェックもかからない、ということでしょうか。
[返信]
有益な追加情報、ありがとうございます。日本でも「ゴーイングコンサーン注記」という(ネガティブな)術語が市民権を得つつあるようです。
何であれ、
>広告で使うか?No, no, no, no!
が、やはり普通にビジネスで英語を使う人の感覚かなと改めて納得しました。
幹部クラスが関与しているかはわかりませんが、制作の当事者たちはおおいに満足しているんでしょうね。バックに浮いている Going concern...なかなかいいねえ、と。
- いちろう
- 2008年10月21日 11:11
日向先生、こんにちは。
専門用語としてはネガティブなニュアンスになるとのこと、勉強になりました。
大同生命さんはネイティブチェックはしなかったのでしょうか。あるいは経営にはまったくの素人さんにチェックしてもらったのかもしれませんね。
「いえ、本当にわが社は今 going concern 状態なんです」
という言い訳はしないでしょうね(^^;)
[返信]
コメントありがとうございます。それとテーマに便乗させてもらい、これもお礼申しあげなければなりません。
>あるいは経営にはまったくの素人さんにチェックしても>らったのかもしれませんね。
学習者向け英英辞典を見たところ、けっこう going concern に「利益をあげ、順調」という意味を読み込んでいるものがありますので、あるいはそういう感覚のネイティブに見てもらったのかも知れません。しかし、仮にそうだとしても、人様のお金を預かる金融機関としては、ちょっとチェックが甘過ぎますよね。
- けんじ
- 2008年10月19日 18:50
そうですね。我々レベル(アメリカの会社経営、管理レベル)でも見ないですね。当方も会社のAnnual TargetやPolicy statement辺りに関与していますが、ほとんどこのGoing concernは目にしないですね。コアな会計用語なんでしょうか。
同じ意味合いで使うときには、Continuityでしょうか。もっとも、こちらの文化としては、経営は機敏に舵取りをしてもらわないと困ります。ある事業にしがみつくという事はありませんので、日本ほど”継続性”は言わないようで、Differentiationなる言葉も目にしますね。
こちらではこのConcernは、”I am concerned that...”の使用事例が多いので、Going concernはやはりネガティブに聞こえます。
我々レベルで使うとすると、エアー、クウォーテーション付きで使うかなぁ...いえいえやはり間際らしくて使わないでしょうね。
[返信]
>コアな会計用語なんでしょうか。
GAAPのfour basic assumptions (出資者と会社は別と説く Economic Entity Assumption、今回の Going Concern Assumption、記録の単位はカネという Monetary Unit Assumption、そして、期間別にまとめて比較対照を可能にしろというPeriodic Reporting Assumption) の一つです。日本では会計基準などで明示はされていないはずですが、「会計公準」と呼ばれるものの一角を占めています。イギリスは、少なくとも昔は会計基準に明記されていました。今はどうなのでしょう。
「いちろう」さんも何だか変だなあと感じるとわかり、ほっとしました。
- いちろう
- 2008年10月18日 22:42

この会社ってターゲットが永続性に疑問符が付く中小企業なんだから、「Going concernを願う」っていうのには違和感を感じませんでした。
まあ、私がたまたまT&Dの株を持ってて、大同のことを知っていたせいもあるんでしょうけど。なので、「倒産したくないという大同生命のメッセージをお伝えしています」という風には見えませんでしたが、むしろ主要顧客に対して挑戦的なメッセージを送ったCMだなとは思いました。様々な人が言われているように、Going concernにはネガティブなイメージが先に浮かぶので、「大同は中小企業が倒産するとでも言いたいのか!」と文句が出そうだなと。
[返信]
コメントありがとうございます。いろいろな見方に触れることができ、勉強になります。