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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2008年11月14日

英語で「きちんとものが言える」レベルはCEFRのB2

たまたま慶應義塾大学の外部評価委員会の記録というものに目を通していたら、安西塾長が国際化時代に堪える人材の条件につき、「福澤の時代は上下のキャッチアップの時代でしたが、現在はフラットな国際的な競争の場ができており、この第三の開国を支える人材を輩出する必要があります。初対面の外国人のいるラウンドテーブルで単に自己主張するのではなく、きちんとものが言える人間が必要です」と説いているくだりが目にとまりました。

「初対面の外国人のいるラウンドテーブルで単に自己主張するのではなく、きちんとものが言える人間」というのは、要するに暗記してきたようなセリフを吐き出すのでなく、ちゃんと相手と意見交換の上、それを踏まえて「ものが言える」人間のことと解されます。

ここでふと思ったのが、CEFRのレベルで言えば、どれに該当するするのだろうかということです。

まずまんなかのB1レベルは、既に紹介したとおり「その言葉が使われている外国に行った場合、あるいはその国から来た人に出会った場合に独力で最低限のコミュニケーションができる」レベルですから、この程度では「初対面の外国人のいるラウンドテーブルで単に自己主張するのではなく、きちんとものが言える」とするにはちょっと不足があります。

となるとB2レベルと言えそうです。そこで、CEFRがどの程度のスキルをもって「B2レベルのスキル」としているかを見ると、(1)何かを的確に論じるというスキル、(2)普段の会話で、話が途切れないようにするスキル(3)言葉の使い方に問題意識を持ち、必要に応じて軌道修正するスキルを持っているレベルだとしています。これなら「きちんとものが言える」レベルでしょう。

ねんのため、それぞれのスキルがどういうものかを個別に見ていくと、こういうことです。

1)何かを的確に論じるというスキル

✓ 例を出したりして自分の主張を裏づけることができる
✓ 選択肢のメリット・デメリットを挙げながら、ある問題に対する自分なりの考えを補強できる
✓ 「かくかくしかじかだから、こうだ」「そうとすれば、こう言える」というふうに筋道のとおった構成で話を展開できる
✓ 一つの視点を支持し、または支持しない角度から自分なりの主張を展開できる
✓ 問題点を明らかにして、相手に分が悪いことを納得させることができる
✓ 考えられる原因や結果につき推論を展開し、あるいはある状況を想定した上で推論ができる
✓ 自分の知っている事柄であれば、議論に参加して積極的に発言でき、その際、コメントし、自分の立場を明確に示し、選択肢を評価し、また仮定をした上でものごとを論じることができる

2)普段の会話で、話が途切れないようにするスキル

✓ 話が自然に続き、しかも、状況に応じて的確に発言できる
✓ まわりがうるさい環境でも、相手が標準語で話してくれる限り、何を言っているのか、細かい点まで理解できる
✓ 自分が話す番になったらそれに乗り遅れず、話を続けることができ、また、切りのいいところを見きわめて会話を終えることができる(ただ、ときにはこのあたりに手間取ることがある)
✓ That's a difficult question. といった決まり文句で時間をかせぎながら、何を言うかを考えることができる
✓ 話を途切れさせず、また、必要に応じて会話のイニシアティブを取ることができるので、相手に余計なストレスを感じさせることなく、やりとりを続けることができる
✓ 話の方向が変わる、急にインフォーマルなスタイルに変わる、あるいは話の焦点が変わるといった、通常の会話にありがちな展開についていくことができる
✓ 意図しないで相手が笑うようなことを言ってしまう、あるいは、いらだたせるといったこともなく、また、仲間のネイティブスピーカーと話しているときとは違う格別の努力を相手に強いるようなこともなく、普段からごく普通につきあい、話すことができる

3)言葉の使い方に問題意識を持ち、必要に応じて軌道修正するスキル

✓ 誤解につながっているとわかったところで、その間違いを修正できる
✓ 自分で間違いやすい点をきちんと記録しておき、話しているときも注意を払い続けることができる
✓ うっかりミス、言い間違いに気づくつど訂正するよう心がけている
✓ どういう言い方をすべきかを予めちょっと考え、それが相手にどう伝わるかにも注意している。

要するにつっかえずに予め組み立てたとおりに話をし、間違いがあれば自分で気づき、修正できるスキルレベルです。

以上のようなスキルが備わっているかをどうやってチェックするのだろうと思われるでしょうが、これはCEFRに準拠しているケンブリッジ英検の試験方法を見れば容易にわかります。

ケンブリッジ英検で CEFRのB2レベルに対応しているのは、First Certificate in English、つまりFCEと呼ばれるレベルで、公開されているサンプルテストを見ると、何をどの程度こなさないと合格できないのかがよくわかります。

FCE自体は、Reading(1時間)、 Writing(1時間20分)、 Use of English(=文法/単語力、45分)、Listening(40分)、 Speaking(14分) から成っており、ランチをはさんでおよそ6時間かかります[注]。そして、このなかのスピーキングテストの評価基準を上のB2レベルとしての「仕様」と照らし合わせて見ると、具体的にどの程度のスキルがあれば「初対面の外国人のいるラウンドテーブルで単に自己主張するのではなく、きちんとものが言える」と認定されるのかがわかります。

[注記:FCEの日本での受験料は25,725円ですが、留学や長期滞在ビザの申請時に記載しても通用しないような国内検定を4回受けることを思えば、そうは高くないのではないでしょうか。しかも15分前後のスピーキングテストに試験委員を2人投入し、それなりのコストがかかっていることをも考えると、決して法外な料金とは言えないでしょう]

まず、FCEつまりB2レベルでの鍵となるコンセプトは、Generally effective command of the spoken language. (概ね話言葉を効果的に使いこなしている)であり、果たして受験生がこうしたレベルの能力を備えているかを見るべく、2人の試験委員が1人は成績をつけながら観察し、もう1人が進行役となってテストを進めます。

進め方は上で引用したサンプルテストに書いてあるとおり、最初の3分間は個別に出身地や友人、家族のことなどを話してもらうのに使われ、次いで写真を見ながら各人が1分ずつコメントし、最後に別の写真を見ながら2人で3分間意見交換します。

この間、評価担当の試験委員は(進行役も総括的な評価をします)、以下の5つの視点でチェックすることになります。(具体的な評価項目は公表されている教師用ハンドブックに載っています)

文法と語彙力: 文法は正確か、言いたいことを言えるだけの語彙力を持っているかをレパートリーの広さ (range)、構文を含めての正確さ (accuracy)、そして課題として想定された状況と釣り合っている単語であるか (appropriacy) という角度から採点していきます。

会話の組み立てと運用:自分の言いたいことをふくらませることができるかが評価のポイントですが、ここでは、首尾一貫した話になっているか (coherence)、断片的な発話に終わらせず、ある程度のまとまりがある発話ができるか (extent)、無関係なことを言ったりしないか (relevance) という見地からチェックします。

発音:リズム・ストレス・イントネーション、個々の音が評価されますが、要は何を言っているかがわかれば十分とされます。

コミュニケートするための相互的な働きかけ:会話の流れに乗って、自分の役どころをきちんと果たせるかが問われます。具体的には、自分から必要に応じて話を切り出したり、相手の発言を受け止めて然るべきことを言えるか (initiating and responding)、不必要に言いよどんだり、もたつかないか (hesitation) 、聞き役になるべき場面、話し手になる場面をきちんとおさえているか (turn-taking) といった項目にそって点数がつけられます。

こうして4つの項目を通じて、並レベルつまりまんなかのレベル以上を取れば、Generally effective command of the spoken language. (概ね話言葉を効果的に使いこなしている)と認められ、B2レベルをクリアできたことになります。

「初対面の外国人のいるラウンドテーブルで単に自己主張するのではなく、きちんとものが言える」レベルというのをただポンと言われたらわかったような気にもなりますが、今回のように正体を確かめるべく追究していくと決して楽ではないことがわかります。しかし、日本語でも「きちんとものが言える」レベルというのはそれなりの教育と本人の積極的学習が伴っていないと到達できるものではありませんから、何語であろうと計画的にバランスよく勉強しない人は一生到達しないで終わってしまう、そういうレベルでもあります。

なお、前回ご紹介した話を切り出すときの小道具たちは、上の会話の組み立てと運用 (discourse management) の中で重視される要素ですので、自分なりの会話例を作ってみたり、環境が許すなら実際に使ってみる価値があります。その意味で、小道具とは言え、コミュニケーションの中核を担う要素として決しておろそかにできません。




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Comments

当方は、最近の日本の英語教育界の様子は良くわかりませんので推測ですが、この慶応大学の学長の言われる事は、結節点的な意味合いを持つのではないかと思います。

この学長の言われる事と日向さんのフォローされている事は、完全に読み書き英語からの決別ですよね。勿論読み書きは、話すことや聞くことの補完に必要な事は論を待ちませんが、ここに記されている事を完遂するとなると、かなりのエネルギーを話す事や聞く訓練に費やさなければならないのは、経験したことのある人は誰でもわかると思います。

昔ながらの英語原理主義(読み書き偏重)で沸騰している日本の英語教育界では、理解されにくい事かもしれませんが、この言われている事を実行するとなると、話す、聞く、の訓練をしなければならないのは自明の理です。

大学の学長の方針は、我々の世界で言うVisionですから、具体的なAction planは細かくは無いのかもしれませんが(それでも評価委員会の記録には、学生の出口調査云々がありますが)、一つの方向性としてはインパクトがあることだと思います。

今までも、各大学で国際的なコミュニケーションの重要性を説いた方針はありましたが、ここまで具体的に論述した物は無かったように思います。

そういう意味で、英語を使う側にいるものが見ると、一歩踏み込んだ画期的な方針だと思います。

[返信]

鋭いコメント、ありがとうございます。おっしゃるとおりなのですが、考えてみれば、明治の時代に書かれた「学問のすすめ」にも本を読んでばかりでは「知識の蓄積」に終わるから駄目で、議論を通じて「知識を交換し」、発表を通じて「知識を広めよ」と言っているわけで、あまりに当たり前のことが今、ようやく再認識されているのかなという印象です。

お手伝いしているプロジェクト(学術フロンティア事業と呼ばれています)でも、こういったビジョンの実現に向け、評価のための共通の物差しがあってもいいのではないか、その物差し上の現在位置を記録する「ポートフォリオ」を導入することで、学ぶ方も教える方も共に助かるのではないかと研究を進めています。

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