2008年11月18日
会社の平均寿命は?長寿の条件は?
米5大投資銀行のうち2つが銀行持株会社に変身し、残る3つが身売りし、とうとう投資銀行なるものがなくなってしまいました。2008年は金融業界以外でも、「バドワイザー」で知られる、あのアンハイザー・ブッシュが(世界2位)が世界最大のビールメーカー、インベブ(ベルギー)と合併という話やら、デルタ航空(3位)とノースウェスト航空(5位)が合併し、世界最大の航空会社が誕生という話やらで、企業の死亡と誕生のニュースが多かったと言えます。一方、わが国でも上場企業の破綻件数は11月現在29件で、戦後最多の2002年と並ぶ結果となっています。改めて会社の寿命というものを考えさせられます。
この会社の寿命、1980年代に日経が総資産や売上高を基準とする分析モデルを用いて30年としていましたが、それも時価総額を基準とし、またネット時代のスピード経営を考えると、今や日本企業の寿命は10年を切るとされています。
ここで企業の寿命をめぐる数字をちょっと見渡しておくと、後述する The Living Company という本では、Fortune 500にランクされるような大型多国籍企業の平均寿命は40-50年としています。また、日本とヨーロッパを通じての会社の寿命は規模の大小を問わず12.5年という研究もあるようです。そこでアメリカはどうなのだろうと思って調べたら、アメリカでもUNDP(国際開発機関)の資料は、米企業の寿命は14.5年で、それがどんどん短くなっているとしています。そう言えば、アメリカの大企業のCEOの半分が3年は持たないと言いますから、善し悪しは別として、アメリカの企業がいかに短期のサイクルでまわっているかを再認識させられます。
ところで人の組織である以上、大学も似たようなもので、うかうかしていると終わりが来ます。中には、創立後2年で廃校に追い込まれた例もあります。「大学の平均寿命」に関する研究があるかは知りませんが、やはり外部環境の変化に対応しきれないと衰弱するのは同じで、今年の1月22日の朝日新聞には全国に700強ある大学のうち100近くが「経営困難状態」に陥っており、そのうち15法人は「いつつぶれてもおかしくない」と報じていました。ついでにイギリスなどはどうなのだろうと調べたら、100弱ある大学のうち半数(ほとんどが職業訓練校と言えるポリテクニクからの転進組)の経営が不安定だと言います。そうかと思うと、800年(!)を迎えている英ケンブリッジ大学のような例もあるわけで、環境への適応を怠らなければ長生きはできるのです。
それでは平均寿命を超える長寿の企業ないし組織であり続けるためにはどうしたらいいのだろうかと気になります。この点、有名なのが石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルが1980年代に自社の存亡を賭けて行った研究で、報告書そのものは公表されずに終わっていますが、関係者が The Living Company というタイトルの本で、そのあらましをまとめています。
この本によると、研究はシェルの経営企画の専門家2名とビジネススクールの教授2名から成るチームが「シェルぐらいの規模とシェルより長い歴史を持つ」40社を取り上げ、さらに27社に絞り込んで長寿の秘訣を探ったそうです。
その結論は、以下で見る通り、第一に外部要因として環境の変化を察知し適応する力、そして、内部要因として、第二に組織としての一体感、アイデンティティー、第三に自由な企業風土、第4に保守的な財務が長寿企業に共通して見られる特性だとしています。
(1)Sensitivity to environment: 環境の変化に敏感である
アンテナをめぐらし、常に学び、適応する努力を怠らないということです。そう言えば「ゼスト」「モンスーンカフェ」「ラボエーム」を経営している「グローバルダイニング」という会社、その社長さん、昔から知っていますが、常に「世の中」を研究し、店のサイズ、スタイル、客単価に反映させています。こういう会社を言うんだろうなと感じます。
(2)Cohesive, with a strong sense of identity: 他の会社と違うカラーを持っており、従業員間にもそれを意識した一体感がある
会社自体が一つの共同体を形成するのに成功しており、言わば会社そのものが人格を持っているようなレベルにまで達していることを言います。上で触れた「グローバルダイニング」という会社も、この系列のお店に行かれた方はご存じでしょうが、店員さん、生き生きとしており、しかも、どの店に行っても同じなので、会社との一体感があるんだろうなと感じます。裏付けとなっているのは頑張って店長になれば1,000万円クラスの年俸が約束されているという、忠誠心とやる気を引き出す技術をうまく組み合わせた経営スタイルでしょう。
(3)Tolerant: 分権的経営スタイルを取っており、内部での自由度が高い
各事業部門が自由に他社と交流する風土があり、自社内部でも、社外との関係でも行き来が自由で、それが企業としての実力の上昇に結びついているのです。この点、大学の学部のことを考えると複雑な気持ちになります。本来は、同じ方向に向かっている船団の中の一隻であり、互いに連絡を取りながら、同一船団としてのカラーを保つべきであるのに、学部自体が巨大なタコツボとなっており、どこの大学もよその学部が何をどうやっているかを知らないし、関心も持っていないのが普通です。その結果、教員や学生の質を別にして、A大学の法学部とB大学の法学部を組織や科目の体系を総取っ替えしても、特別変わらない、そのぐらい特色が薄いのが一般です。
(4)Conservative in financing: 財務に関して保守的である
ひとことで言えば、身の丈に合った切り盛りに留めるということです。この点、投資銀行というビジネスモデルはこれと正反対なわけで、やっぱり長続きしない運命だったんだなと改めて感じます。彼らのモデルは簡単に言えば、 投資効率を増幅するために、自前の資金の20倍とか30倍の規模で借り入れて、ハイリスクハイリターン型のビジネスに投入するというものでしたが、問題は、借入金の出どころを(商業銀行と異なり)預金者から受け入れる高コストながら予測可能性のある資金に比べて、安上がりな代わりにどうなるかわからない資金に頼った点です。つまり、預金者からの高コストながら返すまで時間のある資金ではなく、安いものの、今回のリーマンのように信用が低下すると貸す方が「危険料」を利息に上乗せしたり、果ては貸してもらえなくなるような資金に頼っていたわけで、信用収縮などが起きると万事休すです。
この The Living Company の結論は、組織は生命体であり、別段、株主への見返り (return on equity) のために存続しているものではなく、これは、われわれ自身、別段、自分の仕事のために生きているわけではないのと同じだと説きます。うーん、そうかも知れないと思います。結局、われわれ人間にしろ、企業や大学という組織にしろ、to survive and thrive つまり、落伍し、消滅したりしないよう努める一方で、最大限の自己実現を追求する存在なのではないかという論旨なのですが、ROEだのEVAだのを並べる企業観より、こういう組織を万物の一員と捉えるホリスティックな見方に魅力をおぼえます。
長寿組織の特性は、われわれが社会において息の長い活躍をしていくための条件として見ても納得させられるものばかりです。すなわち、社会人として、(1)外界、特に経済環境に適応するように努め、(2)自分らしさを確立し、(3)人と接しながらの知的活動に意を用い、(4)ぜいたくをしないことが、落伍しない秘訣とも言えそうです。わが身を振り返ると、エンゲル係数がやたら高いので、どうも(4)が命取りになりそうです。しかし、老い先短いとなると、安かろう「まずかろう」的食べ物は何としてでも避けて通りたいし、思案のしどころです。
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