HOME英語ニュース・ビジネス英語
 
 


日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2008年11月24日

(上)英会話って何だろう

英会話、英会話と気安く使われる言葉ですが、「話せる英語」「ペラペラ英語」といったそのバリエーションを含め、ほとんどの人がそれがどういうものであるかなどを意識したりしないようです。例えば、「英会話ができるようになるため」会話学校の英会話クラスに通っている人に「英会話」とは何ですかと聞いてみたところで、「英語を話す」という程度の答えしか返ってこないことでしょう。

ところがその程度の認識で誰も問題だとは感じないようで、その証拠に、英会話学校が商品の特質をわかってもらうべく説明会を開いたなんて話は聞いたことがありません。

そうは言っても、よくよく考えると、英会話学校での「英会話」クラスというのは、何を、どう教えることをもって英会話と言っているのだろうと疑問が湧いてきます。実際、Richards という研究者などは、The Language Teaching Matrix という本の中で「会話クラスというのは言語教育上、けっこう謎めいたもの(something of an enigma in language teaching) 」だとした上で、そのつかみどころのない性格のゆえに、「無資格のネイティブスピーカーが思いつくままに教材や教授法を組み合わせて一定時間受講生に話させている例があるかと思えば、有資格のネイティブスピーカーがいても、その人に任せっ放しだったりする」と指摘しています。

今回は、このように漫然と語られる「英会話」も固有の構造を持っていること、また、普通に英語を話す人は、意識しているか否かは別として、このような英会話独特のプロセスが頭に入っているので、そのプロセスに合わせて様々なツール、例えば、話を切り出すとき、話を続けたいとき、そして終わらせるときに特有の語句を繰り出しており、その意味では自分の会話の管理・運用をしているのだという話をしたいと思います。英語を話す人は、実は、ディスコース・マネジメント(会話の管理・運用)をきちんと行っているという話です。

★ 英会話独特のしきたりとツール

この「英会話」というのは英語の中でも一種独特のジャンルで、文法がわかり、単語力がついたからと言ってできるようになるものでもありません。例えば、会話では「センテンス未満」の断片的部品が大部分を占めることからすれば、フルセンテンスが基本単位である文法ばかりやっていた人は教養が邪魔し、妙にゴツゴツした話し方しか出来ないということだってあるのです。また、せっかく会話本のイディオムをおぼえても、会話のどのステップで使うのかを知らないとただの教養で終わってしまいます。このように英会話には英会話なりの作法がありますから、英会話に参加し、相手の言うことに応じて自分の言いたいことを言えるようになるには、英会話固有のプロセスやその中でのステップ別に使うツールを理解する必要があります。

こういったことに関しての問題意識を持たず、漫然とその場にいるだけでは、まともな会話ができません。某多国籍企業の法務部長(日本人)から聞いた話ですが、会議中黙っていた日本人の同僚にあとで話を聞くと、意見がないわけではなく、みな立派なことを言うとのこと。それがどうして会議での発言につながらないかと言うと、折々開く、会話の流れへの出入り口に気づかず、見過ごしてしまうからでしょう。会議であれ、会話であれ、当事者が共通に認識している所定のプロセスがあるのに、それに対する問題意識が希薄なことから、目の前で「さあ、どうぞ」と、扉が開いてもそれが見えないで終わっているのです

考えてみれば、この英会話というのは、おもしろい世界で、見知らぬ人どうし、あるいは知り合いどうしが、あるセリフを合図に会話共同体とでも言うべきものを作り、その中で互いに承知している手順と共通規格のツールによりながら、相手の言ったことに応じて交互に言いたいことを言い、人間社会独特の「通信」を行い、終盤では、「そろそろ終わり」を告げるツールで用意を整えてから、その会話共同体を解散します。

イメージとしては、「話」という無形の構築物を作るべく、「自分の発言」という名の部品を規格もののツールで取り付けていく感じでしょうか。この世界では、あとから説明するとおり交互に話すことが大原則となっていることから、間合いを計っては、しかるべき合図をしたのちに自分の順番を確保し、自分なりの部品をつけて構築物を大きくし、次いで相手に作業の順番を譲り、当事者が「こんなものかな」と感じたところで、また合図して正式に終了させる、と、そんな感じでの流れが決まっているやり取りです。

ですから、「これより会話共同体をスタートさせます」という合図を知らないと会話が始まりませんし、相手に巻き込まれて会話が始まっても、プロセスがどうなっているか、ステップ別に使うツールに何があるのかを知らないと大変です。プロセスを知らないがために、相手が合図し、話す順番が自分に回ってきてもそれに気づかず、沈黙という、会話の世界での「罪」を犯してしまいます。そうかと思うと、ツールの在庫はあっても用途がわかっていないと、普通なら食卓用のナイフを使うところで、とんでもないツールを持出し、相手をびっくりさせたりします。びっくり程度で済まず、相手もしらけて構築物作りが中断ということだってありえます。

★ 英会話とは何ぞや

これまで別の記事でも書いたことですが、英語を勉強していると言いながら、英語がどういう姿をしているか、どういう形をしているのかを確かめないまま勉強しているのが普通です。これは国の英語教育でも同じで、例えば、ひとまず「人の助けを借りずに買い物や旅行ができる程度の英語」(CEFRのB1)を目標にするとして、どのぐらい時間がかかり、どのぐらいの単語を覚え、またどの程度文法事項をおさえる必要があるのかを見きわめた上で、それに向けての計画を立てるという発想がありません。英会話も同じことで、そもそも英会話というものがどういうもので、speaking とどう違うのかなどに目を向けないまま、英会話という言葉が独り歩きしています。

この点、「英語が使える日本人」構想を発表した文科大臣の記者会見でも、「中学校、高等学校を卒業したら英語で会話できるようになってもらいたいと、中学校卒業段階ではあいさつ、応対という平易な会話などができる程度を目指したい、それから高校卒業段階では日常の会話に関する、通常の会話などが出来る程度にはなってもらいたい」と「会話」が3回も4回も出てくるのに、他の資料を見ても何をもって会話とするのかが明らかにされていません。そのぐらい「会話」という言葉、みなわかった気になって使っているということなのでしょう。

しかし、学習対象としての会話ということを考えると、「会話って言ったら会話に決まっているよ」「人と話をすることだよ」といった程度の曖昧なものでは学習のしようもありません。

やはり「英会話とはどういうものか」を確かめてから、どう取り組むかを考えるのが合理的だと思います。そこで、まず辞書の定義からとなりますが、どれも「情報交換、意思疎通などのための話し合い」程度のことしか書いてなく、会話の手順やツールの手がかりを得るには不十分です。この種の手がかりを得るには、会話能力を判定する専門家が通常、どの程度の会話能力を要求しているのかを見る一方で、実証研究の結果わかっている「英会話の姿」を知ることが早道だと思います。

★ 会話能力

会話能力のあり方、レベルを言語運用能力の判定指標としてヨーロッパを中心に国際的に認知されているCEFR(欧州評議会の言語参照枠)によって考えてみますと、その中にある、Informal Discussion という項では、話題が一般的であること、相手がイディオムを多用しないこと、明瞭な話し方をすることという条件を設けた上で「話の内容が概ねわかる程度」ならB1レベルだとしています。次に「身近な話題である限り積極的に話し合いの輪に入っていける」ならB2だとし、さらに、その上のC1レベルと言えるためには、「抽象的な話題、なじみのない話題であっても、話についていき、かつ、発言を通じてその論議に寄与できる」必要があるとしています。「会話の流れに入っていき、自分なりに言いたいことを言う」というのは、社会人としてあまりに当然のスキルであるものの、それが6段階のスケール上、かなり上の方に位置づけられるものであることがわかります。

もう一つ、会話能力のあり方、必要条件が簡単にわかるのがケンブリッジ英検でのスピーキングテストです。例えば、CEFRのC2に相当するCPE(Certificate of Proficiency in English) のレベルでも、わずか15分前後ですが、その間に、文法、ボキャブラリー、会話運用能力 (discourse management)、発音(イギリス英語である必要はありません)、双方向コミュニケーション (interactive communication) という5つの評価項目に分けて、そのレベルで求められている水準(CPEの場合は Fully operational command of the spoken language 「話し言葉を実用上何ら問題のないレベルで使える」) に達しているかがチェックされます。(公開されているサンプルテストを見ると、どうテストされ、どう評価されるかがよくわかります)

このチェック項目では二つのことが目を引きます。コミュニカティブ英語では文法は二の次だという誤解がありますが、ご覧のとおり、スピーキングテストでも文法は評価項目の一つとしてちゃんと入っており、動詞の活用形や時制がおかしくないかといった正確な運用に加え、単文だけでなく、従属節を組み込んだ複雑な構文までこなしているか、つまり、幅広く文法上のツールを使っているかがチェックされます。もう一つは会話のテストらしい評価項目として、会話運用能力と双方向コミュニケーションへの配慮が問われていることです。会話運用能力で試験委員が何を見ているかと言うと、(1)主として短い返答に終始することなく言いたいことを筋道立てて言えるか、(2)またやたらとつっかえて会話の流れを妨げたりしていないかということであり、また、双方向コミュニケーションの側面では、(1)うまく話の糸口をみつけられるか、(2)相手の話をきちんと聴いているか、(3)相手の言ったことに対してしかるべきリアクションができるか、(4)極端につっかえて「相互交流」を妨げていないか、(5)話す順番がまわってきたらきちんと発言し、相手に譲るべき場面ではきちんと譲るという具合に流れの中でうまく交替しながら話しているかが採点されています。

以上からわかるのは、実用レベルの英会話をこなせると認めてもらうためには、(1)うまく話を切り出せる、(2)筋道を立ててきちんとものが言える、(3)相手の言ったことをきちんと聴き取った上で自分なりのリアクションを打ち出せる、(4)自分が話す順番が来たら話をし、相手に譲るべき時には譲るという「交替制の原則」をわきまえているという、この4点をクリアしなけれならないということです。

つづく



__________________________________________________


hand_right.gif人気ブログランキングが励みになっていますので、本日分の一票、どうぞよろしくお願いします。人気blogランキングに一票

Trackbacks

Trackback URL: 

Comments

日向様

はじめまして。

favourite 様のブログへのコメントを拝読し 失礼ながらこの方はタダモノではいらっしゃらないと感じまして やって参りました。

こちらの記事を拝読いたしまして まさにその通り 一体会話とはなんぞや というずっと考えております私の疑問を見事に表現してくださっている と感激いたしました。

とかく 日本人は 英会話くらいできなくちゃ と言ってしまいます。

私はそれを聞くたびに なんて言葉をおろそかに考えているのだ と 心の中でもやもやとしたものを感じてしまいます。「くらい」なんて言わないでほしい 本当に会話をしようと思うととてつもない努力が要るのに と思ってしまう者でございます。

続きを楽しみにしております。

わたしのようなものがコメントをするのも・・・と思わず躊躇いを感じてしまいましたが あえて図々しくコメントをさせていただきました。失礼いたしました。
ごめんくださいませ。

[返信]

こんにちは。「タダモノではない」のは、fountainhead さんの方で、favourite さん経由でブログを拝見して、いやはや日本にはすごい人がいるものだと恐れ入っていたぐらいです。

それはともかく、英語を知識と捉えると英会話の習得も「道」の世界になってしまいますが、やり方さえ間違わなければ、2000単語程度の単語力があり、SVO程度をこなせる限り、比較的短期間で身につくはずです。日本に来ている留学生の英語に触れるつど、本文で書いてある英会話の流れがわかっており、ツールもひとそろい持っていることを実感させられ、なんてことだとがっかりします。対する日本人学生の最大の欠点はしくみを知って使ってみようという感覚が薄いことです。

コメントフォーム
Remember personal info?