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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2008年12月27日

褒め言葉に Thank you. と返していいのか?

誰かにネクタイ、ドレスその他自分が身につけている物あるいはバッグや時計などの持ち物をほめられた場合、Thank you. と応ずるものでしょうか。

例えば、女性が同僚の男性社員に対して「それ、すてきなネクタイですね」と言ったとして、日本語では「ありがとう」とは言わないのではないでしょうか。どうなんでしょう。「いや、たいしたことないよ」「娘からのプレゼントでね」「保険のおばちゃんにもらっちゃってね」などと照れ隠し的なことを言って受け流すのが普通ではないでしょうか。これに対して、アメリカ人などは、すなおに Thank you. と応じそうです。ところが、調べてみるとこれがけっこう微妙なのです。

まず、Good Housekeeping という有名な女性誌のサイトにあるマナー/エチケット関連のQ&Aコーナーを見ると、「パーティーで誰かがあなたのシャツを見て、お世辞を言ってくれたとしてます。さて、あなたはどう返しますか」と状況を設定した上、以下の選択肢を挙げています。

1) Say, "Really? It's not my favorite."
2) Say, "Thank you. You're so nice to say so."
3) Say, "This old thing? I got it on sale."

みなさんはどれを選びましたか。正解は、二番目とのこと。Giving and receiving compliments is a talent worth perfecting. So show your appreciation and pleasure by acknowledging this compliment sincerely.(お世辞で褒めたり、それを返したりするのは、うまくなるに越したことはない、社会的能力の一つですから、こういった褒め言葉に対してはまじめな気持ちで言葉を返し、言われてうれしいということを表現しましょう)というコメントが付いています。せっかくいいことを言ってくれているのに、謙遜したり、卑下したりして、水を差すこともあるまいというのが回答者の姿勢のようです。いかにもアメリカ人という感じがし、納得してしまいます。

ところが、その一方で、ペンシルバニア大学で第二言語習得を研究している先生は、以下のように Thank you. と言うのは、アメリカ人が返す言葉としては、ティピカルではないとしています。

Most people believe when you’re complimented the appropriate response is “Thank you.” In fact sociolinguistic research has shown that for Americans at least that’s not the typical response. The typical reply is a deflection. “Oh, I got it at Lord and Taylor,” or “My mother gave it to me,” because to say thank you means you’re agreeing with the praise and there are socio-pragmatic rules that say you shouldn’t engage in self-praise.

たいていの人は、お世辞でほめられた場合、しかるべき応じ方が何かと言えば Thank you. だと思っています。ところが、社会言語学の分野での調査報告によると、少なくともアメリカ人にとっては、それが典型的な答え方ではないことがわかっています。典型的には受け流しているのです。「いや、ロード&テイラーで買ってね」「母親からのプレゼントでね」といった応じ方をしているのです。なぜかというと、Thank you. と言ってしまうと、相手の賛辞に同意することになりますが、そこに自分で自分のことなどほめるなという社会言語のルールが働きかけるからです。

このことは、Herbert という研究者が1,000人あまりのアメリカ人大学生を対象に3年かけてまとめた調査からも裏づけられており、ほめられた場合に、それを素直に受入れる言い方で応じたのは36.5%どまりだったとしています。

しかし、こういうプラグマティクスの問題、つまり言葉プラスアルファの組み合わせがその状況でどう聞き手に響くかは時代によっても、状況によっても違う答えが出るので、むずかしいなと感じさせる側面があります。

例えば、アラブ首長国連邦の学生とネイティブスピーカーがほめられたときに、どういう英語の言い方をするかを比べた研究報告があり、そこでのネイティブの対応を見ると、決めつけるのはどうかなと考えさせられます。レポートは The Linguistics Journal というものに掲載された、Hessa Al Falasi. "Just Say “Thank You”: A Study of Compliment Responses というタイトルのもので、以下の状況でほめられた場合に、ネイティブがどう返答しているかを見てください。(ここでのネイティブは全員女性教員です)

✓ 「プレゼンテーションよかったよ」とほめられたのに対して

Really? I thought it was just ok.

と謙遜した一人を除いて、全員がすなおに受け止め、

Oh, thank you!

Thanks! I’m glad you enjoyed it.

と応じています。中には、

You have no idea how hard I worked for that!

と、さらに自分で自分をほめるような人もいます。

✓ ホームパーティーに招待したところ、ケーキをほめられたのに対して

10名中8名が

Thanks.

と言った上で、

Would you like the recipe?

とか

It’s a family recipe.

といったコメントを付け加えています。

✓ 同じくホームパーティーで来ている人のうち、誰かが、「あの時計、いいですね。このリビングに映えますよね」とほめてくれたのに対して

いずれも、コメントを加える格好で受け流しています。例えば、

It was a present from my daughter.

I bought it in Harrods.

または、単純に

Yes, I loved it when I bought it.

という格好で肯定的に受け止めています。

ということは、やはり相手に自分の持ち物をほめられたときは、Thank you. と応じることは少ないと言えそうです。

✓ 会社に新しいシャツを着ていったところ、同僚に「いや、よく似合っているよ。ブルーが実によく合うね」とほめられたのに対して

Thanks/ you made my day!”

と感謝の意を強めるようなコメントを付け加えたり、あるいは、

Is it really?

Do you think so?”

と質問で返したり、さらには、

I dunno, I prefer pink.

と否定する人もいたようです。そうかと思うと、

Oh, it’s my favorite color. Thanks.

と、すなおに受入れている人もいます。

時計をほめてもらったときは Thank you. が出てこないのに、こちらでは、Thank you. が登場しています。自分の持ち物と言うよりは、直接、自分がほめられているに等しい場合は、何か対応の違いを引き出すのでしょうか。

いずれにしろ、こうやって眺めますと、一概に Thank you. と言うのは少数派だと言い切るのはむずかしいようです。

なるほど、ほめてくれた相手の好意的態度に対してお礼を言いたいというのも人情の自然です。かと言ってそのまま「ありがとう」と言ってしまうと、自分をほめてくれた相手に同意する結果、自分を自分でほめたことになるという葛藤があるのも確かです。結局、これをどう社会生活上こなし、どう表現するかは、やはり文明人ならではの悩みと言うべきなのではないでしょうか。いずれにしろ、会話の場合、自分の言いたいことを言語で置き換えて外に発表すればいいというのではなく、さらに社会生活上のインパクト、つまりプラグマティクスをも加味しながらどう言うかまでも考える必要があることを改めて認識させられます。

ただ、こんなことを言っておきながら、人の着ている物や持ち物にコメントするもんじゃないという教育を受けたので、(滅多にありませんが)何かほめられたりすると、どう対応していいのかわからず、ついつい Oh, thank you. などと言っているような気もします。やはり Thank you. と返すのが人情の自然というものでしょうか。

ちなみに帰国子女の友人(女性)は、「Thank you. でいいじゃない。きれいな言葉じゃない」と Thank you 派の肩を持っていますが、冷然と Thank you for nothing. と言い放つタイプのお方でもあるので、Thank you. ってそんなにすてきだったかなと、いよいよわからなくなってきます。

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Comments

褒め言葉の返事に似ていますが、イギリス系カナダ人にholiday giftを渡したときに"Oh, you shouldn't have."と言われたことがあります。"Thank you."という返事が返ってくると思っていたので、意外でした。日本の「お気遣いいただかなくても、、、。」に似ていますね。

makiさんがご指摘のように、同じ"Thank you."という返事でも言い方によってずいぶん違った印象になるので、自分の褒め言葉の返事に気をつけてみます。

[返信]

You shouldn't have. というのは、なんだか奥ゆかしくて、教育のある人という感じを受けますね。人によっては、thank youと組み合わせて、Thank you. (But) really, you shouldn't have. などと言ってたりします。他面、男性が使う言い方としては一般的ではない感じがします。どうなのでしょうね。気をつけているとおもしろいですね、言葉の使い方というのは。

あけましておめでとうございます。はじめて投稿しますが、いつも興味深く拝見させていただいております。

褒められたときに返すことばについてちょうど考えていたところでした。makiさんのコメントにあるように、私の周囲のイギリス人もthank youと答えているので、てっきりアメリカの方々もそうなんだろうと思っていました。アメリカで「自分で自分のことなどほめるなという社会言語のルールが働きかけるから」というのはとても興味深いです。この辺は日本人の一般的な感覚に近いような・・・・・・。

私自身も、周囲の友人たちも、どちらかというと折角褒めていただいているのだから相手の言葉を否定しないように「ありがとう」と言いたいと思っていて、ついつい日本人同士の会話でもそう言ってしまうことがあります。その場の雰囲気や相手に合わせて柔軟に使いわけて互いに心地よい会話できるといいなと思いますが、難しいですよね。こういった記事を読むと意識的になれます。ありがとうございます。

[返信]

英会話というと、ビジネス英会話が一つの典型ですが、情報や意見の交換という目的のある「目的的行為」という捉え方が当たり前のようになっていますが、実は、目的などなくても、人間どうしの気持ちいい付き合いのための「自然な営み」であることが見落とされているような気がしてなりません。特に英会話の教授が営利行為の対象となっているとますますこの傾向に拍車がかかるようです。「自然な営み」としての英会話がどう言うものであるかを説明してもらっても誰もありがたがらないし、教えるのもむずかしいからでしょう。

そういう思いがあるだけに yoda さんのように「互いに心地よい会話」あるいは「意識的になれます」とおっしゃって下さる方がいらっしゃると書いてよかった素直に喜べます。

おっしゃるとおり「互いに心地よいか」というのは重要な要素のようで、返答を分析した研究では、ただの thank you で終わらせず、何か説明したりして、付加的要素によりバランスを取る人々の姿が浮き彫りになっており、興味深いことです。何語であろうと、相手への気づかい、自分がどう思われるかという心配は万国共通なのではないでしょうか。

お世辞だな、と思えても、嬉しそうな顔で褒めてくれたら雰囲気重視でついついお礼を言う事で無難に流しているので、逆に日本に行った時に褒められても謙遜しないといけない、っていうのを肝に銘じておかないと顰蹙買いそうで心配になりました!

[返信]

おっしゃるとおり、こういうのって、その場の雰囲気がけっこう大きく響きますよね。

前後してしまいましたが、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしく。

はじめまして。いつも楽しく拝読しています。

話がずれますが、女性が男性のネクタイをほめるときは、他にほめる所がない場合があるそうです(下記記事の銀座のママ談)。
やはり、ネクタイの場合は受け流したほうがよさそうですね。

http://news.livedoor.com/article/detail/2905959/

[返信]

コメント、ありがとうございます。日本語の世界も考え始めると奥深いものがありますね。

お世辞を言われたときにthanksとは返さない、と前の記事で拝見して、実は、あれ?と思っていましたので、今日の記事でなるほどと納得しました。

というのが、私の周りにいたイギリス人たちは、こういうシチュエーションでは素直に「ありがとう」という人たちが圧倒的多数だったのです。日本語にはない発想なので(最近は変わりましたが)、最初は驚きました。

でも、彼らは堂々と「ありがとう!いいでしょ!」という感じではなく、照れくさそうにコソっと言うのが普通でしたが。

[返信]

コメントありがとうございます。イギリス英語通/好きがおっしゃるのだから、イギリス人の対応はまたアメリカ人とも違うのだろうなと思って調べたら、資料がありました。Pedagogical Description of Compliment-Response Exchanges in a British Context for Chinese EFL Learner という論文で、イギリス人の場合、76%が世辞に agreeすると言っています。時期が違うとは言え、アメリカと対照的な調査結果で興味深いことです。

英語というよりも、文化の違いによるコミュニケーションの違いとして面白いトピックですね。
日vs欧米文化論の中でよく、日本では褒められても謙遜して「いやいや、私なんて・・・」と言うが、欧米人は「ありがとう」と言って謙遜しない、だから彼らは一般にself-esteemが高いのだ、日本人も褒め言葉は素直に受け取るべきだ・・・というような論がまかり通っていますが、実はそうでもないかも???

ただ、先生の書かれている例を見て思ったのですが、手作りケーキをほめられた場合はThank Youと言うのに対し、ネクタイや時計についてはThank Youとは言わないのが一般的なのだとすれば、これはもしかすると、ケーキをほめることはその人自身の行為や才能、努力に対するねぎらいの意が込められているので、そのpraiseは受け取るが、モノの良し悪しを褒めるのは、どちらかというと発言者自身の好み(「あなたのセンスがいいわね」というよりも「(あなたのセンスは)私のセンスに合うわ」)が反映されているので、それに対してThankYouというのはおかしいから・・・とも言えないでしょうか?

そして、では(日本人の)自分ならどう答えるだろうかと考えた際、「そのワンピース素敵ね」と言われたら素直に「ありがとう」と言えるし、逆に「このケーキ美味しいわね」と言われると「本当?唯一できるのがこれだけなんだけどねー」とかなんとか謙遜をするだろうということ。・・・骨の髄まで日本人な自分です(笑)

[返信]

コメント、ありがとうございます。

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