2009年1月19日
Umamiを語る
先日の味の形容:日英の違いを考えるの続きということで、取り上げようと思っていた「うまみ」の話です。
みんなでうまい料理を食べながら、「うまみ」というのは英語に訳しにくい、いや、ぴったりした英語はないのではないかという談義で盛り上がったとおぼえています。そして、この流れのなかで、英語の世界では、主成分である化合物の名称、MSGが浸透している「味の素®」が話題にのぼりました。
この MSG については、思い出があります。1970年代のことですが、今はレストラン王になっている N氏の当時のガールフレンドがアメリカ人のモデルで、彼の店に行くといつもいました。そして、なぜか印象に残っているのが、何かの料理を取ったところ、"It's got MSG in it! Lot's of it. I can't believe it." とか言って、憤慨し、彼氏にガンガン文句を言っていた場面。N 氏は料理の味にはあまり興味がない人なので目を白黒させ、こっちはこっちで何をそんなことで怒るんだ、とあっけに取られていました。
その後知ったことなのですが、当時、アメリカでは Chinese restaurant syndrome ということが言われ、中華料理を食べて気持ち悪くなったり頭痛がするのは味の素®のせいだと大騒ぎだったようです。しかし、これは1980年代に世界保健機構 (WHO)や国連の食糧農業機関 (FAO)が安全だと宣言し、アメリカの連邦食品医薬品局 (FDA) も専門機関に調べさせた上でシロと判定しています。(それでも、迷信の常として、今なお真顔で危険だという人がいるのですから、風評被害のこわさがよくわかります)
ところで、味の素®の主成分であるグルタミン酸ナトリウムってどういうものだろうと調べていてたどりついた「喪われた化合物の名誉のために(2)~調味料~」というウェブページによると、1999年夏、「買ってはいけない」というベストセラー本でもたたかれ、化合物が脳細胞を破壊するとか、急性神経毒性を持つといったことを言われたようです。気の毒なことに、アメリカでさんざんな目に遭ったMSGが20年経ってから今度は故郷の日本でもたたかれた格好です。
これにつきこのページの筆者(佐藤健太郎さんという有機化学の専門家で、「化学物質はなぜ嫌われるのか」という本を出されています。テレビでよく見る評論家の宮崎哲也氏が激賞しているとのこと)は、こう述べていらっしゃいます。
その根拠となる実験は「生後10~12日めのマウスに体重1kgあたり0.5gを経口投与するとその52%に、1gを投与すると100%に神経細胞の損傷や破壊が起こった」というものですが、これは人間でいえば数十gの味の素の濃厚水溶液を、直接チューブで赤ん坊の胃に流し込んだ状態です。それだけ一気に摂取すればどんなものでも何らかの障害を引き起こすのが当然です(このデータさえ現在では否定する論文が多いとのことです)。普通に調味料として使っている分には何の問題も考えられません。
ちなみにグルタミン酸ナトリウム、こんな格好をしています。
佐藤さんのご許可をいただき、転載させていただきましたが、赤が酸素、青が窒素、紫がナトリウムを表しているそうです。「うまみ」の正体ということです。なんだか、うまい吸い物などを頂戴するつど頭に浮かびそうです。
さて、その「うまみ」、たしかに、英語ではうまく表現できない言葉だと思います。訳として、meaty とか savory というものを聞きますが、ちょっと違う感じがします。なるほど、英語だと umami は、肉やパルメザンチーズ、あるいはマッシュルームの「あの味」だと説明されるわけで、meaty だとか savory でもよさそうです。
とりあえず、umami が英語で一般にどう形容されているかを見ておきますと、こんな感じです。
a rich, mouth-filling, meaty and savory flavor
a meaty, savory, satisfying taste
a meaty mouth-feel
the full, tongue-coating sensation
rich, savory flavors
uniquely round, satisfying taste
brothy(スープストックのような味)
the taste of mouthwatering savoriness
しかし、どうもしっくり来ません。いや、違和感があります。
a meaty red wine (しっかりした、重めの赤ワイン)
とは重なりません。鯛のアラを使った椀ものなど、うまみの極致とも言えますが、これと a meaty red wine はどうも結びつきません。また、 savory も
savory grilled vegetables 香り立つ網焼きの野菜
a savory stew おいしい香りがするシチュー
a savory omelette 塩加減が絶妙のオムレツ
といった用例からうかがえるとおり、「うまみ」そのものを表していると言うよりは、香りないし風味中心の言い方で、本能を直撃するする「うまみ」ではなく、「うまみ」を連想させる要素として取り上げられていることがわかります。やはり、われわれ日本人は「うまみ」を直感できるようで、ちょっとカルチュラルアイデンティティーをくすぐられます(和食の味がわかるようになったのはここ10年ぐらいで大きいことは言えないのですが)。
そして、NYタイムズに載った記事を初め、ネットで資料を集めて、今や umami が英語としての市民権を得ていることを知りました。2000年代の初めに「うまみ」専門の受容体が発見されたことが大きいようですが、例えば、シカゴトリビューン紙の記事のタイトルなど、
Culinary tsunami--it's called umami
"5th taste" seen as a savory cure-all
となっています。これまた英単語になっている tsunami になぞらえて、料理界の津波と持ち上げ、さらには、「甘い」「すっぱい」「苦い」「しょっぱい」に続く「第5の味」とあおっています。NYタイムズの料理関連記事でも "the fifth taste" と、今や umami は英語界でも料理界でも一人前の扱いです。
その umami の英語での使い方がおもしろいので、ちょっと挙げておきます。
seaweed's umami factor
the umami quotient in food
boosting umami levels in their products
is high in umami
my favorite umami ingredient
Soy sauce imparts umami.
Ingredients that have natural umami include "shiitake" mushrooms, egg yolks, etc.
the richest source of umami remains
umami flavor
Kelp and bonito are loaded with umami
Combining "kombu" (kelp) and "katsuo-bushi" (bonito flakes) in "dashi" synergizes their rich umami compounds, creating an umami impact greater than the sum of its parts.
dishes with intense umami flavor
Mushrooms amplify the umami of other ingredients.
説明などできない昆布と鰹の絶妙な組合わせから来る幸福感を英語で言えるというのはありがたいことです。
なお、一緒に食事をした AJINOMOTO の社員の方、「これからは umami の時代なんです」と愛社精神も熱く語っていましたが、なるほど、同社のウェブサイトでは、こんな形で、umamiを宣伝していました。けっこう勉強になります。
http://www.ajinomoto.co.jp/umami/
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Comments
うまみはumamiだったんですね!知りませんでしたー!
英語だけだと確かにちょっと違う感じがしますよね。
アメリカ同様、イギリスでも広まっているのかどうか、身近で調べてみることにします。
一応セレブシェフ・ブームなので、イギリス人もおいしいことに少しは興味を持っているかもしれません!?
[返信]
早速、チェック、いや、継続的モニタリング、ありがとうございます。site:bbc.co.uk で絞って umami を検索すると、けっこういろいろ出てきておもしろいですよ。
- londonsmile
- 2009年1月21日 17:20
社内でブログ宣伝させていただきます! まずは人気ランキングに一票! ゲン
[返信]
おお、力強いお言葉!ありがとうございます。日向
- ajinomoto taro
- 2009年1月20日 09:12

塩味、甘味、苦味、酸味、苦味の感覚に並んで、umamiという感じ方があるわけで、umamiはおいしさと同じものではありません。誤解を招くうまい名前を考えたものです。