2009年2月16日
(3) 英英辞典:OALD
今回取り上げるのは、OALDで通っている、Oxford Advanced Learner's Dictionary(正式には Oxford Advanced Learner's Dictionary of Current English)。1970年代に、Longman Dictionary of Contemporary English (LDOCE) が登場するまでは、学習者用英英辞典と言ったら、これに決まっていました。

現在は、7訂版が出ていますが、手許にあるのは6訂版。LDOCEは定義や用例で使う単語数を2,000単語に限定し、リスト上の単語をすべてマスターしている限り、語義の説明がわからなくてまた辞書を引くようなことにならないのを売りにしてデビューしたわけですが、とうとう、OALDも5訂版からLDOCEの真似をして 3,500単語の範囲内で語義と用例をまかなうスタイルに転じ、この6訂版で3,000に減らし、そこに落ち着いています。
2,000で手を打たず、ボキャブラリーのレベルが3,000と高めなのは、This is a Dictionary of the English Language as it is written and spoken today by educated British men and women. (本書は、教育のあるイギリス人がこんにち書いており、または話している言葉を示す英語の辞典である−−3訂版の序文)という自負のなせる業なのでしょう。
また、5訂版あたりからコーパス(実際に使われた用例を集めたデータベース)を使っていますから、この点でも、OALD は、LDOCE に負けていません。ただ、おもしろいのは、普通、コーパスを基にしている場合、用例も「出る順」で行くので、例えば、shape は、一番多い用法の、shape the lives of...shaped the ideas of...といった抽象的なものの方向を「決定づける」という意味が先に来て、その次に、粘土などを「形作る」という意味が来ます。実際、LDOCEやCOBUILDなどのコーパスを売りにしている辞典はみなそうです。ところが、OALD は、独り、逆の順序で語義を取り上げています。昔から、第一に、よく使われている順、そして第二に、単純な意味から、より込み入ったものへと並べてきた歴史がありますから、まずは単純な、わかりやすい意味から説明しているのでしょう。コーパス優先が全盛になっているなか、編集方針が一貫していることをうかがわせます(7訂版がこれをどう扱っているか気になります。お持ちの方、是非、教えてください)。
それでは、この OALD につき、以下の項目を見て行きましょう。
(1)"agreement" のように可算と(抽象名詞であるがゆえに)不可算とがある名詞について、語義説明や用例からそれがわかるようになっているか
(2)"drunken" のように She is drunken. という格好で使えないものをどう伝えているか
(3)I'd like to explain you how this works. とか、I'd like to suggest you to come tomorrow. のように、動詞の使い方のパターンとしてありえないものをどう伝えているか
(4)"try to do sth" と"try doing sth" のように、不定詞が来るか動名詞が来るかで意味が違うものをどう処理しているか
(5)"avoid doing sth" "consider doing sth" のように、動詞を続けるときは動名詞にする必要のある一定の動詞をどう示しているか
(6)"moreover" のように、話し言葉で使うと違和感のあるフォーマルな(書き言葉)にしかるべきレッテルを貼ってそのことを示しているか
(1)"agreement" のように可算と(抽象名詞であるがゆえに)不可算とがある名詞について、語義説明や用例からそれがわかるようになっているか
可算と不可算、二つの用法がありうる名詞の場合、それが指しているXすべてに共通する抽象的な話のときは不可算で、個別具体的なXを指すときは可算というルールを知っている限り、容易に見て取れる語義解説です。可算の方は an arrangement, a promise or a contract made with sb であり、不可算の方は、the state of sharing the same opinion or feeling となっています。
(2)"drunken" のように She is drunken. という格好で使えないものをどう伝えているか
これは語義解説に入る前に[only before noun] と注記があり、She beat her drunken husband with a frying pan. とは言うけれど、× Her husband is drunken. という言い方はしないことがわかり、明快です。ちなみに、drunk の方の語義のところでは、 [not usually before noun] という注意書きが入っており、He was too drunk to walk straight. とは言っても、× The drunk driver said he had no memory of anything that happened after he left the party.とは言えないことがわかるようになっています。
こういった学習者が犯しやすい古典的ミスを意識しているのは、やはり学習者向け英英の老舗たる所以であり、これに何ら触れていない The Newbury House Dictionary of American English, Cambridge Dictionary of American English などと比べると、やっぱり年季の差を感じます。
(3)I'd like to explain you how this works. とか、I'd like to suggest you to come tomorrow. のように、動詞の使い方のパターンとしてありえないものをどう伝えているか
これもさすがで、わざわざ [HELP] という欄が設けてあり、× Can you explain me the situation. という駄目文を例に、You cannot say "explain me, him, her, etc. と、これまた明快です。
suggest の方にも HELP があり、You cannot "suggest somebody something." と注意を促し、かつ、× Can you suggest me a good dictionary? を駄目文として出しています。
こんな細かいこと、たいした問題ではないと思われる方もいらっしゃるでしょう。でも、We explained him our behaviour. と We explained John our behaviour. という言い方をあなたはしますかと聞かれた、30代のアメリカ人男性は、前者につき、"...it sounds very uneducated" としています。また、20代のイギリス人男性は、両方の例について "would be used...by people from certain regions and also from a lower-socio-economic background" としており、こんな言い方をするのはイナカ者や貧乏人ぐらいだという強烈なコメントをしています[鷹家秀史、林龍次郎共著『詳説レクシスプラネットボード 103人のネイティブスピーカーに聞く生きた英文法・語法』(旺文社)]したがって英語を使おうとする以上、いくら学習者でも失敗が許されない重要な語法だと言えるのです。
(4)"try to do sth" と"try doing sth" のように、不定詞が来るか動名詞が来るかで意味が違うものをどう処理しているか
ここでもHELPの欄があり、Notice the difference between try to do sth and try doing sth. と注意を喚起した上、You should try to eat more fruit. と You should try eating more fruit. という二つの文を並べ、前者は「そう努めよ」という意味だけれど、後者だと、「試しに〜してみたら」という意味だと説明しています。
この二つの区別はけっこう重要で、英語を普通に使っている人であればすぐ気づくたぐいの間違いです。学習者のやりがちなミスを集めた、Paul Hancock の Is that what you mean? という本では、出社してこない社員がいるので、社長が部下に「ちょっと電話してみてよ」と指図している場面をイラストで取り上げ、誤用である Try to phone Michael--he might be at home. を例に、これがいかにおかしな言い方であるかを表すため、指示を受けた社員がひどく高い所にある電話機に向かって必死に手を伸ばしている姿を描いています。
(5)"avoid doing sth" "consider doing sth" のように、動詞を続けるときは動名詞にする必要のある一定の動詞をどう示しているか
[V -ing] という記号でこのことを示しています。「わかっている人だけがわかる」記号とも言え、これでいいのかなと考えさせられます。この点、LDOCEは、ボールドで、avoid doing sth を一つのパターンとして示し、こういう格好で使うんだよと教えてくれます。こちらの方が親切ですよね。
(6)"moreover" のように、話し言葉で使うと違和感のあるフォーマルな(書き言葉)にしかるべきレッテルを貼ってそのことを示しているか
(formal) とだけ注記があります。でも、これでは、話し言葉で使うと変だよということが伝わらないのではないでしょうか。話し言葉で使われると、私には「しかのみならず」と聞こえる単語ですが、英語を教えているような人に限って会話でもこの奇妙な単語を使う例を何度も経験しており、個人的に気になってしかたがありません。この点、LDOCEは、三角の中に感嘆符が入っている独特の記号を使いながら、Moreover is very formal and not common in spoken English. と正面から取り上げています。
まとめ:個人的にはスタイルを持っているということで、好きな辞典です。スタイルというのは、編集者の心意気と言うのか、志操が見えていることで、例えば、educated を LDOCEで引くと、having been well taught and learned a lot となっており、もの知りだけれど教養のないタイプも educated になってしまいます。一方、OALDの定義はと言うと、こうです。
having a high standard of education; showing a high standard of education
それじゃ、education とは何ぞやということになりますが、マーク・トウィンいわく
I have never let my schooling interfere with my education.
ですから、学校教育ですべてカバーされるものではありません。The Pocket Oxford Dictionary からわかるとおり、development of character or mental powers という要素がものを言うわけで、学歴さえあればいいというものではなく、品性と知性とが両々相まってその人らしさを醸し出しているという、そんな人が educated と形容されるわけです。それがわかっていないと、サンタヤナあたりに
A child educated only at school is an uneducated child.
と言われたりすることになります。
何であれ、OALD の性格を考えるに、言葉ないし英語としてのあり方へのこだわりという編集スタイルが好きな人は OALD、万人向けの使いやすさ、親しみやすさで行くなら LDOCE と言えそうです。
ちなみに、私自身は、このところ、 Macmillan English Dictionary for Advanced Learners of American English ばかりを使っています。"mainly spoken" というラベルをつけた上、but then again (でも、そうは言ってもね) といった話し言葉に不可欠のフレーズを独立の項目として取り上げているからだろうなと思っています。「そうそう、たしかにみんなこんな言い方をしているよな」を改めて実感させてくれるわけで、何と言うのか、安心感を与えてくれます。
つづく
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(2)"drunken" のように She is drunken. という格好で使えないものをどう伝えているか
これは語義解説に入る前に[not usually before noun] と注記があり、明快です。ちなみに、drunk の方の語義のところでは、[only before noun] という注意書きが入っています。
これは全く逆では?ご訂正を!
[返信]
ありがとうございます。短すぎたので間違いに気づかなかったと反省し、今度は例文を入れて間違わないように書きました。