2009年2月18日
(4)英英辞典:LAAD
英英辞典シリーズの続きです。今回は、LDOCEのアメリカ英語版である、Longman Advanced American Dictionary (LAAD)を取り上げます。初めて出たときは、わりと小振りだったのに、いきなり大きくなり、正直、困るよなと思っています。でも最初のものが LDOCE の焼き直し的なもので、何が違うのという程度の出来だったのに対して、新版はまるで違います。まさに生まれ変わった感じで、LDOCEと共通点のある別の辞書と言った方がいいぐらいです。

★ LDOCE との比較
持っている LAAD は、2007年に出た2訂版です。手許にあるLDOCEは2003年に出ている New Edition なので、ちょっと古くなっているのかも知れませんが、これとの比較で、違いとして何が一番大きいかと言うと、LDOCEがイギリス英語とアメリカ英語の両方に目を配っているのに、LAADはアメリカ英語に徹しており、イギリス英語などかまっていられないという姿勢すら感じられます。
例えば、動詞 table は、提案や議案などについて言うとき、イギリスだと議案を「上程する」という意味で使われるのに、アメリカでは、正反対と言っていいぐらいで、「棚上げ」するという意味で使われます。これにつき、LDOCEは、両方の意味を挙げているのに、LAADは、to delay considering a proposal until a later time としか説明していません。一生、アメリカ英語としかつきあわない人はいいでしょうけれど、イギリスで仕事をするようになったりしたら面食らいます。
同様に、アメリカ英語で pound、イギリス英語で hash と呼ばれるシャープ記号(♯)も、LDOCEだと、どちらからでも引けるのに、LAAD は hash を引いてもこの意味は出てきません。一方、pound を引くと、4番目の語義として取り上げ、also the pound sign/key the symbol (♯) と小見出しをつけ、さらに実際に使う際は冠詞ナシで使うことを見て取れる、 Enter your code, and then press pound. という例文を出しています。
比較がおもしろくなってきてしまいました。もう一つ行きましょう。上の table と同様、アメリカ英語とイギリス英語とで意味が正反対になるものとして、bomb があります。ショーや舞台劇などの興行関係について言い、
That show was a complete bomb.
と言った場合、アメリカ人には「失敗作」と聞こえ、イギリス人には「ヒット作」と聞こえます。この点、LDOCEはヒット作という意味を正面から取り上げず、AmE だと失敗作という意味だよと説明するに留めています。(ちなみに OALD は、go down a bomb/go like a bomb = BrE to be very successful と説明し、Our performance went down a bomb. という例を出しています)。一方、LAADは、語義の3で BAD PERFORMANCE/EVENT という小見出しをつけ、The party was a bomb. という例を挙げています。イギリス英語だと正反対となる意味もあるのに、そんなことはイギリス・ローカルの話で、自分たちには関係がないと言わんばかりの態度です。
もう一つ。public school です。アメリカ英語では公立校で学費がかからないわけですが、イギリス英語だと学費がかかるいい私立校になります。いや、ステータスシンボルと言った方がいいのかも知れません。何にせよ、この public school につき LDOCEはきちんと両方の意味を説明しているのに、LAADはイギリス英語での意味など相手にもしていない感じで、a free local school that any child can go to, which is controlled and paid for by the government という説明をしているだけです。
他面、LDOCEとLAADに共通しているのは、定義がすべて 2,000単語の範囲で収められていることです。また、[S1][W3] という、使われる頻度を示す記号も共通です。[S1]は話し言葉のボキャブラリーにおいて頻出上位1,000以内ということで、[W3]は書き言葉のボキャブラリーにおいて頻出上位3,000以内という意味ですが、コミュニカティブ英語(英語を知っているかではなく、状況に合わせてしかるべき英語を使えるかを重視するアプローチ)という見地からきわめて重要な情報です。と言うのも、コミュニカティブ英語では、「そこでの状況に合ったしかるべき英語か」を考える場合、(1)話題は何か、(2)相手との関係はどうか、(3)話し言葉なのか書き言葉なのか三点が要素とされているわけで、こういった見地からは、(3)の話し言葉なのか、話し言葉だとして、どの程度「話し言葉度」が強いのかがわかり、心強い限りです。(ちなみに『ロングマン英和辞典』もこの[S1][W3] 式のラベルを使っており、便利です)
具体的には、例えば、OALDの紹介で取り上げた moreover を見ると、[W3] とだけありますから、書き言葉としては頻出上位3,000内に入っており、比較的よく使われるものの、[S]がないことから、話し言葉としては使われないことがわかります。
これ、けっこう重要な知識です。と言うのも、英語の本を読めるぐらいレベルの高い人ほど、普通の会話なのに、besides または what's more と言えば済むところ、このフォーマルな moreover を使ってしまうからです。硬い話をしているビジネスの場ならまだしも、普通の何でもない会話で moreover を使ったりすると、どうしても "bookish English" と感じられてしまうわけで、状況に合わった言い方かを問うコミュニカティブ英語という見地からは大問題です。
このような色合いのある moreover ですが、moreover の話し言葉における同義語である besides を見ると、[S3][W3] となっており、話し言葉でも書き言葉でも同じぐらいよく使われていることが示されているので、安心して使えるという寸法です。
なお、moreover を引いて専ら書き言葉とわかったところで、じゃあ、話し言葉の場合どうなんだと知りたい場合に役立つのが先日ご紹介した Language Activator です。moreover を引くと、AND/ALSO 2 を見よとあるので、そこに行くと、and, also, furthermore/moreover, what's more, besides, by the way, incidentally の説明が例文付きで並んでおり、自分が描いている状況での「しかるべき言い方」を見つけられます。
★ LAAD の特色
配列が見やすく、また、語義がたくさんある単語については、小見出しを設けて、ざっと見ていき、目当ての語義をぱっと見つけられるようになっています。これは LDOCE と同じです。大きく違うのは、言葉を積極的に使っていくために必要な情報が満載であることです。
LDOCEの方にだって WORD CHOICEといったコラムを設けて、say, tell, give, speak の使い分けを説明しています。また、横向きの棒グラフを使って、hate を使う場合、hate sb/sth というパターンが圧倒的に多く、hate doing sth, hate to do sth が頻度としては1/5程度であることを教えてくれもします。しかし、箸休め的とでも言うのか、散発的にあるという感じにとどまっており、どうしても物足りない感じが残ります。
ところが LAAD は、WORD CHOICE というコラムでは、例えば、But が話し言葉で一番よく使うということ、Howeverが特にフォーマルなライティングでよく使われることを教えてくれます。同じようなコラムですが、THESAURUS では、類義語をざっと挙げ、ニュアンスの違いがわかるようになっています。また GRAMMAR というコラムで、January といった月を使う場合、月だけなら、in January だけれど、日にちも入っているときは、on January 9 と on を使いなさいと文法/語法に関するガイダンスをしてくれます。さらに、個人的に一番気に入っているのですが、SPOKEN PHRASES というボックスで、もっぱら話し言葉で使われるイディオマチックな言い方がずらりと並んでいます。「たしかにみんなこういう言い方をしている」ものばかりなので、このボックスを拾いながら読むだけでも、英会話の力が飛躍的に伸びること請け合いです。
事実、話し言葉としての英語に格別の配慮をしていることが全編を通じて感じられる辞典で、こうした編集方針が奏功して、推薦の辞を寄せているノッティンガム大学の Norbert Schmitt もちゃんとこの点を取り上げています。Schmitt いわく、この辞典は、第一に言語学の研究成果に基づき、単語単体のみならず、フレーズ単位さらにはコロケーション単位でも扱っており、第二に、書き言葉と本質上異なる話し言葉を意識して、会話でのやり取りに使うフレーズに焦点を当てており、これら二点において一頭地を抜く存在なのです。文法書で有名な Betty Azar も定義に終わらず、文法や語法までよくカバーしており、学習者に最適だと褒めていますし、英語研究の現時点での到達点を反映しているものとして、専門家たちも高く評価しています。仲間どうしのニューズレターなどを通じてこういった話は伝わりますから、アメリカ人の英語教師がよくこの辞書を持っているのも、こんなところに理由があるのでしょう。
あと、おまけについている Language Notes が LDOCEよりずっといい感じです。冠詞の用法のところなど、LDOCE のものは情報を羅列しているだけで、「だからどうなの」で終わってしまっているのに、LAADのものは、Is the noun countable or uncountable? → Are you talking about things or people in general? → Are you talking about particular things or people? というふうに、いちいち習わないけれど、普通に英語を使う人にとっては当たり前になっている思考プロセスに即して説明されており、実用的です。
要するに、LAAD は、学習者を意識したいたれりつくせりの構成・内容の辞典である上、コミュニカティブ英語に正面から取り組んでいる点、OALDに競り勝っているというのが私の評価です。
ちょっと前半が長くなってしまったので、以下のチェックポイントを個別に見ていく作業は次回に譲りましょう。
(1)"agreement" のように可算と(抽象名詞であるがゆえに)不可算とがある名詞について、語義説明や用例からそれがわかるようになっているか
(2)"drunken" のように She is drunken. という格好で使えないものをどう伝えているか
(3)I'd like to explain you how this works. とか、I'd like to suggest you to come tomorrow. のように、動詞の使い方のパターンとしてありえないものをどう伝えているか
(4)"try to do sth" と"try doing sth" のように、不定詞が来るか動名詞が来るかで意味が違うものをどう処理しているか
(5)"avoid doing sth" "consider doing sth" のように、動詞を続けるときは動名詞にする必要のある一定の動詞をどう示しているか
(6)"moreover" のように、話し言葉で使うと違和感のあるフォーマルな(書き言葉)にしかるべきレッテルを貼ってそのことを示しているか
つづく
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日向先生の「英英辞典シリーズ」、大変勉強になります。それぞれの辞書の特徴や長所について、専門的に詳しく分析して下さっているので、とてもありがたいです。(ちなみに、私がパソコンにインストールしている LDOCE には、Longman Language Activator が入っています!)
日向先生おすすめの LAAD を使うようになって、LDOCE との違いをいろんな部分で感じています。「イギリス英語などかまっていられないという姿勢すら感じられます。」という日向先生のお言葉、全くその通りだなと思いました。
LDOCE なら、American English と書いてあることで、「あぁ、イギリスではこういう意味では使わないんだな」ということがわかります。私のように、アメリカ英語中心に学んでいる人間でも、実際に世界中の英語に触れる際には、米語と英語の違いの知識が役立つ場面も多いだろうと思いますので、米英両方をカバーした LDOCE はやはり手放せません。
今は LDOCE と LAAD の両方を使って、二者の違いにも注目しつつ、フレンズのセリフ解説を書く際には、語義説明のわかりやすい方、そして例文がセリフの状況にぴったりだと思われる方を選びます。どちらもロングマンシリーズなのに、例文が少し違っているのが面白くもあり、ありがたいです。
「コミュニカティブ英語に正面から取り組んでいる」という点でも、LAAD を使い始めることができて良かったと思っています。ありがとうございます。
つづきも楽しみにしております。
[返信]
Rachさんのような通にわかっていただけて、何よりです。後半、Cobuild と Macmillan を取り上げようと思っているのですが、あちらは上級者用で、ちょっとおもしろみがないと感じています。やっぱり、OALD, LDOCE, LAADがそれぞれの味を出している、中級以上のこのレベルに役者がそろっている感じです。だからこそ競争も激しく、改訂も頻繁なわけで、学習者にとってはうれしいことです。