2009年2月20日
(5)英英辞典:COBUILD
COBUILD (Collins COBUILD Advanced Learner's English Dictionary) を初めて店頭で手に取り、開いたときの斬新な印象はよく覚えています。定義のしかたがそれまでの辞典とまるで違っていたからです。
この辞典は定義のしかたがユニークで、すべて very drunk といった断片ではなく、フルセンテンスになっています。なぜこういうスタイルがいいのかと言うと、このやり方を通じて、その言葉が実際に使われる際のパターンもわかるからです。例えば動詞 discuss の定義の出だしは、If people discuss something, they...となっており、discuss が他動詞であり、前置詞なしで目的語を取ることがわかります。一方、名詞 discussion の出だしは、If there is discussion about something, people...となっているので、discussion の対象を挙げるときの前置詞が about であることを読み取れます。
また、このフルセンテンスの定義からは、一種独特の語り口が感じられます。例えば、教室で「へべれけ」って何ですかと聞かれた先生が「『へべれけ』になっている人という言い方をしたりするけれど、ひどく酔っぱらっている人を指すんだよ」と答えているような、何か語りかけてくるような響きがあり、けっこう頭にすっと入ってきます。例えば、「へべれけ」「ぐでんぐでん」という意味の形容詞 smashed の語義解説を各辞典で比べるとこうなります。
Someone who is smashed is extremely drunk. [COBUILD]
very drunk [OALD]
very drunk or affected by a drug [LDOCE/LAAD]
いずれにしろこういうフルセンテンスによる定義文は上で触れたとおり、実際に使うときのヒントが得られるので、最初は別の辞典を引いていても、あの COBUILD ではどう言っているのだろうと気になり、こちらも引く結果になったりするものです。実際、この smash の例では、少なくとも Be動詞に続けて He was smashed. という言い方ができるとわかります。ですから、あの記者会見で世界に恥をさらしたご仁などは、
With his eyes unfocused and speech slurred, he was apparently smashed in the eyes of the press. (目は定まらず、ろれつも回らずとあって、彼は報道陣の目にはへべれけと映った)
というふうに形容できることになります。このように実際に使うときの姿を用例だけからでなく、定義からも「こう使うんだな」とイメージできるので、上級者にこの辞典のファンが多いのではないでしょうか。(なお smashed は「へべれけ」と同じでインフォーマルな言い方ですから、ニュートラルなら drunk, フォーマルに言うなら intoxicated を使うことになります)
また、もう一つ、「ほう」と感心したのが、文法情報の整理・配列の仕方です。動詞のあとに名詞が来るのか、that 節が来るのか、あるいは -ing 形なのかといった文法情報がすべて、横に設けられたコラムと言うのかサイドバーに、
V n
V that
V -ing
という格好で示されていたことです。
たしかに本文に埋め込まれているスタイルと比べ、すっきりしています。(なぜかアメリカ英語版はすべて本文中に埋め込むスタイルに戻っています)おそらく、文法などの細かいことがどうでもいい人は、本文をじっくり読んでください、文法が気になる人は横の記号を気に留めながら読んでくださいねという姿勢なのでしょう。
各種ある学習英英辞典の中でのポジションとしては、定義文に使う単語数を限定はしているものの、明らかに上級者向けです。これまで取り上げてきた OALD や LAAD(またはその姉妹書の LDOCE)などと比べますと、初学者を意識した手取り足取り的な親切心は一切感じられません。上級者が確認のためにぱっと引き、あるいは定義文や用例を味わい、楽しむといった趣があります。その意味で、上級者レベルであれば、一度は使ってみる価値があり、人によってはぞっこん惚れ込んでしまう、そういう独特の辞書です。
一方、初学者が最初からこの辞典ばかりを使ったりすると、英語学習上の勘どころで注意を喚起されることなく通り過ぎてしまう危険性が高いようにも思えます。例えば、「酔いどれ会見」は drunk press conference だろうか、drunken press conference だろうかと言葉に対する問題意識が研ぎすまされることは期待できません。さらに explain や suggest に出会ったときに「これ危ないんだよな」と気づき、調べるよう心がけるといった「学習センス」がこの辞書で涵養されるようにも思えません。
こんなところから、本を読むといった受け身の英語でいいんだということであれば問題はないでしょうが、コミュニカティブ英語ーー相手は上司なのか友達なのか、気楽な話題か会議での話か、あるいは書き言葉か話し言葉かに応じて状況に合った英語を使うことーーを身につけたいという方にはどうなんだろうと感じます。(このことは、次回取り上げる予定の Macmillan English Dictionary にほぼそのまま当てはまると思います)
前置きはこのぐらいにして、6項目チェックに入ります。
(1)"agreement" のように可算と(抽象名詞であるがゆえに)不可算とがある名詞について、語義説明や用例からそれがわかるようになっているか
可算用法の agreement つまり輪郭があり、全体と部分とに分けたり、逆に部分を合体させることのできる可算名詞としての agreement については、こう説明しています。
An agreement is a formal decision about future action which is made by two or more countries, groups, or people.
そして、こんな例文を出しています。
It looks as though a compromise agreement has now been reached...
そして不可算用法の agreement つまり、「ここからここまでがここで言う agreement だよ」という輪郭がなく、また、分解したり、合わせたりすることのできない agreement については、こう定義しています。
Agreement on something is a joint decision that a particular course of action should be taken.
例文はこうです。
The two men had not reached agreement on any issues.
どうなんでしょう。私には可算か不可算かを分ける理屈を知った上でも、じっと見て研究しないとちょっとわかりにくいかなという定義と用例です。
(2)"drunken" のように She is drunken. という格好で使えないものをどう伝えているか
drunken の項では、サイドバーに、Adj n という記号が横にあるので、注意すれば、名詞の前に付ける格好でしか使わないことがわかります。つまり、drunken 何とかとは言っても、He was drunken. という形では使わないことがわかります。しかし、具合の悪いことに、すぐ上に、独立した見出し語として、drunk driver と drunk driving という、名詞が driver と driving のときだけ名詞の頭に付くという例外的パターンが示されているので、どうかすると、drunk と drunken の違いなどに目が行かないようにも思えます。
一方、drunk の項は、かろうじて語義の3で drunk with sth というパターンの紹介を通じて、be動詞に続く述語形容詞として使われることを示し、そのことを記号でも ADJ: v-link ADJ, usu ADJ with というふうに伝えています。よほどマニアックな読者でないと、これを読み解くのはむずかしいのではないでしょうか。
これでは、「酔いどれ会見」が、drunk press performance ではなく、drunken press performance であり、「酔っぱらった状態にある」が in a drunk state ではなく、in a drunken state であることを読み取れるとは思えません。
(3)I'd like to explain you how this works. とか、I'd like to suggest you to come tomorrow. のように、動詞の使い方のパターンとしてありえないものをどう伝えているか
動詞 explain を使う場合、OALDが言うように You cannot say "explain me, him, her, etc." であることを読み取れるかですが、explain の項のサイドバーに、v n to n という記号があり、わかっている人だけにわかる格好になっています。もう一つの、OALD 流に言えば、 You cannot "suggest somebody something." というルールも、横の記号から読み取ることはまず不可能です。COBUILD では、I want you to come. のように、verb + somebody something のパターンは、 v n to-inf という記号で示してあるのですが、サイドバーにこの記号がないことから、I suggest you to come 的な言い方はできないのかとわかる人がどれほどいると言うのでしょう。
(4)"try to do sth" と"try doing sth" のように、不定詞が来るか動名詞が来るかで意味が違うものをどう処理しているか
ただ、v to-inf と v -ing という記号があるだけで、用法上の違いには何ら触れていません。同じように記号を文中に埋め込んでおり、また、実に無味乾燥と言うか、実用一本やりの Random House Webster's Dictionary of American English ( An ESL dictionary for learners of English as a second language であることを売りにしています)でさえ、My friend tried to run five miles a day. は「それに努めたけど、毎日走れたわけではない」というニュアンスなのに、My friend tried running five miles a day. だと「実際に毎日走るということをやってみた」ことが伝わってくると違いを取り上げていることを思うと、どうなんだろうなと感じます。おそらくは advanced learner はそんなことはとうに知っているからいちいち触れるまでもないというスタンスなのでしょう。
(5)"avoid doing sth" "consider doing sth" のように、動詞を続けるときは動名詞にする必要のある一定の動詞をどう示しているか
サイドバーの記号で、v -ing はあっても、v t-inf がないことから、avoid doing sth とは言っても、avoid to do sth とは言わないことがわかる程度です。まだ、avoid doing sth と太字でパターンを示す LDOCE /LAAD 方式の方がわかりやすいと思います。
(6)"moreover" のように、話し言葉で使うと違和感のあるフォーマルな(書き言葉)にしかるべきレッテルを貼ってそのことを示しているか
これは単に [FORMAL] というラベルが貼ってあるだけですから、不十分だと感じます。しかも、FORMALというスタイルラベルの説明は、
used mainly in official situations, or by political and business organizations, or when speaking or writing to people in authority
となっていますから、what's more や besides よりは「丁寧」なんだろう程度の認識を持ってしまうおそれがあります。もちろん丁寧語であるのは間違いありません。しかし、[W2] と、専ら書き言葉としてよく使われていることを示した上、Moreover is very formal and not common in spoken English. Use besides or also instead. と注意を呼びかけ、かつ、言い換えまで示してくれる LDOCE と比べると、もうちょっと工夫してもいいんじゃないと感じます。そもそも対象が advanced learners だからと言って、ここまでわかっている人はおそらく1割いないんじゃないのというのが正直な感想です。
以上を要するに、味わい深い定義と言い、的確な用例と言い、COBUILD は、使い手が上級レベルである限り、実にいい英英辞典です。特に付録の Essay Writing での定型句集は単行本でも類書がないようなすばらしいコンテンツです。ただ、これが果たして学習英英辞典に区分されるものかとなるとおおいに疑問であり、次回ご紹介する Macmillan English Dictionary と同様、既に OALD や LDOCE/LAAD を持っている人が二冊目として持つといいというのが私の見立てです。
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"Collins Cobuild Advanced Dictionary"がこれの最新版に当たるんでしょうか?それとも別バージョンの一つなんでしょうか?
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1424008255/
コメントを見ると、なんだか良くも悪くも随分と変わったみたいですね。
[返信]
最新版か別バージョンなのかわかりかねます。いずれ購入して比較してみます。CambridgeのAdvancedも気になりますし。Cambridge International Dictionary of Englishが出たときは、思わず買ったのに、平凡でがっかりしたおぼえがあるだけに、余計どうなったのか気になる訳で、COBUILDもどうなんだろうと。