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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2009年2月21日

(6)英英辞典:Macmillan English Dictionary

英英辞典を比べるシリーズの最後は Macmillan English Dictionary です。

macmillan.jpg

少なくとも初版はイギリス英語版とアメリカ英語版とがあり、後者はタイトルに For Advanced Learners of American English と付いています。大差はありませんが、LAADの項で取り上げた動詞の table で比較すると、イギリス英語版は、丁寧にイギリスとアメリカとで意味の違いがあることを示しているのに対して、アメリカ英語版は、アメリカ英語での、ということはわれわれ日本人が一般的に接する英語での意味である、「棚上げする」という意味しか載せていません。アメリカ英語、イギリス英語の両方に目を配りたいという学習者はイギリス英語版で、ぱっと引けて一般的な意味がわかればいいという方はアメリカ英語版ということになるのでしょう。(ただ、New Edition は統合されており、英米の区別がないようです)

この辞典は、6項目チェックのところでもわかるとおり、Collins COBUILD 同様、上級者向けで、中級レベル以下の人にとってはあまり親切ではありません。たしかに定義での英文は2,500単語に絞っており、とっつきやすくはなっていますが、学習上のツボをいちいち取り上げていない点において、「学習英英辞典」とは言えない感じです。

他面、最大のウリは、発信型英語に特化しており、その意味でコミュニカティブ英語を身につけようとしている上級者には実にありがたい構成となっています。自分自身、最初のうちは、よくわからないけれど、使い心地がいいなと思っていました。と言うのは、9月に出るビジネス英和中辞典と言い、夏前の刊行を目指している基本ビジネス英単語辞典と言い、このところ辞典作りをしていることが多いのですが、そういった場合に、ざっと原稿を書いてから、見落としている大事なコロケーションはないだろうなと調べると、この Macmillan が一番効率よく期待に応えてくれるのです。

例えば meeting(会議)という項であれば、ビジネス用語としては、典型的なコロケーションとして、attend に加えてarrange/call/have/hold/organize a meeting ぐらいは知っておく必要があります。また、cancel/delay/schedule/reschedule a meeting といった変則的事態を処理する動詞、そして、chair/run といった実務臭い動詞も必要です。こういったものをひとあたり入れ、例文もつけたところで、「一般向けの辞典で取り上げているコロケーションを落とすわけにはいかないよな」と 引っ張り出すのが、この Macmillan。meeting の項を見ると、ボールドで、+ on/about とあり、例文が出ています。同様に、+ with というのもあります。そして動詞としては、hold a meeting, attend a meeting というのが並んでおり、この meeting を実社会で使いこなすための必要最小限のセットが明示してあり、うなります。

自分でも、何かというとこの辞典を使っているので、改めて編集責任者の Michael Rundell の序文を読むと、なるほどそうだったのかと感心させられることが二つ書いてありました。第一に、学習者の receptive needs と productive needs を意識して、前者については定義だけという具合にあっさり処理し、後者については、発信するために必要な情報を盛り込むよう心がけたとのこと。納得しました。上の meeting もそうですが、「これは」という単語のコロケーションはきっちり示しています。例えば、もう一つ大事な decision を見ると、

make a decision
come to/reach a decision
(decision) + about/on
reverse/overturn a decision
the right/wrong decision
a big/tough/difficult decision
a decision to do sth

という基本的な用法上のパターンがボールドで示され、しかも例文が出ています。2007年に出た New Edition では Collocation というボックスが新設され、形容詞として decision の頭に良く付くものが8個示され、またよく使う動詞も11個示されており、Oxford Collocations Dictionary for Students of English とほとんど変わらないぐらいの充実ぶりになっています。

なんであれ、 decision については本文で取り上げているものを知っており、かつ、これが口を突いて出てくるぐらいに練習しておけば、一生用が足ります。ボキャブラリーのレベルとしては、ケンブリッジ英検でのFCEレベル(CEFRで言えばB2)に相当するレベルです。また、ボックスの中までマスターしたら並のネイティブをしのぐ英語力です。これもケンブリッッジ英検で言えば、CPE(CEFRのC2)に相当します。

一方、性格の似ている COBUILD の方で decision を見ると、別段、ボールドによる強調表示はなく、また、取り上げているコロケーションも文例を通じて make a decision と take a decision があるんだと認識できる程度で、貧弱です。

もう一つなるほどと感心することが書いてあったのは、受信にしろ、発信にしろ、ともかく重要な単語 7,500をピックアップし、一番大事なのは★★★、次が★★、そして★と、ランクづけしておいたので意識して勉強すると効率的だという話です。見た目にもこの重要語はすべて赤で、非常に見やすい紙面になっています。

教育のある人はこの程度の単語力はなければならない、といわば学習者の到達目標をこれだけ明確に打ち出しているのは広い意味での学習英英辞典の中で、唯一 Macmillan だけです。これだけでも買う価値があります。しかも、この7,500単語という数字、裏づけがあるのでなおさらです。実証研究により5,144単語レベルでCNNがわかり、6,660単語レベルで雑誌のTIMEがわかるとされていますから、7,500おさえていれば、余裕で高度の receptive skills までこなせるというものでしょう。

一方、COBUILDも見出し語の横に重要度を◆◆◆、◆◆◇、◆◇◇という格好で示していますが、重要だとしている単語の範囲自体、頻出3,000単語どまりです。LDOCE/LAAD も見出し語の重要度をランク付けしていますが、これも頻出3,000単語の範囲内でのランクです。ただ、話し言葉と書き言葉とで分けて、話し言葉での頻出順位が上位2,000レベルで、書き言葉での頻出順位が上位 1,000レベルなら、[S2] [W1] と示すことで、どちらの領域でより頻繁に登場するかがわかり、便利ではあります。

このように、Macmillan は主要コロケーションを漏れなく示すという具合に発信型の英語を意識しており、しかも必要にして十分なレベルにある単語を明示しているというこの二つの点において、COBUILDよりいいと判断します。

それでは6項目チェックをやってみましょう。

(1)"agreement" のように可算と(抽象名詞であるがゆえに)不可算とがある名詞について、語義説明や用例からそれがわかるようになっているか

語義の1である可算用法のものと語義の2である不可算用法を読み比べれば、前者には輪郭があり、部分と全体との分けたり、逆に合わせることができると読み取れますし、後者にはそれがないとわかります。合格です。ただ、読み手自身がこういう使い分けに対する問題意識がきちんとあるという前提での話ではあります。


(2)"drunken" のように She is drunken. という格好で使えないものをどう伝えているか

drunken の方には [only before noun] とありますから、She is drunken. とは言えないことがわかります。ちょっとおもしろいのは、This word shows that you do not like people being drunk. という一句が入っていることです。ニュアンスがわかって便利です。フランス語に由来する言い方のようですが、A guardian angel looks after the drunk. という酔っぱらいに好意的な言い回しなど、the drunk を drunken people などにすると、「酔っぱらいには守護の天使がついているものだ」という意味が「酔漢には」という感じになり違和感があるわけです。


(3)I'd like to explain you how this works. とか、I'd like to suggest you to come tomorrow. のように、動詞の使い方のパターンとしてありえないものをどう伝えているか

まず explain の方は、ボールドで、 explain sth to sb とあるので、同じ学習者でも注意深い人であれば、explain me what you...などが駄目であるとわかるでしょうし、上級者なら、「ああ、あれ危ないんだよな」と注意を喚起されることでしょう。しかし、 OALD のように正面から You cannot say "explain me, him, her, etc." というふうに取り上げるスタイルの方が学習者には親切に決まっています。

次に suggest を見ると、suggest + (that) というパターンが示されているだけなので、これも初級・中級レベルの人は問題意識を喚起されることのないままで終わってしまいそうです。やはりOALDのように、You cannot "suggest somebody something." と教えてくれ、さらに、だめ押しに× Can you suggest me a good dictionary? という、ありがちな失敗例まで出してくる方がためになるし、記憶にも残ることでしょう。


(4)"try to do sth" と"try doing sth" のように、不定詞が来るか動名詞が来るかで意味が違うものをどう処理しているか

これもそれぞれのパターンをボールドで示した上、Just try to stay calm. と She tried talking about it to Steve, but he wouldn't listen. という例を出しています。上級者だけが、前者につき「ふむふむ、努めているわけだ」と、また、後者につき、「ふむふむ、試みたんだ」とニュアンスをそれぞれ読み取れることでしょう。初級・中級の人にはあまり役立たないボールドです。


(5)"avoid doing sth" "consider doing sth" のように、動詞を続けるときは動名詞にする必要のある一定の動詞をどう示しているか

これはボールドで avoid doing sth 、consider doing sth という用法上のパターンがボールドで示されていますから、注意して読めば、動詞を続けるなら、-ing 形だよとわかることでしょう。


(6)"moreover" のように、話し言葉で使うと違和感のあるフォーマルな(書き言葉)にしかるべきレッテルを貼ってそのことを示しているか

ここでは、ただ "formal" とだけラベルが貼ってあります。ただ、formal の定義の仕方が COBUILD と違っており、"not used in ordinary conversation or in normal everyday writing" としていますから、これをきちんとおさえている限りは、普通の会話で moreover を使って、相手に「しかのみならずかよ」という違和感を与えずに済むことでしょう。しかし、かなりの上級レベルの人でもやりがちな失敗であることを考えると、LDOCEのように正面切ってフォーマルな書き言葉なので話し言葉で使うのはやめた方がいいと注意してくれるのが学習者としてはありがたいのではないでしょうか。

こうやって見てくると、Macmillan は中級以下の学習者には向いていません。6項目チェックで取り上げたような事項を既に十分分かっている人が使う二冊目の英英辞典だと思います。この点、位置づけ的に COBUILD と並びますが、受信・発信つまりはコミュニカティブな英語を重視して、コロケーションを明示しており、かつ、7,500単語という到達レベルを示している点で、内容的には勝っているというのが私の判断です。

英英辞典シリーズのまとめ的なことを言えば、Macmillan と COBUILDは既にOALDやLDOCE/LAADにある学習者向けの注意事項をすべてマスターしているような上級者向きで、初級・中級レベルの人はまずはOALDかLDOCE/LAAD からスタートすべきです。

次に、Oxford なのか Longman なのかという選択ですが、甲乙つけがたいわけで、強いて言えば、英語としての正確さ (accuracy) を重視する方は、OALD で、多少文法上ほころびがあっても、つっかえずに英語を発信していくこと (fluency) が大事だと感じる方には LDOCE/LAAD が向いています。

英語を勉強しようという以上は、よどみなく話せるようになるのが一つの目標となりますが、何をもって「よどみなく話せる」と言うのかについては、のちのちヨーロッパ共通参照枠の B1 となる、Threshold Level のあり方を研究した人たちは、"reasonable speech with sufficient precision, with reasonable correctness (grammatically, lexically, phonologically" と形容しています。そうとすれば、ひとまず LDOCE/LAAD を手がかりに reasonable speech with sufficient precision を確保して B1 (ケンブリッジ英検のPET)を超え、次の、より高い B2, C1, C2 (ケンブリッジ英検だと FCE, CAE, CPE) を目指すレベルに入ったら、reasonable correctness を期してOALDというのも一つのアプローチでしょう。

なお、近々、アルクさんの会員向け雑誌『マガジンアルク』(会員でなくても以下に問い合わせれば550円で買えるそうです)のために、英英辞典の話をさせていただく予定です。内容的には重なるでしょうが、有料の会員誌ですから、無料のブログ上の記事との差別化を図るべく、プラスアルファを心がけるつもりです。

お問い合わせ先
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Comments

こんにちは。
お役立ち情報、ありがとうございます。

辞書・辞典は知識の宝庫、昔は必要と楽しみの両方でよく使っていましたが、最近仕事ではもっぱらネット辞書ばかり。
自宅の机の隅には、落とすと確実に足を怪我するWebsterが鎮座しております、しかしながら!持ち運びにくい上に、活字が小さいので、本当に権威に当たる必要を感じるときのみお世話になる今日このごろ。
Macmillanの07版を買って、英語の復習をしてブレイン劣化を防ぐことにいたします。

USの教育ではK1~K12まで一貫して習うと、大学1年のエッセイの授業で文法エラーをおかさず書けるはずですが(あくまでもはず、実際には英文法がお粗末な米人がけっこういます)
そうしたチャンスのない英語学習者が正確な英文で発信するためには、単にネイティブ向けの英文法書を学ぶだけでなく、今回解説・紹介のあった学習用辞書を丁寧に読むと効率が良さそうですね。

[返信]

こちらこそコメントしてくださり、ありがとうございます。おっしゃるとおり英語圏ではきちんと書くことを教わり、そのことを通じて cohesive device の使い方を会得するわけで、そのチャンスがほとんどないわが国の学習者は、いきおい、会話できちんと話を組み立てることが苦手で、しかも書き言葉と話し言葉がまじりがちです。この点、Macmillan や COBUILDの付録に入っている essay writing での重要表現は大助かりです。ただ、問題は、紙版の辞書を使う人のほとんどが付録の中を見もしないことです。

それにしても、Webster の枕本をお持ちとはすごいですね。昔、初めて法律事務所の書棚で見たときは、何かの教典かと思いました。ただ、あれもCD入りが出ているようでね。

ここ最近の英英辞典の記事、大変参考になります。
ありがとうございます。

一時期、Macmillanが気に入って使っていましたが
電子辞書を使うようになってから離れていました。
久しぶりに使いたくなりました。

[返信]

こんにちは。

Macmillanが入っている電子辞書自体、ないか少ないような気がするのですが、どうなのでしょう。仮に入っていても、スクロールしないとボックスやコラム的なものが出てこないわけで、むずかしいですね。やはり紙版をひいきにしてしまいます。フォントの善し悪しも楽しめますし。

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