2009年2月26日
expert + in?on?at?
先日、Macmillan English Dictionary を紹介するエントリーで、explain の相手をさすときは前置詞 to がセットになっていることを要し、したがって "explain someone something" という言い方は駄目なんだよと書きましたが、そのおりにこの辞典での explain の項を見たついでに前後をぱらぱらと見ていて、expert の項で目が止まってしまいました。あれっと思ったからです。
この辞典で expert を引くと、★二つの重要単語であることを示し、showing special skill or knowledge という語義解説のあと、expert workmanship と He's an expert skier. という典型的な使い方を出しています。問題はそのあとです。下線を入れてご紹介しますと、こうなっていました。
+ at: Over the years we've become quite expert at dealing with these sorts of problems.
+ in: The British royal family are still less than expert in handling the media.
形容詞/名詞としての expert に続く前置詞をどうするかについての自分なりの理解はこうでした。形容詞のあとに動詞が続くなら expert at doing something で行き、名詞としての expert のあとに、何かの分野の名称などが来るときは、an expert on phonetics と同じ感じで、expert on sth とする、それ以外は expert in sth で処理する、と。
これはおそらくきわめてオーソドックスな使い分け方で、Oxford Collocations Dictionary で expert を引き、いっしょに使う前置詞の項をみると、こうなっているわけで、上の私の理解がそのまま通用していることを見て取れます。
~ at: He's an expert at getting his own way.
~ in: an expert in skin care
~on: an expert on European art
動名詞を続けるなら at 、一定の分野の名前が来るときは in 、そして、ヨーロッパ美術史といったもっと絞り込まれた学術分野などが続くなら on という理屈を見て取れます。
ところが、オンライン版もある、The Columbia Guide to Standard American English を見て、ちょっとした発見。
When combined with prepositions, both adjective and noun take in and occasionally at: They’re expert in [at] making and repairing furniture. I’m getting to be an expert in [at] identifying birds.
自分では動名詞で続けるときは at と思い込んでいたのですが、これによると、多数派は + in で、+ at はバリエーション、しかもどちらかと言うと少数派という結論です。(ただ、これはこの本がそう言っているだけで、学習英英辞典は、expert at doing sth というパターンを明示しているのが普通です)
一方、この本は、in なのか on なのかについては明快な指針を示していません。そこで、Cornelia Zelinsky-Wibbeit の The Semantics of Prepositions というちょっと特殊な本で調べたところ、ありました。
前置詞 on の目的語の守備範囲よりも広いものについて in を使うという説明です。
one can be an expert "on" the nineteenth century, but for a larger area English prefers "in" e.g., an expert "in" literary history
同じように専門知識の及ぶ範囲を示していても、"on" は、より絞り込まれ、具体性が高い分野を指すのに対して、"in" は、それよりも広い範囲を指すときに使うという理屈です。道理で、科目名や特定の学術分野などのときは "on" なんだと合点がいきます。
なるほどと納得したのは、たしかに in the corner of the room と言うのに、in the corner of the street とは言わないことに表れているとおり、in は on との対比ではより大きいという感じがあります。同じことは時間についても言えるわけで、ある曜日のことなら、 on Monday と言うのに、週単位だと in the next week となります。
考えてみると、morning だけだと、in the morning なのに、曜日が入ると、on Monday morning となりますが、前者は「いつの」朝という感じが前面に出ておらず、一定の長さが感じられるのに、後者は、Mondayという、いわば接点がある関係で、ただの morning と異なり、長さが感じられません。こんなところにも、on より広がりのある場合は、in という理屈が働いているようです。
まとめると、expert に続けるのは普通は in で、ときには at を使う人もいるということであり、また、in なんとかに比べてより絞り込まれているときは on が好まれるということです。ただ学習者としては、そこまで神経を使う必要はなく、ひとまず、名詞 expert を使うときは、in か on で行くとだけ覚えておき、人によっては at も使うんだという知識があれば十分ではないでしょうか。つまり、
She's an expert in/on/at Japanese art.
と言えるわけで、どれでもいいと言えそうです。
ただ、形容詞として使う場合、つまり、She's expert...というふうに使う場合は、一つの傾向があります。つまり、
She's expert at cooking Japanese food.
She's expert in cooking Japanese food.
は聞いても、
She's expert on cooking Japanese food.
は、どういうものか、聞いたことがありません。
文法というのは使われている言葉をあとから整理して理屈を付けているだけで、実際に使われている言葉こそが本体であることを改めて考えさせられます。
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Comments
上でコメントさせて頂いたものです。ご丁寧に説明頂きありがとうございます。
先生のご指南には確かに的を射たものだと感じます。現場や映像媒体を通じて自然な表現の蓄積に努めていくのがやはり大切だと感じますが、その基礎というか拠り所として(教科書的なものとして)先生の著書を今後も引き続き活用していきたいと思います。
その際、なぜput inなのかとかはあまり考えず、put in a requestとという一つのかたまりで覚えていったほうがいいのかもしれませんね。こういう状況のときはput inを使うというふうに。
ついつい、put inなどの句動詞が登場すると「何かを中に置く」みたいなベーシックな意味から考える悪い(?)癖があるのですが、昔アメリカに十数年住んでいた友達にも、たとえば"It's up to you."はそのままで覚えるんだ、upとかtoとかの意味を考えちゃだめだと教わった記憶を思い出し、分析的な作業よりも、実際にこういう場面ではこういう表現が使われているという、その事実を大切に、素直に表現に慣れていったほうがいいかもしれないと感じました。
なんにせよ、コメントを頂けて非常にモチベーションにもつながりました。ありがとうございます。
[返信]
コミュニカティブな言語学習の権化とも言えるヨーロッパ共通参照枠の基本書でも、語彙のところで、「いちいち分解せずにまるごとおぼえるべきもの」という区分を設けているぐらいで、分解するのは、古風な文法学習の悪弊という観すらあります。おっしゃるとおり、普段から決まった言い回しを使っているネイティブも、まるごとおぼえているわけですから、われわれもそれに倣うべきではないでしょうか。日本人だって、「しっくり来ない」の「しっくり」とは何かをいちいち気にしないのと同じだと思います。
- 匿名
- 2009年2月27日 23:11
毎回興味深い連載ありがとうございます。
ちょっと今回のテーマと離れてしまい恐縮ですが、日向先生の著書『即戦力がつくビジネス英会話』のDIALOGUEに出てくる会話ってかなりこなれてるというか、ノンネイティブだとなかなかサラっとは出てこない表現が多いと思います。
例えばレッスン8で"I put in a help request two days ago, but..."という表現が出てきたりしますが、私はこのput inという表現は日常的にあまり聞いたことがこれまでなく、このような場面であれば、もっと単純にaskなどの動詞を使うところです。もちろん、単純に私の語彙力が足りないのかもしれませんが。
これはあくまで一例ではございますが、同書のDIALOGUEの会話文は表現などの点でだいぶこなれてるなと感じることが多く、こういったレベルが「国際ビジネスの世界での標準」なのかどうか、若干疑問を感じたので質問をさせて頂きました。
そして、実際に同書DIALOGUEで行われている会話体のレベルが標準だとすると、日本はさておく、海外の他のノンネイティブの方々はどこでこういった表現なり会話法を学んでくるのでしょうか?
もっと基礎的なbe208の会話もそうですが、ここに出てくるようなビジネスの世界で必須の表現、日本以外の国の英語使いの方たちは、どこでこういう表現に触れる機会に巡り合うのか、単純にそれは実地(仕事)を通して身につけているものなのか、先生の私見を頂戴できたら幸いに存じます。
[返信]
DIALOGUEのテキストは、自分が見聞きした範囲で、「こういうときは、こんなことを言う」を集めたもので、国際ビジネスの世界での標準といったおおげさなものではなく、ごく普通のオフィスでの会話の再現です。
珍しいと感じられるのかも知れませんが、"put in a help request" は、これまたごく普通に使われる put in a request の応用でしかありません。例えば、Oxfordのコロケーション辞典で request を引くと、make, put in, submit と並んでおり、定型的なコロケーションであることがわかります。では、オフィスの会話でどれがよく使われるかを考えた場合、インフォーマルな句動詞である put in という判断になります。
こういう普通に使われる表現に触れ、学ぶルートは二つだと思います。一つは、現場やDVDなどのドラマを通じて、「こんな言い方をするのか」と吸収して行くことです。ただ、問題意識がないと素通りしてしまいます。もう一つのルートは、教科書的なもので学ぶことです。ただ、実際にはあまり聞かない不自然な言い方を紹介しているものだと有害無益で終わります。してみると、理想は信頼のおける資料で普通の言い方を予め学習しておき、次いで、それを現場でのやりとり、あるいは映画やドラマ、ペーパーバックスでの会話例を通じて「ああ、あれだ」と確認していくことではないでしょうか。
- Alicia
- 2009年2月26日 23:00

こんにちは。今回の前置詞の詳細検討良いですね。
USでは"expert in" がごくごく一般的に使われるなあ、と思いながら読み進み、それぞれの前置詞がカバーする範囲、時間と空間の領域の違いの説明と例。
まさにそういう感覚でネイティヴは前置詞を使い分けていますが、違いや選び方を説明できるのはUSでも英語教師くらいでしょうか?
一般の人は深く考えもせず使い分け、違う前置詞を見聞きすると違和感を覚える、そうした類だけに、日向先生、さすが英語の教育者かつ研究者でいらっしゃいますね。
コメントで話題になっています”put in a help request"、説明のとおりで、同僚間の会話などで普通に使われますが、
口頭でも上司への報告や発表の際には"submit a request" 自分からお願いをする場面では"make a request"と使い分けます。
インフォーマルな動詞句はいかにも英語らしい表現ですし、簡単な動詞が使われますので、たくさん覚えて使ってほしいと思いますが、より一般的な語彙や表現を含む全体の英語力アップもしていかないと、こなれた表現で同僚とは自由に話せても、きちんとした報告や発表はできないという、ちぐはぐなことになりますので要注意だと思います。
逆に、お堅い表現は十分ものになさっているビジネスマン・ウーマンは動詞句をしっかりものにすることで、会話がより自由で自然、かつ対等なものになるはず、と思います。
[返信]
臨場感あふれる request の使い分け、ありがとうございます。そうですよね、自分からは、I was wondering if I can make a request. であり、put in a request だったら、何かほほえましい感じになってしまいますね。でも、こういうのは、辞書などで説明しにくいし、問題意識をもちながら場数を踏むことではないでしょうか。
あと、phrasal verbs もあれを禁止されたら英語ではなくなってしまうぐらい重要な要素だと思います。他面、きょう書いた社会言語能力という事で言えば、場面によっては、いつも使う carry out を implement などと重々しく打ち出すセンスが必要で、言葉の学習というのは大変だけれど、面白いと感じます。