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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2009年03月22日

英語の標準学習時間:最短は何時間か

第二言語習得研究の専門家、羽藤由美先生はその著作、『英語を学ぶ人・教える人のために 「話せる」のメカニズム』(世界思想社)の中で冒頭に「外国語習得には時間がかかる」という一章を設け、文科省を初め教える側も学ぶ側も「このレベルに達するまでに何時間」という感覚が薄いことを指摘し、中学高校の6年間で最長1,000時間でどこまで習得できるのか、できないのかを考えるべきだと説かれています。

例えば、文科省に標準学習時間という観念がないことを示している例として同書はこんな指摘をしています。文科省は、「英語が使える日本人の育成」という行動計画で高校卒業時点までに「日常的な話題について通常のコミュニケーションができる」ようになることを掲げていますが、何時間でここまで行けるかなどといったことには一切触れていません。他面、高校卒業時までに達成すべき、この目標は、カナダでのイマージョン(すべての科目を英語で行い、どっぷりと英語漬けにする教育法)での中級レベルの目標である、「ときおり辞書の助けを借りる程度で、新聞や興味のある本が読め、テレビやラジオを理解し、会話の中でまずまずの対応ができる」とほぼ同じです。そして、カナダの場合、この中級レベルに達するために標準学習時間として、最低でも2,100時間という数字を挙げているというのです。ショッキングなほど具体的です。おおげさに言えば、こういう観念的な姿勢が先の戦争で負けた一因でもあるのだろうなと思ってしまいます。

いずれにしろ英語とフランス語の言語間の距離の近さを考えると、日本人の英語学習者はもっと時間がかかるだろうなと考えるべきでしょうが、この点、なるほどと思ったのが、羽藤先生がイギリスの会話学校で働いていた当時に仲間の教師たちから聞かされた「英語の中級など、あるレベルに到達するのにドイツ人が400時間かかるとすれば、日本人は1,500時間かかる」という経験則。

これは以前、コメントをよせてくださった神崎正哉先生のご経験とほぼ重なります。まず以下の表をご覧ください。

level%20scale.jpg

ケンブリッジ英検が公表しているステップ別の標準学習時間ですが、実社会が求める英語力のレベルはどの程度か?での神崎先生のコメントによると、

CambridgeのFCE(CEFRのB2レベル)からCAE(CEFRのC1レベル)まで1年、

次のCPE(CEFRのC2レベル)までもう1年かかりました。

その期間、イギリスで英語学校に通い、1日授業3時間+自主学習3時間を週5日、年間30週していました。年900時間の計算になります。それに加え日常生活でも英語に囲まれていたので、英語に接した時間はおそらくその倍の1800時間はあったはずです。それだけやってようやく1レベルアップです。

先にご紹介した、「あるレベルに到達するのにドイツ人が400時間かかるとすれば、日本人は1,500時間かかる」という英語教師の経験則に照らしても、この表はそうかと感心します。というのは、英語で何とか自分の用を足せるようになるのは、この表で言うと、B1レベルですが、この表で言う400時間を1,500時間と読み替えると、なるほどそんなものだろうなと思えてきます。というのは、中高の英語に加えて大学入学後、努めてコミュニカティブな英語の習得に努め、海外旅行にも1人で行けるレベルの大学生をイメージした場合、総学習時間はちょうど1,500時間ぐらいかなという感じがあるからです。

ちょっと横道にそれますが、一般に英語学習者に欠けているのが、「英語に接する時間」(exposure) に対する認識だと思います。現地に住み、苦労しながらも何とか話せるようになる日本人は、平日の8時間は英語で生活するとすれば、単純計算でも1年で2,000時間に行きます。

一方、英会話学校で1回1時間のレッスンを週2回程度という例を考えたら、せいぜい100時間です。NHKラジオの「ビジネス英会話」の場合、今はどうなっているか知りませんが、わたしが担当した2004年当時は、一週間で3回のレッスンで、計45分。1回は復習なので正味2レッスン。それが52回ですから計13時間。1年で26時間。

ところでこういったことを考えているうちに、移民としてカナダ、オーストラリア、あるいはアメリカに渡った人たちが受ける成人英語教育はどうなっているのだろうと、ちょっと調べてみました。母語での読み書きができるかによっても大きく左右されるようですが、これから見て行くとおり、いちおう、「このぐらいやると、このレベルに達する」というものがデータとしてあるようですので、日本人の英語学習者にも一つの目安として役立ちそうです。

カナダでは移民向けの無料英語教育サービスとしてLINCというものがあり、最長 1,200時間です。職場でまずまずのコミュニケーションができるレベルとして Level 7 が目標になっていますが、そこに到達するのにどれだけかかるのかをこれから調べていくつもりです。

アメリカでは、成人教育の到達度指標として、まるで英語ができないレベルの0から、社会生活上不自由しない程度の6まで分けており、市民権を取得するための英語テストはレベル5程度とされていますが、ゼロから6まで行くのに660時間と見込んでいます。

オーストラリアの場合、教育程度の高低に応じて18-25歳の難民を分けて、低い方には最長910時間、高い方には610時間の英語教育を施す一方、通常の移民に対しては510時間の無料英語教育を提供しています。その成果は、Certificates in Spoken and Written English (CSWE)という証書で示していますが、このCSWEは、Beginner, Post-Beginner, Intermediate の三種発行され、Intermediateが、functional Englishつまり、英語を使って社会や職場で生きていけるレベルとされているようです。ちなみに、510時間後にIntermediateまで達するのは23%というデータが公表されていますから、この程度では絶対量が足らないことがわかります。

こう見てくると、通算300時間弱の中学校英語教育では箸にも棒にもかからない感じです。もちろん、同じ時間数でもぼんやり過ごすか集中しているか、何をやるかといった要因で大きく効果が違ってきますが、それにしても、最低限こなすべき時間数があり、冒頭のカナダの例を考えると、実用レベルに到達するには、2,000から3,000時間は必要と見て間違いなさそうです。

一方、MiltonとMearaの研究によると、学習者は授業一コマあたり4単語習得するのが平均のペースであると言いますから、会話の9割を理解できるようになる最頻出2,000単語を習得するためには、最低でも500時間という考え方もできます。そうとすれば、単語力育成を中心に据えながら、ひとまずとっかかりを作るのに500時間、その後、実用レベルまで持って行くのに3,000時間から上で、濃密な集中学習なら2,000時間でそこまで行けるというのが一つの結論です。




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Comments

こんにちは。
私がUSで英語を学んでいたときはどうだったかな、と時間の計算をしてみました。
渡米前にYMCAの集中講座を3ヶ月受けてUSの私立大学と提携しているESLへ。
クラス分けで上から2番目のレベル7(TOEFL500点前後のクラス)で1ヶ月学習。授業は午前中のみ、午後はラボと自習。
寮はブラジル人と同室で、スイス、ブラジル、ドイツから同じESLへ来ていた人たちと食事や週末を英語ですごしていました。
毎日12時間+は英語ずけを1ヶ月。それでCAの州立大学への編入学に必用な520点はクリア。
希望する大学はTOEFL550点以上を要求していたので、その後エンプティ・ネスターズの米人夫婦の家庭で10ヶ月ホームステイしながらCAのアダルト・スクールのESLのアドヴァンスに半年。(当時、大学進学希望者、日本の英文科卒たちが同じクラスにいました。)3ヶ月、州立大学のExtensionで哲学を受講。

この初老のご夫妻は、移民や留学生に英語の語彙や発音、イディオムなどを教えることに喜びを見出して、彼らの孫の英語を直すごとく、丁寧に実演、説明、矯正に努めてくださいました。
毎日14時間以上英語で生活したわけで、パッシヴに英語に接しただけでなく、アクティヴに英語を学ぶ時間が大半だったこともあり、たんにESLのクラスを受けながら、普段は日本人仲間と日本語で生活していたクラスメイトたちとは格段に英語が伸びました。
無事希望の大学でPsy major & Phi minorすることができました。
この時点でUSでの時間:12x30+14x300=4560hrsです。一留学生の経験ですが、参考までに。

[返信]

経験に裏打ちされた貴重なデータ、ありがとうございます。読者の方々にもおおいに役立つことでしょう。浦島花子さんの場合は、日本である程度基礎ができていたでしょうから単純な比較はしにくいものの、4500時間というのは、戦前の米海軍日本語学校でのゼロから始めた場合の学習時間とほぼ重なるわけで、そうか、やっぱりねと感じさせるものがあります。

あと思ったのは初老のご夫婦との会話練習のおかげで、英語独特のメカニックスとでも言うべき会話の手順なども身につけられたんだろうなと思いました。会話学校のような所では望めないことですよね。


こんにちは。

私のUS到着直後の4560時間は、渡米前に日常英会話はひとまずできて、USの大學・大学院で読み書きの多い学科を専攻したい人の参考にしかならないかな、と思いました。

日本では宣教師宅で子守をしたり、休暇ごとに客・友人として彼らの家に滞在して英語で生活をしていました。あと、当時はDVDやTVの英語放送などはなかったので、古い米映画を字幕に頼らず見たり、と米語のリズムやイントネーション他の習得につとめました。

USでESL学習の1年間に2度受験したTOEFLの聞き取りは満点、語彙も満点近く、私の弱点は文法で、日本の英文科卒でESLにいた方たちとは反対でした。日本人には珍しい、とESL教師に言われたほどです。
日本では娯楽でペンギンやバンタムの濫読をしたものの、中高の授業以外文法を学ばず、英語で書く機会もなかったからだ、と自己弁護しつつ、アカデミック・ライティングと文法の勉強に励んだ次第です。

USのホームステイで生きた英語の会話を磨くには、滞在先で家族の一員として生活するとか、学習者本人の姿勢と努力が大事ですが、英語習得に協力的な家族かどうか。ホストファミリーの質や姿勢によっても効果は違うと思います。私のケースはラッキーでした。

80年代の後半、USのホストファミリーはペニーも受け取らず善意の国際親善で日本人を受け入れているのに、日本人はプログラムのオーガナイザー(日本の団体)へ高額の支払いをしているので、ホストファミリーにホテルのメイドまがいに接したり、
生活ルール無視で非常識な日本人の行動などが原因でトラブル多発。北加各地では90年代、日本人ホームステイが殆ど不可能になりましたね。今は復活しているのかもしれません。

英語習得目的で教会へ行くことを日本人の英語学習者に勧めるつもりはありませんが、私は日曜や週半ばの礼拝、大人のサンデースクール、親睦の時間、家庭でのランチやディナーなど、きれいな英語で丁寧に話す米人たちの英語にいつも触れていました。

事前に間違いは指摘して欲しい、と伝えておくと、皆さんに小さなミスも指摘していただき、正しい言い方、より丁寧な表現を身に付けることができました。

学園町の教会には教授も多く、博士や各種プロフェッショナルが大勢いて、教義、文化、政策、世情の話はけっこう高尚でした。

学園町の米人やスコットランド人牧師の説教にはビッグ・ワードがいっぱい。。。。

北加の教会(全部の地区や教派に当てはまりません)や非営利団体、政府機関の関係者は学歴の高さ、英語の質など、一般的アメリカ人とはちょっと異なっていました。
そうした環境で学生時代をすごし、CA州都や北加の都市部で青少年の指導やプログラム・ディレクターをしていたので、15~25分のスピーチの度に、自分の勉強ぶりをアピールするかのように、いろんな引用を入れることが期待されていました。ものすごく丁寧だったり、難しい言い回しは極普通。当然PC(politically correct)な語彙は必須の環境です。

私のUS生活は、日本人がごく普通にUSで生活しながら英語を使っていく環境とは違うだろうとは思いますが、
USでアッパーミドルクラスの米人相手にプロフェッショナルとして仕事をしたい日本人には、丁寧な表現、正確な文法、ビッグ・ワードを含む語彙の勉強に励んでいただきたいです。

使う英語の質で提供するサービスの質、本人の教育と教養の程度を測られてしまいますので。

米国はカジュアルな社会と言われますが、ある種の階層の米人にとって「教育=言の葉の威力」はかなりのもので、そうした人々の中に溶け込んで普通に生活し仕事をするためには英語を相当磨く必用があります。何でも”OK”ではけっしてない社会もUSにあります。

ただし、外国からの客人であるかぎり、なんでもOK, と言うか、ブロークンな英語でも多めに見てくれるおおらかさはありますが、決して対等に同じ土俵に立ってはいないので要注意です。

[返信]

ありがとうございます。言葉で人を見るというのは本当ですし、言葉こそ人となりを表す最大の要素だというのもおっしゃるとおりで、30 Days to a More Powerful Vocabularyという本の序文にあるYour boss has a bigger vocabulary than you have. That's one good reason why he's your boss.という一節を思い出します。

私がまだ日本で英語の勉強(というよりも修行という表現の方がふさわしいかもしれませんが、)をしていた頃をふり返って見ました。11年前にスタートし、留学目的で渡米するまでの約4年半、英語に浸かっていた時間は、大体以下のような目安になります。

英雑誌(Time/Newsweek/Economistなど)音読&黙読1日1.5-2時間

英語リスニング(Jim Lehrer News Hour/CNN/ABC News)
AFN/海外ドラマ・洋画/アルクヒアリングマラソン 1日3.5-4時間(内1-1.5時間はシャドーイング&リピーティング)

英文ライティング(e-mail、サマリー/ライティングなど週2回2時間ほど)

スピーキング(Toastmasters Clubを通して月2回、例会を全て英語でプレゼン、例会後のnativeとの会話トータル3時間)

平均すると、一日最低でも5.5時間は英語に接していたので、一年単位で換算すると約1800-2200時間になります。したがって、トータル4年半で8500-10000時間英語に浸かっていたので、その意味ではまさしく過酷な修行でした。発信を全面的に重視していたので、リスニングだけでも4500-5000時間、スピーキング(シャドーイングもスピーキング練習の一部ととらえてください)でトータル1250-1500時間位やっていたと思います。

私の学習経験を元にしても、英語を母国語としない日本人が
一通り英語で発信できるレベルになるには、ゼロから始めて4000-5000時間位は必要だと思います。というのも、知識として頭に入れるだけなら1000時間あれば十分でしょうが、実際に自在に運用できる(読めて・書けて・話せて・聞き取れる)ようになるには数倍の労力がかかるからです。 英語圏だと、特に意識していなくても、耳だけは鍛えられますが、日本だとどうしても母国語の干渉が大きな障害になるので、その分学習方法に神経を使います。短期で結果が出るものではなく、長期的に(最低1年以上、平均3-5年) 継続して初めて実を結ぶものと考えた方が妥当でしょう。日本人の学習者には、「とにかく、あせらず、辛抱強く、じっくりやって下さい」と言いたいですね。


[返信]

「実際に自在に運用できる(読めて・書けて・話せて・聞き取れる)ようになるには数倍の労力」とおっしゃる点、同感ですが、知識を仕入れるのとはまるで違う世界であることに教育が目を向けさせるべきだと感じています。それにしても、すごい勉強ぶりに頭が下がります。畏友、神崎正哉さんを思わせる迫力です。そう言えば、浦島花子さんもおなじぐらい苦労されたような。なんであれ、あるところまで行くには努力、努力ですね。

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