2009年6月29日
LやRなんかどうだっていい、と思います
けさの朝日新聞(29日付朝刊)を読んでいたら、子供向けの稽古事と言うのか、いわゆる早期幼児教育がはやっているという趣旨の記事があり、その中で、早期英語教育への期待を物語るセリフとして「 L や R が言えるようになるかも」というのがあり、がっかりしました。
これだけ英語がおおはやりの時代に、今なお、英語ができることイコール「 L や R が言えること」と思っている人が多いことに驚かされます。LやRをきちんと言えなくても、リズムさえきちんとしていれば英語は通じるのにです。
いくら器用にLとRの発音ができたとしても、英語を話すときのリズムがきちんとしていないと、一生懸命話しているのに相手に通じないということにもなります。
そもそも、L や R の発音、あるいは S と TH の違いにこだわる人々は、実生活でこういった個々の音が個別に問われ、しかも、それが何か大きな問題を起こすことはまずないという素朴な事実を見落としているのではないでしょうか。考えてもみてください。食事をする状況で、r と l がうまく使い分けられず、rice と言うべきところを lice と言ったからと言って、シラミを山盛りにして盛ってくることなどあるでしょうか。もちろん、r と l をきちんと言えるに越したことはありませんが、そんなことよりは、英語の場合、一定間隔で来るビートに大事な単語を乗せられるようにする方がよほど重要だと思います。
話し言葉としての英語の命が英語独特のビートであることは過去の記事で何度か取り上げていますが、ともかく英語をきちんと話し、聞き取るためには、このビートがどういうもので、それに乗って話し、聞く練習をすることが不可欠です。この点、日本語は同じ長さの音節を並べてしゃべる言葉なので、こういうことに意識を向け、きちんと勉強しないとなかなか英語が身につきません。それだけに、英語のリズムだとかセンテンス内でどこを強めるかというセンテンスストレスの問題を正面から取り上げることのないわが国の英語教育を見ていると、英語がどういうものかを知らないまま教えているような気がしてなりません。
実際、一定間隔で来るビートが基本単位である、英語らしい英語しか知らない人は音節をたらたら並べる方式で英語を話されるとわからないものです。例えば、有名な話としては、インドの故インディラ・ガンジー首相は、国際会議でのインド代表の英語を聞いても何を言っているのかわからず、英語教育の見直しを指示したと言います。ガンジー首相はオックスフォード大卒ですし,インドの支配階級はだいたい子供の頃からイギリス人の家庭教師がついていたりしますから、きちんとした普通の英語の使い手でしょう。そういった人には、ビート単位ではなく、音節を並べて、ブンブラブラブラブラと平板に流すインド流の英語がわからなかったのです。
またシドニー大学で外国語としての英語を教授する課程を担当していた Corrine Adams という研究者は、自国語のアクセント丸出しの英語で話す英語教師たちと接した経験から、リズムが英語固有のものでないことから独特のアクセントが前面に出るのだとする一方で、英語にとっていかにリズムが大事かを強調してこう言っています。(出典は1979年と、ちょっと古いのですが、English Speech Rhythm and the Foreign Learner というAdamsの著作です)
[I]f--as I believe-- the rhythmic impulse is the primary phonological fact of language, it follows that command of rhythm is the key to mastery of the spoken language, and inadequate control of this feature, the ultimate barrier to fluency and comprehensibility at all levels of usage.
私が考えるとおり、音韻論から見た場合、リズミカルなビートがもっぱら英語を決定づける要素だとした場合、リズムを会得することが話し言葉としての英語をマスターする上での鍵になると言える一方、どのような状況であれ、これが不十分だと、むやみにつっかえることなく、かつ、意味が通じるように話そうという場合、最終的に障害となる。
実際、Adams は、どのタイミングでビートを打つのか、そこに大事な単語を乗せるのかがわかっていないと、非英語的なリズムとなり、言っていることの意味がわかるか、通じるかという側面で大きなマイナス要因になるとも説いています。
このように話し言葉としての英語は何と言ってもリズムです。すなわち、the music of English を会得できるか、それに乗って英語を話すことができるか、聴き取ることができるかが何よりも大事であり、それと比べたら L やら R やらはどうでもいいことであり、そんなことに精力を割くよりは一刻も早く、リズムに目を向け、その習得に努めるべきだというのが私の考えです。
英語を勉強しようという人は誰しもコミュニケートしようと、つまり英語を使って何かをしようというのですから、そうである以上、コミュニケーションの場で問われるはずもない個々の音の発音の区別などより、英語が stress-timed と呼ばれる独特のリズムを刻む言語であり、その点で日本語やフランス語などと違っていることに気づき、それに合わせたスキルを磨く方が先決問題です。
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初めて拝読いたしました。
目から鱗が落ちました。
当方、アメリカで大学院留学二年目を迎えている者です。二年目とはいえ、相変わらず英語はしゃべれるようになっていません。無論、暇さえあれば、家でコツコツと発音練習をしてはいるのですが、先日も、ESL の授業で「あなたは個々の単語の発音はとてもいいけど、センテンスストレスが無いのがダメ。どこも同じストレスなので、ロボットがしゃべっているみたいになっているのよ」と注意を受けました。
そこで、発音練習のやり方を変えなきゃならないな、と思っていたところ、今しがた、日向さんの文章を読んで、ハッとさせられました。
そういうえば、家での発音練習は、個々の単語の発音の練習に終始していて、RLの違いなんかに拘りまくっていた気がします。
それに、他の外国から来た留学生たちは、個々の単語の発音はメチャクチャなのに、英語での会話に苦労していません。彼らもセンテンスストレスを会得しているのだと思います。
そこで、質問ですが、センテンスストレスに特化した練習は、どのようなものがあるでしょうか?愚問かもしれませんが、具体的に教えて頂けると幸いです。必ず実践しますので。
[返信]
コツは「ビートが来る音節はそれらしくビートをきちんと打つ」ことと、常に一定間隔でビートを刻むようにすることです。
「ビートをそれらしく」響かせるためには、その音節の部分の発声量ないし音量を二倍にする方法がわかりやすいと思います。ビートを一定間隔で刻むには、one two three four と一定間隔で言う練習を繰り返してから、次に and をはさみ、できるようになったら、and a をはさみ、最後は、one "and then a" two "and then a" とand then a をはさむ練習です。これができるようになれば、センテンスストレスがどういうものかがわかってくると思います。
あとは、このブログのバックナンバー中のスピーキング/リスニングの項にいろいろとヒントになることが書いてありますので、機会があるときに通読してみてください。
- 津島修治
- 2009年11月 3日 09:45
上の方々に同意です。LとRの違いはあくまでも英語の発音を学ぶ上での一つのファクターにしか過ぎません。SH/TH、AW/OW/,AR/ER/ORなど、日本語にない発音は結構あり、これらを含む単語をリストアップすると結構な数の単語が出てきます。
私の知り合いのアメリカ人は、地元の教会の施設にて、ESLの生徒に毎週、英語を2時間ほど教えていますが、彼女は発音が微妙に似ていたり、まぎらわしい単語を2-3語リストアップして、生徒に発音させています。row/raw, heat/hit, sheep/ship, gnaw/knowなどなど。これらは、単にLとRだけの違いが識別できていても、意外と発音しにくいものです。特に、文の中で出てくるとなおさらのことです。当然のことながら、単に一単語だけでなく、一文をすらっと言えるレベルになっている必要があります。
よく、大人になってから(特に20代後半から30過ぎ)では発音はどうにもならないという人の声を聞きますが、こういった人たちはリズムやシンコペーションの概念を見落としているケースが非常に多いのではないかと思います。音読やシャドーイングの訓練が英語力向上に効果的なのは、英語を話す上での基本となるリズムやストレスを鍛えるのに有効だからでしょう。どうも、日本人学習者の多くは、L/Rの違いを余りにも必要以上にこだわり過ぎている感がありますね。
[返信]
海外留学生さんを含め、本物の英語に触れたり、実際に使っている人がこの問題につきほぼ同意見であることを見ると、やはりLとRにこだわることの多い、学校英語あるいは会話学校英語というのは特別なジャンルなのでしょう。
- 海外留学生
- 2009年7月 6日 09:47
日向さんこんにちは。
当方は在米17年になりますが、このLとR(SとTH含めて)勘違いで会話が進んでいった、というのは1回だけでした(”全くありませんでした”というコメントより信憑性があるとひそかに自負していますが...)
ある時にアメリカ人同僚と車で出張移動していました。当方が運転、相方のアメリカ人は助手席です。相方が手帳を取り出し、なにやらぶつぶつ言っています。やがて以下会話となりました。
”Ichiro, can I borrow your 〔レッド〕pen?"
"Hhm, sorry, I don't have any red pen. Do you need some other?"
"Oh, I mean a lead-pen."
と、鉛筆(Lead-pen)と赤色ペンを当方が取り違えたのでした。しかしそれもすぐに気がつきましたが。
こちらから発して間違って受け取られた事は皆無でした。それは実際の英語、会話というのは聞き返し言い返しが存在するからです。
当方も発音には気をつけていますが、話し始めるとすぐ元に戻ります。毎日会社では”アブナイ”事例は山ほどあります。
Late shipment(Shipping rate)
Load it on the truck(The truck on the road)
Long rod(Wrong rod)
Correct issue(Collect issue)
しかしこれで、間違えて会話が進んでいったという事はありません。これは、当方の人徳のなせる業か、エントリーにもあります生きた会話では会話のリズム、ビートが効いている、のどちらかでしょう(前者はJoking)。
日向さんは、英語教育関係におられるようですので「LやRなんかどうでもいい、と思います」とやや間接的ですが、在米17年の英語生活者は「LやRなんかどうでもいい!!」と言いたいです。
[返信]
「こちらから発して間違って受け取られた事は皆無でした。それは実際の英語、会話というのは聞き返し言い返しが存在するからです」とおっしゃている点、一番大事なところだと感じました。
多くの研究者が引用する偉い人などは、このように聞き返したりして障害を除く技術を strategic competence と称して、正しい単語や文法を使うスキル、その状況に合った言い方をするスキルと並んで,コミュニケーションを進める上で必須のスキルだと言っているぐらいです。
挙げられた危ない事例、いずれもたしかにぱっと見は危ないけれど、聞き手の方だって「あれっ」と思って確かめますよね。少なくともビジネスでは。
いつも有益情報、ありがとうございます。またのお越しを楽しみにしています。
ではまた。
- いちろう
- 2009年6月30日 17:58
>「 L や R が言えるようになるかも」
今回の話の趣旨とはずれるのですが、そもそも大人であってもLとR、そしてsとthのような子音だけを発音し分けること自体は一時間もあればできると思います。難しいのは、聞き分けです。ご存じの通り、日本語ネイティブは同じサ行でもサスセソとシでは別々の音を割り振っていますが、でもこの音の違いを聞き取ることはできません。つまり、通説とは違って、必ずしも「発音できるから聞き取れる」わけではないのです。発音関係の記事を見ていると、発音と聞き取りがごっちゃに成ってるなと感じることが多いです。
後、記事の内容に関しては、賛成半分反対半分という感じです。確かに僕自身も音声学の授業を受けた時にリズムに乗っていれば聞けるし通じると言うことは習いました。でも、最近スペイン語をやっていて、個々の音がきちんと聞き取れる方が圧倒的に学びやすいなと感じます。フランス語を学習したとき、tuやleurのような日本語にない音を発音したり聞き取れるようになるのにかなり苦労したので。
ですから、個々の音を無視してリズムだけ習うと言うのではなく、個々の音にある程度注意をさせつつ、リズムを教育に取り組んでいくと言う風に学べればいいのかなと思います。
後、「日本人がふざけて「英語のものまね」をするときには L や R をまねるのではなく、「拍・脈」をちゃんと大げさに入れる」のは、拍や脈の概念は日本語にあるのでなんとか物まねの対象になるのに対し、LやRはそもそも日本語にないので物まねの対象にならないだけではないでしょうか。
[返信]
コメントありがとうございます。
LとRを細かく識別して発音できなくてもいいじゃないと言ったのは、もちろん飽くまで stress-timed である英語に関しての話です。個々との音節を等しく大事にするsyllable-timed であるフランス語やスペイン語に当てはまる話ではありません。
あと、中国語も、おそらくは syllable-timedに区分されるのでしょうが、中国語も子音を対応する母音との組み合わせごとにきちんと言えるかは大問題だと承知しています。
なんであれ、いろいろな言葉に触れて比較対照し、それぞれの違いを考えるというのは複数の外国語学習を経てこそ楽しめる独特の世界で、楽しいことだと改めて思います。
もうちょっと複言語学習が進んだら、ビールでも飲みながら、お話をうかがいたいものだと思っています。
- 井上大輔
- 2009年6月29日 22:54
こんにちは。
まったくそのとおりだと思います。
日本人がふざけて「英語のものまね」をするときには L や R をまねるのではなく、「拍・脈」をちゃんと大げさに入れるのですけど...。
自国語に存在しない(あるいは希薄な)概念(英語の pulse など)をきちんと攻略対象として考えるのは大切だと思います。
[返信]
Shira さん、さっそくの支持票、ありがとうございます。
- Shira
- 2009年6月29日 15:02

通訳者ですが発音の件については全く同感です。
東南アジアではVとFがはっきりしなかったり、また英国人でもHの音が発音されなかったり個々の発音は重要ではないとは思いませんが、モット大事なものがあると思います・
長年通訳養成校の講師も務めていますが、TOEIC900をとる生徒さんでも、簡単なフレーズを落とします。何故ならば英語が弱のリスムの時の聞き取りが出来ないからです。例えばas,if等の接続詞がきちんと取れなかったりします。
英語のリズムを体得する上でシャドーイングやフォローアップを腹式呼吸を意識しながら行うことを生徒さんには勧めています。
また日本語の語尾に(カタカナ語でも)母音が残ることも英語の聞き取り能力にマイナズに働いていると感じています。例えばand it のような簡単なものでも聞き取れない人は意外と多いのが現状です。小学校のローマ字教育の弊害かなと感じています。
[返信]
プロとしてのご経験に裏打ちされた貴重なコメント、ありがとうございます。おっしゃるとおり、口では「強弱」と言っても、体でわかってくださる方が少ないわけで、そんなことから、「強」の部分は音量ないし発声量は二倍にするといった「簡便法」に頼りたくもなります。