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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2009年7月24日

「知性がない」は unintelligent なのか

24日付の産経ニュース(オンライン版)に「『知性、良識ないのは北政府』 米国務省がヒラリー批判に反論」という記事があり、この「知性」は intellect のことだろうか、intelligence のことだろうかと疑問を持ちました。

日本語で言う「知性」は『明鏡国語辞典』によれば「感覚によって得られた物事を認識・判断し、思考によって新しい認識を生み出す精神の働き」ですから、英語で言えば、intelligence よりは intellect のことです。

一方、英語の intelligent は、『ロングマン英和辞典』によると第一義は 「聡明な、頭がいい、知能が高い」ですから、われわれが、あいつは「頭がいい」「頭が悪い」と言うときの「頭」が intelligence に相当すると言えます。

なにはともあれ問題の記事の本文はワシントン発の有元隆志記者によるもので、こうなっています。下線は私が付けました。

北朝鮮外務省報道官がヒラリー・クリントン米国務長官を「全く知性が感じられない」などと非難したことについて、クローリー国務次官補(広報担当)は23日の記者会見で、「知性がないこととは、北朝鮮政府が歩もうとしている道のことだ。行き詰まりをみせており、北朝鮮の人々を惨めな未来に追い込もうとしている」と反論した。

北朝鮮政府の選択を指して、「論理的思考をする能力に欠けている」と言っているようなもので、なんだろうなと感じます。

そこで国務省のブリーフィングを見ると、そのくだりはこうでした。

まず、記者団から、北朝鮮側から長官に対して非常に個人攻撃的な色彩の強いコメントがあったが、それに対してクリントン長官から何か反応はあったのか、あるいは国務省として何か言いたいことはあるのか、という問いがあり、それに対して、まずは、国民のために食糧を生産する代わりにミサイルを作るというのは良識に欠けていると思うというコメントをし、次いで、以下のように発言しています。

And what is unintelligent is the path that the North Korean Government has chosen. It’s a dead end, which dooms the North Korean people to a dismal future. (そして賢明でないのは、北朝鮮政府が選んだ道です。出口のない道であり、北朝鮮国民の将来を確実に真っ暗にする道です)

要するに記者が「知性がない」と訳した元の英語は unintelligent だったという話です。

しかし、この訳し方は間違っていると思います。unintelligent というのは、平たく言えば「馬鹿げている」であるものを、「賢明でない」とちょっと「格上げ」した言い方に過ぎないからです。

そもそもクリントン発言をめぐる応酬を見ていれば、ここでのキーワードが intellect ではなく、intelligence であるのは明らかで、「お前は馬鹿だ」「いや、そっちこそもっと馬鹿だろうに」とやりあっているのですから、そこに「知性」がどうのという話が登場する余地などないはずです。

実際、23日付のロイター電は、こう伝えています。

North Korea, bristling at being described by Clinton this week as behaving like an unruly child, responded in kind on Thursday, calling her vulgar and less than clever. The North's KCNA news agency quoted a Foreign Ministry spokesman as saying her comments "suggests she is by no means intelligent". (今週、言うことを聞かない子供のようなものだとクリントンに言われて歯噛みしていた北朝鮮は、木曜になって、同じような調子で批判を投げ返し、クリントンを指して、良識がなく、賢明とは言いがたいと評した。北朝鮮の国営通信は、クリントンのコメントからは彼女が決して利口な人間でないことがうかがわれるとした同国外務省報道官の発言を報じている

このくだりは、新聞各紙に載っている北朝鮮側のクリントン評つまり「彼女は時として小学生のようでもあり、買い物をしている年金暮らしのおばさんのようでもある」(Sometimes she looks like a primary schoolgirl and sometimes a pensioner going shopping) という反論の前段に当たるのですが、またまた「そうだったのか」と妙に納得したのが、最後の "suggests she is by no means intelligent" という部分。これが冒頭の産経の記事にあった、「全く知性が感じられない」という北朝鮮発言の英語に相当するからです。

ここでもやはり、intelligent を「知性」として処理しているわけですが、上で述べたとおり、翻訳としては失敗しています。

なるほど日本語の場合、控えめな表現を好む国民性を反映してか、悪口の表現があまり豊でなく、その分、悪口の表現に凝ったりする英語を訳す場合に苦労するのでしょう。しかし、英語の資料を見聞きして日本人に伝えるプロなのですから、形容句の強弱の使い分けぐらい見分けてもらいたいものです。

強弱というのは、例えば、英語で、unintelligent と less than intelligent/clever とどっちが穏やかなのかといった話です。こういった場合、穏やかなのは後者に決まっています。会議の席上、相手にどきっという思いをさせたければ I disagree. と言い、和らげて普通に言いたければ、I don't think I agree. とするのと似たような感覚です。

こう書いてきて、intelligence と intellect 、さらには、intelligence と intellect を備えている人つまりインテリと知的な人との違いは何なんだと気になってきました。次回、ちょっと考えてみようと思います。


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