2009年8月17日
10歳の少年記者の語彙力
アメリカのメディアでオバマ大統領の就任式以来、Damon Weaver という少年記者がおりおり取り上げられています。就任式の会場で目立っていたからか、おもしろがられてなのか、ともかく、その後、何かにつけ大手メディアが取り上げ、そのたびに Damon 君「ぼくの夢はオバマ大統領にインタービューすること」と強調するのがお約束ごとでした。それが効を奏したようで、とうとうオバマ大統領に招待され、ホワイトハウスでのインタビューが実現。この Youtube 、www.whitehouse.gov に掲載されていましたが、まずはご覧ください。
[インタビューのスクリプトをご覧になりたい方は、こちらにをどうぞ]
これを見ていて驚くのがこの10歳の少年記者のしゃべり。もちろん、学校の先生が添削し、リハーサルもするのでしょうが、きちんとしています。
どんなことを言っているのかがわかるよう、Damon のしゃべりの部分だけを抜き出すと、こんな感じです。テレビや新聞のアメリカ駐在員でも、(帰国子女は別として)これに太刀打ちできる人は少ない、いや、いないだろうというのがわたしのカンです。
Damon Weaver: I've heard that you would like to make an announcement about education. Can you tell me about the announcement?
President Obama: Well on Sept. 8 ...
Damon Weaver: All across America, money is being cut from education. How can education be improved with all these cuts?
President Obama: Well, we actually...
Damon Weaver: I live in Pahokee, Fla., which is a kind of poor town. What can be done to improve education for students that live in towns like mine?
President Obama: Well, unfortunately...
Damon Weaver: I've learned that your mom always made sure that you were doing well at school. What should parents do to make sure their child's education is better?
President Obama: Parents are...
Damon Weaver: Do you have the power to make the school lunches better?
President Obama: Well, I remember that...
Damon Weaver: I suggest that we have french fries and mangoes every day for lunch.
President Obama: See, and if you were...
Damon Weaver: I looooove mangoes.
President Obama: I love mangoes too, but...
Damon Weaver: I notice as president you get bullied a lot. How do you handle it?
President Obama: You mean...
Damon Weaver: Were you ever bullied in school?
President Obama: You know, I wasn't...
Damon Weaver: What can kids to do make our country better?
President Obama: I think...
Damon Weaver: Everybody knows that you love basketball. I think it would be cool to have a president who could dunk. Can you dunk?
President Obama: Not anymore. I used to when...
Damon Weaver: My buddy Dwayne Wade promised me if you gave me the interview he would play you in a one on one basketball game, but he's not sure if he would let you score. Would you be willing to play him in a one-on-one basketball game?
President Obama: I would play Dwayne Wade, and...
Damon Weaver: What is it like to be President of the United States?
President Obama: Well, it's...
Damon Weaver: In my town, Pahokee, I've seen a lot of shootings and fights. What are you going to do about violence and to keep me safe?
OBAMA: Well, I think that....
Damon Weaver: I know that you're busy being the president, but I would like to invite you to my school, Canal Point Elementary School because there's a lot of good things going on there that I would like you to see.
President Obama: Well I hope that...
Damon Weaver: When I interviewed Vice President Joe Biden, he became my homeboy. Would you like to become my homeboy?
President Obama: Absolutely...
Damon Weaver: Thanks for making my dream come true, Mr. President.
President Obama: Well I appreciate it. You did an outstanding job. I look forward to seeing you in the future.
これを読んで、語彙力という角度からはどうなんだろう、どの程度のレベルなんだろうと気になり、Damon のしゃべりの部分だけを Vaocabprofilerでチェックしてみたところ、結果はこうでした。ブルーの K1 Words はテキストに出てくる最頻出上位1,000単語、K2 Words はその次の1,000単語を表しています。

まんなかの 1k + 2k と表示してある部分にあるとおり、基本2,000単語で92%がまかなわれています。残り8%というのは、Damon 君の故郷の Pahokee とか、バスケットボール用語の dunk といった特殊な単語がほとんどです。使いこなすのに必要な最小限の文法を含め、2,000単語使いこなす力があれば、アメリカ大統領へのインタビューもこなせるということです。過去完了や関係節を理解すればいずれ会話力に結びつくなどと非現実的なガラパゴス英語を押し付けず、学校教育で基本2,000単語をきちんと教えれば、この程度のコミュニケーションはこなせるという何よりの証拠ではないでしょうか。
ところで、この数字を見て別の意味で驚いたのですが、ネット上、さまざまな所で引用されている子供の語彙力のデータがあります。これによると Damon のような10歳児の平均的語彙レベルは30,000単語で、これだけを見せられたら、すごい!と驚きます。しかし、今回のインタビューで使っている語彙レベルは基本2,000でまかなわれているわけで、結局、実際問題としては、そのレベルで十分やって行けることがわかります。
改めて2,000単語の基本レベルさえおさえておけば十分コミュニケートできることを再認識させられました。
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Comments
大変興味深く拝見しました。シンプルな語彙とDamonくんの発音に大いに興味を持ちながら、(おっしゃるように事前の準備はあるにしても)これだけの質問を大統領にぶつけて堂々と渡り合える「人間力」とでもいうのでしょうか、そこに関心しました。
翻って日本での学生時代を思い出したのですが、あるとき私の大学で当時の西ドイツ首相が講演をすることになり、私たちドイツ語学科生は全員参加しました。質疑応答の際に、唯一まともな質問をしてまともなやりとりをできたのが長年ドイツで育った帰国子女の院生だけ。あとは日本人らしくもじもじと誰も質問すらしなかったのですが、最後にあえて手を挙げた同級生が聞いたのが「お好きな日本食はありますか?」
お愛嬌としてこれはこれでいいとしても、私を含めて当時の学生たちが首相のお話の内容にまったく反応できなかったことを、情けなく思い出した次第です。質問には通訳を使ってもよかったので言葉の問題ではなく、単に関心や問題意識がないのと、responsiveでない、ということだったのかなあと。これも彼我のeducationの差なのでしょうか。
[返信]
「これも彼我のeducationの差」というのが答えだと思います。Damon君のインタビューぶりを見ていると、
I've heard that...Can you...
I've learned that...What should...
In my town...What are you...
というふうに、the language of asking questions がわかっているわけで、だからこそ臆することなく、この場に臨めるのではないでしょうか。
逆に文法と単語の学習をもって英語の学習とする日本式で育ち、コミュニケーションの場面に応じた language という問題意識のない人は、以下の記事でご紹介した、外国で恥を書くお役人のようなことになるのがオチです。
http://eng.alc.co.jp/newsbiz/hinata/2009/08/post_590.html
- maki
- 2009年8月19日 11:57
私は日本の会社で評価軸にされるTOEICで900から930点くらいの29歳サラリーマンです。さすがに本日の文章を読んで辞書を引くことはないのですが、How can education be improved with all these cuts?みたいな自然な受動態の言い回しはできないなあ、きっとhow can you improve education although there are all these cut?にしちゃうんだろうなと感じます。
What is it like to be President of the United States?
もしかり、how do you feel being...としてしまうんだろうと感じます。
少年の言い回しの自然さと、私の文章の硬さ/不自然さのギャップはなんなんでしょうか?Rachさんのブログのように、会話のスクリプトを使って母国語を話す人たちのリズムや言い回しを千本ノックする必要があるんでしょうか。
[返信]
ビジネス界では「伝票を起こす」といった独特の言葉の使い方をするわけで、専門家は、このような言葉の使い方に特異さが認められる言語生活上の領域を domain と言っています。この少年記者の場合は、インタビューの録画や筆記録を通じて、インタビューの世界の言い方を研究しているはずで、インタビューの世界という domain で見られる言葉の使い方 (language) をまねした賜物と考えます。ですから、祐介さんも、目指す分野がどういうものなのかを意識された上で、その方面での定型的な言い方としてどういうものがあるかを研究し、真似すれば、自然な英語に近づくはずです。
Rachさんのブログが扱っているのは、商談のような一定目的があり、それに合わせた会話をするといった合目的的会話と言うよりは、格別目的がなく、ただよき人間関係を構築し、維持するという interpersonal な会話の世界であり、話の進め方、さらには切り返し方などのリアクション、あるいは、使われる言い回しなど英語での会話の王道に当たるものですから、そのことだけでもおおいに研究し、真似する価値があります。
- 祐介
- 2009年8月17日 14:35
日向様
いつも興味深く読ませていただいております。
語彙数2000語のみでできちっとした伝達ができるかという点について質問があります。我々がアクティブに使用されている語数は日常会話ではせいぜい数百語でしょう。従って2000語もあれば十分立派なコミュニケーションができることは想像に難くありません。その語彙がアクティブか否かが問題だと思います。我々が日常使用している500語のアクティブ語彙の背景には少なくともその数十倍の人生経験を含むパッシブ語彙があることが前提となっていると思います。500語を使いこなすことができる年齢といえば10歳程度でしょうがこれらの子供が我々と同じレベルで会話ができるとは思いません。論理思考が未熟であることが大きな理由の一つでしょうが、聞いて理解のできるパッシブ語彙の不足も大きな一因と考えます。
2000語をじゅうぶんに使いこなせるようにすべきであるという主張には大いに説得力がありますが、使うことはできないが聞いてわかるというパッシブ語彙についてどの様なお考えをお持ちでしょうか。
[返信]
コメントありがとうございます。2000単語で「まかなわれている」とか「このレベルをおさえる」ということの意味はおっしゃるとおり、アクティブな運用能力があること指しています。
おたずねのパッシブ語彙の問題は、何を指して「単語を使える」と言うのかの問題ですが、ノッティンガム大学のSchmittは、以下の Vocabulary in Language Teaching というペーパーで、アクティブ対パッシブという構図は素朴に過ぎるとしています。
http://assets.cambridge.org/052166/0483/sample/0521660483wsn01.pdf
一方、多くの研究でパッシブ語彙がアクティブなそれより大きいらしいことはわかっていても、どういう関係にあるのかは未解明というのがわたしの理解です。そうしたなか、NationはLearning Vocabulary in Another Languageの中でLaufer の研究を紹介し、English as a Foreign Language ということで勉強している人々の場合、English as a Second Language として勉強している人に比べ、アクティブとパッシブの差が小さいのは、後者の人々の場合、生活の中で英語のインプットが多い分パッシブが増えるのに対して、前者では、積極的に形式面から単語を習得するのでアクティブとパッシブの差があまり開かないのだろうとしています。そうとすれば、パッシブにウェイトを置けば、おのずとその一定割合がアクティブになるという発想よりは、最初からアクティブ化を目指しての学習がものを言うと言えそうです。
- mamo
- 2009年8月17日 11:57

日向先生
コメントでは大変ご無沙汰しておりますが、毎回、先生の興味深い記事を楽しく拝読させていただいております。
上のコメントで、祐介さんに拙ブログについて言及していただいたこと、またそれに対して、日向先生からいつもながら好意的な評価をいただけましたこと、誠に光栄でございます。ありがとうございます。
日向先生の「この少年記者の場合は、インタビューの録画や筆記録を通じて、インタビューの世界の言い方を研究しているはず」というご見解、全くその通りだろうと私も思います。何もかもを自分で作り上げるのではなく、素晴らしいインタビュアーの立派なお手本を「研究」し、それを「まねる」ことで、あぁ、インタビューとはこうやって進めていくものなのか、ということがだんだんわかってくる、ということですよね。
英語を学ぶ場合に、何かを丸暗記しようとする学習者も多いように思いますが、やはりただの丸暗記では、想定外の会話についていけなくなりますよね。日向先生のおっしゃるように「研究」した上で「真似する」ことが必要なのだと思います。研究対象となる英語をじっくり観察して、いろんなことに気付く、それを自分の中で消化した上で真似していかないと、いつまで経っても、取ってつけたような借り物の言葉でしかないような気がします。「ああ言えばこう言う」という言葉のキャッチボールの感覚は、そういう会話例にたくさん当たることでしか養えないように思います。
これからも多方面に渡る記事を楽しみにしております。
[返信]
「ああ言えばこう言う」の宝庫の中で暮らしているも同然のRachさんがうらやましいことです。いっぺん Discourse Analysis の本をお読みになって、あらためてフレンズをご覧になるといろいろ発見があっておもしろいのではないでしょうか。