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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2009年8月15日

TOEICこぼれ話

8月11日にジャパンタイムズが TOEIC に関しての楽屋落ち的な特集記事を掲載しています。

TOEIC no turkey at 30という記事 で、タイトルは、30周年を迎えたTOEICが押しも押されもしない存在に成長していますという意味のものです。

リードの部分は、1979年に3,000名の受験者でスタートしたTOEICが、受験者の約1/3がリピーターということも手伝って、延べ受験者数が170万人になっているとして、TOEICビジネスの規模の大きさを印象づけた上で、TOEICサイドは、ここまで成長できた要因を、経済情勢やコミュニカティブ英語への関心といった外部的なものに求めているが、その裏には表立って取りざたされない人間ドラマがあるのだと切り出します。

そして、これを受けて、草創期の苦労談が紹介されています。北岡靖男氏と三枝幸夫氏とが語らって日本人のための英語検定を構想し、アメリカの業者 ETS に協力をあおいだところ、先方が日本サイドの受け皿として公益法人を求めたので文部省(現在の文部科学省)に相談したら既に英検に肩入れしていた同省からはむしろ邪魔者扱いされ、困って元通産官僚の渡辺弥栄司氏の協力をあおいだらうまくやってくれたという流れです。

このあたりの事情につきジャパンタイムズの記事は、渡辺氏本人はインタビューの申し入れに応じなかったが、

his memoirs describe how he overcame Ministry of Education opposition to the TOEIC by taking cover "behind the ministry of trade shield" (その自伝にはいかに「通産省を盾にして」TOEICに対する文部省の抵抗を排したかが記されている)

とあったので、確かめたいとの思いから、この部分を調べたら、なんとありました。「波打ち際の考察」というブログで、直接、渡辺氏の本からこう引用していました。

『125歳まで、私は生きる!』の文庫本p106には下記のように書かれている。
「TOEICを普及していくには、文部省(現文部科学省)の障壁があまりにも大きかった。当時、教育産業への参入には厳しい規制があり、いとも簡単に潰されかねなかった。
私は一計を案じ、古巣の通産省を巻き込むことにした。貿易振興・輸出増進のために、日本企業に対し英語教育による人材の育成を図るという名目で、通産省に許可を求めた。つまり、通産省を後ろ盾にすることを考えたのである」

ちなみに、このブログにはTOEICの会長がらみのゴシップが載っていました。なぜか写真週刊誌「フライデー」の標的にされてしまったようです。

それはともかくジャパタイの記事は、草創期の話に次いで、TOEICを制作し、日本側にライセンスしている ETS に関心を向け、日本と韓国での大成功で利益があがりすぎ、ETS の非課税法人としての地位を危うくするおそれがあったために営利法人である子会社に事業を移管したいきさつなどに触れています。

この中でおもしろいと言うか、目を引いたのが、TOEICの実施団体である、経済産業省が所管する財団法人、国際ビジネスコミュニケーション協会 (IIBC) の話。TOEICを受験されるみなさんが納める受験料はここに集まる訳ですが、会長は元通産省(現在の経済産業省)の商工局長ですから、「官庁の高官が、その官庁に監督される民間の団体・会社に移ること」(三省堂国語辞典)という定義に従う限り、TOEICの広報担当者が言うように「天下りではない」とする方が無理でしょう。ただ、普通の天下りと違ってすごいのが、この渡辺さんという現会長、なんと、1986年の協会設立当時に会長に就任して以来、92歳になる今に至るまで、ずっと会長の職にあることです。

そして、ジャパンタイムズの記事の最後のほうに会長(渡辺弥栄司氏)みずからブログに、こう書いて、中学や高校にまでTOEICを普及させたいものだと熱く語っているとありました。

Just imagine what it would be like if TOEIC spread to junior high and high schools all over Japan. The results would astonish people around the world. Japan would rise like a phoenix from the ashes, and Japanese women and men would begin to play more important roles on the international stage.

そこで、ネットで、「渡辺弥栄司 ブログ」をキーワードに検索したところ、トップでヒットしました。渡辺氏の「美しい人生」というブログが。

上の英文の元となった和文の記事もあり、対応する部分は、こうなっています。

TOEICを中学生、高校生に普及することがもし実現できたらと想像してみてください。

世界中の人達がびっくり仰天するようなことが起こるにちがいない。

日本が不死鳥のように立ちあがって、日本の女性と男性が世界中で大活躍するのが目に見えるようだ。

皆さんもTOEIC®を受けてみてくださいね。

ここでふと気づいたのが問題になった漢字能力検定協会との共通点。あの大久保なんとかという理事長は、創設当時から30年という長期政権。TOEICの会長さんも、もう20数年。ここまではちょっと似ています。

ところが「もうけ」の度合いを見ると,様子が違っています。漢字検定が公益法人なのに「もうけすぎ」という指摘がことの発端でしたが、あれは、たしか3年か4年かで20数億の利益という話(収益は年間60億−70億円程度)。

それならTOEICの方はどうなんだろうと思って、TOEICの主宰団体である国際ビジネスコミュニケーション協会のホームページで平成20年度の決算書を見ると、おおざっぱな話、平成20年度は72億入ってきて、66億出て行ったので6億のもうけ。平成19年度が65億入ってきて、64億出て行ったので、1億のもうけ。収益ないし年商レベルでは漢字検定といい勝負ですが、まあ、公表されている数字で見る限りは「もうけすぎ」と批判されることはなさそうです。

ただ、ちょっとおもしろかったのが4人しかいない常勤役員の報酬が大体8,000万円という数字。うんと入って来ても、社長と専務(たいていは奥さん)がぜいたくな社用車、社宅、そして接待で使いまくって赤字すれすれにしておき、それでいて役員報酬はしっかり頂戴するというわが国の(ある種)典型的な中小企業にそっくりの構図です。

一方、1億の元手がおよそ20年で60億近くになっているのはあっぱれです。この点は、意地悪く見ると、並の営利法人を上回る商売上手なわけで、これで何で公益法人なのと言いたくなります。まあ、株式会社に改組すると株主の意向を気にしなければならないわけで、この点、公益法人ならよほどひどいことでもしない限りは監督官庁からとやかく言われずに済みますから、楽は楽なんでしょう。

しかし、考えてみると、これだけのTOEICブームなのに、その受験料収入で潤っている団体が表舞台に立とうとしないのも不思議と言えば不思議です。新聞広告で大々的に「世界基準」をうたっているだけに、日本人が発案し、アメリカの業者 (ETS) に発注したしたという生い立ちには触れられたくないのでしょうか。

そう言えば、このジャパンタイムズの記事、英語検定としてのTOEICの国際的知名度は低く、ドイツの場合、聞いた事があると答えた教師は2.8%しかいなかったという、ショッキングな事実を挙げていましたっけ。

余計なところを突っついたりするのでメディア関連の露出は努めて避け、もの言わぬ受験生のみを相手とする姿勢はライセンサーの ETS にそっくりと言えばそっくりです。


続編はこちら

追記:読者の方から決算書を見ても相当な売上があるはずの公式問題集の分が見当たらないというご指摘がありましたので、ちょっと調べてみたところ、発売元は国際ビジネスコミュニケーション協会 (IIBC) ではなく、別組織の(株)国際コミュニケーションズ・スクールになっています。そしてこの何とかスクール、上で紹介したブログ「波打ち際の考察」が日刊ゲンダイ経由で引用している「フライデー」の記事によると、TOEICの普及業務を独占的に受注している会社だそうで、しかも、なんと、この会社の取締役が理事ポストをすっ飛ばしていきなり国際ビジネスコミュニケーションの理事長に収まったとのこと。記事はこの理事長人事が会長がらみの情実だと言いたいようですが、ことの真偽は別として、問題集の不自然な売り方をも考え合わせると、公益法人が自分たちの言いなりになる営利企業を迂回する形で何かやっていると言われても仕方がないように思えます。


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Comments

渡辺さんが退職しました。
http://www.toeic.or.jp/iibc/info/member.html
退職金はいくらぐらいだった?

[返信]

情報、ありがとうございます。突如の値下げと言い、この退職と言い、何があったのでしょう。

日向先生

お久しぶりです。上の記事中の「もうけすぎ」と関係があるかもしれませんが、TOEICの受験料が値下げになりました。ちょうど昨日発表になったばかりのタイムリーな話題なのでコメントさせていただきます。
http://www.toeic.or.jp/info/017.html

この値下げ、どうも腑に落ちないところがあります。
もう既に申し込みを締め切った9月のテストから値下げが適応されるという点です。
約10万人の受験者全員に630円を返金するそうです。
返金手数料と事務処理のことを考えたら、まだ申し込みの始まっていない11月の試験から値下げするのが妥当だと思いますが、何か慌てて値下げをしなければならない事情があったのでしょうか。気になるところです。

[返信]

なるほど、何だか妙な展開ですね。しかも「強引」な値下げ法は、「お上」の影を感じます。やはり同じく公益法人である漢検での騒ぎが影響しているのではないでしょうか。

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