2009年9月24日
鳩山演説 vs オバマ演説
今回の国連での鳩山演説とオバマ演説を比べると、日本人が公の場で英語を使うときのクセとでも言うべきものがわかります。簡単に言えば、むずかしい単語が多すぎる一方、英語らしいリズムがないということです。
まず、鳩山演説とオバマ演説で使われている単語の分析表をご覧ください(VocabProfilerを使ったもので、結果の転載については権利者の許諾を得ています)。K1 Words が最頻出上位1,000単語、K2 Words がその次の1,000単語を表しています。AWL Words は Academic Word List 上の単語ということです。
オバマ演説

鳩山演説

両者を比べてわかるのは、オバマ演説の85%が基本2,000単語 (1k+2k)で占められており、わかりやすいのに対して、鳩山演説の場合、基本単語は 77% どまりで、その結果、こむずかしい感じになっていることです。
このことを使われている単語の語源から見ることもできます。すなわち英語の場合、やさしい単語はアングロサクソン系であるのに対して、低頻出の難語はギリシア/ラテン語あるいはフランス語系と決まっており、したがって、どちらの比率が多いかで「やさしい感じ」かが変わってくるからです。そこで、こういう視点で、鳩山演説とオバマ演説を比べると、ご覧のとおり、下表中 Anglo-Sax Index で示されるアングロサクソン系の比率がオバマ演説だと74% なのに、鳩山演説だと 60% 未満です。
オバマ演説の語彙分析

鳩山演説の語彙分析

またスピーチの作りという面でもオバマ演説が英語独特の三拍子を取り入れ、聴きやすいものとなっているのに、鳩山演説ではそういった工夫がありません。その結果、オバマ演説が鳩山演説に比べて単語数で5倍以上の長いスピーチなのに、それを感じずに済みます。小気味よいリズムに乗って、聞き入ってしまうからです。当然、対照的に鳩山演説は短いのに、単調であるがために茫洋とした感じで終わっています。
例えば、オバマ演説の場合、以下のとおり冒頭から、humbled by...mindful of... and determined to と三拍子です。
I come before you humbled by the responsibility that the American people have placed upon me, mindful of the enormous challenges of our moment in history, and determined to act boldly and collectively on behalf of justice and prosperity at home and abroad.
最後の at home and abroad も、響きをよくする小道具の一つです。なんであれ、英語は三拍子に決まっているのです。
対する鳩山演説は、こうしたリズムを欠いており、まさに英訳文という感じで英語らしさがありません。
例えば、鳩山演説の5パラグラフ目にこういうくだりがあります。
This is a public pledge that we made in our election manifesto. I am resolved to exercise the political will required to deliver on this promise by mobilizing all available policy tools. These will include the introduction of a domestic emission trading mechanism and a feed-in tariff for renewable energy, as well as the consideration of a global warming tax.
こんなのも三拍子にするのはごくごく簡単です。例えば、こういうふうに書き換えることができます。
I have pledged these measures in our election manifesto. I am set to deliver on this promise, mustering the political will needed to do so. And I will mobilize the full range of policy tools available, including a domestic emission trading mechanism, a feed-in tariff for renewable energy and a possible global warming tax.
これだけで簡単に主語 I が三つ並び、さらに政策手段が三つ並ぶリズムを創り出せます。
ことのついでにもう一つ言わせていただくと、今回の鳩山首相の演説はリハーサルをしていないのが明らかです。意味の固まりを無視してぶつ切りに読んでいますし、英語感覚からすればあり得ない妙な所で息を継いでいるからです。23日付け産経新聞は「首相の流暢(りゅうちょう)な英語」とヨイショしていますが、これは英語がわかっていない人の言うことです。
なんであれ、英語教育においてコミュニケーション能力がこれだけ言われている時代なのですから、トップの英語も「伝わる英語」でないと説得力を欠くというものでしょう。あるいは、コミュニケーション重視の英語というものが政府レベルでまるで理解されていない証拠と見るべきなのでしょうか。
なお、鳩山演説の全文(英語)はこちらです。音声で聴きたい方の場合、国連のサイトでmp3版をダウンロードできますが、簡単ながらも事前登録が必要です。
またオバマ大統領の国連での演説をご覧になりたい方、全文はこちらです。あと YouTube でご覧になるなら、こちらです。
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デイブ・スペクターさんは鳩山さんの英語を80点と採点し、絶賛していましたが、かなり甘めの採点ということでしょうか?普段の発言から氏はどちらかというと左よりの思想の持ち主であると思われますので、有権者の鳩山さんに対するイメージ向上を狙って意図的に高い得点を与えたのかもしれませんね。ちなみに麻生さんの英語には50点をつけておられました。こちらは妥当な評価といったところでしょうか?
[返信]
コメントありがとうございます。評価の基準が発音なのか、構成なのか、あるいは他の要素なのかといったことがわからないので、なんとも言えません。
- わっとにゅっぺっぺ
- 2009年10月 1日 13:12
デッカードさんの言うように外務省が関与してなければ、この鳩山演説は評価しなおしていいと思います。自分たちだけで草案を作って翻訳してもらって、首相がそのまま国連で発表したしちゃったとなると、今まで誰もやらなかった手法ですから高く評価できます。25パーセント削減とか、すべての政策手段を投入するとか、達成不可能という人が多い中、「オレについて来い」式で日本の進むべき道を明確にしているなど、リーダーでなければ書けない内容になっている点も高く評価できます。
あとはオーディエンスに配慮された英語にすればいいだけですから、今後の改善に期待しつつ、ぼくはC+からB+に評価をあげました。
[返信]
なるほど。実質面ではそうなのかも知れないと思う一方で、わたしはやはり「あとはオーディエンスに配慮された英語にすればいい」という側面がすごく気になります。
- soudenjapan
- 2009年9月28日 20:47
マスコミによると、鳩山首相の国連演説は好評であったらしい。わたしはテレビニュースでチラリと見ただけだが、いくぶん緊張気味の鳩山首相の表情が気になった他は、世界に向けての発信がしっかりとなされているように感じられた。これまでの日本の代表の国際舞台での発表が貧弱に見えたことが多かっただけに、立派だったと思う。
緊張気味だったのは、首相として初めての国際的舞台での演説だったためか、使い慣れない英語での発表だったためか分からない。しかし、国際的な舞台とは言え、どうして英語を使わなければならないのだろう。アメリカの有名大学の博士課程を卒業している鳩山首相であっても、母語の日本語ほど使い慣れているわけではない。ペーパーを見ながらの演説はどうしても見劣りがする。やはり、日本語で発表したほうが良かったのではないか。会議に出席していた他国の人たちも英語が堪能な人ばかりではない。同時通訳のイヤホーンで聞いていた人も多く見かけられた。演説は日本語でまったく問題ないのである。
フランスのサルコジ氏はフランス語、リビアのカダフィ氏はアラビア語だったが、その演説は堂々たるものだった。母国語ゆえの力強さではないだろうか。内容はともかく、鳩山首相よりも立派な演説風景であると感じられた。日本人の政治家は日本語で堂々とやっていただきたい。
[返信]
コメントありがとうございます。ごもっともなことです。
- 一読者
- 2009年9月28日 11:02
こんにちは。
今回の原稿は民主党の副大臣が作成したもので、外務省の官僚は全くタッチさせてもらえなかったとのことです。
[返信]
有益な情報、ありがとうございます。民主党はけっこうアメリカで勉強した人を抱えていると理解していたのですが、せっかくのリソースもあまり活かされていないようですね。
- デッカード
- 2009年9月27日 01:25
いい分析ですね。外務省にとっては、いわゆる「格調高い」英語にするのが最優先で、コミュニケーションの側面は二の次なんでしょう。
パン事務総長は鳩山演説を同時通訳で聴いていましたが、それがすべてを物語っていたように思います。
[返信]
コメントありがとうございます。格調高い、という言葉が、「いわゆる」で限定され、さらにが「 」でくくられているのが味わい深いことです。
- soudenjapan
- 2009年9月26日 21:29

初めまして。
鳩山氏の演説で一番気になったのは、「原稿読み演説」な調子でした。そしてそれが日本語であっても「結局同じだろうな」と感じてしまう部分です。
選挙では、結構説得力を持って語りかけているわけですから、こうした場でも、もっと相手に訴える調子で演説してもらえればとは思うのですが。
あと、トラックバックを送信させて頂いたのですが、ちょっとFC2の調子が悪いようで文字化けしているようです。すみません。再度送ってみたのですが変になってましたら、削除して下さい。お手数おかけしてすみません。
[返信]
はじめまして。
わたしから見た、鳩山演説の実質は、相手に呼びかけ、アピールし、rapport を築こうというのでなく、「日本はこうである」とただ報告しているだけのスタイルであり、そのゆえに、何か平板なのだと思いました。
トラックバックの件、たしかにすべて文字化けしておりましたので、削除させていただきました。