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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2009年10月07日

シェフとのコミュニケーション:be relevant という条件

抽象的な話として覚えていたものをある日、実生活の中でいわば体験し、なるほどと納得したりするものです。

というのも、このところ気に入っていて、何度か足を運んでいた中華料理屋で初めて担坦麺を頼んだところ、和風にアレンジしているつもりなのかケチャップが入っていてびっくり。次の瞬間、思い浮かんだのが、「これって relevant じゃないよな」ということ。

何の話かと言うと、言語学者の Paul Grice が会話が当事者間で意味をなすためには4つの条件が必要だと説いているのですが、その中の一つに be relevant が入っており、この relevant という条件に照らし、この坦坦麺は水準に達しておらず、料理人との会話が成り立たないよなと感じた次第。

Grice は、会話ないしコミュニケーションの当事者は共通の枠組みを通じて互いのやり取りを解釈しているのであり、そのおかげで、様々な意味に解釈しうる互いの発言をその枠組みに即して最も合理的と認められるものに絞り込むことができるのであり、だからこそ会話が成り立つのだと説いています。

そして枠組みの柱として、次の4つを挙げています。

第一に、情報量において過不足がないようにしなければならない。その場でのやり取りの必要に照らして必要にして十分な情報を提供せよということです。料理の話に引き直して言えば、やたら量が多いとか少ないのは困るということでしょう。

第二に、真実を語るべし、と言っています。うそと知りながらものを言ったり、証拠もないのにいい加減なことを言いなさんなということです。この条件に照らし、まことしやかに「イタリーではみんなこうですよ」などと言って、インチキな創作イタリアンを出す料理人などは料理を通じてのコミュニケーションをする資格がないと考えます。

第三に、そこでのやり取りの本質的範囲からはずれるな、be relevant 、というルールです。再び料理の話で言えば、いくら坦坦麺の味を日本人の口に合わせたいからと言って、ケチャップは行き過ぎというものでしょう。ゴマを増やすとか、シャンツァイを入れるというのは「中国的」という枠に留まっているからいいものの、ケチャップはもはや異物の域に達していると感じます。

第四に、Grice は、明快であれ、と強調しています。具体的には、曖昧な表現、多義的な表現を使うな、簡潔であれ、そして整理しながら話をせよ、ということになります。最初から無国籍料理と銘打っているならともかく、イタリー料理あるいはフランス料理の看板を掲げていながら、工夫しすぎて何料理なのかわからなくなっているものなどはこの原則に反しています。

乱暴に言ってしまえば、(1)過不足がないようにしろ、(2)ウソをつくな、(3)無関係なものを持ち込むな、(4)明快であれ、というのが Paul Grice の言う4大要件ですが、考えてみれば、言葉によるコミュニケーションを成立させるためにはもとより、料理人と客との意味のあるコミュニケーションを成り立たせる上でもきわめて有用な枠組みと言えそうです。

そもそも Paul Grice が挙げるこの4つの要素は、Douglas Robinson の Introducing Performative Pragmatics (Routledge) によると、哲学者カントが外界からの働きかけを意味のあるものとして解釈し、整理する上で使うツールとして挙げた quantity, quality, relation, manner にならったものだとしていますが、そうとすれば、われわれが(外界からの働きかけである)シェフの料理を通じてのメッセージを受け止め、解釈する上で使ったとしてもちっともおかしくないはずです。


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Comments

はじめまして。
アルクはよく利用させて頂いているのですが、貴ブログは初めて拝見させて頂きました。
単語を覚える時にふと疑問に思う、微妙な意味合いをとてもわかりやすく説明されているので、とても勉強になります。
これからも拝見させてください。

[返信]

こちらこそ、これを縁にどうぞよろしくお願いします。

坦々麺にケチャップはいかんですよね~(笑)

コミュニケーションにおいて大事な4点が料理の評価についてもあてはまる、というのはとても興味深いです。

[返信]

同じ中華のモディフィケーションでも、エビマヨとなると迷いますが、ケチャップは迷わず「駄目」ですよね。

はじめまして。

エビチリも迷わず「駄目」でしょうか?
陳建民氏が四川料理の乾焼蝦仁(ケチャップの入っていない豆板醤の効いたエビチリ)を日本人好み(?)にケチャップを入れてアレンジした方ですが・・・

本題以外の部分に「食い付いて」申し訳ありません。
私は、万年初心者の英語学習者で、特にビジネスを志向しているわけではないのですが、先生のブログは本当に勉強になります。

[返信]

なるほど、和風エビチリは気づきませんでした。エビマヨと同じぐらい迷います。何をもって真実とするかという何やら哲学的問題になってしまいそうですね。

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