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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2009年10月15日

「ググら」ないでとGoogleは言うけれど

一般に Google を使って検索することを「ググる」と言っていますが、商標権者にとっては、自社の商標が動詞として使われることは、少なくとも建前としては、困った慣行です。ですから、Google自身、わざわざGoogle ブランドを第三者が使用する際のガイドラインというものを打ち出し、Googleを動詞として使わないでくれと一般に呼びかけています。

そもそも商標は自社製品と他の製品とを識別するものとしてゴリヤクがあり、だからこそ企業も多額の投資をして商標を考案し、その普及を図る一方で、商標侵害に対してもこれまた多額の費用をかけて排除する努力をしています。そうだというのに、同業者や一般消費者が、「送信する」「転送する」といった動詞と同じように「ググる」などと言ったり書いたりするのを放置すると、大変です。商標の識別力が低下し、ついには他との識別力自体失われてしまい、そうとなれば、法的保護を与える理由がなくなる結果、商標権など主張できなくなります。企業にとっては死活問題です。

ですから、Google 自身が出しているガイドラインを初めとして一般に知られている商標を使って仕事をしている企業はどこも自社の商標を動詞として使ってくれるなと釘を指すのを忘れません。Xerox も、自社の会社概要に、The Xerox trademark should never be used as a verb. という一文を入れています。特に Xerox の場合は、Xerox を動詞として使っている例を出版物などで見つけるつど、やめてくれと申し入れる一方で、今では伝説的なものになっている以下のようなコピーで広告まで打ったことで有名です。

You cannot 'xerox' a document, but you can copy it on a Xerox Brand copying machine.

商標保護の国際団体である International Trademark Association も、自分たちのウェブサイトで、こう訴えています。

NEVER use a trademark as a verb. Trademarks are products or services, never actions.

EXAMPLES:

You are NOT xeroxing, but photocopying on a Xerox copier.
You are NOT rollerblading, but in-line skating with Rollerblade in-line skates.

このように、商標を動詞として使われるとまずいというのは商標権者に共通の問題意識であり、感覚です。

他面、商標の動詞としての使用に何が何でも反対といえない事情があります。商標権者にとっては、自分たちの商標が動詞として使われるほど自社の商品・サービスが一般消費者の間に普及するというのも、これはこれでうれしいことだからです。動詞として使われるぐらい浸透させる方が先で、それまでは商標の普通名称化なんかかまってられんという発想なのでしょう。

この点、The New York Times が The Power of the Brand as Verbというおもしろい記事を掲載していますが、そのなかで、Googleの対抗馬である Bing を発表したマイクロソフトのスティーブ・バーマーCEO 自身、こんなことを言っているとコメントを紹介しています。

The name, he told The New York Times, “works globally” and has the potential “to verb up.”

人々が今 Let me google this. などとやっているのと同様に、行きたいレストランがどこにあるかを探すのに 「bing する」という具合に、いずれ「動詞扱いされるところまで行く」ポテンシャルがBingにはあるのだいうのです。(ちなみに NY Times は動詞 bing の活用形は、I bing; she bings; he bang; you had bung; they are binging, Let's bing. だとしています。過去形が bang であり、分詞が bung というのが目を引きます)

やはり企業人の感覚としても、自社のブランドや商標が動詞として使われる域に達するというのは一つの大きな目標であり、普通名称化をおそれて片端からつぶして歩くのは必ずしも得策ではないという感覚を見て取れます。実際、こういったことで訴訟が起きたという話をきかないのも、このあたりに理由がありそうです。

一方、こういった微妙なバランスからすると、辞書での著名商標のあつかいなどは、何かこういう企業側の苦しい事情につけ込んでいる感じを受けます。

例えば、Oxford English Dictionary, Merriam-Webster などを見ると、平然と「動詞としての商標」を入れています。Oxford Business English Dictionary for Learners of English などは、Xerox という見出し語を立てた上、堂々と、

Could you xerox this letter please?

という例文まで挙げています。

当然、商標権者はやめろと言えないのかという疑問が出て来ます。この点、 ブランド・イメージの維持 - Google は「ググる」を止められるか という記事によると、辞書の項目として取り上げるのは営利目的での標章(マーク)の使用に当たらないので、立法論としてならともかく、法律上は差し止めるのは無理ではないかとしています。

ただ、「(あ、アメリカ法でどうなってるかは知りませんよ。日本法の解釈としての話。)」という但し書きがあったので、アメリカ法はどうなんだろうとちょっと調べてみたところ、商標法を専門とする弁護士がWhy Google should not make it into the dictionary as a verbでこの問題を論じており、結論として、商標権侵害で訴えるのはむずかしいにしても、著名商標である以上、希釈化(普通名称化による商標としての識別力の低下)を阻止するための訴訟なら可能性があると論じています。

辞書というのは実社会で使われている言葉の姿をユーザーに伝えるのが使命である以上、「ググる」のたぐいも採録すべきだと言えるのかも知れません。しかし、いくら言葉の使われ方をあるがままに伝えようという descriptive なスタンスの辞書でも、さすがに、卑猥な単語や誰しも差別的と感じる言葉などは載せないわけで、一線は画しています。それが見識というものでしょう。

加えて、辞書の場合は、わざわざ最初の方で、著作権や商標については十分注意を払っているつもりだといった一句を入れ、商標に対する意識の高さをアピールしているぐらいですから、著名商標の動詞としての用法を取り上げたりするのはなおのこと避けるべきなのではないでしょうか。むしろ、「商標を動詞として使うことは商標の普通名称化を助長し、商標権者の利益を損ねるおそれがあるとされる」ぐらいの注記を入れて然るべきだというのが私の考えです。



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Comments

日向先生
いつもためになる記事をありがとうございます。

私も「ググる」という言葉をついつい使ってしまう人間なので、今回の記事、大変興味深く読ませていただきました。
おっしゃるように商標であるはずの単語が動詞として使われる例は多々ありますね。
試しにフレンズで商標関係の単語をざっと調べてみたのですが、フレンズでは xerox は動詞としては使われていないようでした。(「コピー屋のあの子」という意味で、that girl at the Xerox place, that Xerox girl という表現は出てきますが。)
その代わりと言ってはなんですが、上の記事にも登場していた rollerblade の動詞は、"Since when do you rollerblade?" という形で出てきていました。

それから、動詞ではありませんが、商標が普通名詞として使われている例もありました。魔法瓶の意味で thermos という単語(文頭は小文字表記)が使われていたのですが、Thermos は元々商標なんですよね。
ロングマンで Thermos を調べると、trademark と明記されていて、見出しの最初の文字も大文字になっています。その trademark という言葉を入れておくことで、「商標に対する意識の高さをアピール」している、ということなのでしょう。

それに対して、「動詞扱いされるところまで行くポテンシャルがBingにはある」という CEO のコメントも面白いなと思いました。商標を守っていくことが大切なのは言うまでもないですが、人々が商標であることを忘れるほどのスタンダードになる、というのもまた、企業が持つ夢の一つなのかなと。

bing は bang などに通じる動詞っぽい音の言葉ですから、将来、動詞として使われることを見越してのネーミング、という可能性もあるのでしょうか? フレンズの話ばかりで恐縮ですが、フレンズには、Chandler Bing というキャラクターがいて、Bing という名字が擬音語のようだからか、よく名前で遊ばれるとボヤいていました。短いけれどキレのいい音なので、動詞として浸透するのも早いかもしれませんね。

[返信]

こんにちは。さすが「フレンズ」の第一人者らしい、鋭いコメントですね。おっしゃるとおり、Bingというのは何か小気味いい響きがありますし、浸透しやすそうですね。

商標が普通名詞のように使われ勝ちなのは、自分の経験ではヤマト運輸の商標「宅急便」です。宅配便と同じと思っているひとの方が普通かなと感じます。

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