2009年11月14日
新訂版 ワイングラスの持ち方:オバマ大統領はこのとおり
この「ワイングラスの持ち方」という記事のオリジナルは2005年に書いたものですが、アクセス解析を見ていると、毎日必ず一定数のヒットがあります。多くの人の問題意識に応えたかのようでうれしいことですが、ふとオバマ大統領はどうなんだろうと思ってネットを探したら、ちゃんとありました。ついでにブッシュ前大統領やフランスのサルコジ大統領の写真もあったので、お二方の分を加え、さらにその後、わが国の代表者にも登場してもらわねばと鳩山兄弟が乾杯している写真をも入れました。また、こういった検索の途上で見かけた北朝鮮のあの方の写真も足す一方、テキストを削って、大幅に改訂しました。
改めてこういった写真を眺めると、つくづく One picture is worth a thousand words. とはよく言ったものだと感じます。
なお、この種の話はどういうものか思い込みの強い方からのコメントが多く、そうですかとしか答えようのないことが多いので、恐縮ですが、今回に限りコメント欄は閉じてあります。悪しからずご了承ください。
わが国は昔から、外国のものを取り込んでは適宜修正し、自分たちに合うようにしてきました。このように、自分に合わせるという姿勢を貫いてきたおかげで、首から下は和服なのに、頭の上にはパナマ帽といった木に竹を接いだような格好が定着せずに済んでいます。しかし、時には、輸入先ないし本家本元の文化から見ると奇異に映るような結果にもなっているのに、気づかぬまま、それがそのまま受け継がれ、定着することもあるようです。
この点、気になってしかたがないのが、こういうグラスの持ち方です。

出所はhttp://sankei.jp.msn.com/photos/politics/situation/090307/stt0903071951008-p3.htm
わが国のエリートのみならず、北方の偉大な指導者殿も「ステム持ち」です。対照的に右側のオルブルイト米国務長官(当時)は普通にグラスを持っています。この方はチェコの外交官のお嬢様にして、ヒラリー・クリントンも卒業生に名を連ねるあの、名門女子大ウェルズリーの出身。そういうバックグラウンドを思い出すと、グラスを持つ時も育ちが出るんだろうなと感心して見入ってしまいます。

出所はhttp://judeopundit.blogspot.com/2009_05_01_archive.html
おそらく日本人の9割以上がワインを飲むときは、柄と言うのか脚と言うのか、支柱(ステム)の部分をつまむようにしてグラスを持っているはずです。しかし、ワイングラスは、カップと言うのかボウルと言うのか、ともかく、あの丸みのある部分を持って飲むのがわたしにとっての「フツー」です。
この種の話は論より証拠ですから、オバマ大統領を初めとする各国の元首たちがグラスをどう持っているのかををご覧ください。ちなみにテレビで放映される宮中での晩餐会の様子を見ていればわかりますが、グラスの持ち方はわが国の天皇皇后両陛下も同じです。

言うまでもなく、あのお方。グラスはステムの所を持てというわが国の常識に反しています。明らかに「異端」です。出所はhttp://www.postonpolitics.com/2009/02/floridas-first-lady-scores-a-seat-next-to-obama/
そう言えば、先代の米大統領も「異端」です。しかも、この方、財閥の御曹司にして、これまたお金持ちのおぼっちゃま達が多いことで有名なイェール大卒ですから、そういったバックグラウンドを考えると、わが国の正統派の方々は、よくぞ「異端」を通してこれたものだという評価をするのでしょう。
なんであれ、そのブッシュ大統領とイタリーのベルルスコーニ首相がブラックタイで正装するような場でしっかりグラスの本体部分をつかんでいる様子をご確認ください。出所はhttp://www.dailymail.co.uk/news/worldnews/article-1077544/Has-Yo-Blair-replaced-Bumbling-Berlusconi-Bushs-new-BFF.html

下の写真はブッシュ大統領、中国の胡錦濤国家主席、そしてサウジアラビアのアブドラ国王(サウジは禁酒国ですから,乾杯だけしてワインには口をつけないということでしょうか・・・)。出所はhttp://aftermathnews.wordpress.com/2008/11/16/financial-meltdown-summit-featured-lavish-dinner-menu-300-bottles-of-wine/

こちらはオランダのベアトリクス女王(右)とチリのバチェレ大統領(左)です。出所はhttp://www.nancarrow-webdesk.com/warehouse/storage2/2008-w14/img.184648.html

まんなかの男性はブラジルのダ・シルバ大統領。正式にはワイングラスのステムを持つのだと説く、わが国の「正統派」からすれば三人そろって「失格」です。

トルコの大統領夫妻ならびにイギリスのエリザベス女王と夫君、フィリップ殿下。みなさん、ステムを持たず、普通に本体部分を持っています。
上の写真だとエリザベス女王の手許がはっきりしていないので、2008年にスロベニアを訪問した際のものを二点、ご紹介しておきます。「ステム派」ではないことがわかります。出所はhttp://images.google.com/imgres?imgurl=http://cache1.asset-cache.net/xc/83385628.jpg%3Fv%3D1%26c%3DIWSAsset%26k%3D2%26d%3D17A4AD9FDB9CF19303D83A05122D23693C2C84B11C037708B01E70F2B3269972&imgrefurl=http://www.life.com/image/83385628&usg=__9s3YLHwF73s2DyRdNo3KO62Cl1g=&h=477&w=594&sz=40&hl=ja&start=4&sig2=UChE8KJky4ZRORuIKqyZzw&um=1&tbnid=MaQ1MnfTDBJ-RM:&tbnh=108&tbnw=135&prev=/images%3Fq%3Dqueen%2Belizabeth%2Bturkish%2Btoast%26hl%3Dja%26client%3Dsafari%26rls%3Den%26sa%3DG%26um%3D1&ei=s4wAS_-eEMiGkQW4spyADA

右側がトュルク大統領です。大統領の方がフルートグラスの本体を持ってはいても、ステムに近い位置であるのと対照的に、女王はフルートの本体をしっかり「つかんで」いるのがわかります。

ここでもしっかり本体部分を「つかんで」いらっしゃいます。女王陛下は。
次はエリザベス女王とサルコジ大統領がグラスを片手に談笑している図。出所はhttp://www.telegraph.co.uk/news/features/3637378/State-Banquet-a-feast-for-all-of-the-senses.html

後ろ姿ではありますが、ワインの国の代表者もこのとおり普通に、いや、全体が隠れてしまうぐらい、がっしりと本体部分に手を回しています。
サルコジ大統領の前任者、シラク第5代大統領もステム持ちではありません。(画像のソースがリンク切れになっています)

どの写真を見ても、みなさん、ステムの部分ではなく、ボウル状の本体部分をごく自然に持っています。わが国の「専門家」諸氏は、グラスは、正しくはステムの所を持つべしと説いていますが、となると、オバマ大統領からして「異端」ということになってしまいます。しかし、事実は正反対で、国賓を招いての晩餐会という、外交儀礼上、最も格式の高い場での元首たちの振る舞いからわかるとおり、カップ状の本体部分を自然に持つのが実は正統派であり、ステムを持ったりする方が逆に異端なのです。
映画や海外TVドラマにだって普通にワインを飲んでいるシーンなどいくらでもあるのに、どうして誰もワインはステムの部分を持つべしという珍説に疑問を抱かないのか不思議でなりません。また、あるとき食事の席でご一緒したワインスクールの経営者でさえも「ステムホルダー」でしたから、結局、わが国では「ステムを持つのがワイングラスの正しい持ち方」というのが常識となっているようです。百年河清を待つというのはこのことかとため息が出ます。
なぜこうなってしまったかを考えるに、一時のワインブーム、ソムリエブームのせいなのでしょう。たしかに、ワインテイスティングといった場面では、ステムをつまむような格好で持ち上げ、また、台座を指ではさんで持ったりしますが、これは飽くまでテイスティングという特殊な場での流儀でしかありません。普通の食事の席で、こういった持ち方をするというのは、(少なくとも私の感覚では)普通ではありません。ましてや、試飲会よろしく、ぐるぐるワインを回されたりすると、「食卓で何事だ!この無礼者」とどなりたくもなります。加えて、世の中、何を勘違いしているのか、白ワインまでぶんまわしたり、挙げ句の果てには、(ウェイターの仕事である)コルクの香りの確認までしたりします。どこかでずれると、ここまで来るのかと感心もし、呆れもします。
ところでボウルの部分を持つと体温が伝わり、ワインがおいしくなくなるのでステムを持つのが正しいという、もっともらしい説も見聞きします。例えば、アサヒビールのサイトにある飲み方のマナー:ワイングラスの持ち方」という解説では「ワインをレストランで飲むときは最適の温度でサービスされます。それなのに、ワインが入っているグラス部分を手で持つと手の温度がグラスに伝わって、ワインの温度が上がってしまいます。そうするとベストな温度でワインを楽しむことができません」と言っています。
しかし、そもそも赤にしろ白にしろ、体温が伝わるほど長く持っている方がどうかしています。特に白などは冷えているうちにさっさと飲むべきで、12歳ぐらいからワインを飲んでいる身としては、温まることを心配するという発想がよくわかりません。最適の温度でサービスされる以上、その時点でさっさと飲んじゃうことです。
同様にワイングラスが汚れるからステムを持つべきだという説も聞きます。現に上のアサヒビールの解説でも「手の皮脂でグラスが曇ってしまったりすると、ピカピカに美しく磨かれたワイングラスが台無しです」と強調しています。しかし、グラスがワインを飲む道具でしかないことからすれば本末転倒で、日頃ワイングラスなど手にすることがない貧乏人の発想です。
もちろん、ワイン愛好家たちが、グラスの見栄えやら、ワインの温度などを気にしてステムを持つことに反対しているつもりはありません。それはそれでいいいのです。言ってみれば、部分社会におけるローカルールです。ただ、それが、われわれ一般市民がワイングラスを扱う際の常識であるかのように言うのはどうだろうと思っているだけです。
なお、この記事へのオリジナル版に対するコメントやらメールを通じて、英語圏のサイト解説を引き合いに、多くの方々から批判的ご意見を頂戴しましたが、ひとつ感じるのは、訳知り顔でワイングラスの持ち方を説くような方に限ってなぜかナイフとフォークの使い方を含め、テーブルマナーができていないという事実です。例えば、ステムを持つのが正しいと確信しているような人に限ってナイフとフォーク、それとナプキンの使い方が自己流だったりしますから、よくわかりません。ピンポイントで欧米の流儀を真似するからこういうバランスを欠くのではないでしょうか。
それともう一つ個人的に感じるのは、欧米社会が厳然たる階級社会であり、高級なグラスで、いいワインを日常的に飲む人々と、そうでない人々、端的に言えば上と下とではグラスの持ち方からして違っている事実に対する認識不足です。ですから、どこどこのサイトではステムを持つべしと言っているではないかとする方々に対しては、私としてはこうとしか答えようがありません。
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