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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2009年11月 1日

(続)いい加減な英語の話

前回、Joanna Channell という研究者に言わせると、ひとくちに vague と言っても、(a) 話し手が相手に伝えるべき「情報量」との兼ね合いで不明確な言い方をする場合と (b) 会話の相手への気遣いを示したり会話がうまく運ぶように敢えてぼかした言い方を選ぶ場合とがあるという前提に立った上で、(a) の「情報量」の兼ね合いでぼかす例を見ました。

今回は、(b) の方、つまり「会話の相手への気遣いを示したり会話がうまく運ぶように敢えてぼかした言い方を選ぶ場合」に使う言い回しを見て行きます。

そもそも、なぜこういったケースでぼかした言い方を使うかと言えば、人間誰しも、断定調のもの言いには好感を持てないということであり、また、普通の会話であれば、たとい知っていても、「港区の面積は20.34平方キロです」と言ったりせず、「港区の面積って確か20平方キロメーターって感じじゃないの」と、わざと「精度」を落とすことで、堅苦しくなるのを避けるからだとされています。

また、発言に間違いがあっても、最初から曖昧な言い方にしてある方があとから取り繕いやすいというメリットもあることでしょう。

なんであれ、ちょっと具体例を見ておきますが、例えば、雑談で「この製品は前のモデルと同じだよね」と言いたいとします。

この場合、単純に「同じだ」と言いたいなら、

This product is the same as its predecessor.

といったあたりでしょう。

ところが、実際の会話では、「基本的には」とか「ある程度」とか、あるいは「ある意味では」といった感じの修飾句を入れて、断定調のもの言いを避けるのではないでしょうか。そうとすれば、上のセンテンスは、こんな感じになります。

This product is basically the same as its predecessor.

This product is to some extent the same as its predecessor.

This product is in a way the same as its predecessor.

こういったものの言い方から感じられるとおり、断定調を避けるためのツールを加えることによって、へたをしたら潤いのない技術的な情報交換みたいな話をやわらげることができ、また、こうした発言のしかたを通じて、断定的な言い方をしない「いい人」だ「慎重な人」だというプラス評価につなげることもできます。

実は、つい先日もネイティブが日本人の経営者に自分の提案する、三つのビジネスモデルを説明する場面に同席していましたが、その人は、You see, I think we're talking about three "animals," here. と、わざと曖昧な animal なる言葉を持ち出して、硬い話を軽いノリのものに仕立てようと工夫していました。ただ、こういったスタイルに慣れていない日本人(ブロークンな英語でなんとかやり取りするレベル)の方はキョトンとしており、せっかくの工夫もあまり効果がなかったようです。

なんであれ、今回取り上げた英会話での「いい加減さ」を演出するツールというのは、どういうものか学校教育ではまず教えてくれません。ですから当然、英語を学習によって会得している人々はネイティブと比べてこの種のツールの使用頻度も高くありません。

実際、"and everything" や "or something" といった「ぼかすためのツール」の使用頻度で見ると、ネイティブの方が4倍多く使うというデータがあるぐらいです。また、この研究をした De Cock らによると、"sort of" や "kind of" といったたぐいの言い方もネイティブの方がずっと多く使うと言います。

英語検定のスコアに結びつくわけでもないし、知らなくてもいいよと思われる方もいらっしゃるかも知れません。しかし、然るべきところで more or less といった断定を避ける表現を使うというスキルは Channel に言わせれば、フォーマルな場でのプレゼンの一つの要素である上、先の De Cock も、断定を避ける表現の使用頻度が低いとなると、そのこと自体、その人がネイティブの目にどう映るかを左右することにもなろうと言っています。

たしかに、英語でやり取りしている場合、いちいち文化的背景の違いから来るコミュニケーションスタイルまで斟酌しながら相手を理解しようという奇特なネイティブはまずいませんから、少なくても相手がネイティブの場合は、こういった「意図的な vagueness 」にも意を用いる必要があると考えます。また、ただ文法や単語を知識として詰め込むより、この種の社会言語能力という側面にも目を向けながら勉強した方がよほど楽しいのではないでしょうか。

さいごに、「いい加減な英語」の代表例をご紹介して、以上のまとめに代えさせていただきます。

▶ おおまかに言う
It's half past seven. ⇒ It's about/almost half past seven. OR It's half sevenish.
She's fifty-years old. ⇒ I think she's fiftyish.
It costs ¥1,000 a piece. ⇒ It costs ¥1,000 a piece or so.
We need more handouts. ⇒ We need a couple of extra handouts.
Most of the computers here are grayish, I see.
The new model is basically/more or less/to a large extent (or in a way/to some extent) the same as its predecessor.

▶ 確定的、断定的な言い方を避ける
Our CEO lives in a fantasy world. ⇒ Our CEO lives in a sort of fantasy world.
That's wrong. ⇒ I’m not sure if it's entirely correct.
I don't like yellow. ⇒ I'm not too keen on yellow.
I don't like football. ⇒ I don't really enjoy football that very much.
I don't like vegetables. ⇒ I'm not really very fond of vegetables.
A: Have you ever seen anything like this? B: No, I haven't. ⇒ I can't say I have.

▶ 列挙して「などなど」でしめくくる
We had to do A, B and so on.
We produce cameras, printers, washing machines and so on and so forth.
  ...and everything like that
  ...and stuff like that
  ...and all the rest of it
  ...and on and on
  ...and what not
  ...and things like that
注記:フォーマルな場でも使えるのは and so on (+and so forth) という言い方です。

▶ 「そういったたぐいのこと、人」とくくる
Doctors tell us to frequently wash our hands and stuff like that to avoid colds and the flu.
You'd better consult with a lawyer or an accountant or someone like that, you know.
We must be very careful about protecting customer information and things like that.

▶ 何かの名前や人の名前を思い出せないときに代用する
I'm looking for a cheese, um, whatchamacallit, it's a soft cheese with a strong scent. It leaves a bite on the tongue and, oh, it has a sharp taste and melts easily when heated.
Yesterday, I ran into Mary and her friend what's his name in Shinjuku...er...somewhere near Isetan or thereabouts.


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Comments

先生、ご無沙汰しております。

先生のビジネス英語シリーズは古巣に帰っても(昨年の春、東京外資時代のファームのヒューストン事務所に「古巣転職」しました)ちゃんとオフィスの本棚で重宝しています!

こうやって丁寧にリストアップ&解説していただけると曖昧な言い方が実に多いことに気がつきますね。

複数の管轄で巨大なお金が動く非常に複雑な取引での電話会議やクロージングでのロイヤーや金融マンたちの使う言葉はなかなか面白いですよ。animalもそうですけど、ロイヤーが苦労して引っ張ってきた取引を指して'deal'や'transaction'という代わりに'his/her baby'と言ってみたり、取引の段階ステータス確認をするときなど'put together the last pieces of the puzzle'といってみたり、半年くらい温めて温めてきた巨大ディールの最終段階になると皆で'so pregnant'といってみたり、手間のかかる顧客は'a trouble child'(問題児)になってみたり、仕事を段階ごとに着実に進めていくたびに'go forward'や'complete'ではなく'knock out'になってみたり。同じ人物がドラフトする契約書などの書面では見ることのない言葉がどんどん出てきて面白いです。ジョークではなく普通に発して周囲もシリアスに言葉を返しますからね。

今後とも楽しみにしております。

Working Mom (ペンネーム変更致しました)

[返信]

おひさしぶりです。考えてみると、ともすれば impersonal になってしまうような話だからこそ、敢えて卑近な言葉に置き換えて話をするんでしょうね。そのままであれば退屈な transactional conversation で終わってしまうものが、こういう工夫によって、interpersonal conversation の色合いを強め、それによってコミュニケーション本来の目的が果たされると解されます。ただ、例示して教科書的にまとめることがむずかしいジャンルでもあるように思えます。なんであれ、勉強になりました。お礼申しあげます。

追記:お使いくださっている辞典、今度、『経済・ビジネス英語2万語辞典』という書名で、日本経済新聞から新版が出ます。

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