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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2009年11月17日

エコノミストを笑う人たち

幸い、近頃はまるで来なくなりましたが、一時期、なぜか外資系証券に勤めている知り合いたちからよくエコノミストを嘲る内容のジョークがメールで回ってきました。

例えば、二人ともノーベル経済学賞を受賞しているのに、ケインジアンのサミュエルソンが政府による景気の舵取りを重視するのに、マネタリストの総大将フリードマンは、政府は出てくるな、景気は市場に任せておけと強調するというコントラストを皮肉って、「まるで正反対のことを言っている人がともにノーベル賞をもらえる分野は経済学だけだ」というのがあります。

ちなみにサミュエルソンは93歳でまだお元気の様子。こちらにインタビューがあり、Everyone understands now...that there can be no solution without government... I wish Friedman were still alive so he could witness how his extremism led to the defeat of his own ideas.つまり「今や誰もが政府抜きでの解決策がありえないとわかるようになりました。フリードマンがまだ健在だったら、ああいった極端な考えが自滅を招いたことを自分の目で確認できたのにねえ」と意気軒昂です。)

なぜ、こんな話を思い出したかと言うと、昨日の夕刊の一面に「GDP年4.8%増」と大きく出ており、本文の中で、「民間エコノミストなどの予想を大幅に上回った」とあったからです。

エコノミストあるいは経済評論家の予測が間違ったからといって責任を取らされたなんて話は聞いたことがありません。経済予測の専門家のような顔をしていながら、外れても失職したりはしません。経済学者のガルブレイスなど、

Economics is extremely useful as a form of employment for economists. 経済論というのはエコノミストの雇用を確保する上できわめて有用性が高い。

と茶化しているぐらいです。

本当にエコノミストと言われる人は経済評論家を含め,独特のメンタリティーを持っています。独特というのは、バブル後の景気動向を見誤ったセリフとして有名な「景気は減速しつつ拡大中」といった妙な日本語を批判されたり、後日大違いと判明する予測を打ち出していても、およそへこたれることなく、また新たな予測をするといった神経の図太さがあるからです。

もちろん、これはわが国に限ってのことではなく、アメリカでも同様です。エコノミストと呼ばれる人々が一般社員に比べて高給取りであることへのやっかみも当然あることでしょう。また、日本と比べるとアメリカでは少ないものの、それでも、自分たちの方が知的に優れているかのようなものの言い方をする人がいるので、余計、しゃくにさわるのでしょう。そんなことから、上で紹介したようなジョークのタネにされるのだと思います。

それはともかく、この種のジョークを敢えて分類すると、まず、エコノミストたちの言うことが恣意的だという点を突いているものがあります。例えば、こういうやつです。

就職面接に数学者と会計士とエコノミストがやってきます。最初に入室した数学者に面接担当者が尋ねます。「2プラス2は?」。数学者は当然、4と答えます。次に招き入れられた会計士の答えは、「平均的に4と言えますが、プラスマイナス10%の誤差を見ておきたいところです」。最後に呼び込まれたエコノミストの答えが何かと言うと、「なんなりとご希望の数字をどうぞ。つじつま合わせはできますので」。

こういうことを言われてしまうのは、エコノミストというのは職業柄、断定的判断を避けたいという意識が徹底しているからでしょう。実際、一時期連銀理事だった Lawrence Meyer は、こんなことを言っています。「自分は学生たちに判断が難しい経済問題に直面した際、大抵の場合、うまく行く答え方があるものだと教えています。それは『条件によりけり (It depends.) 』という答え方です」

特に知識の体系に閉じこもって研究しているような経済学者になると、ますます「他の条件が等しいなら」という硬直した前提条件をふりまわすので、ジョークのタネを増やす結果をまねきます。

例えば、次のジョークなどはエコノミストの論法に接した経験があって初めておかしさを理解できるのではないでしょうか。

離れ小島に物理学者、化学者、そしてエコノミストが漂着します。食べ物がなくて困っていると煮豆の缶が流れ着きますが、缶切りがありません。物理学者が岩でたたきつぶそうと言い、化学者が火を起こして蓋を吹き飛ばそうと言うのに対して、エコノミストは、それでは中身が飛び散ると大反対します。で、彼が真剣な面持ちで提案します。「解決策は簡単です。ここに缶切りがあると仮定します・・・」

あれこれと前提条件を示して論ずるのはたしかに良心的です。特に、優秀な人ほど予測が失敗した場合に、前提条件を振り返り、修正を加えるので、その人の発想法がわかり、安心感も得られます。しかし、こういう専門家の意見を求める方にしてみれば、条件だらけでは役に立ちません。

トルーマン大統領などは、経済顧問たちが何でもかんでも「一方で・・・他方で・・・」というふうに説明するのに業を煮やし、こう嘆いたと様々な名言集で伝えられています。

Give me a one-handed economist! All my economists say, On the one hand on the other.

また、人によって想定している経済モデルが違い、そこに組み込まれている変数も違う訳ですから、百家争鳴状態になってしまうわけで、ウィンストン・チャーチルはこうも嘆いています。

If you put two economists in a room, you get two opinions, unless one of them is Lord Keynes, in which case you get three opinions.

思うに経済の専門家というのは、因果な商売で、実験を繰り返して確かめようもないことにつき、推測でものを言わざるを得ない側面があり、たまにその方面のブログをのぞくと、熱っぽいのはわかるけれど、経済隠語だらけで門外漢にはさっぱりというケースが多々あります。ところが皮肉なもので、そういった訳のわからん議論が意外にも政治家に受けて、世の中を動かしたりもするのですから、ますます訳がわかりません。例えば、一時期FRBの副議長だったプリンストン大の Alan Blinder は、経済政策にも「マーフィーの法則」があるとし、自著の中でこんな辛辣なコメントをしています。

Economists have the least influence on policy where they know the most and are most agreed; they have the most influence on policy where they know the least and disagree most vehemently. エコノミストたちは、自分たちが一番よくわかっており、コンセンサスもある分野において政策への影響力が最も小さい。他面、理解が一番手薄で、かつ、見解の対立が一番激しい分野において政策への影響力が最も大きい。

要するに政治家たちは、どうかすると経済の分野での通説的見解を無視したりするくせに、都合がいいと、専門家の間でも見方が分かれているような、危なっかしい理論に乗っかっちゃうことへの批判です。

事実、オバマ大統領が「景気回復のために政府が手を打つべきだということに異論はない」と強調している点につき、保守系シンクタンクがイニシアティブを取っている請願書には、300名近い経済学者が署名し、こう訴えています。

Notwithstanding reports that all economists are now Keynesians and that we all support a big increase in the burden of government, we do not believe that more government spending is a way to improve economic performance. More government spending by Hoover and Roosevelt did not pull the United States economy out of the Great Depression in the 1930s. More government spending did not solve Japan's "lost decade" in the 1990s. As such, it is a triumph of hope over experience to believe that more government spending will help the U.S. today. To improve the economy, policy makers should focus on reforms that remove impediments to work, saving, investment and production. Lower tax rates and a reduction in the burden of government are the best ways of using fiscal policy to boost growth. 今やエコノミストはすべてケインジアンになったとされ、政府の財政負担の拡大に反対する者はいないとされていますが、わたしどもは、財政支出の拡大が景気の浮揚につながるとは考えていません。フーバー政権やルーズベルト政権による財政支出拡大は、1930年代の大恐慌から米経済を脱却させることにはなりませんでした。日本における1990年代の「失われた10年」を見ても、財政支出の拡大は奏功していません。こういった事実に鑑み、財政支出の拡大を通じて米経済の現在の苦境を脱せるとするようでは、経験より希望を優先し、重視することになります。景気を良くするためには、政策当局は、労働、貯蓄、投資、そして生産の分野での障害を取り除く改革に注力すべきです。財政政策を通じて経済成長を確保したいとなれば、最善の途は減税と財政負担の縮小です。


エコノミストたちをからかうジョークの話から脱線して妙な所に来てしまいましたが、デフレ対策をあれこれ論じている経済評論家やらエコノミストの姿を見ているとブラインダーが言っていることは当たっているよなあと感じます。



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Comments

今回のように対訳の多い記事は、読んでいて大変勉強になります。日向先生のように、バイリンガルで博学の方の訳文を読むたびに、「ありゃ全然理解できていなかった」というトホホから、「なるほどそういうニュアンスがあったのか」という発見まであり、英語の奥深さを実感できます。
英語は表面的な解釈だけでは駄目だ。我流の思い込みに陥らないようにしなきゃ。と、つくづく思います。
先生とほぼ同年で、元帰国子女の知り合いがいますが、たまに私が分からない英文について質問をしますが、ピンと来ない返事が返ってくることがあります。
帰国後の継続的な勉強がいかに大切かが、よく分かります。それと、日本語の鍛錬も不可欠ですね。
その意味で、日向先生の訳文は、信頼できます。
これからも、対訳の多い記事をお願いします。

[返信]

おほめに与かり、恐縮です。対訳、心がけるようにしますので、どうぞまたお寄りください。

サミュエルソンはもちろんですが、フリードマンもデフレに対して何らかの政策が必要という点までは同意していますよ。彼の主著には大恐慌におけるFRBの失政を批判したものがありますし、現在の日本銀行のデフレ志向な金融政策も生前に批判しています。

フリードマンのリフレ論
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20091112/friedman_riviving_japan

[返信]

ありがとうございます。

エコノミストに限らず、政府、日銀の政策が正しかったのかどうかも経済の専門家で無い人間にはわかりにくいですが、少なくともニクソンショック、第一次と第二次オイルショック、昭和から平成にかけてのバブル期及び1997年の金融危機の時の政策が間違っていたという判断は、結果からつきます。

 そういう結果主義に基づくと間違っていたのでは?というエコノミストは日本でも山のようにいるのではないでしょうか?

 なお我々にとってもっと困るのは最近自分の言動で円高誘導をしてしまった某財務大臣のような、政治経済音痴の政治家だと思われます。

[返信]

ありがとうございます。

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