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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2009年12月18日

Comptroller: 600年前のヘマの産物

『即戦力がつくビジネス英会話』(DHC)を使っての授業でたいてい質問が出るのが、301頁に出てくる comptroller。特にディクテーションとなると、音とスペルがまるで違うので、ますます「こりゃなんだ」ということになるのでしょう。

意味は企業や公的機関の経理ないし会計の責任者ということで、ややこしいことに、controller とも書きます。いちおう、ある程度の「棲み分け」はあり、一般に公的機関の場合は、例えば、Comptroller General of the United States (会計検査院長)や Comptroller of the Currency (通貨監督庁長官)のように、comptroller という表記が多く、民間企業だと controller が普通で、例えば、大企業の役員には、controller and chief accounting officer(コントローラー兼最高経理責任者)という肩書を持つ人がよくいます。

その一方で、なんだか重々しい表記が格好いいと感じられるのか、民間の会社でも comptroller という表記を敢えて使うケースもあります。実際、以前に、ハワイで、滞在していたホテルの経理担当マネジャーから、Comptroller という肩書入りの名刺をもらったことがあります。

なんであれ、この comptroller 、実は、数百年前のインテリたちの衒学趣味が脱線し、失敗した結果なのに、是正されずに来てしまったといういわくつきの単語です。controller で通っていたのですから、下手に手を加えなければよかったのに、迷惑な話です。事実、Black's Law Dictionary の編集者として有名な Bryan Garner などは、A Dictionary of Modern Legal Usage の中で、

"we are several centuries too late in correcting it" (今さら直そうにも、何しろ数世紀も経ってしまっており、手遅れでしかない)

とぼやいているぐらいです。

そもそも、どうしてこういう間違いが起きたかですが、本来の、controller の元である control という単語の語源に話はさかのぼります。

この control という言葉、大本を尋ねると、中世のラテン語である "contrarotulus" だそうで、分解すると、contra + rotulus。

その rotulus 、下の写真でご覧のとおり、要するに巻物状の帳簿。(出所 http://wikis.lib.ncsu.edu/index.php/GD_342/Glossary)

Rotulus.jpg

中世の会計士たちは、こうした巻物状の帳簿を二つ並べた状態で、つまり対置した状態 (contra) で、計算が合っているかをチェックしていたとかで、そこから、「巻物を対置して点検する」という行為を元に control の語義が生まれ、さらに、「他者に対して力を及ぼし、統制する」(exert authority) という意味が派生したとされます。(John Ayto の Dictionary of Word Origins から)

このように、controller の接頭辞の con は、本来は、対置するという意味の contra であるわけですが、よせばいいのに、15世紀頃のインテリたちが、フランス語由来の言葉につき、その「先祖」であるラテン語にまでさかのぼって綴りを正そうとしていくうちに、con は、フランス語で "to count" を意味する "compter" から来ているはずだと誤解し、controller を comptroller に直してしまったと言います。(A Dictionary of Modern Legal Usage の説明)

このあたりの事情を指して、Garner は、こんな辛辣なコメントをしています。

...it is also one of the bungles perpetrated by those ardent Latinists...Thus the respelling should never have been. この一件は、ひどく熱心なラテン語回帰派の学者がやらかした大失敗ということでもあり、こうした綴りの変更は本当はあってはならなかったという筋合いのものだ。

それにしてもこういう大いなる勘違いの産物が今では、冒頭で紹介した連邦政府の役職を初め、州政府の財務・会計責任者といった、けっこう偉いポストのタイトルとしてまかり通っているのですから、歴史というのはわからないものです。

なお、comptroller の発音は、こちらで確認できるとおり、同義語の controller とまるで変わりません。字面に引きづられて、 p の音を入れて発音すると恥をかきます。



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Comments

確かに、アメリカの大手法律事務所からの請求書には、
担当者のサインの上の役職として、comptroller と
書いてあります。

この事務所、レターの文面に仰々しい表現が多いのですが、
納得です。

[返信]

やはり格好よく見せたいというのは人類共通なんでしょうか。

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