2009年12月25日
勝間和代さんの英語
Youtubeで偶然、あの有名な勝間和代さんが英語で話しているシーンを見ました。NHKがやっている「英語でしゃべらナイト」に出演されたときの映像とのこと。有名な米系コンサル企業や証券会社などを渡り歩いたプロですし、翻訳書も二冊出してらっしゃることですし、そこは人情の自然で、どれほど高度な英語運用能力なんだろうと興味津々で聞き入りました。
細かい評価はあとにするとして、立て板に水調の英語には驚かされました。発音こそ日本語風の平板さがあるものの、基本的にはうまい英語です。ネイティブが吹き込んだ学習用 CD の英語しか知らない人には変な英語に聞こえるかも知れませんが、勝間さんが話す英語は、英語を共通語として使う人々の間では十分通用するレベルであり、何ら問題がありません。コミュニケーション上、何か問題があるとすれば、あとで触れる通り、自己流のコロケーションを作ってしまうことぐらいです。
まずは、押切もえさんが、
I heard that you are brushing up on your English.
と水を向けます。[この押切もえさん、ちょっとした質問と合いの手だけですが、実にうまいもので、感心しました]
それに答えて、勝間さん、こういった趣旨のことを英語でおっしゃいます。
「ご存じのとおり外国人とのインタビューが大変多く、発音とボキャブラリーをよくする必要があります。ご存じのとおり日本人式の英語はちょっと冗長になりがちです。冗長と言うのは、何かを説明しようという場合に言葉の数が多くなるということです。しかし、おわかりのとおり、一つのことを正確に言える、いい言葉がいくつもあります。そこで、英語をたくさん聞くことで、特に[この部分、聴き取れず]自分のボキャブラリーをもっと充実させる必要を感じています。
英語ではこうでした。
You know that I have a lot of English interviews with foreigners. So, therefore, I need to brush up...especially for my pronunciation and vocabulary. Because you know that Japanese English a little bit wordy...wordy means that a lot of words...to explain something. But, you know, there are a lot of good word to explain one, accurate thing, so, therefore, I need brush up my vocabulary by hearing a lot of English, especially for using audio [inaudible] ...
hearとlisten を勘違いしているといった細かな点は別として、ともかく基本的によどみなく、スラスラと英語が出てくるわけで、大したものです。
他面、わが国の「エリート流英語」の典型例という側面もあります。
どこがエリートっぽいのかと言うと、書き言葉と話し言葉がごっちゃになっているのに、そんなことなぞおかまいなしに悠然としゃべりまくるところです。そのいい例が、"so, therefore" を多用している点です。どういうことかと言うと、まず therefore は hence, thus 並のフォーマルな書き言葉的副詞であるのに対して、so は因果関係を示す単純な接続詞ですから、話し言葉で「したがって」と言いたい場合は、普通は so 一つで済ませるものです(現に、Longman Advanced American Dictionary は、therefore につき、話し言葉で上位3,000単語以内、書き言葉で上位2,000単語以内とランクづけしているのに対して、so については、話し言葉でも書き言葉でも上位1,000単語以内とランクづけしています)。ところが、仕事上、英語の文書を読む人は therefore に日常的に接するせいか、なぜか話し言葉でも、「そこで、従って」的なノリで両者を「併用」してしまうようです。同じことで、(勝間さんの場合は出て来ませんが)書き言葉である moreover を会話の中で頻繁に使う傾向もあります。私だけの所見かも知れませんが、こういうのを耳にするたびに、「文法よりコミュニケーション」というのは一面の真理だよなと感心します。
なんであれ、ここでひとつ気になるのは、You know という合いの手と言うのか、間投詞的な "you know, ..." と、動詞 know の目的語が that 節となっている形式の "You know that S + V" の混同が見られることです。その結果、You know that...のくだり、「ご存じでしょうが、私、外国人との英語でのインタビューが多いもので」ではなく、「外国人との英語でのインタビューが多いことをご存じですね」という響きになっています。「あんた、わかっているんだろうね」的な尊大な感じすらします。そういう言い方です。まんなかにある、Because you know that... も同じことです。
もう一つ、気になるのがコロケーションです。結局は日頃から問題意識を持って英語に触れているかの問題ですが、そういった「通りのいい言い方」なんだろうかという目で見ると、
I have a lot of English interviews with foreigners.
という言い方より、
I do a lot of interviews in English with the foreign media.
という言い方の方が普通ではないかというのが私の感覚なので、I have a lot of English interviews のくだりでは、「おやっ?」という違和感を覚えました。
小さなことのようですが、聞き手に「おやっ?」と思われてしまっては、相手の気が本題からそれてしまうわけで、コミュニケーションの小さな阻害要因です。例えば、日本語のうまい外国人が「わたくし、よくマスコミの人に面接を受けるのですが」と言ったりしたら、聞いている方は、意味は何とかなくわかるのに、場違いな言い回しに注意が行ってしまい、コミュニケーションのプロセスが損なわれてしまいますが、それと一緒です。
次に、グローバル展開は必要かという問いに答えて、勝間さんは、「間違いなく必要です。と言いますのも、日本の人口は今、減少しており、それが意味するのは市場の縮小です。したがって、グローバリゼーションをしないと、どんな会社も国内市場だけでは立ち行かなくなっています」と説明されています。
その英語はこうです。
Definitely. Because you know that Japanese population is now decreasing...It means that market is shrinking, so, therefore, without globalization, no company can survive just only within domestic market.
ここでも十八番の "you know that" や "so, therefore" が出て来ますが、「おおーっ」と強烈な印象を受けたのがアタマにある Definitely. スラスラと滑らかに発音しているものの、音節のすべてがきれいに聞こえる日本人英語の典型です。うしろの fi や ni の母音を言えなくなるぐらいに頭の De に力を入れて、つまりストレス(強勢)を置いて言えばいいのに、もったいないことです。ただ、何と言っているかはわかるので、コミュニカティブ英語という見地からすれば、問題ではありません。
むしろ、 no company can survive just only within domestic market という言い方での、"just only within domestic market" という聞いたことのない英語が気になります。
経済報道などでよく目にする「国内市場だけではやっていけない」という言い方は普通、
survive/get by on the domestic market alone
あたりではないかというのが自分の感覚だからです。
最後に「どうしてそうお考えですか」と押切さんに聞かれ、勝間さんは、「今まで通りに続けたとしても大変困難な状況となります。市場そのものが自然と縮小しているわけで、したがって、グローバリゼーション、特にアジアでのそれが鍵を握ります。アジア市場の次はアメリカ、アフリカ、そして南米の市場へと展開できます。いずれにしても、グローバリゼーションは、企業だけでなく、われわれにとってもキーワードと捉えられるべきものでしょう」ということで、英語ではこうおっしゃっています。
It's very difficult even though we did the same thing, then market...ah, self is automatically declining, so, at least globalization, especially for in Asia, is that the key. And after the Asian market, then, also we can go to the American, African and South American as a market. Anyway, globalization should be the key word not only for companies but also us.
これを聞きながら、even though の使い方が変、marketの前の定冠詞が欠けている、but also for us での for が落ちているといった細かな点はあるものの、文法的に致命傷と言えるような間違いがないのに、何か引っかかる所があるよなっと感じました。したがって、その限りでは、上級レベルの英語の要件である、"always easy to follow" ではないな,惜しいなと思いました。
例えば、「market が automatically declining」だという言い方は耳にしたことがありません。「放って置いても勝手な動きを続けている」と言いたい場合は、self-perpetuating という言葉がありますから、
The market is caught in a self-perpetuating downward spiral.
といった言い方をする方が通りがいいのではないでしょうか。
また、「go to the American...as a market」という言い方も "go to" がコロケーション的に引っかかります。もちろん、 "go to the XX as a market" という言い方でも意味はわかりますが、非英語です。普通は break/get/go/move into the ... market ですから、「アメリカ、アフリカ、そして南米の市場へと展開できる」といったことを言いたいなら、
We can go into the American market, and then into the African market and eventually into the South American market.
あたりが平凡ながら通りのいい、普通の言い方だと思います。
この他、"is that the key" は、前置詞 to を入れて "is the key to solving this problem" だろうし、"should be the key word" も "should be the key concern" なんだろうなと感じます。
まとめ的に言えば、勝間さんの英語の話し方はよどみなく話される上、接続表現を積極的に使って自分のロジックを示している点で間違いなく Advanced レベルの英語です。
もちろん、細かいことを言い出したらきりがない訳で、随所に文法ないし語法上のミスがありますし、Definitely の発音のように日本人風の発音が丸出しになる場面もあります。しかし、総合評価としては、会話に必要な基礎的単語力や文法力は十二分にあると認められます。
思うに勝間さんにとっての最大の課題は、教育のある話し手に「おやっ」と思われたりするのを避けることでしょう。つまり、改善に向けての課題は何かと考えた場合、経済問題を取り上げるのであれば、経済英語におけるコロケーションにもっと意を用いることではないかと言えそうです。経済評論家を看板にしている以上、ご自分の専門分野で通用する言い回しを使う必要があるわけで、日本語の例で言えば、経済の専門家が「景気が低迷、停滞している」と言うべきところを「景気が低調だ」などと言ったりしたら、それだけでクレディビリティーが落ちてしまいます。
いつも思うのですが、わが国のエリートはなまじっか英語が読める、つまり大抵の場合、書き言葉を会得しているのが災いしてコロケーションを軽視ないし無視する傾向があります。特に会話の場合、考えている暇がなく、咄嗟にひねり出してしまうのでしょうが、どうかすると、automatically declining といった、いかにもそれらしい英語を即興で作ってしまう嫌いがあります。しかも、具合の悪いことに、そういった自己流の英語といえども通じてしまうことから、センスの悪い人、向上心のない人は「それでいいのだ」と思い込んで、終わりです。ただ、幸い、勝間さんの場合、ご自分でも発音と語彙力を改善しなければとおっしゃっているわけで、どこかでコロケーションの重要性に気づかれることでしょう。(もっとも、インタビューの口調からは、英語を耳から聞いてーーコロケーションを含めての語彙力ではなくーー「単語力」をアップさせたいというふうにも受け取れ、気がかりと言えば気がかりです)
なんであれ、書き言葉同様、話し言葉でもコミュニケーションにおいては「一読了解」が大事です。「あれ?」と思われてしまった時点で "always easy to follow" ではなくなってしまうと申しあげましたが、これを防ぐ有効な手だての一つがコロケーションの重視です。この点、LTP Dictionary of Selected Collocations の共編著者 Jimmie Hill は、コロケーションのような定型表現 (fixed expression) につき、Teaching Collocation 所収の論文で、こう説明しています。
Estimates vary, but it is possible that up to 70% of everything we say, hear, read, or write is to be found in some form of fixed expression. (数字いろいろ出ているが、われわれが話をし、聴き、読み、あるいは書く際、最大7割が何らかの定型表現によっている可能性がある)
加えて専門分野ごとのコロケーションにも言及し、金融英語について、shares recovered, shares fell sharply といった例を挙げながらこんな指摘をしています。
Financial English is dominated by a number of predictable collocations. (金融英語は、使い方が決まり切っている、一群のコロケーションで占められている)
今回の勝間さんの「しゃべり」を観察していて、コロケーションが一般的な英語のみならず専門家の話す英語の世界においても大きなウェイトを占めているという事実を再認識させられました。
追記:けっこう細かなミスがあるのに「うまい英語」とは言えないのではないかというご指摘を私信にて頂戴しました。しかし、ヨーロッパ共通参照枠に準拠しているケンブリッジ英検の尺度で言えば、(もちろん、正確なところは受験しないとわかりませんが)勝間さんの「しゃべり」は、 "good operational command of the spoken language" を求める CAE(CEFRのC1レベル)をひとまずクリアしています。ここで大事なのは、このレベルでは決して完全な英語など求めたりせず、Occasionally produces inaccuracies and inappropriacies.を許容範囲としていることです。このレベルからさらに進んで、聞いていて違和感がなく、"always easy to follow" であり、かつ、"Rarely produces inaccuracies and inappropriacies." というところまで行けば、 "fully operational command of the spoken language"を求める最高レベルの CPE (CEFRのC2)に手が届きます。外国での会議にも行かれるようですし、わが国を代表して英語を話す立場に立つ以上は、向こう1年内にこのレベルをクリアできる程度の力をつけておく必要があると考えます。
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こんにちは。ちょくちょくお邪魔させていただいております。
以前カナダ人の方に、「日本人は brush up という表現を多用するが、少し違和感を感じる」と言われたことがあります。
本来のbrush upは、錆付いたものを磨いて元の状態にする、という意味なので、brush up on my English と言った場合、昔習った英語を復習する、という意味になるからとのことでした。
カタカナ語でブラッシュアップというと、磨きをかける、すなわちfurther improveの意味で使われていますが、それと同じ意味でbrush upを使う日本人がほとんどですね。
今回のインタビューでも冒頭で多用されていますが、日本人にありがちな間違いという点において、指摘に値するかと思いました。
[返信]
おっしゃるとおり、brush up on sth は以前に学習したものを「磨き直し」て再び使えるようにするという意味ですが、勝間さんは、ケミカル、アーサーアンダーセン、JPモルガンといった所にお勤めでしたから、以前は職場で英語を使っていてもっと上手だったのに、最近,落ちているので、改めて勉強しているんだと解しました。
もちろん、今よりも上を目指すといった意味で使っていたなら誤用ということになります。
それにしても鋭いご指摘、ありがとうございます。