2010年1月17日
「英語を話す」とはどういうことか
英語を勉強している人はよく「英語を話せるようになりたい」ということを言いますが、ひとくちに「英語を話す」とは言っても,内容はさまざまでありうるわけで、学習者が目指すモデルとしては、あまりに現実味ないし具体性に欠けると感じます。
勉強する場合にイメージすべき目標と到達への道筋つまり「これができるようになるには、これをしなければならない」という学習モデルは単純明快なほどいいことからすれば、目標を絞り込み、もっと、はっきりした形で自分の到達目標を意識しておくべきではないでしょうか。
何年も英会話を勉強しているのに英語で簡単な話すらできない方の話をうかがうと、こういった問題意識が希薄であることに驚かされます。英語を話せるようになりたいというなら、プレゼンができればいいのか、ディベートがうまくなりたいのか、あるいは、会議の合間のちょっとした雑談をこなせるようになりたいのかをはっきりさせておいてもよさそうなものです。分野によって求められるスキルセットも違う以上、あれもこれもというのは感心しませんし、大体が効率が落ちるに決まっています。
そもそもひとくちに「英語を話す」と言っても、製品の説明、プレゼン、スピーチ、それに予め言いたいことを準備しておくタイプのディベートなどは、聞き手こそいるものの、そういった相手との臨機応変のインタラクションを要しないという特殊性があります。ですから、プレゼンは上手だけれど、その後のパーティーで話しかけられるとお手上げという人を指して「英語が話せる」とは言わないことからも、このあたりを曖昧にしておくとまずいとわかるはずです。
私自身は、「英語が話せる」というのは、シナリオのない双方向でのやり取りを英語でこなせること、即ち「会話ができる」ことを指すと解していますが、最大のポイントは、「シナリオのない会話」をこなせるかです。実際、ケンブリッジ英検のレベルを見ても、上に行くほど、こなせる話題の範囲が広くなり、FCE(CEFRのB2)レベルでは、can handle communication in familiar situations となっているものが、すぐ上の CAE(CEFRのC1)になると、"in most situations" になり、最上級の CPE (CEFRのC2)になると、"in most situations, including unfamiliar or unexpected ones" となっています。(なお、スピーキングに限って言えば、上級と認められるためにには、単語が1万語レベル必要だといった話ではありません。おおざっぱに単語レベルとしては5,000前後でしょう。違いが出るのは、consequently といったロジックを示す接続表現をうまく使えるかのスキルの違いだと思います)
もちろん、この「会話」自体、目的別に、例えば、モノを買ったり、レンタカーを借りるといったサービスの提供を受けるためのもの、何と言うことのない雑談的なもの、インタビューといったものがありえますが、共通しているのは、代わる代わる話し手になったり、聞き手になったりしながらの共同作業を通じて、そこで一時的に形成された一種の会話共同体にそれぞれ自分の発言で貢献するという構図です。
こういった構図は、そこでの会話のプロセスを進めるための見取り図のような役割を果たしますが、日本語でもあります。この種の会話の構図はこんな感じというものにつきおおまかながらコンセンサスがあり、だからこそ、うまく会話が進むということです。逆にこの種の構図が人それぞれだとしたら、買い物一つ取っても、うまく運ばないことでしょう。いちいち、相手が何かを言うつど、この人は一体どういうつもりでこんなことを言っているのだろうと、自分たちの話の流れにそって解釈しなおすことを強いられるからです。
こうした会話での構図つまり前回取り上げた「スキーマ」に初めて触れたのは、欧州評議会が2001年に発表した Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment 、つまり「ヨーロッパ共通参照枠」として知られる言語学習・運用モデルとその運用能力指標のガイドブック (CEFR) を読んだときです。
そこでは、買い物の場合の行動パターンを以下のようなスキーマで示しています。
買い物の場所に向う
↓
相手との言葉のやり取りを始める(客と店員があいさつを交わす)
↓
商品・サービスを選ぶ(説明に関しての応答、選択肢の説明と質疑応答、店員に対しての助言の要求と応答、客による好みの説明とそれを受けての店員の助言など)
↓
対価を支払う(支払額の確認、支払手続の実行と商品の授受)
↓
挨拶して去る
CEFR は、以上のスキーマに即して使われるやり取りのパターンを知っており、実際に運用できるスキルを functional competence と呼び、言葉を使って何かをするために不可欠な二大要素の一つ、言語運用能力(もう一つの要素は言語知識)の一角を占めるものとして重視しています。
具体的には、買い物であれ、人づきあいのための雑談であれ、何かのためのコミュニケーションを図る場合、「こう聞かれたら、こう答える」「相手が間違ったことを言ったら、こう訂正する」といったミクロ的な言語運用技術だけでは足りないとし、説明なのか、説得なのか、はたまた解釈論なのかによっと自ずと段取りも違ってくるスキーマを理解している必要があるとして、こういうことを言っています。
Participants are engaged in an interaction, which each initiative leads to a response and moves the interaction further on, according to its purpose, through a succession of stages from opening exchanges to its final conclusion. Competent speakers have an understanding of the process and skills in operating it. 会話の当事者は、各自が言葉を発する都度、然るべきリアクションがあり、次のステップへと進むなか、目的に応じて、そのあり方も違ってくる、一つの双方向的プロセスに関与するのであり、そこでは、口火を切るやり取りに始まって、最終的に締めくくられるまで、段階的な展開が想定されている。会話が上手な人々は、こうしたプロセスにつき、それがどういうものかを理解しており、また、そのプロセスの中でどう言葉を使うべきかを心得ているものだ。
こんなこと当たり前じゃないか、どこの言葉でも同じだろうにと思われる方がいらっしゃるかも知れませんが、そうではないのが問題です。言語によっても、また、社会生活上の領域によっても使われるスキーマは違っているので、そのことを知った上で、通用しているスキーマを使わないと話が通じなかったり、誤解を招いたりします。
例えば、日本語の会話では、沈黙は、いちいち口に出さなくても互いにわかりあえるといったハイコンテクスト文化であることも手伝って、ごく自然な現象ですし、人によっては相手との間合いを取るために、意識して使う人もいます。しかし、英語文化の中では、沈黙はコミュニケーションの破綻を意味し、避けるべきものとされます。言い換えれば、コミュニケーションのためのスキーマにおいて、沈黙は日本語の世界では一つの要素としてカウントできるのに、英語の世界では異物であり、迷惑な存在です。
また,社会生活上の領域の中にはスキーマが国際機関で決まっている例すらあります。例えば、国際民間航空機関は、管制官からの指示については復唱されるのが原則とされるスキーマを示していますから、管制官から Maintain flight level 270 と指示されれば、機長ないし副操縦士は、Maintain 270. と簡潔に復唱することになっており、こういった場合に、Thank you very much. We are pleased to acknowledge that we are to maintain flight level 270. などとやっていたら、効率的なやり取りを妨げますし、へたをしたら事故を招くことだって考えられます。
ここでは、買い物や航空管制といった定型度の強いスキーマを取り上げましたが、定型度の低い分、むずかしいのが気軽な雑談のスキーマです。一例を挙げると、日本語会話の場合だと、やはりハイコンテクスト文化ということで、ある程度の知り合いだと遠慮がなく、女性教員どうしで、A: ○○先生、お忙しくて? B: ええ、まあ。A: 実はね、うちの息子がね、受験でね、といきなり話題を振ったりします。しかし、英語感覚では、こういった場合、話し初めの段階で、どのトピックで行くかをめぐる一種の擦り合わせが行われますから、仮に、この会話を英語に訳すと、きわめて不自然で、乱暴な感じになってしまいます。
スキーマはどの言葉か、また、どの社会生活領域での話かによって違いますが、ともかく厳然として存在するものです。したがって、こういった仕組みに対する問題意識を欠いたままだと、英会話の勉強も海図なき航海に終始し、やっている本人すらどこに行くのかわからず、不安な気持ちが続きますし、努力が報われるかすらわからず、フラストレーションは募る一方ととなります。そこに、「英語を話すというのはどういうことか」を示してくれるスキーマを勉強しておく意味があります。
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むづかしい→むずかしいor難しい
とした方が自然では?
揚げ足取りでごめんなさい。
いつも読ませていただいており、応援しているからこそ、と理解していただきたいです。
[返信]
はい、ありがとうございます。