2010年1月25日
ご心配とご迷惑をおかけし・・・
亡くなった社会心理学者の我妻洋先生は、社会内での独立性ないし個人主義を行動原理とするアメリカ人とグループ内の相互依存性と和が大事な日本人の違いを評して、アメリカ人が皿の上に並んでいる豆粒だとしたら、日本人はご飯茶碗の中でひっついた状態になっている飯粒だと評しましたが、政治家や会社幹部のお詫び会見を見る都度、このたとえは当たっているよなあと感心します。
例えば,身内から逮捕者を出したような企業であれば、
「皆さんにご心配をおかけし、ご迷惑をおかけしておりますことを、まずおわび申し上げる」
といったことを言うのが相場ですが、これを英語で言うならこんな感じです。
First and foremost, please accept out apology for causing concern to you all and for all the commotion we caused.
これを眺めていると、何となく、ひしめきあっているだけに、ちょっとしたことが他の飯粒にもすぐ影響する社会、または、そういった社会であることを十分意識している飯粒本人の感覚がよく出ているようでもあり、考えさせられます。
これと対照的に、アメリカ人が何か不始末をしでかしたときの説明文書(statement) は、豆粒本人がみずからの責任を認めた上で、悔悟の念を表し、陳謝するというのがパターンです。
例えば、先日のTiger Woods のスキャンダルの際に Woods 本人がが自分のブログに掲載した声明文には、
I have let my family down and I regret those transgressions with all of my heart.
とありましたが、自分が家族を失望させてしまうような、道に外れたことをしてしまった、心から悔いていると個人としての責任を正面から認めています。
同様にせんだって、浮気問題でメディアに追いかけられていたアメリカの John Ensign 上院議員も
I violated the vows of my marriage. It is the worst thing I have ever done in my life.
というふうに、結婚の儀での誓約を破ったこと、それが重大な責任を伴うことを認めていました。
その上で、
I know that I have deeply hurt and disappointed my wife Darlene, my children, my family, my friends, my staff and others who believed in me. To all of them, especially my wife, I am deeply sorry.
という具合に、「衷心より悔悟しています」と豆粒さん本人が自分個人の責任をひしひしと感じていることを表明しています。世間や「みなさま」といった曖昧な飯粒集団は登場せず、hurt され、disappoint するような生身の豆粒が意識されているのがわかります。
このようにアメリカと比べると、昔から言われている、日本はグループ単位の思考様式、行動様式が幅をきかせているという話が今なお妥当しているんだと実感します。
ちなみにベネッセが母親が子どもに期待する将来像が国によってどう違うかを調べたレポートを見ると、ソウルで上位を占めた回答が「リーダーシップを発揮する人」、北京・上海・台北が「仕事で能力を発揮する人」だったのに対して、東京は「友人を大切にする人・他人に迷惑をかけない人」だったそうです。
実際、データをざっと見ても、東京の母親の場合、友人、他人、家族などと人間関係にばかり目が行っている感じです。ご飯茶碗がどんどん小さくなっているというのに、よその飯粒との関係にばかり気を取られているわけで、海外留学の希望者数の減少に表れている内向き志向を考え合わせると、どうなっているんだろうと心配になります。
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Comments
「謝罪」に対する考え方の違いは、私も日本とアメリカで最も違う部分だと感じます。私の場合は日本的考え方が染み付いているせいか、「アメリカ人はなかなか謝らない」というのが強い印象としてあります。
信頼関係のある友人同士ではそのような問題はないのですが、仕事上の不備を指摘した場合など、なかなか責任を認めずに言い逃れを続ける態度にはイライラしてしまいます。カスタマー・サービスという言葉は本当にアメリカで生まれたのだろうか?と疑問に思う対応が少なくありません。逆に日本人がちょっとしたミスで謝罪をすると、驚かれるという話も度々耳にします。ここら辺を上手に対応できないと、日本人はアメリカで損をしてしまうのでしょうね。
話は変わりますが、一般的に「海外留学の希望者数の減少」傾向があるというのは存じ上げませんでした。私は科学研究に携わっておりますが、我々の分野でも若手研究者の海外志向の低下が指摘されています。一つの理由は日本の科学研究の水準が向上し、異文化交流以外に海外に留学するメリットがあまりなくなったこと。もう一つには博士の大量生産による就職難(所謂ポスドク問題)があります。
しかしその一方で、アメリカで faculty position を獲得する若い研究者が以前より増えているとも思います。海外派・国内派の二極化が進行しているのかもしれません。日本に帰ってこない優秀な研究者が増えることが、果たして日本にとってプラスなのかどうか、難しいところです。
[返信]
アメリカ人、特に男性がまず謝らないのは有名で、I'm Sorry, I won't Apologize という記事をNYタイムズ・マガジンに寄稿した Deborah Tannen は、いい関係作りを旨とする女性は sorry を活用するけれど、男性は、子供の頃から会話を通して競り合い、ポジションを獲得し,維持することに慣らされているので、うっかり謝ると sign of weakness と取られ,損をするので、謝ったりしないのだと説明しています。記事のURLは以下のとおりです。
https://www9.georgetown.edu/faculty/tannend/nyt072196.htm
海外留学の希望者が減っていることについては、以下の資料があります。
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200912110261.html
http://www.anokuni.com/contents/ryugaku_data/ryugaku_data_081101.pdf
自分自身、留学組の研究者(のたまご)と接する機会が多いのですが、一つ感じるのは、昔は修士どまりで帰ってくるのが普通だったのに、近頃は博士まで行く人が、しかもオックスフォードのような超一流どころで取ってくる人が増えて来ていることです。頼もしい限りですが、知っている方は、みなさん女性です。男子の草食化なのでしょうか。
- SK
- 2010年1月25日 09:13

丁寧なお返事ありがとうございます。もう少し謝るべきだと考えるアメリカ人もいることを知り、安心いたしました。
絶対数で見ると研究留学で女性が多いということはないのですが、海外で輝いている女性研究者は目に付きますね。
日本の大学・研究機関はこれまでずっと男性中心の社会で、教職を得る女性はきわめて小数しかいませんでした。女性が男性と同等に評価されなかったり、出産・育児に対するサポートがまったく存在しないことが、女性の進出を阻んでいました。そのような日本の状況に絶望した優秀な女性研究者がアメリカに渡り、faculty としてがんばっておられるという話は時々耳にします。
現在では文科省が政策として女性研究者のサポートに本腰を入れて取り組んでおり、日本でも女性教員が増えつつあります。
[返信]
ありがとうございます。