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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2010年2月19日

「利益をあげる」はboost profitsにあらず

日本語で言う「利益をあげる」を英語で言うとした場合、一般の人の会話の中であれば、make a profit といったところで、企業業績が報じられる場面なら、利益を「計上する」といったニュアンスがある、post/record profits といった言い方が使われることでしょう。いずれにしても、boost profits とは言いません。「利益を生む、利益を収める」ことに留まる「利益をあげる」という言い方と違い、boost profits だと、「利益を伸ばす、増益を果たす」という意味合いになるからです。単に利益を収めているだけの「利益をあげる」のと、前よりも利益を増やすという意味の boost profits では、明らかに意味が違います。

なぜこんな話をしているかと言うと、ゆうべの11時過ぎ、何気なくチャンネルを回していたら、何かニュースを通じて英語を学ぶという趣旨の番組をやっていたので、ちょっと観ていたところでたまげたからです。

「利益を『あげる』と言うのは、英語では "boost profits" ですね」と講師の先生(女性)がまくし立てています。これを耳にしたときは、「えっ、まさか」という感じでした。次いで、この先生、三択だか四択だかのフリップを見せながら、この場合に profits と組み合わせるのは boost ですよと強調する念の入れよう。うーん、それ違うでしょ、と思いました。

私の理解では利益を「あげる」と言ったら、利益を「収める」とか「生む」ことではあっても、利益を「増やす」ことではなく、したがって、「利益を伸ばす」「増益を果たす」という意味の boost profits を訳として当てるのは正しくありません。もちろん、世の中、利益を「上げる」と言った場合、利益を「増やす」のもそれに入ると理解している方もいらっしゃるかも知れません。しかし、これは以下で見る通り、普通の国語辞典で認められている用法ではありません。

以前、金融翻訳でお金を頂戴していた時代に表記で悩んだことがあり、よく覚えているのですが、「利益をあげる」を漢字で書こうという場合、利益を「上げる」もあれば、利益を「挙げる」もあります。

例えば、『三省堂国語辞典』で「挙げる」の項を引くと、語義の8に「生む」とあり、「利益を挙げる」という用例を載せています。同様に、『明鏡国語辞典』では、「挙げる」の項の語義の19として「はっきりと目立つ形で好ましい結果を生み出す」と説明し、「利益を挙げる」という例を挙げています。

一方、『辞林21』で「上げる」の項を引くと、語義の6に「よい結果を出す」とあり、用例として「利益を上げる」を出しています。

もう一つ、金田一春彦編『学研 現代新国語辞典 改訂新版』で「上げる」の項を引いてみます。ここでは語義の12で、「[収入・利益・効果などを]生み出す」と説明していますから、「利益を上げる」というのは「利益を生み出す」と同義ということになります。

こういった辞典の語義解説からわかるのは、表記として「挙げる」にするか「上げる」とするかの別はあるけれど、「利益をあげる」の意味は、ともかく「利益を生む、収める」という程度の話だということです。つまり収支尻が黒字だという程度の話です。英語の boost profits に相当する 「利益を伸ばす、増益を果たす」という意味まで引き出すのは無理と判断されます。このことは前年比で減益となったけれど、かろうじて黒字を維持したという場合、「同社は利益をあげた」とは言えても、The company boosted profits. とは言えないことからもわかるかと思います。

このことを翻訳の問題として考えた場合、あの番組を観て、「利益をあげる」は boost profits なのかというふうに覚えてしまうと、ただの黒字基調を増益基調であるかのように訳すおそれがあります。

例えば、過去5年、かろうじて黒字は達成しているけれど横ばい程度というケースを考えてみてください。自分がこれを訳すとすれば、

XYZ has managed to post profits(または record profits) over the past five years.

といった表現をします。ところが、この番組で教えているところに従って、「利益をあげる」イコール boost profits という流儀で行けば、

XYZ has boosted profits over the past five years.

と訳すことでしょう。

しかし、これでは、過去5年、黒字基調だというレベルを超えて、毎期、増益ということになりますから、明らかな過大表示です。上場企業の話なら一般投資家をだます結果となりますから、いよいよもって罪深い話です。

逆に、英文記事の中にある boosted profits を「利益をあげた」というふうに訳すと、これまた変なことになります。

例えば2009年11月2日付の The Wall Street Journal は、Samsung reports a powerful rebound という見出しで韓国企業、サムスンの業績急回復を報じていますが、その中の一節に、こういうのがあります。(下線はこちらでつけました)

Premium-priced LCD-TVs with very thin panels, introduced in the first quarter, sharply boosted profits.

まず、この一文を普通に和訳すれば、こうなります。

第1四半期に発売した高価格超薄型の液晶テレビにより利益が急激に伸びた

また、これが経済ニュースなら、「増益」という単語を使って、こういう訳し方をすることでしょう。

第1四半期に発売した高価格超薄型の液晶テレビにより大幅増益

このように、profits が boost されたとあれば、普通は単なる黒字ではなく、利益が増えたという趣旨が伝わる訳し方をするわけですから、そうであるのに、ここでの boosted profits に「利益をあげた」という訳を当てると、以下のように、なんだかおかしな日本語になってしまいます。

第1四半期に発売した高価格超薄型の液晶テレビにより急激に利益をあげた

先の国語辞典に従えば、「急激に利益をあげた」というのは、「急激に利益を生んだ」あるいは「急激に利益を収めた」ということですから、さっぱり要領を得ません。これ以上申しあげる必要はないでしょう。

先日の怪しげな英語と断じられたトヨタの社長という記事で、「企業トップからプロの通訳に至るまで、本当にわが国の英語のレベルは低いんだと、嫌になります」と嘆きましたが、テレビで英語指南をするような(おそらくは高名な)先生までもねえ、という気持ちになります。

おそらくは生放送じゃないんでしょうから、収録後、チェックする余裕もあったはずですが、どうなのでしょう。あるいは番組スタッフを含め、日本では利益をあげるイコール boost profits で通っているから、これでいいのだ、と思ってらっしゃるのでしょうか。


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Comments

こんにちは。

http://cgi2.nhk.or.jp/e-news/sp/index.cgiで
今週のウィークリー実力テストのというのをしてみると、その中に、例の「利益をあげる」を英語でなんというかという問題があり、動詞をhold, push, boostの中から選択するというものでした。
問題はこのように表示されていました(あげるが平仮名表記)。
::::::::::::::::::
「利益(profit)をあげる」という場合、次の動詞のうち、どれを使うでしょうか。正しいものを選んでください。
::::::::::::::::::

ここからは私の個人的な体験談です。
ある翻訳の講義で、プロの先生がこのような文章を教材として使われました。

"the horses are specially trained and ridden by professional jockeys"

そしてこの翻訳家の先生の解釈は、この馬は、競馬馬であるはずで、馬を訓練するのも、乗るのもいずれも騎手の方によるということで、先生の訳例は、

"競走馬は、専門の騎手が特別に訓練し、乗りこなす。"
でした。

勇気を出して、先生に、私はプロの騎手が馬の調教までやるわけないと考えて、(調教師かなにかによって)特別に調教された馬に、プロの騎手が乗るというふうに訳出したと、言いました。

その先生は少し考えて、私の解釈の方が正しいと認めて下さったので、講義の後で、どう解釈するのが正しいのかはっきりわかりえることができましたので、すっきり、なのですが、時々、先生の方のおっしゃり方が、あいまいで、「結局どちらなのか分からずじまい」になってしまうこともあるのが現実です。「(まちがっておらず)そうとも考えられる」のか、「(文法的にはそういう解釈もあるかと思われるが、このコンテクストでは)誤訳である」とか、そうとれないでもないけど好ましくないとか、結局先生のメッセージがこちらに伝わらず、とってもあいまいなままになってしまうことも多いように思えます。特に、単数複数の決定や、冠詞の有無、定冠詞か不定冠詞かなどは、同じ先生が同じ教材で添削しても、生徒によって、冠詞が"a"になっていたり"the"になっていた、”実務翻訳”の講座などもありました。

学び途中の立場にあるものは、プロの先生がおっしゃられたことが正しいと考えようとしてしまいます。細かいところにこだわって敢えて質問して、5分10分費やしても結局結論がなんだったのかわからないままになってしまうなどということが数回あると、質問をするのも、高い授業料なだけに、他の生徒さんたちの時間を奪うことにもなると、躊躇してしまったりします。


[返信]

補足説明ありがとうございます。教えてくださった問題文からすると、正解がないということになってしまいますね。

競走馬のお話はまさにコンテクストがわからないと何とも言えない例だと思います。特に書き言葉の場合は、前後からわかるようになっているので、一文だけ取り出してああだ、こうだというのは無理があるようにも思えます。

冠詞の用法は、書き手がどういうつもりかで書いているかによりけりなので、aだtheだと一概に決められないのではないでしょうか。

日向先生のブログは色々勉強になります。ありがとうございます。 ただでいつも勉強させてもらうのは申し訳ないので「即戦力がつくビジネス英会話」購入しました。

 女性講師の方は1960年代後半から1970年代にカリスマ美人通訳者で大変有名でした。 確かラジオの英語講師をやってらっしゃいました。

 TOEIC800点の私でもboost、伸ばすのイメージあります。この方は単に日本語の方に問題があったのでしょうが、そうなると通訳者としてはもっと問題ですね。

[返信]

拙著をご購入くださり、ありがとうございます。

カリスマ、ですか。まあ、何とかも木から落ちるということなのでしょうが、それにしても、真に受けて、そうかと信じてしまった学習者がいるであろうことを考えると、罪な話だよなと思えてなりません。

日向先生、毎回訪れるたびに発見があり、参考にさせて頂いています。先日、「即戦力がつく ビジネス英単語」を購入させて頂きました。一般的な単語集とはまったく異なり高密度な内容となっており非常に参考になります。

ところで上記番組の先生のプロフィールを番組ホームページにて拝見したところ、日本通訳翻訳学会会長だそうです。^^;

[返信]

お買い上げありがとうございます。

以前、この本を取り上げたエントリーで「しろうとさん」が教えてくださったのですが、以下のような間違いが付録部分にあります。お詫びして訂正します。あと何とか学会の会長というお話、仰天ものの情報ですので、知らなかったことにしておきます。

しろうとさんのご指摘・・・

巻末の「冠詞の用法」ですが、p.361の図の I saw a strange man. と Can I use the car? は逆ではないでしょうか?同様に、I need to buy a new car. と I heard that you bought a DVD player. も。
それから、p.363 の半ほどの「出発点は…」のパラグラフは、同ページ下方の「可算名詞、例えば…」の前に来るのではないでしょうか?
p.364 の「How many information?」もこの場合は文脈からして「How many informations?」の方が適切では?
同ページ、第3パラグラフ2行目、「動詞から派生して」は「動詞から派生した」でしょうか?

[返信]

ご指摘ありがとうございます。

YES と YES が交わるべきブロックには

Can I use the car?

が入るべきであり、

その下のブロックには

I saw a strange man.

が入るべきです。

右のブロックも上下が入れ替わっています。

「出発点は」のくだりも、今、読み返すと、そのとおりですね。

How many information? も、そうかと思いました。

「動詞から派生して」も要訂正です。

面白いですねえ。
彼女は日本通訳翻訳学会会長だそうです。
二度と頼まないレベルの人がです。
日向先生ばかりでなくここに来ている人も「あれ?」「おや?」と思うようなレベルなんですから。

[返信]

何かの間違いではないでしょうか。せっかくの情報ですが、見なかったことにします。クワバラ、クワバラ

前回のコメント削除願えますでしょうか?

>>「企業トップからプロの通訳に至るまで、本当にわが国の英語のレベルは低いんだと、嫌になります」と嘆きましたが、テレビで英語指南をするような(おそらくは高名な)先生までこんな怪しい英語解説をするのかと愕然とします。

まぁ、これがネイティブ信仰の温床なんでしょうね。日本人が信じられない→じゃあネイティブだ!

先生の以前のコメントを一部修正してみました。

一般論ですが、英語を教える立場の人は、英語という知識の体系を独占しており、それを学生に伝授するという姿勢を取っているのが普通ですし、英語をスキルとしてではなく、知識として捉えているので、「訂正」ということなどしません。しかも、いわゆる口語英語を見下し、そんなものはできなくてもいいぐらいに思っているような人までいます。ましてや自分の英語が水準に達しているかを確かめるためにケンブリッジ英検のような技能判定型のテストを受けたりする人などは少数派です。

この方もケンブリッジ英検を受けてみたらいいかもしれませんね。


[返信]

>まぁ、これがネイティブ信仰の温床なんでしょうね。日>本人が信じられない→じゃあネイティブだ!

なるほど。ひとつの理屈ですね。

前回のコメント、削除しておきます。

ALCのサイトの英辞郎で「利益を上げる」を検索すると「boost profits」が一番目に出てくることに関しては、どう解釈すれば良いのでしょうか?

[返信]

「英辞郎」さんはともかく何でもたくさん、幅広く載せるというのがポリシーのようで、どう判断し、どう使うかはユーザーに委ねているのではないでしょうか。

なお、このブログはアルクさんのご好意で軒先を借りているだけです。ALCの公式サイトであり、英辞郎が(光栄にも)仲間ということではありません。また、何か報酬を頂戴しているという関係でもありません。したがって、「ALCのサイトで」と言われても、何とも申しあげようがありません。

あの番組を見ておりましたが、「利益を押し上げる」「利益を伸ばす」
という意味で、「利益を上げる」と言っていたと思われます。

つまり、言い方は御指摘のように誤解を招く言い方であったと思いましたが、(少なくとも講師の頭の中では)解釈自体は間違ってなかったのではないかと思います。

[返信]

コメント、ありがとうございます。

「利益を押し上げる」イコール「利益をあげる」と解釈するのはもちろん、自由です。したがって、その限りでは講師の頭の中ではそれなりの整合性があったことと思われます。

しかし、それは「利益をあげる」の通常の用法から外れています。そうとすれば、本来「利益を収める」という程度の意味でしかない「利益をあげる」の訳語として boost profits を持ってくるのは正しくないと考えます。boost profits では、単に「利益を収める」域を超えて、「利益を押し上げる」という意味になるからです。

日向様、おはようございます。
 私も昨夜の4択問題たまたま観てました。「あの中だったら boost しかあてはまらないなあ、でも boost なんて大げさだなあ。」と思いました。その後、解説の場面で気づきました。「ああ、利益を増やすという意味で利益を上げるといってるんだな。I don't know about that.」
 言葉のプロでもこういうことがあるんですね。

[返信]

言葉のプロと呼ばれるような方でも、偉くなりすぎると国語辞典なんて引かないんでしょうね。

おはようございます。朝から、大笑いです。ひょっとして、このお方は「歴史をかえた誤訳」という本の著者でしょうか?

プロの通訳の話ではないのですが、米人と会話中 "silly wife" を連発していた輩がおりました。日本語では「愚妻」、謙遜を込めた表現ですが(それでもひどい表現ですよね)、直訳するとこうなりますよね。米人は、"Why is she silly ?" と聞き返したので、私は腹を抱えて大笑いしていました。

あと、boost で思い出したのですが、”I boast my wife. ”と言っていた輩がおりました。自然な英語だと、be proud of を使うのでは、と思ったので、違和感を感じました。確かに、両者とも、辞書には「自慢する、誇りに思う」と書いていますが、boast だと、「いばり散らす、過剰に自慢する」という意味になってしまうと思うのですが、いかがでしょうか?

[返信]

おかげさまで、私も朝から"I boast my wife." で笑わせていただきました。脳内の単語帳を総動員して勝手に作ったんでしょうね。こんなところでも、やはりコロケーションって大事だよなと改めて思いました。

お返しに、近々、おおいに笑えるビデオクリップ、アップします。

日向先生、こんばんは。

これはなかなか強烈なケースですね。技術翻訳の世界でもこういうことはよく起こるようで、ある著名翻訳講師は「技術文書の中でdue to は絶対に使うな」といっていました(そんなことを言う人は私が知っている限り他にはいません)。

彼の師匠からそのように教えられたそうなのですが、不思議な「思い込み」が伝承されていくということも、よくあることなのかもしれません。

[返信]

コメントありがとうございます。このケース、素人なら「思い込み」で済みますが、プロは影響力が大きい分、責任もより大きなものが伴うのであり、失敗した場合の非難もより大きくてしかるべきですよね。

何だかふっくらした中年女性でしたが、何者なんだろうと知りたいような、知りたくないような、そんな気持ちです。

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