2010年02月01日
話し言葉の英文法1:過去進行形
英会話を話すための見取り図の第二章Eの項目は、
「 文法が書き言葉と違う」
となっていますが、この部分に厚みをつけるため、これまで溜めてきた資料を読み返しています。そうした中で、おもしろい所、ためになる話を拾いながらメモ代わりにブログネタにしていくことにしました。第1回は、話し言葉独特の過去形と過去進行形の使い分けです。
過去形を使うべきか、それとも過去進行形かを選ぶミニクイズを2問ほど。
1)Tom が近所の人に Brian から聞いた話をしています。
Tom: Brian [(a) was saying (b) said] the village hall nearly caught fire last night. (ブライアンが言うには、ゆうべ、役場が危うく火事になるところだったんだって)
2)Dick が娘から聞いた話をニュースを伝えようとしています。
Dick: Caroline [(a) was saying (b) said] that five mortar bombs have been discovered at Heathrow Airport. (Caroline が言うには、ヒースロー空港で迫撃砲弾が五つ見つかったんだそうだ)
正解はいずれも (a) です。文法に自信がある方ほど (b) を選んだのではないでしょうか。もちろん、(b) が不正解という話でもありません。書き言葉なら、それで通用するからです。いや、むしろ、書き言葉として考えたら (a) が間違いとなることでしょう。
話し言葉、特に誰かが何かを物語るといった場面ではなく、気楽な雑談に属する話をする場合、上のような状況では、つまり、人にこんなことがあったんだよと報告するような例では、過去進行形を使うのが一般とされています。
上の例は、話し言葉としての英語の専門家が著者として加わっている Exploring Grammar in Context (Cambridge University Press) に載っていた例ですが、同書はこうした用法をこう説明しています。
The past tense with -ing is very common in indirect reports in informal spoken language. It emphasises the content rather than the words actually used, and is common when new topics are introduced into the conversation or when a special bit of news is reported. (インフォーマルな話し言葉の場合、間接話法において過去進行形を非常によく使う。この用法は、実際に何と言ったかより、話の内容に重きを置くもので、新たな話題が導入されるときや、ちょっとしたニュースを伝えるときによく使う)
ここでおもしろいのが、同じように間接話法の中で say や tell を使って何かが報告されるような例でも、単純な「やり取り」から成る会話ではなく、誰かが何かについて長めに語る例 (narrative) では、過去形が使われるという事実です。つまり何かひとまとまりの話を伝える中で報告のための say や tell が使われるような状況では、言葉どおり「報告」することに重点があり、そういうときは過去形を使う一方、気楽な会話の中では、 form ではなく、message content を伝えることに重点があり、そういうときは過去進行形を使うというのです。おもしろい棲み分けです。
実は、この話は、もともとは、Ronald Carter と Michael McCarthy の共同執筆による Grammar and the Spoken Language という論文の中で取り上げられているもので、Ellipsis (Would you like some beer? → Beer?)、それと Authentic Kyoto cuisine, it's a specialty here. または、It’s a specialty here, authentic Kyoto cuisine is. に見られるとおり、主語の前にそれを別の形で繰り返したり、逆に、文末でもう一度主語を取り上げるといった Heads/Tails といった独特の構文ともども、専ら話し言葉の英文法で見る言い方とされています。
Grammar という言葉自体、ギリシア語の "writing" を意味する言葉から来ているぐらいで、英文法と言えば、書き言葉の文法だというのがその本質です。その証拠に、McCarthy らが取り上げている Ellipsis, Heads, Tails といった話し言葉に特有の事項は、普通の文法書では取り上げられていません。それでいて英語を使ってのコミュニケーションではけっこう頻出するわけで、いったい誰に文句を言ったらいいのかわかりませんが、困ったことです。英語を勉強している人のほとんどが英語で話せるようになりたいと思って頑張っているのに、そういう人たちが頼りにする英文法の本がどれも書き言葉ベースというのも何だかおかしな話です。
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おもしろいトピックですね。参考になりました。してみると過去進行形以外の「現在進行形」でもこういったものは当てはまるのでしょうか。ちょっと疑問に思いましたのでご質問させて頂きます。たとえば第三者の日本語の内容をリアrタイムで英語に通訳するときなど、She saysなのかShe is sayingなのかShe saidなのかはたまたShe was sayingなのか…ものすごい基礎的なことかもしれませんが、よく「どれが正しいのだろう」と思ってました。私はニュースなんかでよくPrime Minister Hatoyama says~みたいに聞くような気がするので、それを使うことが多い気もしますが正直よくわかりません。
[返信]
進行形は別途取り上げようと思っています。ひとつ言えるのは、「進行形」という名称はともかく、心理的距離感を演出するツールとしての役割も担っており、それが随所で微妙な働きをするということでしょうか。
なお、ニュースの英語は会話の英語とは別ジャンルとして扱われています。
- 2010年02月01日 20:16
「書き言葉ベースで書かれている英文法」ということは、そういった英文法の本を読めば完璧な書き言葉が書けると言うことでしょうか?
[返信]
どうなんでしょう、書き言葉を観察して、そこでのルールをまとめたものがいわゆる英文法ですということを申しあげたまでで、そのことと、英文法の本を読むと完璧な書き言葉が書けるかとは別問題です。加えて、完璧な書き言葉を追究する上では文法とは別ジャンルのスタイルというジャンルもマスターする必要があります。
- ともちゃん
- 2010年02月01日 20:27
日向先生
今日も興味深い話題をありがとうございます。昨年読んだ本で一番面白かった、スティーブン・ピンカーの「思考する言語(中)」(NHKブックス)に以下の説明がありました。
「未完成相は、ある出来事の舞台を設定したり、情景を説明するときによく使われるのに対し、単純過去形と現在形はおもにストーリーを進めるのに使われる。」
ピンカーは口語独特の表現として説明しているわけではないのですが、先生がおっしゃる「特に誰かが何かを物語るといった場面ではなく」と重なるところがあり、思い出した次第です。
ネットでこの手のことを調べていたら、"I hope…"より"I am hoping…"の方が丁寧だとの説明にもぶちあたりました。未完成な表現を利用した謙虚さといったところでしょうか。
[返信]
丁寧に読んでくださり、ありがとうございます。McCarthy の資料では、単なる会話と一人の人間が「こうこう、こうでね」とストーリーを話す例を区別しており、「後者ではないよ」という意味で、「特に誰かが何かを物語るといった場面」ではないと言ったつもりでした。
まぎらわしくてすみません。
- 元ハノイ市民
- 2010年02月01日 22:55



日本語でも「〜って言ってたよ」と言いますね。