2010年2月 2日
話し言葉の英文法2:現在進行形
英語を話す人たちは、意識しているかは別として、一定のスキーマ、つまりものごとの全体ならびに構成要素相互間の関係を理解するための枠組みというのが頭にあり、それに即して話をしているわけですが、私の理解では、「英語を話す」に当たってのスキーマは、具体的には次の5つの要素から成っています。
(1)待ったなしのリアルタイムで進む
(2)インターラクティブな共同作業である
(3)相手が誰か、状況はどうかを意識する必要がある
(4)当たり前とされている所定の手順・流れがある
(5)会話の流れ全体の中で自分の発言を位置づける
この中で、(2)の「インターラクティブな共同作業である」がゆえに、話し言葉特有の英文法が書き言葉の英文法に取って代わる例があります。そのひとつが、現在進行形の使い方です。
書き言葉の世界では、原則的に状態動詞は進行形にできないけれど、例外の一として、動作を示す動詞として使うのであれば、進行形が使えるとされています。例えば、have は「所有している」という意味では進行形にできないけれど、A: What are you having? B: I'm having an omelette with cheese and ham.のように、「食べる」という動作を示す動詞として使っている場合は、進行形で使えるということです。
例外の二として、What's the matter with you. You're being difficult today. (いったいどうしたの。きょうは妙に気難しいじゃない)に見られるとおり、本来、状態動詞である BE 動詞は、進行形で使えないけれど、普段と違っている、「一時的な状態」を表しているときは、進行形でも使えるとされます。
例外の三として、状態動詞でも、変化の途上にあることを指しているときは、進行中でも使えるとされ、「ひごとに赤ちゃん、お父さんにますます似て来ているね」と言うような場合、The baby is resembling his father more and more every day. といった進行形を使った言い方ができます。ちなみに、マクドナルドが一時使っていたコピーの I'm loving it! はこのたぐいと解されます。と言うのも、I'm loving it. と聞けば、なんとなく、そのあとの more and more が連想されるからです。(ただ英語教師の平均的感覚はこの Grammar Girl の記事かなと思います)
このように書き言葉の世界では状態動詞は限定的にのみ進行形で使うことが認められるに留まっていますが、話し言葉の世界では、以下のような形でごく普通に状態動詞とされているものを進行形で使います。しかも、上で挙がっている三種の例外のどれにも当てはまりません。
(a) I'm hoping that you look into the matter. この件、調べてもらえたらと思っています。
(b) I'm not doubting what you're saying. I'm sort of thinking that there may be a small error in the original data set. 、決しておっしゃることを疑っているわけではないんですよ。ちょっと思ったのは、元のデータに何かしら間違いがあるのかなということでして。
この二つの例は一般的には「ネイティブはそう言うんだよ」で片づけられがちですが、これは英会話が「インターラクティブな共同作業」であることに由来する、話し言葉ならではの用法と位置づけることができます。共同作業とは言うものの、互いに相手がどのように参加しているか見えるわけではありませんから、その分を言葉の遣い方で補い、より穏やかな表現を選択していることを見せて、「いい人ぶり」をアピールしているのだと解されます。
こうした視点から、(a) の hoping の例を考えるに、書き言葉では進行形で使ってはいけないとされる動詞も、話し言葉の場合、ものを頼んだり、要望を伝えたりする場合、より穏やかで丁寧な感じを醸し出すために、進行形を使えるというこことです。
例えば、相手に商品やサービスについて苦情を言うような場合、
I hope that you look into the matter.
だと、「この件、調べてもらいたいと思います」という感じですが、
I'm hoping that you look into the matter.
だと、「この件、調べてもらえたらと思っています」といった控えめのニュアンスを伝えることができます。
また、沖縄旅行のツアーはないかと旅行会社に問合せの電話をかけるとした場合、
Oh, hello, my wife and I are wanting to go to Okinawa. (もしもし、家内と沖縄に行きたいのですが)
と言ったりもします。
次に (b) の例を考えるに、心理状態を表す think や doubt なども、書き言葉の世界では進行形にできないとされていますが、話し言葉では、進行形が断定的な感じを避けるというニュアンスがあるのを利用して、相手への気遣いを示すため、進行形で使ったりします。
例えば、
I don't doubt what you're saying. I think there may be a small error in the original data set.
と言うと、「あなたがおっしゃっていることを疑っているわけではありません。元のデータに何かしら間違いがありうるのではないかと思っています」と響きますが、
I'm not doubting what you’re saying. I'm sort of thinking that there may be a small error in the original data set.
というふうに、曖昧さ加減を強調し、穏やかにする sort of をも足して使うことで、「いやね、決しておっしゃることを疑っているわけではないんですよ。ちょっと思ったのは、元のデータに何かしら間違いがあるのかなということでして」という響きになります。
考えてみれば、現在形を使うと、この種の型がきっちりと事実を伝えるときのパターンであることが影響するのか、何となく文法という刀を大上段に振りかぶっているような感じがするのに対して、進行形は何とはなく「軽さ」があり、気軽な感じがします。だからこそ、Eメールでも、I write to... ではなく、I'm writing to...が主流なんでしょう。
いずれにしろ、このように会話が共同作業であることから、発することばの響きを少しでも穏やかにしたり、断定的なもの言いを避けるツールとして状態動詞といえども積極的に進行形で使うといったことが行われているわけです。
このあたり、文法書(英文のもの)はどう説明しているかと言うと、そもそもほとんどが書き言葉を対象としているので、上の (a) (b) の用法を説明しているものは少ないのが実情です。話し言葉の分析にウェイトを置いている Cambridge Grammar of English でも、
The present simple sees time in terms of facts, truths, generalities and permanent states of affairs. 現在形は、事実であること、真実であること、一般的であること、恒常的な状態との兼ね合いで時間を捉えている。
という記述を通じて、進行形は事実ないし真実ベース色が薄い分,穏やかなのかなと推測できる程度です。
こうしたなか、話し言葉にも目を配っているなと感じさせ、秀逸なのが、2008年に Cambridge University Press から出た Ron Cowan の The Teacher's Grammar of English で、(a) については、一般的に正しいとして通用していることを取り上げる型である現在形と異なり、進行形は融通がきく感じのする分、インフォーマルな趣があるので、それを使うと、より丁寧な感じを打ち出せるとし、また、(b) についても、think, doubt, remember などは進行形で使うことにより、現在形だとへたをすると紋切り型になってしまうものが、より後退した、控えめな感じのもの言いになるといった説明をしています。
この本、話し言葉をも視界に入れた文法書ということで気に入っています(ただ、話し言葉ではこう言うといった書き方ではないので、行間を読む必要があります。何しろかさばるし、高いのですが、買って損はないと思います。
興味のある方は、Google Books で実物をチェックできます。
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囲み記事内の表現「単純過去形は、」ですが、「The present simple 」に相当するとすると、「単純現在形は、」でしょうか。
[返信]
ありがとうございます。直しておきます。
- 匿名
- 2010年2月 3日 17:50

大変参考になりました。時折、この進行形を目にしますので人のMOODからの解説は非常に興味深いものがありました。この所謂、英語の口語と文語の違いの認識は英語学習にとても大切だと日頃痛感しています。この両者をうまく使い分けて話せ、且つ書けるのを
目指して知的に楽しく学習、勉強をしていきたいと思います。有難うございました。
[返信]
書き言葉を音声化したものが会話と誤解している人が多いなか、「英語の口語と文語の違いの認識は英語学習にとても大切」とおっしゃってくださると、なにかほっとします。頑張ってください。応援しています。