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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2010年2月14日

会話を終える儀式

世の中、何とかのスコアが900点以上だけれど、さっぱり話せないという人がいくらでもいます。日頃接する学生からも、就職のために受験し、スコアは満点だけれど、インターン先の外国人と話ができない、かみあわない、どうしたらいいでしょうと相談を受けます。一方で、ネイティブたちからは、どうして日本人はひとしきり話したあとの、会話の終え方が乱暴なんだという嘆きを聞かされます。特に電話だとすごいことになるようで、にわかに信じられませんが、 That's all, good-bye. 的なぶっきらぼうな終わり方をする人がけっこういるという話を聞きます。

学生を含め、何しろ普通の人は実際の英語の会話に触れる機会に恵まれませんから、単語力と文法力を総動員して言いたいことを伝えるのに精いっぱいで、相手の気持ちにまで気が回らないのでしょう。でも、「相手の気持ち」は英会話では非常に大きなウェイトを持つ問題なので、単語や文法だけでなく、こういったコミュニケーションのための勘どころにも意を用いる必要があります。この点、Bachman という専門家は言語によるコミュニケーション能力を大別して、文法や語彙力を内容とする「構成能力」と「語用論的能力」とに分けていますが、「相手の気持ち」を斟酌し、それに即した言葉遣いをする能力は後者の要素と位置づけることができます。

つまり、単語や文法さえ勉強していれば英語が話せるようになるものではないわけで、別けても、会話の手順を念頭に入れた上で、その局面で求められるきちんとした言い方をしないと、感じが悪くなってしまいます。それでは、感じよく話をするためにはどうしたらいいのでしょうか。

この問題、つまり感じのいい話し方をするにはどうしたらいいのかということについては、Robin Lakoff という研究者は、三つの条件を挙げています。(1)押しつけがましくしないこと並びに(2)相手に選択の余地を与えることに加え、(3)話し相手の気分がよくなるよう計らう (make the receiver feel good) ことが必要だというのが Lakoff の結論であり、多くの研究者がしきりに引用することに見られるとおり、この三条件は通説化しています。

「相手の気持ち」は会話のやり取りがまだ続いているときも当然、意識され、助動詞の使い方を通じて相手への気遣いを伝えようとしたり、あるいは、perhaps, probably などを入れて少しでも断定的なもの言いとなるのを避ける努力に表れますが、私の見る所、日本人が英語を話すときに失敗することの多いのが会話を終息させる場面(以下「クロージング」)です。

結局は英会話というもののスキーマ(理解のための枠組み)に慣れていないがゆえの失敗なのでしょう。ちょうど執筆中の本のテーマと重なるので、英語を話すときの段取りという角度から、どうやって会話を終息させるのが一般的かを考えてみました。

「相手の気持ち」を考えてのクロージングさらにはそこでの定型的やり取りが日本人の学習者(あるいは、むしろ英語教育の専門家)に意識されていないことは、実証研究でも報告されており、英語の教科書に載っている例を研究したペーパーによると、「オーラルコミュニケーション」の教科書17冊中、クロージングの進め方が載っていないものが半分以上もあるそうです。しかもコンテンツを見ても、「お会いできてよかったことです」を伝える、定番の Nice talking with you. を載せているのが何とわずか一冊。これまた定番の Well 、例えば、Well, it was nice talking to you. というふうに頻繁にクロージングの場面で使う Well などはどの教科書も取り上げていないそうです。言いたいことを言いっ放しで、挨拶もろくろくせずに去ってしまう野蛮人を生み出しているに等しく、腹が立ちます。しかもこの種の教科書の検定にわれわれの税金が使われていることを考えると、知らぬ間に低レベルの英語教育に手を貸しているようでもあり釈然としません。

ともあれ、実際のクロージングがどう進められるのかと言えば、(1)クロージング入りを告げる、(2)相手への気遣いを見せる、(3)「さようなら」「失礼します」「じゃ、またね」などの別れの挨拶をする、という三ステップが標準です。それぞれがどういう役割を果たしているかと言えば、「クロージング入りを告げる」ことで、それまでの会話のコンテンツ作りの作業が終わり、互いに気持ちよく会話を終えるための「儀式」に入ることが告げられます。着陸に向け飛行機が下降を開始するようなもので、共に支度を始める感じとなります。次いで、相手への気遣いを見せながら別れ際の定型的挨拶を交わすことで、会話のプロセスが打ち切られます。会話という名のフライトが着陸し、ランプで停止するイメージです。

「クロージング」を告げるという段階では、話にひと区切り付いているか否かで使う言い回しも違っており、まだ話の途中ではあるけれど、ともかく行かなくちゃという気持ちを表すときは、Sorry とか Actually で始めて、

Sorry to rush off, but actually, I must be going.

と言い、一方、一応切りのいい所に来ているのであれば、Right や Okay あるいは Well で始めて、

Okay/Right/Well, it's been nice talking to you. We must get together sometime.

と言ったりするのが一つの定型パターンです。

次に「相手への気遣いを見せる」ための言い回しは、要するに well-wishing (相手の幸せを祈る)局面で、ニュートラルな言い方としては

Have a nice day.

で、これのインフォーマルなのが、アメリカ人がよく使う、

Take care.

です。ポイントは、これを言われた方の対応で、共に、

You too.

でうまく「着地」できます。つまり、こういうやり取りになります。

A: Have a nice day/Take care. B: You too.

最後が「別れの挨拶」で、これは以下が代表例です。

Good-bye.(ニュートラル)

See you around. (ややインフォーマルで、「ではまた」ということ)

おかしなもので、こういう別れ際の挨拶というのはどうかすると、長くなりがちです。例えば、以下の例は、『即戦力がつくビジネス英会話』の Lesson 4 の Dialog の終わりの部分ですが、くどいものの、実際によくあるわけで、これを音声を収録した時の声優さんたちも、「やっちゃうんだよね、こういうの」 ということで皆さん、大笑いしていました。

A: Right, I really have to leave now.
B: I'm sorry to see you leave. It's been a pleasure working with you.
A: Me too. Oh, if there's anything that I can do for you at my end, just send me an e-mail.
B: Thank you. I sure will.
A: Any time.
B: Of course. But I mustn't keep you. Have a safe trip home.
A: Thanks. Take care. Bye.
B: And send my regards to your staff, who put together all the research.
A: I will. Well, I'd better be off. Keep in touch.
B: Good-bye.

上記のうち、最初の Right, I really have to leave now. がプレ・クロージングで、まんなかの Have a safe trip home. とか、Take care. というのが「相手への気遣いを示す」言い回しで、こういったものを経てようやく、I'd better be off. とか、Good-bye. という「別れの挨拶」にたどりつくわけで、いきなり Good-bye. と唐突にやるわけには行きません。

もちろん、会話の中には商談のように取引条件の確定という目的があり、手段としての性格が強いことから、言い回しも決まっており、手短かに済まされるものもあります。こういうものはコンテンツを伝える言い回しを覚えるだけでもこなすことができます。

他面、パーソナルタッチが色濃く出る、何でもない会話の場合、コンテンツが人それぞれである分、大変ではありますが、せめてオープニングやクロージングの定型的やり取りぐらいはこなせるようにしておかないと「感じが悪く」なってしまうので、検定のスコアは高いけれど、会話がうまく行かない方々は、まずはこういう側面に着目して研究されるといいのではないかと思います。

次回、オープニングでのやり取りを考えてみるつもりです。

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Comments

私が危惧するのは、語彙力も乏しくカタコトで明らかに英語学習中であるということが目に見える人なら、”あぁ この人は英語がわからないから仕方ないな”ということになるでしょうが、TOEIC900もあれば語彙力もあり、英語を話しある程度複雑な内容を伝えるという能力もあるわけで、そういう”一見英語が良く出来る人”がこういう失敗をしてしまうことです。
この場合、その人は”英語がよく出来る”ということは外国人にも見てわかるものであり、その分余計に”失礼に取られてしまう”のではないかということです。

日本語がよく出来る外国人の同僚が、こういう失敗をすると、結構カチンとくることがあるので、きっとそういうことなんだろうと思いました。

それから、上記のコメントで出てきている”How are you?”に対する受け方の話ですが、私自身、日本語の会話の中で"How are you?" なる挨拶が無いため、なかなか慣れずにいます。
というのも、調子が悪いのに"I'm doing well" とかスッと出てこなくて、別に毎日元気一杯というわけじゃないから、常に"Doing well"というのは心境からスラッと出てこないからです。

と、この一連の話をアメリカ人の人にしてみたら、決まり文句の挨拶で"How are you?" ときた場合、誰も"I'm not so good"という答えは待っておらず、これは挨拶だから、調子が悪かろうが、"Doing well thank you. How are you?" と答えるのが”普通”であると聞きました。

もし、本当に具合がいいのか、今日の調子はどうだ とか聞くのであれば、"How are you doing today?" とか微妙に違う聞き方をしたり、あとは、根本的に、その二人の仲がどれくらい親しいかに寄る とも聞きました。

確かに、初対面の人にHow are you? と聞かれて、よっぽど具合が悪くてすぐに退席しなければいけない場合など除いて"Well, I'm not pretty good actually” とか言うのも可笑しいよなと思いました。

よく考えてみると、これは英語の挨拶に限った話ではなく、日本語でも”元気にやってるか?”とか(手紙で)”お元気ですか?”ときた場合、必ず、”おかげさまで元気にやっております”とするなと思いました。もし、何か病気でもして本当に元気でない場合も、
先に”おかげさまで”というようなことを言ってから、その後に初めて”実は、最近○○にかかってしまいました・・・”等々、具体的な実際の状況を伝えるかと思います。

というわけで、学校で一辺通りの”I'm fine thank you"というやり取りを習わされるのも、あながち間違ってはいないのかなと思ったのですが如何でしょうか。
もし、具合が悪い場合も教わっていたら、誰に聞かれても毎回正直な体調を伝えてしまう可能性もあるよなぁと思いました。

次回はオープニングでのやり取りということなので、この辺りのことも教えていただけると幸いです。

[返信]

お尋ねの挨拶は、大体が決まりきった一往復の adjacency pair と呼ばれており、非定型的な答えのときだけ、ちょっと踏み込むのが常識となっています。

How are you? に対しては、Fine, how are you? と答えるのが基本であるのは、出がけに近所で「どちらまで?」と聞かれたら、「ちょっとそこまで」と言うのが決まりであるのと同じで、要するに定型的ないし儀礼的やり取りであり、誰もそこに格別の意味合いを見いださない、いや、見いだしてはいけないのがルールということと解されます。

初めてメールさせていただきます。私も、TOEIC約900、仕事で英語を話す機会は減っているのですが、「別れの儀式」が出来ない人が多い、というのは信じがたいです。「終わりよければすべてよし」というフレーズがありますが、会話の終わり方がひどいと、今までのトークが台無しになってしまう可能性がありますよね。

電話でアメリカ人と電話をすることが多いのですが、彼らの言い方を真似することにしています。
That's all I wanted to discuss with you today. It was nice to talk with you, David. Keep in touch. Bye-Bye ! これだけですが、相手も Thank you. Talk to you. Bye ! と機嫌よく反応してくれます。それで次のビジネスへ続いていく・・・といった感じです。

中学校で、How are you ? の答えは必ず、I'm fine, thank you. And you ? と習いますよね。
「実は風邪を引いていて調子が悪いんだよ・・・」「それは大変ね。お大事に。」といった表現を習いませんよね。心を込めた表現の学習に欠けているような気がします。ちょっとした会話でも、心を込めて感謝する、ということを忘れないようにしたいと思います。

その後、印象が悪くなって出入禁止になったら、大ダメージですからね。大トヨタの社長は出入禁止にならないでしょうが・・・。

[返信]

コメントありがとうございます。真似するのは学習の基本ですよね。

負担を軽くするということで言えば、That's all I wanted to discuss with you today. は大変でしょうから、 Well, that about wraps it up. とか、I think that about wraps it up. も便利なので、試されたらいかがでしょう。

おっしゃるとおり、英語教育の世界には「ハート」が欠けていると感じます。

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