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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2010年2月15日

会話を始める儀式

ちょっと古い資料(1998)ですが、全国語学教育学会 (JALT) という専門家団体のウェブサイトに掲載されていた論文において、高校の英語の教科書がネイティブの目で吟味されていました。

その中で一つ、会話の運用能力 (discourse competence) という見地から、やり玉にあがっていたのが、以下の会話です。Active English という教科書に掲載されている会話例だそうです。あとの話を進めやすくするため、文末に番号をこちらで振っておきます。

日本からのみやげ物がどうのと言っていますから、察するにホームステイ先に到着した日本人学生がホストファミリーの誰かと交わす会話ということなのでしょう。

A: I've been looking forward to seeing you. [1]
B: We have too. We're happy to have you with us. [2]
A: Thank you. Here is something I brought from Japan. [3]
B: Oh, thank you. You shouldn't have.[4]
A: This is a beautiful house.[5]
B: Thank you. Let me show you around the house. Are you ready? [6]
A: Sure. (Follows B .)

この会話につき筆者の Stephen Templin が一番気にしているのが、唐突な転換です。[2] で「お迎えできてうれしい」と言われた B が「こちらこそお世話になります」という意味とおぼしき Thank you. のあと、突如として、Here is something I brought from Japan. と言う場面です。

このことを Templin はこう評しています。

In line three, A suddenly jumps from a greeting to offering a gift. She could ease the shift by saying, "Thank you. Say, before I forget, here's something I brought from Japan.

ご覧のとおり、ポイントは、Say, before I forget というディスコース・マーカー(会話運用上の標識)で話の流れが変わることを伝えていることです。いきなり「はい、日本からの土産物です」とやられるより、「あの〜、これなんですが、忘れないうちにお渡ししないと」と前触れがあった方が自然で気持ちがいいに決まっています。

余談ですが、手みやげがある場合、親しさにもよるのでしょうが、アメリカ人の場合、We brought you a little gift. といったことをわざわざ言わず、黙って品を相手に渡すようなケースの方が多いように思います。

いずれにしろ、ちょっとした前触れが必要という点では、[5] の This is a beautiful house. の所も同じで、Templin は By the way を入れるべきだとし、Richards という研究者の論文 (Richards, J. C. (1983). Listening comprehension: Approach, design, procedure. TESOL Quarterly 17, 219-240.) を引き合いに出して、ディスコース・マーカーの欠如は、脈絡が途切れているかのような感じを与える (produces a disconnected effect) と指摘しています。

「脈絡」というぐらいですから、会話には流れ又は所定の手順とでも言うべきものがあり、この点を意識しないとなかなか英語で話すことができません。上の例は、ディスコース・マーカーを使って話し始めの局面をどう切り盛りするのかを説明していますが、話し始めの局面において、定型的な挨拶を交わしたあと、本題に入るまでの流れにもパターンがあり、意識しておく必要がありそうです。

つまり、会話が始まる場面では、上の教科書の例からもわかるとおり、挨拶が終わったら、急に本題に入るものではありません。だからこそ、挨拶の次のステップとして「普通ではない」、「はい、おみやげです」のような発言に先立ち、「唐突ですが」といった感じをクッションとして入れるのだと解されます。

それでは、挨拶の次には何が来るのでしょうか。一般的には、挨拶の局面と本題をめぐるやり取りが行われる局面との間をつなぐ、「橋渡し」となる局面が入るもので、一種のウォーミングアップが行われます。友だちどうし/同僚どうしの会話だとして、言い回しとしては、以下のものをよく耳にします。

時事問題を話題にしたいなら、

Have you heard the news?

が典型で、通常は、No, what news? で応じます。Did you catch news about...というふうに具体的な事柄を挙げることが少ないのは、昨日の記事で説明した「折り目正しい」会話の三原則で言う「押しつけがましくないこと」「相手に選択を委ねること」「相手の気分がよくなるよう計らうこと」を思い出すと、こんなところにも相手への気遣いが表れているのかなとも思ったりします。

共通の知り合いに会ったことを話題にしたいなら、こんなやり取りをよく聞きます。

A: Guess who I saw yesterday. B: Who?

これも、I saw Jack yesterday. と切り出すと、ずいぶん感じが違います。ジャックという話題をいきなり突きつけられるようなもので、押しつけがましいし、こちらに選択の余地もありません。

してみると、会話を始めるときの儀式というのは、

定型的な挨拶
  ↓
本題の前触れ
  ↓
本題に即してのやり取りの開始、

と、こういう流れだと言えそうです。

もちろん、実際には千差万別です,特に親しくなればなるほど、定型パターンが無視されるのは日本語でも英語でも同じです。

しかし、こういう、一般的に受入れられている「開始の儀式」があるのも確かですから、単語と文法はひとまず大丈夫だけれど、うまく話せないという人はこういうものにもっと目を向けることで、気持ちに余裕をもって会話に臨めるかと思います。

理屈の上でも、流れを知っておき、それを念頭に会話に臨むというのはコミュニケーションをこなす上で重要なスキルとされています。現に、以前、「英語を話す」とはどういうことかでも取り上げたとおり、言語運用能力のグローバルスタンダードと言えるヨーロッパ共通参照枠 (CEFR = Common European Framework of Reference for Languages) は、会話の段取りないし手順を知っておき、実践するスキルにつき、こう説いています。

Participants are engaged in an interaction, which each initiative leads to a response and moves the interaction further on, according to its purpose, through a succession of stages from opening exchanges to its final conclusion. Competent speakers have an understanding of the process and skills in operating it. 会話の当事者は、各自が言葉を発する都度、然るべきリアクションがあり、次のステップへと進むなか、目的に応じて、そのあり方も違ってくる、一つの双方向的プロセスに関与するのであり、そこでは、口火を切るやり取りに始まって、最終的に締めくくられるまで、段階的な展開が想定されている。会話が上手な人々は、こうしたプロセスにつき、それがどういうものかを理解しており、また、そのプロセスの中でどう言葉を使うべきかを心得ているものだ。

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Comments

弁護士事務所を舞台にしたドラマで、気心知れた同僚に言いづらいことを伝えるとき、
"Ah, you know what?"
と、ちょっときまり悪そうに切り出していたのを思い出しました。

同じ登場人物が確信を持って顧客に言い聞かせるときは
"Look,..."
でした。

へえ、こういうときには、こういう調子でこう言うんだと妙にはっきりと覚えています。

[返信]

You know what? はむずかしいフレーズだと感じています。状況によりけりで、ばしっと言うケースもあれば、おっしゃるように、遠慮がちに弱々しく言うケースもあるわけで、結局はコンテクストの問題と解されます。

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