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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2010年2月24日

今晩おひま?:フレームとスキーマの話

会話分析 (conversation analysis) と言うと、「英語学」の中の一分野みたいな感じがしますが、実は様々な分野の研究者が相互乗り入れしており、中でも、社会学や人類学の専門家が目立ちます。もちろん、英語プロパーの研究者も会話に関心は持ったりするものの,この人たちは、会話を行うために人は英語をどう使っているかに焦点を合わせるのに対して、他分野の人たちは、英語がどう使われているかよりも、そもそも人間社会の営みとしての会話はどういうふうに行われているのかに関心を向けています。

こうして会話を社会現象ないし人の社会的行動の一環として捉えると、普通に英語を勉強していたのではわからない、英会話固有のパターンというものがあることがわかってきます。その中でも、英語を話せるようになりたいと願う人たちにとって有用なのがフレームとスキーマというものではないかと思われますので、ざっとご紹介します。

フレームというのは、会話の当事者にとっての「共通の状況認識」です。自分自身、当事者となって進められている会話のその場面で何が行われているのかの理解のことで、簡単に言えば、社交辞令などの挨拶なのか、冗談なのか、深刻なやり取りなのかを判別し、それに従って話を進めるための手がかりです。どういう舞台設定なのかの理解ということであり、自分の中では、冗談モード、まじめモードと言うときの「モード」と理解しています。

フレームは絵画のフレーム(額縁)と同じで、その会話が行われている場面を切り出し、食事、買い物など他の社会行動と区別した上で、われわれの行動の指針を与えてくれます。

ですから、このフレームを各自体得しているおかげで、(近頃は少なくなりましたが)出がけに近所の人にばったり会ったような場合、近所の人は、別段、具体的な行き先を聞き出すつもりなく「どちらまで」と尋ねますし、言われた方も、ここは社交辞令の交わされる場面という「共通の状況認識」があるので、「ちょっとそこまで」と軽く受け流すことになります。ところが、こういうフレームがない外国人が言われるような場合だと、ときには、「余計なお世話だ、何て失礼な」と怒ることにもなります。

またアメリカ人の学生を対象にした実験では、普段なら、つまり普通の会話でなら、自分の主張を裏づけることを話す場合に、ながながと、いわばストーリーを語るだろうに、ディスカッションといったフレームの中では、単刀直入に根拠を挙げるといった行動の変化が認められるそうです。

フレームを読み違えるととんちんかんな受け答えにもなってしまいます。例えば、会社で、出かける同僚から別の同僚への伝言をこんな形で頼まれたとしましょう。

A: Can you tell John I'll be back before three?

この場合に、これが伝言モードだとわからず、質問モードでの発言と誤解すると、

A: Can you tell John I'll be back before three?
B: Yes.

いうふうに、Yes と答えてしまい、何だか変なやり取りになってしまいます。

当然、

A: Can you tell John I'll be back before three?
B: OK (または All right).

という答え方が、ここでのフレームに合ったものとなります。

ということは、以上を要するに、英会話を勉強する場合も、フレーズを覚える際にそれがどういった共通の状況認識の下で、つまりどういったフレームの中で使われるのかをいっしょにおさえておいた方がいいということになります。

もう一つのスキーマというのは、自分の過去の経験に照らして形成されている判断の枠組みのことであり、実際上は、「こういう場面での会話はこういう流れとなり、展開の段取りはこうなるのが普通」という形で会話の運び方を考える上で、あるいは相手の言っていることのニュアンスを理解する上での助けとなります。先のフレームとは当事者に共通する認識である点で似ていますが、フレームが「こういうものは冗談モード」「ああいうものは真剣モード」というふうに、場の雰囲気の問題なのに、こちらのスキーマは各自の個人的経験に基づく、段取り、順番の話です。

そのいい例が「今晩おひま」的な誘うときのセリフです。たいていの英会話本には「今晩、夕食などいっしょにいかがですか」と人を誘うときのセリフとして、

I'd like to invite you to dinner.

を載せています。

たしかに十分用が足りることでしょうし、商談の続きといった意味あいもあるビジネス英会話のような目的合理的会話の場合は、これでいいと言えます。

しかし、人間関係を構築し、維持しようという、つまり、社会生活上の会話となると、物足らない感じがあります。というのも、普通に英語を話す人のスキーマからすると、こういった場合は、いきなり「今晩おひま」と切り出すものではなく、「ちょっと思っていたんですが」的な前触れが入るからです。典型的には、I was wondering といったフレーズが挿入され、こうなります。

I was wondering if I could invite you to dinner.

普通に英語を話す人たちは、人を招待するというフレームの中では、まずは気遣いを見せている様子を示しながら、「どうでしょうね」と切り出し、次いで本題の招待が持ち出されるという手順を取るものだというスキーマが頭にあります。したがって、上のような言い方なら、何の抵抗もなく、「ああ招待してくださってるんだ」と受入れることができます。

また、自分が持っているスキーマによると、気配りをする人は、相手が「断る」という面倒なことをしなくていいように、予め、

Any plans for the weekend?

と相手の予定がないのを確かめてから、How about...? などで誘うのが一般的だと感じます。ですから、上のディナーに誘うケースも、こんなやり取りが自然と感じられます。

A: Any plans this evening?
B: Well, nothing special.
A: Oh, actually, I was wondering if I could invite you to dinner.
B: That would be lovely.
A: How about some "sushi"?
B: Sounds great.

いずれにしても、ビジネスならともかく、普通の人どうしで、いきなり、I'd like to invite you to dinner. と切り出されたら、自分のスキーマでは想定されていない事態ですから面食らうことでしょう。

ここに英語学習者がスキーマに目を向けておく意味があると考えます。通常のスキーマを研究しておき、それに即して動かないと、いくら気の利いたフレーズを覚えていても、段取りを無視して使うことになり、その結果、相手に自分の気持ちを伝えよう、コミュニケートしようという気持が空振りに終わってしまうからです。

日本人どうしの会話だって、いきなり、今晩おひま的な言い方はしないはずです。「もしまだご予定がなければ」とといった前振りがあるはずで、しかも、少しでも丁寧にすべく、「もしまだご予定を入れてらっしゃらないようなら」と言ったりもします。このあたりは、本来、I wonder if I could と言ってもいいものを I was wondering if I could と、より間接的であり、したがって、より丁寧な言い方を選ぶ英語の世界と同じです。

ところが、英語を使う場面になると、日本語の世界では常識人だった人でも英語でセンテンスを組み立てることにばかり頭がいってしまい、偉くぶっきらぼうになってしまう傾向があります。単語や言い回しだけわかっていればいいのではなく、やはり英語を話そうという以上、こういったフレームやスキーマといったことも考えておく必要がありそうです。

特にスキーマは、英語を使った経験がないと「経験に即して形成される判断の枠組み」など期待できませんから、学習者の方で、意識して典型的な段取りに目を向け、英会話=単語やフレーズの組み合わせという発想を改め、会話の流れとして普通、どうなるのかという側面にまで意を用いる必要があると考えます。


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Comments

いつもためになるお話しをありがとうございます。外国人は直球で話すが、日本人はやんわり話す、というのは、おそらく誤りだと思います。直球で話す日本人は存在しますよね。彼らは、概してスモールトークの出来ない人だと思います。結局のところは、ナショナリティの問題ではなく、パーソナリティの問題だと思います。アメリカ人は、スモールトークもこなせれば、理由を論理的にまとめて話すこともできると思います。仕事一途の日本人サラリーマンよりも、付き合っていて楽しいです。

ところで、某たばこ会社の英語ポスター、いつ見てもヘドが出るくらい気持ち悪くなるのですが、いかが思われますか? 会社の広報担当者は、アキオちゃん以下なのかな、と思います。


http://www.jti.co.jp/sstyle/manners/ad/gallery/index.html

特に、
I carry a 700 C fire in my hand with people walking around me. って何やねん???? て思います。

[返信]

たしかに、ブロークンイングリッシュで直球型の乱暴な指示をする日本人、しかも役員クラスの人っていますよね。あと、こういう人に限って、なぜか外国人を呼び捨てにするのが気になります。

この変な広告、よく山手線の車内広告で見ますね。ただ対象が日本人なのでしょう。たしかに気持悪い英語ですけれど、それ以前の問題として意味不明ですから、実害もなさそうです。強いて言えば、へっぽこ英語だから、へっぽこ会社と思われてしまうことでしょうか。

>>英語を使う場面になると、日本語の世界では常識人だった人でも英語でセンテンスを組み立てることにばかり頭がいってしまい、偉くぶっきらぼうになってしまう傾向があります。

この間、日本語教師が出てくる漫画を読みました。その漫画の中で、教師の方が「外国人は物事を直球でいう傾向があるので、婉曲について教えてあげよう」というような事を言っていました。そこで、その外国人の学生さんの日本語は、日本人英語学習者のぶっきらぼうな英語と比較すると、やはりどちらの言語においても中途半端におかしい(又は、直球過ぎる)のではないかということ、そして、寧ろ日本語教師としては、「外国人は歯に物着せずに物を言う」のは、学習者が外国人であるからではなく、単に日本語が出来ていないからと考えるべきではなかろうかと思ったのですが。

簡潔に言えば、日本人の思う、外国人はストレートに話すというステレオタイプは、是か非かとふと考えた次第です。先生はどう思われますか?

[返信]

それは、「フレーム」の違いとして理解するとわかりやすいのではないでしょうか。アメリカ人でも個人同士の話の中では、理由を説明するときも、割と時系列に即してのお話モードなのに、ディスカッションとなれば、そのモードに移り、理由をあっさりとまとめます。

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