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日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2010年2月25日

トヨタの寡黙な社長の英語力

AP通信の経済記者が豊田社長の英語について言及していました。大見出しは、Reticent Toyota President Typical for Japan Inc. (トヨタの寡黙な社長は日本株式会社ではひとつの典型)で、続けて、Reticent Toyota president, typical for Japan, in for culture shock when he faces US lawmakers (トヨタの社長が寡黙なのは日本では典型的だが、居並ぶ米議員たちを前にしたとき、カルチャーショックを受けるだろう)としています。

この記事のテーマは会社を代表して、会社の立場を代弁しようとしない日本的経営者の体質を生む土壌ですが、個人的には、豊田社長の英語に触れた部分がおもしろかったのでご紹介します。

そもそもこの記事は、誰が出て行っても、トヨタを代表しているとか、議会証言はアメリカでの責任者を出す予定だなどと言って、表舞台に立とうとしないかのような豊田社長の行動が英語圏の人々には不思議と映ったことを背景にしています。そりゃそうです。CEOと言えば、会社の顔であり、会社を代表して、雄弁に会社の立場をアピールするのが仕事です。誰が出て行っても組織の代表であることに変わりはないという論法で、戦時の休戦交渉に一兵卒を差し向けたら、相手も怒るに決まっています。

それはともかく、記事は専門家に取材しながら、豊田氏のような地味で、発言を避ける社長を生み出す日本的企業文化に焦点を当てており、前段では、中部大学の Nishida教授のコメントとして、日本の企業トップはシンボルであり、その意味ではちょっと天皇陛下の立場に似ているといったものを紹介し、こういう体質があるので、豊田氏が当初、米トヨタの役員に議会との対応を委ねようとしたのもわかるとしています。

また、上智で国際経営を教えている Haghirianという専門家にインタビューして,経営トップの考え方やリーダーシップがものを言う西洋社会と異なり、日本企業では、経営トップと言っても、対立や衝突を好まないことから、根回しなどを通じて、関係者の意見を調整しながら集約するのが役どころであり、例外的だった日産の例を見てもわかるとおり、普通は強力なリーダーシップを発揮し、変革を推進することがないという見方を紹介しています。加えて、経営トップは外部からではなく、内部で育てられるので、社外のこととなると、事情に疎いといったことにもなると指摘しています。

要するに日本企業は国際的視野が狭いという論旨なのですが、そういう日本企業の中にあっても、豊田章男氏は、日本人の社長にしては、比較的国際派だと持ち上げます。言い方はこうです。

Toyoda is relatively cosmopolitan---for a Japanese president.

そして、拙い英語を話すことについても、日本じゃ、教育のある人でも、あの程度が普通だよ(his lack of English fluency is the norm among even well-educated Japanese) とする一方で、豊田氏の母校である慶応大学といったトップクラスを含めて、あんなものだよと痛い所を突きます。

そして、わが国の英語教育について、こう説明しています。

Admission at such universities call for intensive study, but conversational English isn't one of the requirements. English courses tend to be pedantic, focusing on grammatical rules, and starting foreign language lessons in childhood is rare. こうした大学に入るためには根を詰めて勉強しなければならないが、受験に話し言葉としての英語は必要とされていない。英語教育は衒学趣味に偏している感じがあり、文法にばかり目を向けているし、小さいうちから外国語を勉強し始める例もまれだ。

たしかに普通に英語を話す人々からすると、見聞きする日本の英語教育は、「衒学趣味」と言いたくなるんでしょうね。しかもその産物である人材が英語の世界ではものの役に立たないわけですから、なんとも不思議な教育と映るのでしょう。

そして、またしても、豊田氏の英語力に対する評価を持出し、マサチューセッツ州にあるバブソン・カレッジから経営学の学位を得ているぐらいだから、英文の声明を読み上げる分には問題ないとした上で、続けて、こういう指摘をしています。[追記:公聴会の冒頭で豊田社長は声明文を読み上げていましたが、切り方など細かい点は抜きにして、ともかく英語としては基本的に十分通用するレベルです。Youtubeに映像があります

...but his halting English at news conferences indicates he will struggle to improvise answers when faced with a grilling from lawmakers. しかし、記者会見の席で見られた、彼のつっかえつっかえ話す英語を考えると、議員たちからの厳しい追及にあった場合、なかなか答えられず、苦労することだろう。

哀れ、豊田章男氏、このように外国メディアにかかると、先日の broken English という話を初め、今回の "his lack of English fluency" 、"his halting English" とサンザンで、気の毒なぐらいです。想像ですが、おそらくパーティーの席などでは、朗らかに歓談できる程度の英語力はあるのでしょう。しかし、やはり出る所に出たら、きちんとした英語を話してもらいたいものです。"noblesse oblige" (=privilege entails responsibility) という言葉があるぐらいですから、社会的地位のある人はパーティー/ゴルフ英語以上のレベルが要求されて当然と言えるのではないでしょうか。

いずれにしろ、今回の公聴会では、ちゃんとした通訳に頼むでしょうから、英語でのやり取りは免れるでしょう。しかし、そうは言っても、やはりわが国を代表するグローバル企業のトップが英語で堂々と言いたいことを言えないというのは、わが国の英語教育がうまく行ってない証拠でもあり、残念です。

この点、英語教育に関心の高いビジネス関係者から時折り、グローバル人材がどうのといった話を聞く機会があるのですが、それどころの話ではないでしょうというのが正直な感想です。

しかし、一方で、大手企業の社員の中にも、きちんとコミュニケートできるレベルの英語を意識して勉強し、さらに(こらが大事なのですが)練習している人たちもいます。あと20年もすれば、そういう人たちが役員になり、雰囲気が変わってくることでしょう。でも、その頃はこっちはあの世ですからねえ。これまた残念なことです。

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Comments

さっそくのお返事ありがとうございます。
ラリー キング、チャーリー ローズ、ビル モイヤーなどなどUSのインタビューを英語で直接こなす力は今さらつきにくいような気がしますねえ。彼が今20代か30代ならまだしも。
習うのに遅すぎることはないので、改善!ですか。

あのインタビュー、旬な話題で呼ばれたのでしょう。出演はダメージの未然防止?招いたが断られた、とラリーに言われたら、やっぱり社長逃げたな、と思われる。USではEST午後2時半ごろ始まった豊田社長の公聴会中継をTVで見ていないUSのトヨタ オーナーズに訴えるチャンスだったのでしょう。まずまずのパフォーマンスであれば”ちょっぴり”見直されるかもしれないし。CNNとCSPANのビューアーズは重なるし、レクサスやプリウスのオーナーズでCNNを見る人も多いですので。

冒頭で同時通訳を使うのでタイムラグがある、と言っていましたが、英語でかぶせたのはCNN側のプロの同通だと思いました。返事が想定できなかったか論理がみえなくて英語にできないときはかなりのタイムラグ。なかなか面白かったです。

同時通訳のおかげで変に間が空くことは避けられ、何より議員達と違ってラリーは単刀直入に質問したので、公聴会よりはましだけど、サブスタンスに欠け、説得力は無し、信頼回復は無理、が私見です。

[返信]

サブスタンスに欠けているように感じられるのは日本の流儀を英語の世界に持ち込んでいるからだろうなと思いました。やっぱりあの手のものを翻訳しちゃ駄目ですよね。

はじめまして。
有意義な問題提起に富むブログ記事ですね。

豊田社長、大学院前にかなり英語が使えていたのならまだしも、MBA取得のために1年半か2年学んだだけでは自由に自分の意見をきちんとした英語で述べる英語力はつかなかったでしょう。仲間とカジュアルに歓談できる程度の英語力はあるのでしょうが、一部の帰国子女が生徒仲間と話す英語しか使えない、というのと似てますね。

米国で仕事をしている日本人駐在員で、きちんとした英語が使える人は多くないような?とくに製造業関係ではブロークンの人のほうが多そう。共通の目的に向かって働く職場の米人部下に対しては一応意志が伝わるというレベルの英語と、利害が対立するとか、初対面で立場のある米人相手とか、改まった席で必要なきちんとした英語の間には相当のレベルの差があるわけで。難しい英文が読めて(または読めると思い込んで)あと気軽な内輪の日常会話ができるだけでは、本当に英語が使えるとは言わないです。

今回の豊田社長の謝罪文。英語の原稿を読み上げる訓練を受けていない日本人にはあれが精一杯でしょう。ただ、内容が残念すぎる。もちろん英文は事前に文法正しくプロが翻訳したと思いますが、ああした席で期待されている内容(論理とか)という面では落第点、あまりにも日本的、浪花節すぎ。USでは謝ったのはわかったが、中身の無いものだった、と酷評されています。
ちょうど教師は論理的な英語のエッセイを求めているのに、生徒はグダグダと日本語で書いた随筆を英語に訳して提出した感じ。
さすがにチョビット心配です、とは言わなかったものの、やっと逃げ隠れせず、自主的に出て来たな、という意味だけの公聴会出席。答えはブロークン・レコードで繰返すのみ。あれでは一応論理的思考の国であるUSでの信頼回復は無理です。あの席で泣くにいたっては、自分の感情をコントロールできない人がCEOか?、ととられて不利なだけ。

社長の答えは通訳が書き取って、英語で読み上げていましたが、議員たちの質問をイアフォンで聞いていたので、TV画面にうつらない同時通訳者が和訳していたはず。
社長の返事がもたもたしたときは、日本語訳がまずかった?質問の真意を社長が誤解した?経営戦略で言い逃れようとした?その都度質問者がいらだってましたが、ニューズウイークのネット版では、通訳を介する外国人エグゼクを公聴会に呼ぶのは時間の無駄。議員ともども歌舞伎を演じた、と書かれていました。

[返信]

たしかに「議員ともども歌舞伎」というのが一番ぴったりですね。せっかくの Larry King Live 出演も通訳がいちいち入っているのは興ざめで、ライブのインタビューならではのよさがないと感じました。出演の意味はなんだったんだろうと思わざるを得ません。

http://www.mediabistro.com/tvnewser/cnn/larry_king_gets_exclusive_with_toyota_president_153147.asp

>今回の公聴会では、ちゃんとした通訳に頼むでしょうから
公聴会の通訳は女性でした。先日の記者会見の記事で、日向先生が「企業トップからプロの通訳に至るまで、本当にわが国の英語のレベルは低いんだと、嫌になります。」と言った通訳の人の可能性はないのでしょうか?ちゃんと今回は通訳できたのでしょうかね。心配です。

[返信]

わかります、ご心配になるのも。ただ、どうなのでしょう。今回は、冒頭の声明はちゃんとしていましたし、メディアコンサルタントも雇ったでしょうから、通訳さんもちゃんとしたプロなのではと期待したくもなりますが。

>>豊田氏の母校である慶応大学といったトップクラスを含めて、あんなものだよと痛い所を突きます。

慶應大学の知人が2人いましたが、2人とも、「慶應大学は東京大学に落ちた人が来るところだから・・。」と言い、別に教育内容には興味がない模様でした。

この前、ある工業高校の前を通りましたが、校舎の前に垂れ下がる大きな垂れ幕に「祝!東京大学大学院合格」の文字があり、「大学合格ならわかるが、何故大学院で?」と、微妙にストーカー気味な高校に驚きを感じてしまいました。(この辺、私の感覚がおかしいのでしょうか?)

別に、高等教育が「衒学趣味」なのは、日本に限ったことではないだろうと、名門イエーイ大学を卒業された某大統領からも思うのですが・・・。ですので、豊田社長の英語で学校名に傷がつくのは、寧ろバブソン大学かもしれません。少なくとも国内では・・・。

とはいえ、東京大学教授の書物に、「日本の英語教科書はおかしいものばかり・・。」というような記述を見かけた時には相当しらけましたけれどね・・・。

[返信]

衒学趣味うんぬんは大学の話ではなく、高校までの英語教育のことを言っていたと思いますが、いずれにしろ、外国での外国語教育の教材と比べ、わが国のものはやはり読めればいいという姿勢が色濃いと感じます。

毎日、ここに来て何か書くのが習慣になってしまいました。

abcニュースの原文を読みました。「おっしゃられること全て、その通りでございます」というのが正直な感想です。

日本の企業は、ガラパゴス状態から抜け出すことはできない、という意味も込められているかと思います。

政治も経済もはっきりしない日本とよりは、(システムは違うとは言え)将来性のある中国と強いパイプを持ったほうが得策と世界中が考え始めた、とアメリカでは思われているようですが、今回のトヨタの件で一層その思いが強くなったのではないでしょうか。

大企業の役員は、本当に「象徴」ですよね。トップダウン型は極めて少ないと思います。ボトムから上がってきた書類に目を通して、Yes というか(権力維持のためにそんなことはまずない)、気に入るまで書き直させるかのどちらかでしょう。

公聴会で、アキオちゃんが繰り返し「私の質問に、Yes か Noで答えてください」と聞かれていましたね。笑ってしまいました。

私は、英語を使う機会は減っていますが、NHKの某実践・・・を聞いて、いつでも使えるように勉強しています。Twice each time. を欠かしていません。でも、偉い人からはチャラチャラしたやつと思われているので、役員になることはないでしょう。

[返信]

日本企業もそれなりに居心地がいいと思っているひとも大勢いるのでしょうから、それを活かしつつ、和魂洋才で行きたいものですが、やはり競争相手のメンタリティーがあまりにも違いますよね。せめてそのことだけでも、しっかり意識しておいてもらいたい気がします。

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