2010年3月23日
competenceとは何か
"knowledge" と "skill" は、各々「知識」、「スキル(技能)」と訳せば済みます。この両者の違いは簡単です。前者が「知っているか否か」の問題であるのに対して、後者は「できるか否か」の問題です。あと、skill が skill である所以は、真似したり、練習できることにあるという点も大事かなと思います。
それでは、"skill" と "competence" の違いは何なんでしょう。ひとまず、「何かができる」のが skill であり、それを「うまくできるのが」competence なのかなとも思えます。そこで Macmillan English Dictionary で skill を引くと、"the ability to do something well, usually as a result of experience and training" となっており、competence の方は、"the ability to do something in a satisfactory or effective way" となっています。してみると、誰しも一定の訓練を受け、経験を積めば skilled worker になれるのに対して、competence の方は、所定の条件を満たして初めて competent と認めてもらえる感じです。
ところで、日本語で「あいつは『使える』やつだ」とか、「もっと『使える』人が欲しい」といった言い方をしますが、ちょうどこういう場合の「使える」が英語の competent に相当する感じではないでしょうか。そうとすれば、competence というのは ability プラスα ということになります。単に何かができる程度では不十分で、「しかるべくこなす」程度であって、初めて competence を備えているということになりそうです 。
この点、一般向けの辞書の定義は微妙で、まず『ロングマン英和』は competence を「能力、力量」と訳し、また、Longman Advanced American Dictionary は、"the ability and skill to do what is needed" と説明するにとどまっています。これに対して、上で見たとおり、一歩踏み込んでいるのが、Macmillan で、"the ability to do something in a satisfactory or effective way" としており、"in a satisfactory or effective way" という言い方で、abilityプラスα を表現していると解されます。
となると、次にプラスαは具体的には何なんだということになりますが、これにつき、キーコンピテンシーを説明しているOECDのTHE DEFINITION AND SELECTION OF KEY COMPETENCIES Executive Summaryは、こう言っています。
A competency is more than just knowledge and skills. It involves the ability to meet complex demands, by drawing on and mobilising psychosocial resources (including skills and attitudes) in a particular context. For example, the ability to communicate effectively is a competency that may draw on an individual’s knowledge of language, practical IT skills and attitudes towards those with whom he or she is communicating. コンピテンシーは、知識とスキル(技能)の組合わせであるにとどまらず、それは、複雑なニーズを満たすだけの力もからんでくる。一定の具体的な状況において、スキルや心理的・知的アプローチをはじめとする心理的要素を活用し、動員するという具合にだ。例えば、効果的にコミュニケートできる力というのは、コミュニケーションの相手との関係で、自分の言語知識、実際的なITスキル、そして心理的・知的アプローチを活用できるだけのコンピテンシーを意味する。
ところで、形容詞の competent には、有能だとか力量があるといった語義に加えて、「まずまずの」「ほどほどの」という意味があります。例えば、『ロングマン英和』には、His work is competent, but not outstanding. (彼の仕事はまずまずのものだが、群を抜いているというほどではない)という例文を出しています。けっこうネガティブな響きがあり、有能という概念と相容れないような感じすらあります。
しかし、これも competence/competent の本来の意味合いに立ち返った、うまい説明が用意されています。類義語辞典として愛用している Choose the Right Word によると、competent という語には、そこでの具体的課題をこなすための条件を満たすという意味あいがあり、そのことから客観的に上出来だと不出来だと判定されることにもなる。そうとすれば、
while competent can suggest expertise in a complicated field, adequacy rather than excellence may be indicated by it "competent" は、複雑な処理を要する分野での水準以上のパフォーマンスを示唆する一方で、水準以上と言うより、むしろ、ひとまず十分だという程度のことを示しうる
と言うのです。
したがって場合によっては、competent を使っての形容が言われる方にしてみれば、侮辱と感じられる例もあろうとして、こんな例文を挙げています。
competent musicianship but bereft of inspiration and nuance 音楽的には一応の水準にあっても、インスピレーションとニュアンスにおいて欠けているものがある
ちょっと横道に入ってしまいましたが、結論は、competent/competence という言葉は ability という域を超えて、ability プラスα 的なニュアンスがあるということです。
ふと思ったのですが、こういう見方をとると、いつぞやの「英語が使える日本人」の文科省訳である、Japanese with English abilities というのも、なんだか Japanese with psychic abilities (超能力のある日本人)的な響きがあり、しっくり来ません。自分が翻訳しろと言われたら、competence を使って、「英語が使える日本人」は Japanese with competence in English であり、「英語が使える日本人の育成」を言いたいなら、empowering the Japanese with competence in English といったところでしょう。
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日向様
"competence "、大変勉強になりました。
まずはJapanese with English skills が珍しい人種でない世の中になってほしいものです。
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同感です。いまや大手企業の8割が何らかの形で英語ニーズを抱えているのですから、国も大学ももっと危機意識をもって具体的な手を打ってもらいたいものです。