2010年3月31日
GSL英会話1
幅広く使える英単語のリストとでも言うべき、A General Service List of English Words (GSL) というものがあります。動詞の活用形などをまとめた「ワードファミリー」ベースでおよそ2,000単語のリストで、これをおさえておけば話し言葉の9割、書き言葉の8割をまかなえることがわかっています。そこで、話すために必要にして十分な英語というものがどんな感じなのかをつかんでもらうため、GSLの単語を織り込んだ会話例をシリーズでお届けします。申しあげるまでもなく、ビギナー向けの企画です。
この第1回では、以下のとおり、コロケーション(定型的な組み合わせ)を軸に、DOとMAKEを取り上げています。
DOのコロケーション
・do your best ベストを尽くせ
・do damage 壊す、損害を与える
・do an experiment 実験をする
・do exercises 運動をする[冠詞なしの複数形であるのがポイントです]
・do someone a good turn/favor (頼まれごとを引き受けるなど)好意的計らいをする
・do harm 害を与える、害がある
・do your hair 髪を整える
・do your homework 宿題をする
・do the ironing/shopping/washing etc. [通常、ing 形の前にmy/much/the/some などの限定詞がはいります]
・do some work ひと仕事する、仕事を片付ける
☞ do は、Do something! とか do some work に見られるとおり、具体的な内容を挙げることなく、「何かする」ことを形容するときに使います。また、I'm going to do some reading. のように、ing 形で表現される、何らかの作業を言う場合にも do を使います。
MAKEのコロケーション
・make an effort 努力する
GSL会話例
以下の会話例は、『女性の英会話 完全自習ブック』(アルク)という著作もある、同僚の慶大講師、狩野みき先生の作です。英語でのおしゃべりが大好きな帰国子女とあって、わたしには真似ができない臨場感があります。英会話の「感じ」を実感しながら、「ここは、こう言うんじゃない」という気持で空欄を補充してみてください。
1 夫婦の会話
A: Hurry up. We’re getting late. 急いでくれよ。遅れちゃうよ。
B: Wait. I’m __________ my hair. ちょっと待ってよ。髪をやってるんだから。
A: Oh, come on. We’ve got a lot of shopping to ___ today. We have to go to the DIY store, too. Last night’s storm _____ some ________ to our doghouse. おい、頼むよ。きょうは買い物がたくさんあるんだよ。ホームセンターにも行かなきゃならないし。ゆうべの嵐で犬小屋がちょっと壊れちゃってさ。
B: I know. You already told me. Oh, ____ me a f______. Get me a cigarette, will you? わかってるって。聞いたわよ。あ、ちょっと頼まれてくれるかな。タバコ取ってくれない。
A: Smoking is not good for you. タバコは体に良くないよ。
B: Just one cigarette won’t ____ any h_____. 一本ぐらい、何も害はないわよ。
2 教師と生徒の会話
A: What are we ______ today, Mr. Gray? グレイ先生、きょうやるのは何ですか?
B: We’re ______ an e__________ on carbon dioxide. きょうやるのは、二酸化炭素の実験。[予定が決まっていることを言うときは、現在進行形を使います]
A: I thought we’d ___ some e_________. 何か運動をするんだと思ってたのに。
B: I told you about the experiment yesterday. Oh, did you all ___ your h_________? 実験の話はきのう、したでしょう。そうそう、宿題はみんなやったかな?
A: Sorry, sir. I forgot. 先生、ごめんなさい。忘れちゃった。
B: Not again. I won’t be able to pass you unless you m_____ a tremendous e_____. またなの、駄目じゃない。並外れた努力をしないと、進級させたくてもできないね。
A: I’ll ____ my b____ in the next exam. I promise. 今度の試験ではベストを尽くします。約束です。
B: Let me give you some extra work to ___. じゃあ、補習ということで、追加の課題を出しておきましょう。
こちらが正解です。
1 夫婦の会話
A: Hurry up. We’re getting late.
B: Wait. I’m doing my hair.
A: Oh, come on. We’ve got a lot of shopping to do today. We have to go to the DIY store, too. Last night’s storm did some damage to our doghouse.
B: I know. You already told me. Oh, do me a favor. Get me a cigarette, will you?
A: Smoking is not good for you.
B: Just one cigarette won’t do any harm.
2 教師と生徒の会話
A: What are we doing today, Mr. Gray?
B: We’re doing an experiment on carbon dioxide.
A: I thought we’d do some exercises.
B: I told you about the experiment yesterday. Oh, did you all do your homework?
A: Sorry, sir. I forgot.
B: Not again. I won’t be able to pass you unless you make a tremendous effort.
A: I’ll do my best in the next exam. I promise.
B: Let me give you some extra work to do.
GSLとは何か、GSL上の基本単語はどう学ぶべきか
Michael WestのGeneral Service List (以下GSL)は、近頃流行っている「コーパス言語学」の先がけとも言えるもので、こういう手順で作成されたものです。まず 500万単語規模のデータベースに基づいて英語学習上必須の基本単語が使用頻度で選別されます。その際、1944年に発表されていた Thorndike と Lorge の The Teachers Word Book of 30,000 words (「ワードファミリー」で数えると13,000単語)が示した使用頻度を参考にしたとされています。次のステップでは、West 自身が使用頻度別の単語リストにつき、学習者にとり有用かつ不可欠かという判断基準でひとつひとつ検討していきます。こうしておよそ2,000単語にまで絞り込まれてできたのが GSL です。
Westは、当時イギリスの植民地だったインドで20年以上、英語教員養成に携わったあと、本国に戻り、英語教材の研究・制作に当たっていた研究者/教育者です。特に New Method Readers というシリーズものや The New Method Dictionary はともに、学習者が利用しやすいよう、語彙数を制限してあり、好評を博したようです。そうしたなか、かねがね初学者向けの語彙リストの必要を感じていたところにカーネギー財団の後援を得て、先行研究をまとめる一方で、当時としては巨額の費用を要したコンピューターをも利用して「必要最小限の語彙リスト」として完成させたのが、この GSLです。30年にわたる研究成果が集約された一大プロジェクトと言えます。
こうして完成したGSLは英語教育関係者に支持され、各社のグレイデッドリーダー制作上、500語レベル、1000語レベルといった制限語彙を確定するための尺度として用いられた他、必要最小限の語彙という発想は、語義をすべて制限語彙内でまかなう、Longman Dictionary of Contemporary English の刊行に結びついています。
GSLの特色は二つです。通常、コーパスに基づいた語彙表は単純に使用頻度に応じて、頻度が上位のものから並べていきますが、GSLの特色は使用頻度に加えて、Westの主観的判断による有用度の度合いで取捨選択をし、基本2,000単語の範囲を画定していることです。後述するとおり、Paul Nation のような語彙学習の専門家は、この主観的判断による選定があるからこそ、このリストには格別の価値があるのだと評しているぐらいで、単に使用頻度で選定したリストに比べ、独自の有用性があります。
もう一つの特色は、形容詞 able を例に言えば、「能力があるという意味で使われる割合」が9割で、残り1割は、「力量がある、有能である」という意味で使われているという具合に、語義ないし意味合い別の使用頻度が示してあり、一つの単語でも一番よく使われるニュアンスを知り、それを意識して学習できるようになっていることです。
GSLの有用性ですが、古いコーパスを基にしているがために、computerといった現代では常識に属する言葉が入っていない一方、footman(召使い、下男)といった死語のようなものが入っていたりします。またコーパスに話し言葉が入っていないという限界があります。しかし、それでも、各種研究を通じて、GSLの単語を覚えることで、書き言葉の8割、話し言葉の9割をまかなえることがわかっています。
実際、Learning Vocabulary in Another Language などで知られる語彙学習の権威、Paul Nation は、"it still remains the best of the available lists because of its information about the frequency of meanings, and West's careful application of criteria other than frequency and range" (GSLは利用できる単語リストとしては今もなおベストと言える。と言うのも、語義別の使用頻度が示されている上、West自身が、使用頻度ならびに使用分野以外の基準をも注意深く適用しているからだ)と評しているぐらいで、現代でも十分通用する基本語彙表です。加えて、Ronald Carter という研究者も、1998年に出ている Vocabulary: Applied Linguistic Perspectives という本の中で、"one of the most innovative examples of foreign language pedagogy and lexiometric research this century" (今世紀における最も先進的な外国語教授法と計量分析による語彙調査の代表例)と高い評価を与えており、その信頼性に間違いはありません。
ところで学習者としてまず覚えるべき単語の範囲がGSLでわかったとして、次はそれをどう覚えるかです。この点、ボキャブラリーはコンテクストすなわち、誰が誰に対して何の為に、どういう状況でコミュニケートするのかという非言語要素の総体を通じて学習するのが最も効果的であることにつき、研究者の間で争いはありません。例えば、Ashraf Rizvi は、Effective Technical Communication の中で、Words in isolation cannot be learned by picking words and their meanings from a dictionary. (個々の単語は、辞書からその単語を拾ったり、語義を確かめるといったことで学べるものではない)とした上で、こう続けています。The only way to learn new words and vocabulary skills is by examining the use of words in their context and learning their uses. (新たな語彙を習得し、実際に使えるようになるスキルを身につける唯一の方法は、単語が使われているコンテクストを確かめ、そこでの用法を学ぶことだ)
したみると、辞書のようにその単語の典型的用例を一文で示すだけでは不十分です。そこで、考えたのが、その単語の使われる典型的コンテクストがわかるように仕上げた会話例の利用です。会話例の中でその単語がどう使われるかを見せることで、学習者は単に受動的にインプットするだけでなく、アウトプットの擬似体験ができ、記憶への定着を促すと共に、「ああ、こういう感じで使うのか」と実感することを期待できます。
この点、ちょっと補足しますと、ある単語の意味を知った上、talkとspeakの違いといった、単語別の「射程距離」ないし「守備範囲」をもおさえておかないとコミュニケーションには使えるものではありません。ところが、そのためには、自分の、いわば外にある、単語を自分の内にある英語の枠組みの中に組み込む必要があります。そこで、会話例を通じての「脳内リハーサル」ができるようにしたのが、今回のGSL会話です。
脳内リハーサルによって、「英会話」のシミュレーションないし疑似体験をすることこそが「使える英語」への早道です。このことを語彙学習論の権威 Paul Nation は、こう表現しています。
Learners are unlikely to become fluent speakers by becoming fluent listeners. To develop speaking fluency, they need to practise speaking. 学習者が英語を楽に聴き取れるようになると、よどみなく話せるようになるかと言えば、その可能性は低い。つっかえずに話せるだけの力をつけるには、話す練習をすることが必要だ。
擬似的なものながら、ここで言う「話す練習」の場を提供するのが上の穴埋めしながらの会話例の完成です。
みなさんの「使用感」を聞かせていただけたら幸いです。
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Comments
こんにちは。高校で教師をしている者です。
上記で、
do ironing/shopping/washing etc. [いずれも冠詞なしの ing 形です]
とありますが、私の持っているロングマンのactivatorのdoの項では、
do the washing/cooking/shopping
という形で、"the"が入ったものが記載されております。
私も、日常的にはtheを入れて使用しておりましたので、ちょっとあれっと思いました。ご検証いただければ幸いです。
[返信]
鋭いご指摘、ありがとうございます。Googleで "I hate doing shopping" と "I hate doing the shopping" を検索してみると、冠詞なしの前者が28件で、冠詞入りの後者が19件でした。要は具体的な「その」買い物というつもりで言っているのか、漠然とした買い物を言っているのかの違いかと思いますが、通常は特定の買い物、アイロン(をかける行為)を指すようで、Oxford Advanced Learner's Dictionary の do の項では、do the + gerund だとしている上、Michael Swan の Basic English Usageでは、There is usually a "determiner" before the 'ing' form としています。したがって、説明を訂正した方がよさそうです。ありがとうございます。
- 高校教師A
- 2010年3月31日 22:50
こんにちは。毎回楽しく拝読しております。
今回のこの企画、私は非常に気に入りました。
たとえば、辞書で do という単語を引いても、今回の会話例を読んだときのような感覚をつかむのは難しいと思います。
次回をまた楽しみにしています。
ひとつ質問があります、先生が時々使用する、「脳内リハーサル」は、日常の英語学習の中でどういうふうに実践すれば効果的でしょうか。
たとえば、今回のような簡単な会話例を覚えることでしょうか。
[返信]
「脳内リハーサル」は簡単に言えばアウトプットの疑似体験ですから、今回の会話例を覚えるというより、頭の中で、あるいは口に出してぶつぶつ言いながら、「こんな感じ」なんだを確かめることです。
詳しくは白井 恭弘先生の『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か」 (岩波新書) をご覧になった方がよろしいかと思いますが、同書では、「それまでまったく話さなかったのに、突然完璧な文で言葉を発し始めた子供」が居ることから、必ずしも実際にアウトプットする必要はないようだとする一方で、こういう子供らも、その前には必ず頭の中で無意識的にしろリハーサルをしていると考えられるということで、頭の中での「アウトプットの必要性」を説いています。
また、実際、頭の中でリハーサルしているときの脳の活動をMRIで調べると、脳内の様子も実際に話しているときに近いそうです。そうとすれば、脳内リハーサルを繰り返すことで、実際の英会話を何度も疑似体験でき、学習効果を期待できることになります。
- nobu
- 2010年3月31日 12:53
基本単語2,000語を覚えれば話し言葉、書き言葉の9割、8割がカバーされると仰ってますが、コロケーションの派生数だとその何倍くらいになるんでしょうか。
ざっくり一つの単語に対して10のコロケーションで2万くらい、うち重複分を控除して15,000種類くらいでしょうか。
[返信]
どうなのでしょう。アプローチとしては、主要なコロケーションをチェックしながら、それがGSL単語を含めている限り取り上げていますので、派生数という見方はしていません。
ただ、The Dictionary of Selected Collocations は、基本的な2000の名詞と一緒に使われる50,000のコロケーションを挙げており、また、副詞については、1,200の動詞、形容詞と一緒に使うものを5,000挙げています。英単語に占める名詞の割合は3割、動詞は2割前後ですから、そこから推計するのもひとつのやり方かも知れません。
ちなみに、GSLはワードファミリー単位で2000ですが、speakに入るspeaking, spoke などのレンマと呼ばれる単語で数えると10,000ぐらいになることを示す表があります。
- yuskay
- 2010年3月31日 09:23

コロケーションの重要性につき、認識しているのですが、暗記を行っていく際に、何の教材・本を使ってやっていくべきか悩んでいます。先生のビジネス英語の本は非常に効果的だと思うのですが、より一般的な本で推薦されるものはございますか?(「英単語ピーナツほどおいしいものはない」シリーズなんかはいかがでしょうか?)
[返信]
日本物は本当にそんな言い方があるのかというのがけっこうあるので、洋書をお勧めします。イチオシはケンブリッジ大学出版のCollocations in Use ですが、できるなら訳のない方がいいと思います。また、Thomsonから出ているKey Words for Fluencyもなかなかです。あと、ふと、これと組合わさるのはなんだと思ったときに引く辞典もあると安心です。充実しているのは取捨選択にまよいますから、LTP Dictionary of Selected Collocationsのような薄いものの方が便利です。