2010年3月 2日
楽しいブロークンイングリッシュ
英語帝国主義という言葉があるぐらいですから、自国文化が英語によって浸食されるのは大体において歓迎されないわけで、特にフランスなどは非常に神経質です。
例えば本年の1月20日、The Wall Street Journal に載った、Andrew Roberts という人のコラム記事 France Will Simply Have to Swallow Anglobalization of Common Language を読むと、Avenir de la Langue Française (Future of the French Language) と名乗る有志の団体が、今やパリの街にあふれる英語表記の量たるやドイツによるパリ占領当時のドイツ語表記を上回っていると危機感を強めており、サルコジ大統領に何とかしろと要求しているとのこと。
そもそも、こういった人々が神経を尖らせるのは、英語=アングロサクソンという感覚があるからでしょう。つまり身の回りに氾濫する英語の背後にその「英語の世界を司っている」特定の国を感じるから、しゃくに障るということです。そうとするなら、一つの有効な対策は、「ブロークン・イングリッシュ」の普及を進めることだとも言えそうです。
ブロークン・イングリッシュというのは、例えば、こういう感じのものです。今はコーチに転じているようですが、ブルガリアのサッカー・スター、Stoichkov の試合後のインタビューです。とてもパワフルかつハートフルです。(インタビュー終了後の南アフリカ人記者の苦笑いが毒気に当てられたかのようで、これまた笑いを誘います)
聴き取れた範囲で書き取ってみました・・・
[記者:チームの試合ぶり、満足ですか、どうでした?]
Two parts. I talking before, before the game, fifty - fifty.
First half very good, second half I'm no like.
Too much peoples come... only for the... for the pass the time.
No work, no sacrifixxx. This is the team.
The next time may be no play couple guys.
I am very mad.
[記者:次の試合に向けての抱負、いかがですか?]
Next time, er, next time, er, Wednesday.
So tomorrow Monday, Tuesday, Wednesday, so too much games.
So first days relax, tuesday conclusion the, the today.
Tomorrow start the next game, so I have very good posibility for to win this game.
[記者:3点を入れるだけの力がつき、今後の飛躍に結びつく何かをつかんだようですが?]
Listen, for me is very important perform the team.
Play good football. Sometimes lose, sometimes win.
But, I'm like peoples, the good xxxx, the good heart xx the believe.
Because everyday is very important.
どうですか。わかりやすいですよね、けっこう。しかも、ハートフルであることに加え、このブロークンイングリッシュがそこはかとない可笑みをただよわせているわけで、これに触発されたミュージックビデオが Youtube に流されるや、再生回数で7万回を超える、ヒット作となっています。
ここまで来ると、どこかの国が仮に英語の本家本元だとして、「この英語は」としゃしゃり出てくる以前の問題として、「こんな変なの、英語じゃないから、うちは関係ない」ということにもなるのではないでしょうか。この理屈が通るなら、ブロークンイングリッシュという毒をもって、文化侵略という名の毒を制することもできそうです。
Stoichkovの域に達すると名人芸ですが、非英語圏の人々が、いわば見よう見まねで英語らしきものをしゃべると、たしかにこんな感じです。こうしたブロークンイングリッシュに加え、インド流英語もあれば、シンガポール流の英語もあるわけで、当然のことながら、日本人流の発音を残したままのジャパニーズ・イングリッシュだって、ひとつのジャンルです。もはや英語は英語圏固有の言語ではなくなりつつあります。これはおおいに注目すべき現象であり、わが国の英語教育のあり方を考える上でも考慮すべき要素だと思います。
例えば、上のウォールストリートジャーナルの記事では、2030年には英語を話す中国人の数がアメリカ国民の数を超える計算だと指摘しています。前回ご紹介した Graddol の English Next によると、中国は年当たり2,000万人のペースで英語の使い手を量産しているそうですから、まあ、そうなんだろうなと思います。また同じく English Next によると、小学校低学年からの英語を含め、中国の英語力強化策に触発されて、周辺の国々も英語教育を見直しているそうです。タイが、小学校1年生からの英語教育を導入したものの、効果が見られず、コミュニカティブな英語へと方針を転換したほか、フィリピンも「英語で」授業をした方がいいのではないかと検討しているそうです。
こうして非英語圏における英語の使い手が増える一方であることを考えると、わが国のように何とかアシスタントを輸入し続けて、いまだにネイティブモデルにこだわっている英語教育のごときは、ガラパゴス化が必至です。いや、もう十分ガラパゴスです。しかも年間数百億規模の税金を投じて、わざわざ国際情勢に合わせた進化を拒んでいるのは宗教を感じさせるものすらあります。
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フランス語についてはよそにも進出していて話者も多いのですぐさま消滅という心配はありません。フランス人のアングロサクソン的なものへの拒否反応ということもあるかと思います。その意味では我流の英語も有効であるという点はうなずけます
しかし、少数言語の場合は事情が違います。侵食をうければ自分たちの言語が消滅に向かうので、どの言語が入ってくるかは重要ではありません。
たとえばアイヌ人がおかしな日本語を話したところでアイヌ語にとってかわるという点では一緒です。
みんなが同じ言葉を話すということは一見合理的でも歪みが大きいものですから、パリにおいてもうまいこと共存させてほしいところです。
[返信]
少数言語の場合、たいてい書き言葉がないので、今のような時代に「フル装備」の外語軍との競争になると、ひとたまりもないという事情もありそうです。
- Fujita.T
- 2010年3月 3日 14:16
すでにガラパゴスでしょう。いや、ガラパゴスに失礼だと思います。ガラパゴスでは、きちんとした弱肉強食の序列で成立しているんでしょうから。あえて言うなら、「はだかの王様」の方が似合っていると思います。
東大入試をちらりと見ました。最近読んだ古い本のことを思い出しました。そこから引用させていただきます。「中学や高校でどのように英語を教わっているかは知らないが、まともに教わっているようにはみえない。東大や上智(この両校で教えているので一番よく知っているのだが)のような、日本でも一番難しい大学の入試を見事に突破した学生ですら、英文法の最も基本的なミスを見事に犯してしまう。」だそうです・・・。この本は1980年に出版されましたが、それから進化したのでしょうか・・・?
ガラパゴス島のように日本語が保存されていると言うよりは、単に日本語がゆがめられているような気がします。
[返信]
元々わが国は言語政策というものに関心が薄いと言えます。合理的説明のないまま外国語と言えば英語に決まっていることにそれがよく表れています。また、識者たちも言語関連の最新の知見に触れることのないまま、子供のうちから英語をやると日本語が駄目になるなどと素朴な反対論を展開します。前時代的英語教育が軌道修正されないまま、いつまでも続くのも当たり前だと思います。
文法の基本が身につかないのは、英語を知識の体系と捉え、択一などでわかっているかを問うからだと思います。やはりスキルですから、三人称単数現在を教えるなら、何十回と例文を言ったり、書いたりさせ、身体知として頭に刷り込むべきだと考えます。
- ともちゃん
- 2010年3月 2日 22:06
おっしゃられる通り、十分ガラパゴスです。私には、小2の娘がいますが、担任が50代のおばちゃん。現在、週に1回、25分だけ、ガーナ人とELT2人が英語の授業を受け持っています。文字を使わず、ゲームで英語を楽しもう!といった感じの授業です。
「今日、何習ったの?」と聞いたら、「ツードラー。ヒーユーアー、サンキュー」といったように、英米人に馬鹿にされそうな発音で、習ったことを語ってくれます。全く英語を話せそうにない50代のおばちゃんが英語を教えるとなると・・・ぞっとします。
「ネイティブと一緒に、早くから英語に慣れさせる」ことが目的だけの、行き当たりばったり付け焼刃的な教育は止めてほしいです。うちの娘がむちゃくちゃになりそうで、早くから心配しています。
正直なところ、英語教育の早期化の是非については、よくわかりません。各小学校に、確実に英語を教えられる日本人を配属して、きちんとしたプログラムの上で教育がなされるのであれば、意義はあるのでしょうね。
[返信]
たしかに、いくらネイティブを理想型とする英語からそうでない英語へとシフトしても、互いに通じないのでは意味がありませんから、やはり発音を早い時期からきちんと教えるのは大事だと思います。特に、一度身についたものは直しにくいわけですから。英語のリズムや発音のための、やさしい教材で矯正を今から図った方がよろしいのではないでしょうか。学習の一歩はインプットですから、そこがおかしいと後々響きます。
あと、わが国でどこが実施しているかは知りませんが、中国のようにケンブリッジ英検の子供版であるYLE (Young Learners English) を基準にし、それを意識した幼児英語教育を行っている塾的な学校を探すのも手かも知れません。
- めいけんとパパ
- 2010年3月 2日 20:59

Stoichkov の試合後のインタビュー、実に爽快です!繰り返し観たくなります(既に5回観ました)。
話している時の、堂々かつ生き生きとした表情、声の抑揚や強弱などを見ていると、ネイティブに「あれ、なんか、もしかしたら自分たちの言葉の方が間違ってるんじゃないか」と一瞬不安を抱かせかねないくらいの勢いを感じます。
インタビュー後の去り方が、またよいですね。
[返信]
ほんと、あれ自体、ひとつの芸ですね。去り方もたしかに。その分、あっけに取られた記者の「あれっ?」がいっそうおかしいのでしょう。