HOME英語ニュース・ビジネス英語
 
 


日向清人のビジネス英語雑記帳:スペースアルク
 

2010年6月29日

英和辞典での重要語の表示は役立つのか

電子辞典の場合、どうなっているのか承知していませんが、紙版の英和辞典の見出し語の場合、「重要度」を示す小さな★印を付けたり、見出し語を赤にして、それが重要語であることを示しているのが一般です。実は自分自身、英和辞典をあまり使ったことがなかったので、この仕組み自体知りませんでした。ところが、ある時、そういうものがあることに気づき、何気なく、英語の先生に、それって、誰がどう決めていて、全部で何単語に付いているんですかと尋ねたところ、受験での重要度が示されているという程度の説明で、あまり要領を得ませんでした。

そこでちょっと調べたところ、辞書編集の老舗、大修館が出しているニューズレターに、どう重要度が決められているかを知る情報が載っていました。それによると、一応客観的なデータで選別はするけれど、最終的には編者のさじ加減がものを言うようで、いわく「最終的 には,編者の英語教育の経験やバランス感覚に基 づく判断によった部分もある」とのこと。

となると、その種の重要度ランキングが利用者にとっての目安としてどの程度役立つかも編者の眼力次第ということになりますが、今度は各社が競ってさまざまな英和辞典を出しているけれど、担当者の眼力がそろって一定水準に達しているのか、コンセンサスはあるのか、あるとして、英語の資料を読むときにちゃんと役立つような選別なのかが気になります。

世の中よくしたもので、ちゃんとした論文がありました。石川慎一郎という研究者が書かれた「英和辞書における語彙重要度指定の妥当性の検証」というもので、10種類の英和辞書を検討材料にしています。

サマリーというのでなく、個人的に「へぇー」と思ったところを抜き出すと、こんな感じです。

✓ 何を中高重要語とするかは辞書によってばらつきがあり、少ない方が2000なのに、多い方は7000語台と大きな開きがある。

✓ 辞書は指導要領の語数指定をさほど重要視していないようだ。← 文科省は中学で1200単語、高校で1800単語と学習指導要領でうたうだけで、どの語が中高で教えられるべきかは、教科書に委ねられているわけですが、その教科書と「協業」すべき辞書がこういう状態では困りますよね。

✓ 対象として10種類の辞書が共通して重要語だとしている単語は、総語数の11%でしかなく、また、ひとつの辞書でしか取り上げていないような「特殊な単語」が全体の33%ある。しかも、同一出版社が出している辞書どうしを比べても、こういった一貫性のなさが認められる。

✓ 著者が制作した時事英語の用例データベースとの比較で、収録されている単語中どのぐらいが中高重要語の指定を受けているかという「カバー率」で見ると、平均で4割どまり。この程度では「実用的なレベルで新聞や雑誌を読みこなすことはきわめて困難であると言わなければならない」。← Paul Nation は、Learning Vocabulary in Another Languge の中で、最頻出上位2000単語でフィクションの87.4%、新聞の80.3%をカバーすると書いているわけで、なんだか腑に落ちません。同じ2000語なわけですから、これは日本人選定者の力不足ということなのでしょうか。

✓ 映画のセリフを集めたコーパス(ジャンルに限定された語が少なく、汎用性が高いそうです)との比較では、カバー率が時事英語の場合より一段と開きが大きく、ばらつきが目につく。この点、筆者は、「口語データに関しては、いまだ十分に対応していない辞書が多いからではないかと推測できる」と指摘しています。

✓ 時事英語、児童文学英語、映画英語の三つのコーパスに共通して出現する164語との比較対照では、カバー率の平均が32.6%でしかなく、「このことは、中高の標準的な教育課程を修了した学習者が、たとえば100語の文章を読むとして、実にその7割が未知語であることを意味する。[中略]結果的に現状の「中高重要語」指定では、オーセンティックな英語資料がほとんど理解できないということになる」

✓ according, access, absolutely など、高頻度であるのに、取り上げた辞書の半数近くがこれを中高重要度に指定していない。「[absolutely に対する absolute のような]基本形を重視するあまり、実際にコミュニケーションに用いられる語の形態を軽視する姿勢が、そこに透けて見える」というのが筆者の見解ですが、同感です。

✓ 筆者のコーパスでは低頻出語なのに、4種類以上の辞書が accessory, abstract, aeroplane, adverb, adjective を「中高重要語」に指定しているが、このうちの aeroplane, adverb, adjective は400万語規模のコーパスに1回も出てこない。これにつき、筆者は、文法・訳読・英国語に対する過度の偏重という古いタイプの教育の名残がいまだ払底できていない状況が浮かび上がってくるとか、英国語重視というより、むしろ実用的な米語の軽視の反映ではないかといった点を指摘しています。 ← そう言えば、ある英語の先生から辞書が実社会の英語ではなく、もっぱら教室の英語を反映している証拠として、blackboard と chalk が重要語に指定されているという話を聞かされたことがありますが、adverb や adjective が基本単語として取り上げられているというのは同じような話ですよね。

多くの英語の先生や英語編集のプロが関与して様々な英和辞典を作る一方で、学習者はこれなら頼りになるだろうと、おおいに当てにしているのに、現実社会の英語を扱う上ではあまり役立たないようです。もっとも、ここはガラパゴスですから、職人たちがそれぞれに味を出している、ガラパゴス的辞書で十分なのかも知れません。

追記:この研究者は、英語コミュニケーションと語彙--大学入試用単語集の有効性の検証というペーパーも書かれており、これによると、世の受験用単語集は、大学入試問題のコーパスと比較対照してみるとあまり有効ではないとのことです。


*******

hand_right.gif人気ブログランキングへの一票、どうぞよろしくお願いします。人気blogランキングに一票

Trackbacks

Trackback URL: 

Comments

では、その前に発音について書いていただけないでしょうか。
発音についていろいろ書く分野は多そうですが、ここでは取り扱ってないようです。
そのあとガラパゴス発音記号について話してもらいたいです。
「話をしてもわからないだろうから、ハナからしない」というのは、少々ショックです。先生は啓蒙なさる方だと思っておりましたから。

[返信]

発音については、何度かビート(センテンスストレス)という形で何度か書いております。ガラパゴス発音記号がどうのという話ではなく、そもそも学校教育で発音記号を教えていないわけですから、音符を見たこともない人に、音符の正しい読み方を説明してもあまり得るものがないということです。

また、わたし自身は、英語を話す場合,個別の音を独立に発するのではなく、意味がとおる、ひとまとまりの語句ごとの「音」が大事だと考えていますので、敢えて個別の音がどうであるかを示す発音記号を正面から取り上げる必要性を感じていません。

>現状の「中高重要語」指定では、オーセンティックな英語資料>がほとんど理解できないということになる

これには驚きました。同時に、中学・高校の頃、辞書の重要単語をかたっぱしから暗記しようとしたことがあったのを思い出しました。(いつも途中で挫折しましたが)

あの頃は、「辞書を食べろ」なんていうせりふを良く聞きましたし、バイブルのように思っていました。とってもナイーブでした…。

[返信]

辞書の編集者も一生懸命やってはいるんでしょうが、結局はユーザーの期待を裏切っているわけで、このあたりで立ち止まり、業界全体で水準を底上げしないと、ひとつずつ消えて行くような気がします。

ちなみに辞書の編集に携わっている人を何人か知っていますが、きちんと英語を話せる人がいません。そういった人たちですから、何が基本2000語で、どれほど重要かに頭が行かないのでしょう。

辞書の重要単語というのは、だめだろうというのはぼんやりと思っていましたが、想像以上にびっくりしました。
英和辞典の伝統的発音記号もすごいですよ。
Canadianのi、happyのyが「hit」のiと同じ発音の記号[i]なのですから!heatのeaはそれにただ長音をあらわす[:]をつけたもの。もうガラパゴス以上のものがあると思います。
いつか発音記号について特集されてみてはいかがでしょうか。

[返信]

発音記号、気にはなるのですが、なにしろ、わがガラパゴスでは発音記号をほとんどの学校で教えていないこともあり、話をしたところでわかってもらえそうもありません。

恐るべき英和辞典…。重要語の表記はほとんど役に立っていないようですね。また、辞書による差がこれほど大きいとは思いませんでした。

また、一ユーザーとして反省しなければいけないのですが、愛用している研究者の英和中辞典(第6版)は、1994年発行でした。16年前…。もっと新しいものを買わなければ! 手持ちの電子辞書はまだマシだと思いますが。e-mail と引くと、electronic mail を見よと出てきて、uncountable な名詞と書かれていました(そんなことはないですし、今は動詞でも使うはずです)。新しい言葉がたくさん載っている、業界である程度統一された辞書が出てきて欲しいものです。何やかんやで、紙の辞書は手放せませんから。

ところで:「ビジネス英語力」完走しました。これほどまでにやりがいがあったテキストは今までなかったです。いつでも使えるよう、時々読み返すことにします。

また、「知られざる英会話のスキル」を、楽しみながら読んでいるところです。簡単な文章が多いのですが、ディスコース・マーカーを上手に使えると、より楽しい会話ができそうな気がしています。

別件ですが、今話題のSkyTalk は安くていいプログラムですね。英会話学校のパラダイムシフトと言えるかと思います。

[返信]

英和辞典は『ロングマン英和』がいいと思います。おまけに、chalkのように大学英語教育の人たちがまとめたJACET8000には入っているけれど、ロングマンのコーパスからは漏れている単語が浮き彫りになっており、楽しめます。例えば、adjectiveだとかadjoining などです。

ビジネス英語力のご完読おめでとうございます。あとは、復習テストですね。本には8割でAとしていますけれど、実用上は9割だと思います。

「知られざる英会話のスキル」、おっしゃるとおり文章がやさしいので、当初、出版社内で「こんなやさしいもの」と理解が得られず、担当編集者が「むずかしい言い回しがたくさんあればいいものではない。そこにマネジメントの効用がある」というふうに説得を続け、ようやくわかってもらえたようです。

コメントフォーム
Remember personal info?