2010年10月 3日
Googleのヒット件数の鵜呑みは危険
だいぶ前に書いた本のコラムで、「誰々さん、昼(=昼食)に出ています」に相当する Somone is out to lunch. という言い方につき、「"out for lunch" という言い方も耳にするけれど、そちらはノンスタンダード」と書いたのですが、それにつき、出版社経由で読者の方からのメールを頂戴しました。自分のお知り合いのアメリカ人に問い合わせた結果ならびに Googleの検索結果を根拠に、「out for lunch をノンスタンダードとするのは間違いだ」というご趣旨です。
第一に、ご本人は、「在米インフォーマント」という言い方をされていますが、ネイティブ(?)に問い合わせたところ、「自分はどちらも聞くし、いずれも使ったことがあるのは間違いない」とした上で、以下のように回答してきたとのことです。
For me, if I am saying to you where my boss went to eat, most likely I would say, "Mr. Smith is out to lunch at...." If I did not know where he went, I probably would say, "Mr. Smith is out for lunch." (自分なら、上司がどこに食事に行ったから聞かれた場合なら、だいたいは Mr. Smith is out to lunch at[レストラン名]と言い、場所を知らないならおそらくは、Mr. Smith is out for lunch. と言うことでしょう)
要するにこのネイティブはどちらの形も聞いているし、自分でも両方使う上、行き先を含めて言うときは、is out FOR lunch なのだから、"out for lunch" をノンスタンダードとするのは、そのこと自体間違いだろうというご主張です。
なるほど、"out for lunch" をスタンダードに使うネイティブがいないと主張するつもりは端っからありませんし、おおいに勉強になります。
しかし、ネイティブがこうこう言っているからと、その一事をもってこうだと判断する姿勢には賛成できません。ネイティブといえども、ひとつの語法についての見解はわかれるものであり、場合によっては百家争鳴状態になるのは『詳説 レクシスプラネットボード―103人のネイティブスピーカーに聞く生きた英文法・語法』(旺文社)のような本を見るとよくわかります。またネイティブだからと言って統一見解があるわけでもなく、語法の当否について意見が割れるからこそ、American Heritage という有名な辞書などは作家や言語学者など200名から成る用法判定委員会を設けて、争いのある項目についてはこの委員会の見解をいちいち付記しているぐらいです。いつぞやネイティブ信仰の怪でも書いた通り、こういう人が「ネイティブ」で、こういう人の話す英語こそがネイティブの英語などというものはないのです。英米人の著者や語学出版社が振り回す「ネイティブ」は虚像でしかありません。
もうひとつ傍証を挙げておきますと、Collins COBUILD Advanced Dictionary of American English は、lunch の項にある Word Partnershipというボックスの中で、go to lunch というコロケーションを挙げてはいても、go for lunch という形は載せていません。但し、for lunch という形は,go somewhere for lunch というパターンならアリとしています。
第二に、"out for lunch" がノンスタンダードとは言えない根拠として、問い合わせてきた方はGoogleで二つのフレーズを検索した上、以下のような数字を挙げてらっしゃいます。
Googleでのヒット率
"They're out to lunch.":約35,700件
"They're out for lunch.":約79,700件
額面どおり受け取ると、なるほど、"out for lunch" はノンスタンダードどころか、主流です。
しかし、こういう数字は日々変動しますし、「追試」が必要です。そこで、ひとまず本日(10月3日)、もう1回やってみますと、こうです。
"They're out to lunch." → 30,600件
"They're out for lunch." → 86,100件
ここでも、"out for lunch" が多数派と言えそうです。しかし、注意を要するのは、Googleの場合、バグがあり、単純に「おお、何万件じゃない、こっちの勝ちだ」など言っていると足をすくわれたりします。と言うのも、100件ずつ表示させた上、最終の第3ページをクリックすると、ヒット件数がいきなり 197件になってしまうのです。
いずれにしろ、バグを織り込んで計算しなおすと、
"They're out to lunch." → 197件
"They're out for lunch." → 28件
と相成ります。
もうひとつ、Googleを使って、言葉の用法を確認する上で大事なのは、信頼性を少しでも高めるため、アメリカの教育機関のサイトに絞って検索することかと思います。そこで、site:edu を足して検索してみますと、こうなります。
"They're out to lunch." site:edu → 11件
"They're out for lunch." site:edu → 1件
こう見て来ますと、Googleでざっと検索して、「こっちが多い」などと判断するのがいかに危ないかがわかってきます。自分自身、このGoogleのクセと言うのかバグと言うのか、ともかく、額面どおり受け取れないという危うさに気づかされるまでは騙されていたわけで、それだけにGoogleのヒット件数、特に最初に並ぶ数字は、飽くまでひとつの手がかりでしかないという態度で臨んだ方が無難です。
なんであれ、読者の方が挙げられたGoogleのヒット件数を詳しく見て行くと、"out for lunch" の方が圧倒的な少数派であり、したがってノンスタンダードだと言わざるを得ません。
なお、以前は、こういうGoogle特有の荒っぽさを避けるため、Alta Vista という検索エンジンを頼りにしていたのですが、いつのまに Yahoo に買収されていました。試しに、この Yahoo で、国はアメリカ、表示件数は100件としてから、上のフレーズ検索をしてみたところ、結果は、こうでした。(絞りをかけないと、out to lunch で3840万というでたらめな数字が出ます)
"They're out to lunch." → 276件
"They're out for lunch." → 29件
out to lunch なのか、out for lunch なのかについては、こちらの記事もご覧ください。
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