2010年11月23日
(続)危険物規制ポスターの危うい英語
ポスターの英文のどこがどのようにおかしいのかを考えてみました。
危険物のお預け及び機内への持込みは法令により禁止されております。
The transport of dangerous goods by air is prohibited under the law.
ここで個人的に違和感を覚えるのは、transport についている定冠詞です。名詞 transportは輸送手段を意味する場合を除き、不可算ですから、原則、冠詞は使わず、一定の場合に定冠詞が付きます。
それではどういう場合に定冠詞が付くのかと言えば、これまで何度かここでの記事で説明しているとおり、(1)特定のモノ・コトを指しており、(2)相手もそうとわかっているときです。言い換えれば、書き手にとってばかりでなく、読み手にとっても、具体的に特定しているモノ・コトでなければならないということです。
この点、ここでの transport は、ただの transport ではなく、"of dangerous goods" という絞りがかかっており、その限りでは、書き手と読み手双方にとり、具体的に特定している transport のことかのようでもあり、そうとすれば、"the transport" としてもよさそうなものです。
しかし、dangerous goods というフレーズは、dangerous goods transport という形でも使えるぐらいで、どの種の輸送かを具体的に特定していると言うよりは、単に一般的なカテゴリーを示しているに留まると解されます。つまり、Milk which is pasteurized is safe to drink. の場合、ここでの milk which is pasteurized は pasteurized milk と同じだという論法で定冠詞 the が付かないの同じで、transport of dangerous goods は dangerous goods transport と言っているも同然だから、ただのカテゴリーを取り上げているにすぎず、具体的に輸送対象を特定していないので、
Transport of dangerous goods by air...
と書くのが自然だと考えます。
次に後段の「法令により禁止」のくだりですが、Googleで検索してみればわかるとおり、prohibited under the laws に比べ、prohibited by law の方が圧倒的多数派ですから、この一文はひとまずこう訳す方が通りがいいと思います。
Transport of dangerous goods by air is prohibited by law.
ところで、「お預け及び機内への持込み」という一句については、機内持込み荷物とチェックインする荷物の両方を指す、carry on or checked in baggage という通りのいい言い方があります。
また、「禁止」とは言っても、一定条件を満たせば禁止が解除され,持ち込めるわけですから、prohibit ではなく、restrict されていることになります。
さらに「法令により」に相当するものとして通りがいいのは、by laws and regulations という決まり文句です。
そこでこれらを加味して最終的なものを考えると、こう書くことができます。
Transport of dangerous goods in carry-on or checked baggage is restricted by laws and regulations.
国際線においては、液体物の機内への持込みが制限されております。
For international flights, carriage of all liquids, aerosols and gels onboard is strongly restricted.
まず「国際線においては」と言いたいなら、for...ではなく、on...が一般的です。また、法的規制については、普通、restricted かそうでないかであり、strongly restricted という言い方は聞いたことがありません。
より通りの言い方をするとしたら、ひとつの案でしかありませんが、こうも言えます。
On all international flights, carriage of all liquids, aerosols and gels onboard is subject to restrictions.
危険物のお預け及び機内への持込みは50万円以下の罰金の対象となります。
Law breaker will be subjected to be fined.
まず law breaker は辞書にこそ載っているものの、代議士を意味する law maker と異なり、あまり普段聞かないので、ピンと来ない単語です。
will be subjected to be fined という受動態の二連発に至ってはあまりの非英語ぶりに論評のしようもありません。
いずれにしろ、自分が翻訳を頼まれていたら、こう書くことでしょう。
Unauthorized transport of dangerous goods as carry-on or checked baggage will be subject to a fine of up to 500000 yen.
危険物をお持ちのお客様は航空会社係員にお申し出下さい。
The dangerous goods in your baggage must be notified to your airline staff.
これも航空会社のウェブサイトを見ればわかりますが、もっと通りの言い方があるわけで、ひとつの言い方としてこう言えます。Dangerous Goods と大文字にしてあるのは、独特の定義によっている言葉であることを示すための表記上の決まり事によります。
Check with your airline if you have any items classed as Dangerous Goods.
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Comments
興味深く読めました。こういった巷の英語の添削シリーズも単行本化されると面白いかもしれませんね。
[返信]
たしかにおもしろい企画ですが、自分はそうは思わないという英語通も世の中たくさんいるわけで、こわい感じもあります。
- 羊
- 2010年11月24日 22:38
(引用はじめ)
transport of dangerous goods は dangerous goods transport と言っているも同然だから、ただのカテゴリーを取り上げているにすぎず、具体的に輸送対象を特定していないので、
The transport of dangerous goods by air...
と書くのが自然だと考えます。
(引用終わり)
訂正後の文に定冠詞が残っていますので、修正よろしくお願いします。
冠詞についての記事と冠詞の使い分け検定のおかげで、かなり自信を持って冠詞を使い分けられるようになってきました。問題意識を持って英語に接することの大切さを改めて感じます。具体的にどのような問題意識を持つべきかを示してくれる貴ブログの存在は大変貴重です。
[返信]
訂正しました。助かります。
冠詞の記事が役立ったとうかがい、うれしい限りです。けっこうルールがきちんとしている分野ですよね。今回の不可算名詞の例もおもしろかったのではないでしょうか。
- alpacasama
- 2010年11月24日 00:39

日向さん、こんにちは。
私も、以前日本に行ったときに、新幹線の中の英語表示に違和感を覚えたものがあります。以下の”the crew”がしっくり来ませんでした。
冠詞の問題。いろいろ状況解釈で違ってきますが、下記のものは ”a crew”が個人的にはしっくり来ます。本エントリーを読んで思い起こしました。
『こちらに荷物を置かれる場合は、乗務員が通りました際に、お知らせください。
Please inform the crew when leaving your baggage in this area.』
[返信]
定冠詞を付けるのはhearer knowledgeありと認められるときですが、ここでの書き手は、the crew (of this train) のつもりで書いており、読み手もそう理解するのが普通なので、ひとつの書き方として問題はないように感じられます。
ただ、これが集合名詞のcrewでなく、航空機内のflight attendantだと、the flight attendant だとたった一人しか乗務していないという変な意味合いになるので、please inform a flight attendant か flight attendants になるわけで、この感覚が強いと、"the" crew が変に感じられるのだと思います。